ある男の話
其の男は─────
剣の道に入った幼少期の頃より、野獣に均しき直感を持っていた彼は、剣道において相手よりも先に其の相手の『動き』を嗅ぎ取り、鍛え抜かれた筋力から繰り出す剛剣で、敵の『気の起こり』を叩き伏せるという尋常ならざる戦い方を得意としていた。
持ち前の勘と、圧倒的な力による一撃。防いだ竹刀は余りの威力に耐え切れずに折られ、凄まじい速度の切り上げで竹刀が宙を舞う等、彼の戦いでは『当たり前』に起きていた。
だが『盛者必衰』の言葉が在る様に、生きとし生ける全ての者や物は劣化し衰えるのが『宿命』。肉体が全盛期を過ぎて三十代後半に差し掛かり、ある時に己の筋力が落ちたと自覚した其の瞬間から。同年代の他の剣士と比べれば未だに力は上であったにも関わらず、富嶽は己の戦法を変えたのである。
其れは今に至るまでに磨き積み上げてきた経験と、鋭く敵を読む勘を更に研ぎ澄まし上げ、融合させた果てに到達した狂気と至高の領域────『相手の動きを相手よりも先に見切り、最低限の動きだけで対応し面を打つ』という、極致と呼ぶべき『頂点』に。
公式戦の通算成績は8238勝6敗。得てきたトロフィーの重さで、部屋の床をぶち抜いて風穴が空いたという逸話が存在していたり、老いようとも最強の称号を独占する男と戦った者達は、彼との対戦をこう振り返る。
ある者は「まるで幽霊と戦っているようだった」と話し。
またある者は「竹刀がすり抜けた」と語り。
更にある者は「気付いたら負けていた」と答え。
彼と戦い、完敗に等しい敗北を経た誰も彼もが、彼に対する『憧れと敬意』を向けたのだった。
そして死期を感じ始めた富嶽はある日、ある者と相対する機会を得た。彼にとって其の者は『血縁者』であり、富嶽自身も『可愛がっていた者』。だが、剣の戦いとなれば手を抜く事は、彼自身の心情が許さない。そして何時もの様に相手の動きを読み取らんとして──────『気付いてしまった』。
其の者は真っ直ぐ己を『見ている』事を、そして己は其の者すら『見ていなかった』事を。
相手の動きを見、自分の挙動を制御する事に心血を注ぐなら、相手が『誰でも関係無い』事を。
仮に其の者では無く、防具の中に肉を詰めた人形やマネキンであったとしても、己のやる事は『一切変わらなかった』事を。
其れ即ち『相手の
そして嘗て己に届けられ、当時は一笑で放り捨てていた其れを────『とある教材のトレースAIのモデル』という依頼を彼は引き受けた。
最早自分が変わるにはあまりにも遅過ぎた、だが其れが後に続く者達の一助になるならば、と────。そう願いを込めた富嶽は、己の写し身を其のゲームへと遺し、最後は老衰によって其の人生に幕を閉じた。
結論から言えば、彼の想いは其の者………彼の『孫娘』である『
そして其れを伝えたペッパーは現在、サイガ-100と死闘を繰り広げている。
「ペッパー流───────
「ごふっ!?!」
自身のありとあらゆる
修正前剣聖勇者の体が地面で跳ねるボールの如くバウンドし、だが直ぐに体勢を立て直しつつも従剣達をペッパー目掛けて、先程以上の『速さ』で突撃させた。
「ッ………行けぇ!!!」
「うおっ!?ととととっ……ほわぁ!?あっぶな!!?ひょえい!!!」
『ペッパー選手の投げ攻撃が炸裂したァ!しかしサイガ-100選手、ペッパー選手に追撃を許しません!』
『キョージュさん、今の技はもしかしてアレですかね?』
『ユニークモンスター・墓守のウェザエモンの使用した技の一つ、大時化だね。まさかとは思うが、其れを自分のスキルで再現してみたのだろうか?』
実況の声や解説の声が聞こえるが、ペッパーはサイガ-100がまだまだ本気じゃ無かったと悟りつつ、オート操作
先程まで従剣達の動かし方と、今現在の従剣達の動かし方を脳内で精査・比較を行いながらも、武器のダメージを最小限に留めつつ、自らの動きを修正しながら再びサイガ-100の攻撃に抗っていく。
(ッ、此れでもか………!)
『ペッパー選手、従剣乱舞を避けています!し、しかも攻撃に晒されながら……自らの動きを
端から見てもサイガ-100のギアが上がっているのは、誰の目にも明らかである事が解る。だが其れ以上に、ペッパーの動きがサイガ-100の従剣操作に
「…………エグくねぇか?オイカッツォよ」
「いやエグいなんて生易しいもんじゃないよ!?ほぼ初見であんな攻撃に『ノーダメ』通してる時点で、もう充分『バケモン』だよ!?」
「流石、
「わぁあ………!」
「姉さんも、かなり本気のハズ……ですが………。もしかして、アレを『全て予測して』……躱わして、いたり……するんでしょ、うか?」
「ハハハ!!!アイツやべぇな!一回戦ってみてぇぜ…………!」
旅狼陣営のメンバー達もまた、ペッパーの戦いっぷりを見て。サンラクはドン引きを、オイカッツォは驚愕し、アーサー・ペンシルゴンは誇らしく思い。そしてレーザーカジキは憧れを、サイガ-0は分析に、サバイバアルは期待を抱く。
「……………………御祖父様」
そして
だが祖父とペッパーで大きく異なるのは、祖父は敵を『見ず』に動きを修正したのに対し、ペッパーは敵を『見て』動きを修正している事。
まるで『祖父が悟った絶望を理解し』、己自身は『そうならない様にした』───そんな動きをしていて。
「ハアッ!!!」
同時に己の持ち得る手札の一つを、此処で切る事を決意した。
「此処までの攻防で確信したよ。……君はアレだな、戦いに『時間を掛けてはいけないタイプ』のプレイヤーだ」
「どうでしょうか?単に戦いを楽しみたい………そう思ってる可能性も有りますよ?」
「そうかも知れないな。本当は決着を急ぐ事も無いのだろうが…………。君のプレイスタイル的に『速く倒さなくては』、取り返しが付かない可能性が出てきた」
故に、と。彼女は従える剣達を
「…………サイガ-100さん。一体幾つの剣を持ってるんですか?」
「フフフ……『三十五本』だよ。そして此れを───【
「成程………此れは─────ヤバい奴ですね?」
「遠慮無く行くぞ、『インペリアル・セブン』!!!」
ギアを上げた剣聖、其の鍛えられた
強さを知る