VR初心者ゲーマーが往くシャングリラ   作:ガリアムス

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ある男の話




狼双戦争(デュアルウルフウォー) 其の十八

其の男は─────龍宮院(りゅうぐういん) 富嶽(ふがく)という男は『最強』だった。

 

剣の道に入った幼少期の頃より、野獣に均しき直感を持っていた彼は、剣道において相手よりも先に其の相手の『動き』を嗅ぎ取り、鍛え抜かれた筋力から繰り出す剛剣で、敵の『気の起こり』を叩き伏せるという尋常ならざる戦い方を得意としていた。

 

持ち前の勘と、圧倒的な力による一撃。防いだ竹刀は余りの威力に耐え切れずに折られ、凄まじい速度の切り上げで竹刀が宙を舞う等、彼の戦いでは『当たり前』に起きていた。

 

だが『盛者必衰』の言葉が在る様に、生きとし生ける全ての者や物は劣化し衰えるのが『宿命』。肉体が全盛期を過ぎて三十代後半に差し掛かり、ある時に己の筋力が落ちたと自覚した其の瞬間から。同年代の他の剣士と比べれば未だに力は上であったにも関わらず、富嶽は己の戦法を変えたのである。

 

其れは今に至るまでに磨き積み上げてきた経験と、鋭く敵を読む勘を更に研ぎ澄まし上げ、融合させた果てに到達した狂気と至高の領域────『相手の動きを相手よりも先に見切り、最低限の動きだけで対応し面を打つ』という、極致と呼ぶべき『頂点』に。

 

公式戦の通算成績は8238勝6敗。得てきたトロフィーの重さで、部屋の床をぶち抜いて風穴が空いたという逸話が存在していたり、老いようとも最強の称号を独占する男と戦った者達は、彼との対戦をこう振り返る。

 

ある者は「まるで幽霊と戦っているようだった」と話し。

 

またある者は「竹刀がすり抜けた」と語り。

 

更にある者は「気付いたら負けていた」と答え。

 

彼と戦い、完敗に等しい敗北を経た誰も彼もが、彼に対する『憧れと敬意』を向けたのだった。

 

そして死期を感じ始めた富嶽はある日、ある者と相対する機会を得た。彼にとって其の者は『血縁者』であり、富嶽自身も『可愛がっていた者』。だが、剣の戦いとなれば手を抜く事は、彼自身の心情が許さない。そして何時もの様に相手の動きを読み取らんとして──────『気付いてしまった』。

 

 

 

其の者は真っ直ぐ己を『見ている』事を、そして己は其の者すら『見ていなかった』事を。

 

相手の動きを見、自分の挙動を制御する事に心血を注ぐなら、相手が『誰でも関係無い』事を。

 

仮に其の者では無く、防具の中に肉を詰めた人形やマネキンであったとしても、己のやる事は『一切変わらなかった』事を。

 

 

 

其れ即ち『相手の()だけを見て、相手の()()を見ていない』────そんなあまりにも『簡単な』、今の今まで気付けなかった『事実』に気付いた其の瞬間。富嶽は己に酷く絶望し、其の日の夜に人生最初にして最後の酒に溺れ、相対した其の者へ『儂のようになるな』と伝えて。

 

そして嘗て己に届けられ、当時は一笑で放り捨てていた其れを────『とある教材のトレースAIのモデル』という依頼を彼は引き受けた。

 

最早自分が変わるにはあまりにも遅過ぎた、だが其れが後に続く者達の一助になるならば、と────。そう願いを込めた富嶽は、己の写し身を其のゲームへと遺し、最後は老衰によって其の人生に幕を閉じた。

 

結論から言えば、彼の想いは其の者………彼の『孫娘』である『龍宮院(りゅうぐういん) 京極(きょうごく)』に、自身の絶望を示した『短歌』をペッパーが伝えた事で届く事となり。

 

そして其れを伝えたペッパーは現在、サイガ-100と死闘を繰り広げている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ペッパー流───────大時化(おおしけ)ッッッッッッ!!!!!」

「ごふっ!?!」

 

自身のありとあらゆる挙動(モーション)をスタミナ消費で運動エネルギーを増減させ、加速減速どころか急発進に急停止すら可能にする、スキル:神律燼風(しんりつじんふう)によって左腕に装着している、甦機装(リ.レガシーウェポン):風雷皇の御手(サルダゲイル・アトゥヌ)の掴み速度を爆発的に加速させ、サイガ-100の腹部を掴み取った勢い其のままに、ペッパーが最速最短で地面へと叩き付ける。

 

修正前剣聖勇者の体が地面で跳ねるボールの如くバウンドし、だが直ぐに体勢を立て直しつつも従剣達をペッパー目掛けて、先程以上の『速さ』で突撃させた。

 

「ッ………行けぇ!!!」

「うおっ!?ととととっ……ほわぁ!?あっぶな!!?ひょえい!!!」

『ペッパー選手の投げ攻撃が炸裂したァ!しかしサイガ-100選手、ペッパー選手に追撃を許しません!』

『キョージュさん、今の技はもしかしてアレですかね?』

『ユニークモンスター・墓守のウェザエモンの使用した技の一つ、大時化だね。まさかとは思うが、其れを自分のスキルで再現してみたのだろうか?』

 

実況の声や解説の声が聞こえるが、ペッパーはサイガ-100がまだまだ本気じゃ無かったと悟りつつ、オート操作()()()()()剣の動きが、マニュアルの動きになったと『仮定』しながら、ヒット&アウェイ戦法を展開。

 

先程まで従剣達の動かし方と、今現在の従剣達の動かし方を脳内で精査・比較を行いながらも、武器のダメージを最小限に留めつつ、自らの動きを修正しながら再びサイガ-100の攻撃に抗っていく。

 

(ッ、此れでもか………!)

『ペッパー選手、従剣乱舞を避けています!し、しかも攻撃に晒されながら……自らの動きを修正(・・)しているかの様です!』

 

端から見てもサイガ-100のギアが上がっているのは、誰の目にも明らかである事が解る。だが其れ以上に、ペッパーの動きがサイガ-100の従剣操作に対抗(・・)するべく自らの動きを『改良し続けている』という風に見えていた。

 

「…………エグくねぇか?オイカッツォよ」

「いやエグいなんて生易しいもんじゃないよ!?ほぼ初見であんな攻撃に『ノーダメ』通してる時点で、もう充分『バケモン』だよ!?」

「流石、私の(・・)あーくん。本当に凄いねぇ………フフフ」

「わぁあ………!」

「姉さんも、かなり本気のハズ……ですが………。もしかして、アレを『全て予測して』……躱わして、いたり……するんでしょ、うか?」

「ハハハ!!!アイツやべぇな!一回戦ってみてぇぜ…………!」

 

旅狼陣営のメンバー達もまた、ペッパーの戦いっぷりを見て。サンラクはドン引きを、オイカッツォは驚愕し、アーサー・ペンシルゴンは誇らしく思い。そしてレーザーカジキは憧れを、サイガ-0は分析に、サバイバアルは期待を抱く。

 

「……………………御祖父様」

 

そして京極(キョウアルティメット)は、ペッパーの背に『幻影』を見た。サンラクが見せた模倣とも違う────だが確かに、己の祖父の龍宮院 富嶽の影を見た。

 

だが祖父とペッパーで大きく異なるのは、祖父は敵を『見ず』に動きを修正したのに対し、ペッパーは敵を『見て』動きを修正している事。

 

まるで『祖父が悟った絶望を理解し』、己自身は『そうならない様にした』───そんな動きをしていて。

 

「ハアッ!!!」

 

撃鬼覇貫脚(グラシアス・ガウルト)で脚パリィをし、蹴り飛ばされた従剣の一つが軋み、鍛えた剣が悲鳴を上げる。サイガ-100は『展開している剣』では此れ以上、ペッパーにはダメージを与えられないと悟り。

 

 

 

 

 

 

 

同時に己の持ち得る手札の一つを、此処で切る事を決意した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「此処までの攻防で確信したよ。……君はアレだな、戦いに『時間を掛けてはいけないタイプ』のプレイヤーだ」

「どうでしょうか?単に戦いを楽しみたい………そう思ってる可能性も有りますよ?」

「そうかも知れないな。本当は決着を急ぐ事も無いのだろうが…………。君のプレイスタイル的に『速く倒さなくては』、取り返しが付かない可能性が出てきた」

 

故に、と。彼女は従える剣達を切り替える(・・・・・)。そうして取り出されたのは『全てデザインが異なる剣』であり、そして剣の鍔に当たる部分のデザインが『全て同じの剣が七本』、同時に展開された。

 

「…………サイガ-100さん。一体幾つの剣を持ってるんですか?」

「フフフ……『三十五本』だよ。そして此れを───【七重奏(セプテット)】を見せるのは、君が初めてさ。時にペッパー君、君は『同時に使われる事で効果を発揮する武器』を知っているかな?」

「成程………此れは─────ヤバい奴ですね?」

「遠慮無く行くぞ、『インペリアル・セブン』!!!」

 

ギアを上げた剣聖、其の鍛えられた剣刃(つるぎ)達が、ペッパーに襲い掛かった。

 

 

 

 






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