VR初心者ゲーマーが往くシャングリラ   作:ガリアムス

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サイガ-100から見たペッパー




狼双戦争(デュアルウルフウォー) 其の十六

PN:ペッパー。

 

其の初出は掲示板に載せられた『セカンディルにてユニークモンスター・夜襲のリュカオーンに認められたという、隔て刃シリーズに身を包んだ初期装備の革の帽子を被る、右腕を旅人のマントで隠すプレイヤー』という情報であった。

 

スクショ等は無かったものの、其の情報を元にしてサードレマの正門で待っていたサイガ-100は、其の特徴が完全に一致するプレイヤーに接触を果たした。其処に『何故か割り入ってきた』アーサー・ペンシルゴンを含めて話を聞く内に、彼がリュカオーンを相手に片眼を切り裂き、一矢報いる程の実力者だと知った時に、彼女はスカウトに踏み切る。

 

尤も其のスカウトはペンシルゴンとの約束を果たすまでは出来ないと、ペッパー本人の口から断られたのだが、彼自身はアーサー・ペンシルゴン────天音(あまね) 永遠(とわ)()()を理解した上で自身の道を示した事は、サイガ-100からすれば『微笑ましい』物だった。

 

次にペッパーの名が他のプレイヤーに認知され始めたのが、千紫万紅の樹海窟にて『ユニークモンスター・天覇のジークヴルムに接触し、其の手に黒毛のヴォーパルバニーと共に乗って空を飛んだ事』であり、此の一件を境に彼は上位プレイヤー達に注目され、シャングリラ・フロンティアという世界に様々な偉業を残す事になる。

 

ユニークの情報を強奪せんとしたPKクラン:阿修羅会からの逃走劇の最中、最大防御(ディフェンスホルダー)・ジョゼットの【朋友救助(フレンドワープ)】による呼び出しからの生存。

 

シャングリラ・フロンティアで初となる、完全未知のユニークモンスター・墓守のウェザエモンをペンシルゴンや阿修羅会からの逃走劇で共に居たプレイヤー達と京極(キョウアルティメット)と達成した時、彼が言っていたペンシルゴンとの約束とはコレの事だったかと『納得』したし、同時に先んじられた『悔しさ』も在ったが。

 

其の墓守のウェザエモンを討伐したメンバーで作り、ペッパーがリーダーを勤めるクラン:旅狼(ヴォルフガング)─────『世界を旅する気高き狼達』の意味を込めて名付けられたらしい其れは、若干の被りが有ったりしたが、サイガ-100本人は気に止める事はせず、寧ろ5クラン連盟の結成持ち掛けを好機と捉え、何時の日かペッパーとサンラクに『リュカオーンの情報を引き出させる』…………そう踏んでいたのである。

 

更に其の後もペッパーは『どうやったのか』、シャンフロのレコードの一つ【最大高度(スカイホルダー)】の称号を獲得、そして完全未知のユニークモンスター・無尽のゴルドゥニーネという情報を対価に、愚妹(サイガ-0)の援軍要請をしてきたり、ユニークモンスター・深淵のクターニッド撃破と、動く度に金銀財宝を撒き散らす宝石袋なのか?と疑ったりもした程だ。

 

だがある時、サイガ-100にとって一番の衝撃を与える事件が起きた。

 

 

 

プレイヤー8人とNPC3人の計11人から成る、中規模パーティーでユニークモンスター・夜襲のリュカオーンの撃破。及び、其のリュカオーンをテイムしたという、ネチケットが成っていないプレイヤーによる掲示板へのスクショ掲載。

 

 

 

 

前者を斎賀 玲への着電300件、後者を天音 永遠への着電によって聞き出した時、サイガ-100には絶大な衝撃が齎された。

 

サイガ-100にとってのリュカオーンは、彼女がまだ『剣聖』でも無ければ、勇者武器(ウィッシュド.ウェポン):聖剣(せいけん)エクスカリバーの『所持者』でも無い、シャンフロの始発組の中の、何処にでも居る駆け出しの初心者だった頃にまで遡る。

 

まだゲームを始めたばかりと淡い繋がりで結成した野良パーティーで、夜のシャンフロのモンスターと戦っていた最中に夜が貌を成した狼は乱入した挙句、其の圧倒的な力でモンスターもパーティーも、一つ残さず鏖殺(おうさつ)した其の圧倒的なまでの『力』。

 

パーティーメンバー達が口々に「何なんだアレは」と話す中、サイガ-100の心はリュカオーンに『奪われており』。同時に『打倒リュカオーン』こそ、ゲームとは無縁だった彼女自身のシャンフロをプレイする『原動力其の物』となり。

 

そうしてゲーム開始から一年、彼女はリュカオーンに幾度も挑んでは敗れながらも、シャンフロ史上初めての『職業:剣聖』への就職と勇者武器・聖剣エクスカリバーを手にして振るい、クラン:黒狼(ヴォルフシュバルツ)を率いる実力者に到ったのである。

 

だからこそ。

 

リュカオーンを先んじて討たれた上に、テイムまでされたと知った時、サイガ-100は荒れに荒れて大荒れた。永遠や玲にも酷く当たってしまったし、居酒屋で大ジョッキでビールを五杯も飲んで、人生で初めて酒に酔い潰れた感覚を味わった。

 

そして天音 永遠(ストレス)との付き合いから、酒を飲んで眠れば冷静になって立ち直る事が出来るからこそ、サイガ-100は………斎賀(さいが) (もも)は『一体どうやってリュカオーンを倒したのか?』と、自分の思考を切り替えられたのである。

 

サイガ-0の話では彼女の切札たる『アルマゲドン』は、確かに強力で戦局を引っくり返す力を持っている。だが発動までの手順に加えて、無防備になる時間帯が在ったりと当然というべき欠点を抱えていた。だが、其の切札は確かに発動されたのだという。

 

そう──────『中規模パーティーながら、誰一人として脱落者を出す事無く。常に戦況が変わる中で、要所要所で的確な指示を飛ばし。己が持つリュカオーンのヘイトを集める武器を用いて皆を守り抜き、あまつさえ自身は殆どノーダメージな上にリュカオーンの脚を一本斬り飛ばして』である。

 

リュカオーン戦時に避けタンクとして、前線を維持したサンラク・オイカッツォ・京極。

メインアタッカー兼フィニッシャーとして、切札のアルマゲドンによる撃破を成し得たサイガ-0。

パーティー全体のサポートを行い、戦闘時に適所で活躍を見せたペンシルゴン・レーザーカジキ・秋津茜(アキツアカネ)

そして彼等彼女達を率い、リュカオーンとクターニッドを倒し、世界に再び其の名を刻んだプレイヤー…………ペッパー。

 

リュカオーンの呪いで片腕が使えない中、数回に渡るレベルダウンビルドによって、流星の如き空中ダッシュと無限跳躍による高機動、そしてリュカオーンの脚を斬り飛ばす程の大火力を両立したプレイヤー。

 

おそらくは耐久力を装備で補い、ステータスポイントを高火力と高機動にポイントを振り込めるように意識し、外付けのアクセサリーや武器を含め、習得するスキルに比重を置いた事で、其れだけの力を発揮出来るようにビルドしたのだろう。

 

そんな割り切ったビルドでもユニークモンスターを倒せるという事実は、剣聖は対リュカオーンには相性が悪いのでは?と、そう疑問を抱いていたサイガ-100からすれば、ある意味では朗報だった。少なくとも片手しか使えないプレイヤーよりは、オールレンジで攻撃が可能な剣聖の方が有利ではないか─────と。

 

尤もサイガ-100含めて一部のプレイヤー以外知らないが、ペッパーは『所得経験値を半減させる代わりに、ステータスポイントを2.5倍にする』という、ブッ壊れアクセサリーを墓守のウェザエモンとの決戦前から装備し。

 

ある時から其の倍率が1.5倍に下がったものの、所得経験値半減効果が働く中で、彼は墓守のウェザエモンや夜襲のリュカオーン、深淵のクターニッドのユニークモンスター達を含む数々の強敵や、不世出の存在との激闘を繰り広げた果てに主力のスキル達が『昇華(スタンバイ)』の領域に在る事を知らない。

 

そして旅狼陣営のサンラクが、黒狼陣営のムラクモを倒した時点で既に勝敗の流れは決していた。マッシブダイナマイトが倒れ、草餅も倒れ。残されたサイガ-100は此の大将戦で一矢報いる事を目標とし、敵の大将であるペッパーに『本気』で挑む…………というのが、彼女の此の戦いに臨む理由の半分(・・)だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

残りの半分は斎賀 百として、天音 永遠の友人としての理由。ペッパーの事を『あーくん』と親しげに呼び、スカウトの時であろうとも独占欲を全開にし、威嚇と敵意を向けたペンシルゴン。

 

どうにもシャンフロ掲示板によれば『ペッパーがペンシルゴンを御姫様抱っこして連れ去ったスクショ』が貼られて以降、『もしかしてあの二人は付き合ってるのでは?』という、根も葉も無い噂が飛び交っているが、其の真実は誰にも分からない。

 

だがある時の『仕事』で、天音 永遠の表情は普段見慣れている物から『更に大人びて綺麗になっていた』。其の時のカメラマン曰く『アレは男を知った顔であり、恋をした者にしか出来ない顔だ』と言っていたのを、百は聞いていたのである。

 

故にサイガ-100は確かめなくてはならない。自分にとってのリュカオーンがそうであり、サイガ-0にとってのサンラクがそうであるように、ペンシルゴンにとってのペッパーがそうであるのかを、彼女は剣を交えて確かめる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「サイガ-100さん。本日の対戦、よろしく御願い致します。そして先の対戦で旅狼のペンシルゴンが、黒狼の草餅さんに対する非道に御詫び申し上げます。本当に申し訳御座いませんでした!!!」

 

クラン:旅狼とクラン:黒狼による対抗戦も、遂に最後の大将戦。旅狼のリーダーであるペッパーは、黒狼のリーダーであるサイガ-100と相対して早々、速攻で土下座をしてきた。

 

「あぁ、ペッパー君。こんな時に言うのも何だが、私は君達が此処までやるとは正直思っていなかった」

「は…はい、えっと………」

「私は君達を『嘗めていた』訳では無い。現状の黒狼が出せる『最高の戦力』を集め、旅狼を相手にぶつけたつもりだ。だが結果は五敗という有り様………私自身情けなさを痛感しているよ」

 

レーザーカジキ・京極・オイカッツォ・ペンシルゴンは戦術機獣を四機持ち出し、サンラクは実力と初見殺しのオンパレードで攻め潰した様な物なので、申し訳無い気持ちになる。

 

『世の中の戦いなんて綺麗事で丸々収まったら、何の苦労もしないの。陣営が持ってるリソースで攻め潰した方が、まだ精神衛生的に良いんだから』

 

我が恋人にして黒幕魔王のアーサー・ペンシルゴンならば、ドヤ顔+煽り口調でそんな事を言いそうだ。

 

「────だが私とて、此のまま負け続けでは目覚めが悪い。君を倒して、一勝を上げさせて貰う──────!」

 

サイガ-100が腰に吊し掛けた剣に指を、手を添え握りて鞘から抜き放つ。夜闇の中で金色に煌めく勇者武器たる聖剣エクスカリバーが、バトルフィールドに姿を現す。

 

「────此方も勝利を渡すつもりは有りません。俺は貴女に勝って、旅狼を完全勝利に導きます!」

 

ペッパーが立ち上がりながらインベントリアを操作し、金色と純白に満ちる盾を取り、左手に握りて構える。其の盾の名を『勇者武器・聖盾イーディス』、シャングリラ・フロンティアで六種類存在する勇者武器、其の二振りが此の場に揃いて勇者達は各々の勝利の為に敵を見据えた。

 

 

 

此処に最終戦が─────狼双戦争(デュアルウルフウォー)の『二大ベストバウト』のもう一つの戦いが、幕を開ける。

 

 

 

 






此れが最後


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