燃え上がる者
「良い感じだ、力が漲ってきた!」
「ぐおっ……!な、まだ加速するだとッ────!?」
「さっきのは『本気』でしたが、此処からは『更に本気』で行きます!もっともっと『ギアが上がりますよ』!!」
力強く響くペッパーの声、明らかに『打たせて取るのカウンター戦法』が一転し、スタイルが180度回転した『スピード戦法』への切り替えと、今までの走りは何だったのかレベルの圧倒的な加速による、誰にも読めない縦横無尽で自由奔放な天地無用の疾走。
スピードが上がる度に、彼が加速する度に、其の身から放出される緋色と黒の炎が揺らぎ、其の後ろで無数のヘイトが付与された陽炎達が残っていく。サイガ-100の従剣が其れを潰せども、陽炎は次から次に産み出されて、何れが本物のペッパーなのかが解らなくなる。
ヘイトを陽炎に持っていかれ、接近を許せば炎熱によるスリップダメージと、ショートメイスによる打撃が襲い掛かる。そして距離を離せば無数に残された陽炎から、本物のペッパーを探さなくてはならず、其の連鎖が断てぬ限り蟻地獄に捕らわれて、唯々ズブズブと嵌まっていくのだ。
「くっ……!」
「厳しい事を言いますが、リュカオーンを相手にするなら此れくらいの事を!彼女の『分身』の見分けが出来なければ、倒す事の『スタートライン』すら立てませんよ、サイガ-100さんッ!」
「っう……!!!」
従剣の流星が陽炎を貫けど感触は無く、空振った剣の刀身をショートメイスの打撃に襲われ、そして接近を許されて攻撃を受ける。だがサイガ-100は『此の程度』では折れず、挫けず。そして砕けず、倒れない。
「リュカオーンと渡り合い、そして倒すには其れ程の力量が必要だと?嗚呼上等じゃないか!だったら私の全てをぶつけ、ペッパー君!君に勝つ!!其れが此迄敗れてきた奴に、リュカオーンへの勝利へ繋がるのであればな!!」
シャングリラ・フロンティアで初めて出逢った時の彼女の、其の瞳の奥には『打倒リュカオーン』に豪々と燃え上がる、モチベーションの炎が宿っていた。其れがペッパーの発破によって更に強く、此方の炎すら凌駕し得る熱を感じる。
対人戦は『此れ』が有るから辞められない。御互いの持ち得る手札を隠し合い、切るべきタイミングで其の一手を叩き付け。思考を読み合い、策を巡らせ、全力を以てぶつかり合う事こそ、対人戦の『醍醐味』なのだ。
シャングリラ・フロンティアからPKが無くならない理由、其れはきっと『現実に非常に近しい世界の中で、己と同じプレイヤーと力比べがしたい』────全員がそうでは無いのだろうが、少なからずそんな想いを抱えて居るのだと思える。
サイガ-100の振るう従剣達、其の一本一本の挙動がおそらく自分に繰り出せる『最高速度』にシフトアップ。残した陽炎達が次々と、剣に切り裂かれ潰されて消えていく。
(だからどうした!!!!!)
消されたならば、其れ以上の量を産み出せば良い。ギアを更に上げろ。相手が本気ならば此方は其の本気の!更に本気からなる『
脚が加速する、力を込めた跳躍と空中を蹴り上げ、空を跳ねて宙を駆ける。従剣達の煌めく流星に己の影すら踏ませず、蒼空の舞う勇者は超スピードで天を駆け走り、流転する状況下で剣の持ち手をショートメイスでブッ叩き続けて。
遂に
「さぁ───
彼の意志を汲み取り、致命兎の王が更に鍛えた致命の鐵塊が
観客達は見た。ペッパーが持つ盾が収納され、片手で握っていたショートメイスが巨大化した瞬間を。そして何よりも其処から一瞬で夜空を走り降りて肉薄し、サイガ-100は七本の従剣達を呼び戻して迎え撃ち、大質量からなる鐵塊と鍛えられた剣達が交じり合った瞬間を。
「ぐうぅぅぅぅッ─────!!!!!!」
「オオオオオオオオオオオッリヤァ!!!!!」
大重量の突貫と剣の鍔競りで押し込まれるサイガ-100。インペリアルの名を冠した七本の剣達が軋み、巨大メイスの力押しに悲鳴を上げている。
(だが──────ペッパー君が『止まった』!此処しかない!)
サイガ-100は『待っていた』、此の瞬間を。どんなに早く走れようと、どんなに加速しようとも、攻撃を受け止めた瞬間であるならば、僅かに止まる時が有る。
従剣を七本展開したのは手が開いている状態を作る為、そして自分の持つ『魔法』を叩き込む為。
「今ッ【
巨大メイスをペッパーが蹴り上げ、サイガ-100の掌から放たれた『電撃』を、頑丈なる鐵塊が隔て遮る。僅かな痺れを感じつつも、ペッパーは直ぐに距離を取り。鳩が豆鉄砲を食らった様な顔をする彼女に、
「ふぅ、危ない………貴女が『サイガ-0さんの御姉さん』であるなら、何かしらの『魔法を習得』している可能性が有ると、俺は『戦う前から想定していました』。そして剣の飛び方から確実に『攻撃を当てる術』を持っており、速効性の観点から『氷か雷のどちらか』を、貴女は所持していると────そう
フィールドは愚か、観客席で見つめる全ての者が絶句し、ペッパーというプレイヤーの放つ言葉に震撼し、サイガ-100は目の前に立つ彼を見た。
(戦う前、から………?此の瞬間すらも?
自分の目の前に立つ、赤黒に燃え上がるプレイヤー・ペッパー。彼の真髄は『あらゆる事態を想定する、圧倒的なまでに深い思考深度』だと、サイガ-100は気付くに至り。同時に七本の従剣達の内、インペリアル・ファルシオンのみを手元に残し、残りでペッパーを包囲する。
「!」
「───
サイガ-100の口から『言葉』が紡がれる。其れは『詠唱』であり、おそらく『最上位クラスの魔法』。嘗て反転都市ルルイアスでサイガ-0が放った【ビースト・ドゥームフレア】に匹敵、もしくは其れ以上の大魔法だと。
「
サイガ-100は詠唱を止めず、只でさえ減り続けているMPを無理矢理回復する形で補い続行している。彼女は本気だ、本気で自分を倒すべく、今出せる全力を叩き付けようとしているのだと、ペッパーはゲーマーとしての『直感』で感じ取った。
「真実を告げる、
嗚呼、本当に
「応えなくちゃ………だよな」
巨大化した
「叫べ!
「スゥ…………フゥ──────!」
雷というのはポピュラー所では『範囲爆撃』・『頭上からの攻撃』・『フィールド全体を焼き払う』・『自身の視線上を貫く』の四種類から成る。そして『鉄槌』という
「撃ち砕け雷霆! 其は喰らい付く飢えた狂犬! 其は我が意に従い敵を滅ぼす忠実なる猟犬!」
「行くぞ、冥王の鏡盾よ!!!」
サキガケルミゴコロ、そして
ペッパーが未来予知に等しい力で見たのは、『五秒後に自身の頭上から雷の獣が己を飲み込み爆砕する』という、自身の体力が全損する状況映像が呼び起こされて。
「【
「
轟々たる雷の獣が口を空け、夜空から落ちてきた瞬間と。二つのスキルで見た未来を逆算し、ペッパーが天に冥王の鏡盾を向け、持ち手を力強く握ったのは『ほぼ同時』だった。
極限の集中力が成せた技か、或いは様々なVRゲームで鍛えられた修練の成果か。だがペッパーが感じたのは、自分がサイガ-100の大魔法攻撃に対する、己のアクションに『成功』したという感触で。
鏡盾が『花を開き』、雷獣が激突し。そして轟音と残響が醒めぬ中、緋と黒の炎人の姿は土煙の中に消えたのだった────。
勝者は果たして