VR初心者ゲーマーが往くシャングリラ   作:ガリアムス

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巌喰らいの蚯蚓へのリベンジ、其の準備段階


単純な武器とは時として最適解に成り得る

「何だよあのモンスター」

 

ファステイアの宿屋のベッドにリスポーンしたペッパーは、開眼一声にそう呟く。あのモンスターに護身用ナイフで、スラッシュのスキルを放った。

 

だが結果は、スラッシュは効かずに丸呑みで死亡して此処にいる。

 

ステータスには『デスペナルティ』の一文が表示されており、一定時間自身の全能力が低下しているようだ。

 

「………先ずは落ち着け。このまま再戦しに行ってもまた丸呑みにされて、ファステイアに戻されるだけだ。武器のおっちゃんの所に行って、新しい武器と装備を受け取ろう」

 

リベンジに速る気持ちを抑え、死亡する前に武器屋で依頼していた物を取りに行く事にしたペッパーは、早速行動に移る。

 

 

 

 

 

 

 

「おっちゃん居るかー?」

 

「おぉ、あんちゃん。頼まれてた物なら出来上がってるぜ」

 

ファステイアの武器屋に辿り着いたペッパーに気付いた鍛冶師の店主が言い、カウンターに置かれた装備がアイテムインベントリに加わり、ペッパーは其れを確認する。

 

 

白鉄(はくじ)短刀(たんとう):ファステイア坑道で採れる、白磁石を他の鉱物と共に熱して打たれた短刀。軽い刃と衝撃に強い刀身が最大の売りで、取り回しにも優れる。

 

敵の攻撃を受ける事による、武器の耐久値の減少を抑えられる。

 

装備条件 筋力15 技量10 器用10

 

 

鎖帷子(くさりかたびら):鉄を鎖状に加工した装備品の1つ。胴に身に付け纏う事で、背や胸に差し迫る凶刃より装備者を守る。

 

耐久力+10

 

敵の胴体攻撃によるクリティカルを、一定の確率で防ぐ。

 

 

「こりゃすごい…!耐久力上がるし、今の俺にはピッタリの武器だ」

 

「気に入ったなら、鍛冶師冥利に尽きるぜ。………ところでよぉ、あんちゃん。少し浮かない顔してるようだが、何かあったか?」

 

「えっ、あ、はい。実は……――――」

 

顔色から何かを『察した』鍛冶師の発言に、ペッパーは驚きながらも、ファステイア坑道・奥地での出来事を話した。鉱脈を叩いたら、巨大なムカデのようなミミズのモンスターと出逢った事。其のモンスターに斬撃が効かず、丸呑みにされてやられた事を。

 

「…成程、ソイツは『巌喰らいの蚯蚓(ガロックワーム)』だな。あんちゃん」

 

「ガロックワーム?」

 

「ファステイア坑道の奥地で稀に鉱脈に化けて、採掘に来た連中を食っちまう化物ミミズさ。ソイツの身体にゃあ、今まで漁りに喰らった鉱物が、身体中に纏わり付いててな。斬撃は殆ど効きゃしねぇ」

 

スラッシュが効かなかった理由が、そういう事かとペッパーは納得出来た。

 

「だがもし、あんちゃんがまた挑もうって言うんなら……オレの依頼を受けちゃくれねぇか?」

 

依頼?と疑問に思い、内容を尋ねようとした矢先、目の前にステータス画面とは違う画面が表示された。

 

 

『特殊クエスト:【岩砕きの秘策】を受注しますか?』

『YES』or『NO』

 

 

「特殊クエスト?何だコレ…?」

 

シャングリラ・フロンティアにおけるクエストは、一般的なクエストの他に、幾つかの種類がある。中には『価千金レベル』の物や『NPCとの協力』を必須とする等、千差万別である。

 

そして大衆から神ゲーの太鼓判を押されるシャンフロが、アンチから叩かれている理由の1つに『クエストの発生条件の不透明さ』が挙げられ、何時・何処で・何をすれば、其のクエストが発生するのか。其れが『完全に判明している物』は非常に少なく、まさに手探りで見つけ出さなくてはならない。

 

故に、其の新しいクエストの情報は、高ランクプレイヤーにとって喉から手が出る程欲しい物であり、其れを隠し持っているだけでも相手にしてみれば相当の武器になる。

 

(あのムカデミミズには、キッチリとリベンジ咬ましたいし、此の手のクエストは何れ他のプレイヤーにもバレる時は来るだろう……だが此の瞬間、楽しめば俺の勝ちだ!)

 

「そりゃ勿論━━━━やらせて貰う!」

 

即断即決、ペッパーの左人差し指は『YES』のボタンをクリックする。同時に鍛冶屋の店主は、ペッパーに話を始めた。

 

「此処だけの話だが、最近ファステイア近辺の森に『変わった武器を持ったヴォーパルバニー』が現れてな。鍛冶師としちゃ、其の武器を一度は拝んでみてぇんだ」

 

鍛冶師の持つ興味という名の運命(さが)かと思いつつ、初めて聞いたモンスターの名前に「ヴォーパルバニー?」と質問を返す。

 

「あんちゃんは初めて聞くか。ヴォーパルバニーは、人間やモンスターの急所を狙ってくる、二足歩行のウサギのモンスターだ。

 

で、ソイツ等の持ってる武器は中々希少で、オレ等鍛冶師でも御目に掛かれる機会はそうない。

 

一目見れたら、其の武器はあんちゃんが使ってくれて構わねぇ。其の地図にウサ公が現れるポイントを付けといた。頼んだぜ、あんちゃん」

 

マップを確認すると、確かにファステイアの近辺の森エリアに✕印が刻まれており、其処に目当てのヴォーパルバニーが居るのだろう。

 

デスペナルティも終わり、ペッパーは早速完成した鎖帷子を胴のスロットに装備。武器屋を後にし、ファステイア近辺の森へ向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ファステイア近辺の森エリアにやって来たペッパーは、マップを頼りに辺りを散索していた。

 

「武器屋のおっちゃんの話だと、此の辺りに居るらしいんだが……」

 

出身:探索家の子の恩智を兼ねて、エリアを塗り潰すように歩く。木々の皮の肌触り、茂みが身体に触れる音、人間の五感が感じる其れを忠実に、違和感無く再現された技術は本当に良く出来ている。

 

と、森エリアには似つかわしくない大きな岩を発見したペッパーは、其の後ろから響く金属音に気付き、そっと覗き込む。

 

其処に居たのは、赤黒に染まった小さな鎚を持ち歩き、赤いマフラーを首に巻く、二足歩行の兎が一羽。

 

「ウサギ……アレがおっちゃんの言ってた、ヴォーパルバニーか?というか、小鎚持ってる?」

 

気付かれないように遠目で其のモンスターを観察していたペッパーだったが、不意に後ろを振り向いた兎と視線が交わる。

 

直後、其の兎は両足をバネに跳ね、ペッパーの頭部目掛けて手に持っていた小鎚を振り下ろした。

 

「どぅおっ!?」

 

横に回避したペッパー。其の数瞬に彼が居た岩は小鎚の一撃に砕け散り、辺りに散乱したのである。

 

「コレは……食らったら死ぬな、確実に」

 

小鎚の性能も気になるが、ペッパーは此のモンスター兎の攻撃を危険と判断する。同時に脳裏に浮かぶのは、自分を丸呑みにした、巌喰らいの蚯蚓の剣山の歯と底見えぬ口内だった。

 

「……良いぜ。被弾一発で死ぬなら、其れより前にお前を倒すぜ、ヴォーパルバニー!」

 

そう言い放ち、アイテムインベントリから白の太刀筋に黒の乱れ刃が刻まれた新たな武器、白鉄の短刀を右手に装備する。其れが開戦の合図となり、ペッパーとヴォーパルバニーは激突した。

 

(コイツの攻撃は初速も早い…鎖帷子で耐久が上がったとは言っても、油断は出来ない!)

 

振り下ろされる小鎚を左にステップして回避し、白鉄の短刀の鋒を向けつつ、動きを観察して情報を集める。

 

(一撃目といい、二撃目も『頭』を狙ってきたんだよなコイツ。急所狙いが趣味なのかな?)

 

そんな矢先、ヴォーパルバニーが左右にステップをしたかと思えば、ペッパーの顎を狙って小鎚を右スイングでぶん回してきたのだ。

 

「うおぁ!?フェイント掛けられんのかっオマ!?!」

 

不意打ちの攻撃に、ペッパーは白鉄の短刀をインターセプトする形で直撃を避けるも、右側に掛かった重心により右膝を地面に付く。

 

無論、其れを敵が見逃す道理もなく、手に持つ小鎚をペッパーの頭目掛けて振り抜いてくる。

 

「ッ!簡単にやられるか!」

 

白鉄の短刀で小鎚の一撃を『弾いた』ペッパーは、武器を逆手持ちにスイッチ、立て直した右足で踏み込み、胴体を一閃する。

 

切り裂かれたヴォーパルバニーは、腹部からポリゴンが溢れるも、まだ倒れない。

 

「そう簡単にはいかないかッ!」

 

胴を斬られたからか、ヴォーパルバニーは僅かながら攻撃に戸惑いが見られる。普通ならば此処は追撃が考えられる場面、しかしペッパーには『ある予感』があった。

 

(もしかしたら、俺が突撃したところをカウンターしようと、待っているかもしれない………!)

 

二足歩行に進化した生き物は知能が発達し、知識を蓄え、思考を行える様になった。ヴォーパルバニーが人間やモンスターの急所を狙うという鍛冶師の発言と、先程のステップを絡めたフェイントを行った事で、ペッパーの警戒は強まっていた。

 

実際、此の時にヴォーパルバニーに攻撃を仕掛けよう物なら、頭か顎をぶん殴られて死亡していた訳なのだが。

 

(なら、ちょっと試してみようか)

 

右手に装備していた白鉄の短刀を解除し、代わりに耐久力が残り僅かのゴブリンの手斧を引き出し、ペッパーは右手に持つ。

 

そして先程ヴォーパルバニーが左右に跳躍しつつ自分の頭部を狙ったように、小刻みにステップを踏んで左から右に移動する僅かな瞬間、両足が地面から離れた刹那にゴブリンの手斧を水平投擲し、直ぐ様白鉄の短刀を装備し直す。

 

円を成して回り飛翔する小鬼の斧は、ヴォーパルバニーへ迫り、しかし其の一撃は小鎚に叩かれ、地面と挟まれ砕け散る。

 

「ハンマーやトンカチの特徴を知ってるか?ヴォーパルバニー。一度振り下ろしたら威力が保証される代わりに、振り上げるまでに時間が掛かる!

 

そして戦いにおいて、其の一瞬が命取りだ!!」

 

小鎚を地面から引き戻し、ヴォーパルバニーが再びペッパーの頭部を狙おうとするよりも速く、全力疾走したペッパーの、右手に握った白鉄の短刀が白毛皮に覆われた脳天に突き刺さる。

 

ポリゴンが血の如く噴き出す中、ペッパーは短刀を魚の骨を断つが如く、迷い無く引き下ろし兎の顔面を斬り割った。

 

其れにより、ヴォーパルバニーはポリゴンとなって消滅、レベルアップのSEが鳴り響き、幾つかの項目が表示され、此の場に先程まで使われていた小鎚のみが遺されていた。

 

「レベルが一気に2も上がって、何か色々スキルを覚えたようだ。後でポイントの振り分けと、スキルの確認と実戦で使用感を見るとして、ヴォーパルバニーはレアなモンスターだけあって経験値も旨いな。

 

で、本題は『コレ』か」

 

武器屋の店主たる鍛冶師が言っていた『変わった武器』、其れに当て嵌まるであろう小鎚を拾い上げ、能力を見る。

 

 

致命の小鎚(ヴォーパル.レッジ):『特殊クエスト:岩砕きの秘策』にて出現する『特殊なヴォーパルバニー』を討伐する事で、確定ドロップする武器。

 

クリティカル攻撃成功時、ダメージに補正が入る。

 

打撃武器共通能力として、頭部攻撃時にクリティカル成功率に補正が入る。

 

説明:致命の名を冠した武器。其の鎚、正しき場所へと叩き付けば、強者も仕留める一撃に変わる

 

 

「確定ドロップ、良い響きだ。最高だね」

 

昔のゲームの採取周回の地獄を経験したペッパーにとっては、確定で手に入る物は健康に良く、心が本当に楽になる。

 

後はコレを依頼主に見せればクエストは完了だろうと、ペッパーは足早にファステイアを目指して帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『特殊クエスト:【岩砕きの秘策】が進行しました』

 

『シャングリラ・フロンティアの一部のフィールドに、小鎚を持つヴォーパルバニーが出現しました』

 

『小鎚を持つヴォーパルバニーを討伐することで、致命の小鎚(ヴォーパル.レッジ)が確率でドロップするようになりました』

 

 

 

 

 

ペッパーが起こした特殊なクエスト。兎を倒して勝ち得た小鎚は、ヴォーパルバニーの武器に彩りを、フィールドの生態系に更なる多様性をもたらした。

 

世界は動かず。

 

然して情景は変わり、新たな風は吹いていく━━━━━

 

 

 

 

 




斬って駄目なら叩いて壊せ




特殊クエスト:特定の条件を満たす事で発生するクエスト……なのだが、ペッパーが発生させたクエストは更に特殊であり、フィールドに存在するモンスターの生態系にも影響を与えるタイプ。

更に今回の特殊クエストには、まだまだ先があるみたいだ…………
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