VR初心者ゲーマーが往くシャングリラ   作:ガリアムス

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燃え上がる者




狼双戦争(デュアルウルフウォー) 其の二十

「良い感じだ、力が漲ってきた!」

「ぐおっ……!な、まだ加速するだとッ────!?」

「さっきのは『本気』でしたが、此処からは『更に本気』で行きます!もっともっと『ギアが上がりますよ』!!」

 

力強く響くペッパーの声、明らかに『打たせて取るのカウンター戦法』が一転し、スタイルが180度回転した『スピード戦法』への切り替えと、今までの走りは何だったのかレベルの圧倒的な加速による、誰にも読めない縦横無尽で自由奔放な天地無用の疾走。

 

スピードが上がる度に、彼が加速する度に、其の身から放出される緋色と黒の炎が揺らぎ、其の後ろで無数のヘイトが付与された陽炎達が残っていく。サイガ-100の従剣が其れを潰せども、陽炎は次から次に産み出されて、何れが本物のペッパーなのかが解らなくなる。

 

ヘイトを陽炎に持っていかれ、接近を許せば炎熱によるスリップダメージと、ショートメイスによる打撃が襲い掛かる。そして距離を離せば無数に残された陽炎から、本物のペッパーを探さなくてはならず、其の連鎖が断てぬ限り蟻地獄に捕らわれて、唯々ズブズブと嵌まっていくのだ。

 

「くっ……!」

「厳しい事を言いますが、リュカオーンを相手にするなら此れくらいの事を!彼女の『分身』の見分けが出来なければ、倒す事の『スタートライン』すら立てませんよ、サイガ-100さんッ!」

「っう……!!!」

 

従剣の流星が陽炎を貫けど感触は無く、空振った剣の刀身をショートメイスの打撃に襲われ、そして接近を許されて攻撃を受ける。だがサイガ-100は『此の程度』では折れず、挫けず。そして砕けず、倒れない。

 

「リュカオーンと渡り合い、そして倒すには其れ程の力量が必要だと?嗚呼上等じゃないか!だったら私の全てをぶつけ、ペッパー君!君に勝つ!!其れが此迄敗れてきた奴に、リュカオーンへの勝利へ繋がるのであればな!!」

 

シャングリラ・フロンティアで初めて出逢った時の彼女の、其の瞳の奥には『打倒リュカオーン』に豪々と燃え上がる、モチベーションの炎が宿っていた。其れがペッパーの発破によって更に強く、此方の炎すら凌駕し得る熱を感じる。

 

対人戦は『此れ』が有るから辞められない。御互いの持ち得る手札を隠し合い、切るべきタイミングで其の一手を叩き付け。思考を読み合い、策を巡らせ、全力を以てぶつかり合う事こそ、対人戦の『醍醐味』なのだ。

 

シャングリラ・フロンティアからPKが無くならない理由、其れはきっと『現実に非常に近しい世界の中で、己と同じプレイヤーと力比べがしたい』────全員がそうでは無いのだろうが、少なからずそんな想いを抱えて居るのだと思える。

 

サイガ-100の振るう従剣達、其の一本一本の挙動がおそらく自分に繰り出せる『最高速度』にシフトアップ。残した陽炎達が次々と、剣に切り裂かれ潰されて消えていく。

 

(だからどうした!!!!!)

 

消されたならば、其れ以上の量を産み出せば良い。ギアを更に上げろ。相手が本気ならば此方は其の本気の!更に本気からなる『(ちょう)本気(マジ)』を!彼女に叩き付けてやれ!!

 

脚が加速する、力を込めた跳躍と空中を蹴り上げ、空を跳ねて宙を駆ける。従剣達の煌めく流星に己の影すら踏ませず、蒼空の舞う勇者は超スピードで天を駆け走り、流転する状況下で剣の持ち手をショートメイスでブッ叩き続けて。

 

遂に象牙(ゾウゲ)兎月(トツキ)呑黒(どんこく)】の王撃ゲージが、ショートメイス時で蓄積可能上限値たる『200%』に到達。ペッパーは其の全てを消費し、イーディスを収納しながらに叫ぶ。

 

「さぁ───巨大に変われ(・・・・・・)、呑黒ッ!」

 

彼の意志を汲み取り、致命兎の王が更に鍛えた致命の鐵塊が形状を変える(・・・・・・)。呑黒が宿した能力の一つ、其れは王撃ゲージをショートメイス時で蓄積可能な限界値たる200%まで溜める事で、武器種を『片手武器:ショートメイス』から『両手武器:巨大(ビッグスケール)メイス』に変更する能力。

 

観客達は見た。ペッパーが持つ盾が収納され、片手で握っていたショートメイスが巨大化した瞬間を。そして何よりも其処から一瞬で夜空を走り降りて肉薄し、サイガ-100は七本の従剣達を呼び戻して迎え撃ち、大質量からなる鐵塊と鍛えられた剣達が交じり合った瞬間を。

 

「ぐうぅぅぅぅッ─────!!!!!!」

「オオオオオオオオオオオッリヤァ!!!!!」

 

大重量の突貫と剣の鍔競りで押し込まれるサイガ-100。インペリアルの名を冠した七本の剣達が軋み、巨大メイスの力押しに悲鳴を上げている。

 

(だが──────ペッパー君が『止まった』!此処しかない!)

 

サイガ-100は『待っていた』、此の瞬間を。どんなに早く走れようと、どんなに加速しようとも、攻撃を受け止めた瞬間であるならば、僅かに止まる時が有る。

 

従剣を七本展開したのは手が開いている状態を作る為、そして自分の持つ『魔法』を叩き込む為。

 

「今ッ【迸る雷(スタンビ)『スタン攻撃を仕掛けますか?』ド───は?!?」

 

巨大メイスをペッパーが蹴り上げ、サイガ-100の掌から放たれた『電撃』を、頑丈なる鐵塊が隔て遮る。僅かな痺れを感じつつも、ペッパーは直ぐに距離を取り。鳩が豆鉄砲を食らった様な顔をする彼女に、手品師(マジシャン)が種明かしをする様に先程の行動を説明した。

 

「ふぅ、危ない………貴女が『サイガ-0さんの御姉さん』であるなら、何かしらの『魔法を習得』している可能性が有ると、俺は『戦う前から想定していました』。そして剣の飛び方から確実に『攻撃を当てる術』を持っており、速効性の観点から『氷か雷のどちらか』を、貴女は所持していると────そう思っていましたので(・・・・・・・・・)

 

フィールドは愚か、観客席で見つめる全ての者が絶句し、ペッパーというプレイヤーの放つ言葉に震撼し、サイガ-100は目の前に立つ彼を見た。

 

(戦う前、から………?此の瞬間すらも?即興(アドリブ)で作り出したのか?)

 

自分の目の前に立つ、赤黒に燃え上がるプレイヤー・ペッパー。彼の真髄は『あらゆる事態を想定する、圧倒的なまでに深い思考深度』だと、サイガ-100は気付くに至り。同時に七本の従剣達の内、インペリアル・ファルシオンのみを手元に残し、残りでペッパーを包囲する。

 

「!」

「───蒼穹(そうきゅう)(かげ)れ、暗天(あんてん)(わら)え、轟々(ごうごう)たる喝采(かっさい)(なお)(およ)ばず、()は天より下る裁きの鉄槌」

 

サイガ-100の口から『言葉』が紡がれる。其れは『詠唱』であり、おそらく『最上位クラスの魔法』。嘗て反転都市ルルイアスでサイガ-0が放った【ビースト・ドゥームフレア】に匹敵、もしくは其れ以上の大魔法だと。

 

詩人(しじん)(うた)う、()は神の威信(いしん)と。僧侶(そうりょ)()く、()は神よりの天罰(てんばつ)と」

 

サイガ-100は詠唱を止めず、只でさえ減り続けているMPを無理矢理回復する形で補い続行している。彼女は本気だ、本気で自分を倒すべく、今出せる全力を叩き付けようとしているのだと、ペッパーはゲーマーとしての『直感』で感じ取った。

 

「真実を告げる、()()は無く、()(じゃ)も無く、()は純粋にして至極(しごく)なる暴力」

 

嗚呼、本当に幸せ(・・)だ。相手が本気で自分を倒そうとしている、其れが何よりも嬉しい(・・・)のだ。だからこそ─────此方も『全身全霊』で迎え撃つ事こそが答え(・・)だとペッパーは思っている。

 

「応えなくちゃ………だよな」

 

巨大化した象牙(ゾウゲ)兎月(トツキ)呑黒(どんこく)】をインベントリアに収納し、代わりに取り出したのは黒い円盾(バックラー)にして、ビィラックが作った甦機装(リ.レガシーウェポン):冥王の鏡盾(ディス・パテル)を軽く握る。

 

「叫べ!呵々大笑(かかたいしょう)の鉄槌!大地を叩き、万象(ばんしょう)我が道を(ふさ)ぐ敵を打ち砕け!」

「スゥ…………フゥ──────!」

 

雷というのはポピュラー所では『範囲爆撃』・『頭上からの攻撃』・『フィールド全体を焼き払う』・『自身の視線上を貫く』の四種類から成る。そして『鉄槌』という言葉(ワード)から、ペッパーは『頭上よりの落雷』だと仮定(・・)し。

 

「撃ち砕け雷霆! 其は喰らい付く飢えた狂犬! 其は我が意に従い敵を滅ぼす忠実なる猟犬!」

「行くぞ、冥王の鏡盾よ!!!」

 

サキガケルミゴコロ、そして真界観測眼(クォンタムゲイズ)の二つのスキルによる併せ技。其れは嘗てサンラクが、ルルイアスの地で『アトランティクス・レプノルカ"覇頭衝角(プロモスピア)"』を相手に行った物とほぼ同じく。

 

ペッパーが未来予知に等しい力で見たのは、『五秒後に自身の頭上から雷の獣が己を飲み込み爆砕する』という、自身の体力が全損する状況映像が呼び起こされて。

 

「【暴虐の雷獣(バイオレンス・サンダー)】!」

超過機構(イクシードチャージ)────【吸転換(コンバート)】ッッッッ!」

 

轟々たる雷の獣が口を空け、夜空から落ちてきた瞬間と。二つのスキルで見た未来を逆算し、ペッパーが天に冥王の鏡盾を向け、持ち手を力強く握ったのは『ほぼ同時』だった。

 

極限の集中力が成せた技か、或いは様々なVRゲームで鍛えられた修練の成果か。だがペッパーが感じたのは、自分がサイガ-100の大魔法攻撃に対する、己のアクションに『成功』したという感触で。

 

鏡盾が『花を開き』、雷獣が激突し。そして轟音と残響が醒めぬ中、緋と黒の炎人の姿は土煙の中に消えたのだった────。

 

 

 

 

 






勝者は果たして


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