三大ゲーマー、便秘に集う
「いや、マジすかブラックペッパー。クソゲーに興味有ったんすね」
「まぁ、此れを始めるに至った経緯が経緯で、色々とね…。ら…じゃなくてサンラク君は、此のゲームはやり込んでるの?」
「そうっすね。ストーリーモードのラスボスまでクリアしましたよ」
ログイン初日にコンビニバイトで顔見知りの楽朗ことサンラクと出逢ったブラックペッパーは、先輩としての彼から色々な話を聴いたりしていた。
やはりこのゲームは、ブシカッツォの言っていた通り、攻撃発生やスピードが尋常では無いらしく、反射神経の優れていないプレイヤーはかなり苦戦を強いられる事になるらしい。
「あ、そうだサンラク君。対戦希望しても良いかな?」
「お、良いっすよ。バグは有り無しどっちで?」
「勿論有りで。よろしくお願いします」
ブラックペッパーの便秘初の対戦相手はサンラクとなり、3ROUNDの2本先取のルールで戦いのゴングが夜空に響く。
「……………」
「お、攻めてこないか」
ブラックペッパーは体勢を中腰にしつつ、掴みや打撃に対応可能のオーソドックスな構え。対するサンラクは半ズボンのポケットに両手を入れて、どっしりと構えている。
(確かこういうシチュエーションには……『アレ』が使えたな)
ブラックペッパーは頭の中で思考を重ね、にじり足で左足を下げ。そして『僅かに前に』身体を動かし、振るう。
「!」
彼が繰り出した『コレ』は、便秘wikiに載っていたバグ技の1つ。足を用いたバグの中に『ヨーヨー』と呼ばれる、アバターの判定をテクスチャごとずらした技から派生した物。
腕もしくは足を繰り出す際にヨーヨーの容量で、アバターの判定を『前に繰り出す』事で、前方並びに真っ直ぐ限定ではあるが、超スピードのストレート攻撃と強烈なノックバックが繰り出せる。其のバグ技の名を、便秘プレイヤーは『ゴムパッチン』と読んでいる。
「おぉ…便秘始めたてで、ゴムパッチン出来るとは。思った以上にやるな、ブラックペッパー」
「な…!?」
サンラクの声がして、ブラックペッパーは驚く。何と彼は『首を僅かに横に曲げただけで』、超スピードのゴムパッチンを躱わしていたのである。
「ゴムパッチンは確かに、中距離での技選択としては『悪くはない』。けど、其のバグ技は外した場合の『リスク』がデカい!」
「ッ…『戻しが間に合わない』!」
ゴムパッチンは貴重な遠距離攻撃ではあるが、当然ながら『デメリット』も抱えている。其れは外した場合に足が伸びきり、自身に戻るまでに『3秒』動けなくなってしまう。
つまりは3秒間、動けない状態で相手の攻撃に晒される事になり。
「食らえ!」
至近距離での攻撃を防ぐ手段が、限られる事になる。サンラクの腕がパンチモーションを発動した瞬間、捻って戻された事で腕が『弛み』、ぶるるんと揺れる。
其の名を――――――――
「パイルバンカー!」
「ごふぅえ!?」
ブラックペッパーの顔面に思いっ切りサンラクの拳がめり込んで、所謂『前が見えねぇ状態』になった所に、追撃とばかりのパイルバンカーラッシュが叩き込まれまくり、ブラックペッパーの体力は底を着いて『KO!』判定が下されたのだった。
其れからブラックペッパーはサンラクと、十数回に渡るバトルを続けたのだが、結果は兎に角酷かった。ある時はROUND開始時に『2人』に分身するバグ技『ドッペルゲンガー』で袋叩きにされたり。またある時は回転回避で起きるバグ技で『スライムのように身体が変形』して、大蛇固めを掛ける『メタモルフォーゼ』で絞め落とされたりと、散々な結果になっている。
だがブラックペッパーもゴムパッチン以外に、相手に合わせたヨーヨーの発動や、其れに合わせたゴムパッチンにパイルバンカーを狙いにいけるようには成った。
「良いぞ、ブラックペッパー。だがしかし、まだまだ甘いわァ!!」
「ッ、くそ…!同じパイルバンカーでも、此処まで違うのか…!!」
パイルバンカーとヨーヨーの合わせ技、ならぬ『バグ合わせ』に、ブラックペッパーはヨーヨーで距離を取るが、サンラクは其の選択を待っていたとばかりにヨーヨーを発動し、右拳を捻って戻して飛んで来る。
(ヤバい!避けるか…って違う!逃げられないんだろ!?!だったら『脚で弾けよ』!思い出せ、何の為に便秘をやってるんだ俺は!!)
思考が高速で処理されて、脚でパリィを行う為に全神経が一瞬の為に統合されていく。足の位置調整、蹴りの為の体幹設定、視覚の情報のインプット。
サンラクの狙いはパイルバンカー、そして其の着弾地点は――――自分の鳩尾。
「ッ!!此処…だぁああ!!!」
蹴りのモーションで身体を前に、ゴムパッチンを発動。サンラクのパイルバンカーを、下から吹っ飛ばす形で大きく後ろに弾き飛ばす。其の瞬間、ブラックペッパーの頭の中で『脚パリィ』の理想とする型が明確に定まった。
見てからでは遅い――――頭の中で『落ちものパズルゲーム』の最終局面を『反射』で処理を行うように、其の場面を『1枚の写真』にし、次に『相手の行動』を予測。最後に視線や状況を精査して『脚を合わせる』事が、脚パリィを可能にする為の『
「マジか!?其の局面に、脚でパリィしてくる!?」
「今度こそ決めッ――――!?!」
サンラクもノックバックされながら、思わぬ一手に驚きを隠せない。ブラックペッパーも、此処までやられた分の反撃とばかりにパイルバンカーのモーションを行う。
だが、サンラクが弾かれた片手ともう片方の手を、半ズボンの中に突っ込んだ瞬間、とてつもない悪寒が走り、攻撃を中断する。
「!どうした、今のチャンスだったろ?」
「何でしょうね。………もし、彼処で突っ込んでたら、俺は『負けてたかも』しれなかったので」
冷や汗を流し、されどブラックペッパーは構えを緩めない。あらゆる可能性を考慮した思考と、慎重さが彼の真骨頂なのだ。そして思考をしていく内に、ブラックペッパーは『気付く』。現状の自分では、サンラクを相手に『倒す事が出来ない』と悟る。
「一か八か…やるしかない!」
ブラックペッパーは右足でゴムパッチンを行う為のモーションを行い、サンラクが迎え撃たんと膝を曲げて構えた。其処の局面に彼は、蹴りモーションをステップによって解除した時――――――『バグ』は起きた。
繰り出した右足が、ブラックペッパーの前に『無数に分裂』したのである。
「は!?え!?何、其のバグ技!?」
サンラクは、突然起きた謎のバグに驚き。
「うわあああ!?なんじゃこりゃあああ!?」
ブラックペッパーは、自分の足が突如烏賊のように増えた事に、もっと驚いて。
更に驚いたのは、分裂して増えた脚がブラックペッパーの意識もしないまま『独りでに』、しかも『連続』でゴムパッチンを繰り出し始めた事。
其の光景はさながら、まるで大口径ドラム型ガトリングガンキャノンで撃ち抜かれて、ミンチより酷い処刑をされる死刑囚のようだ。
「えっちょ!?どういう事なの!?サンラク君逃げて!!今すぐ逃げて!?!」
自分でも制御不能の連続脚擊が、サンラクに迫り来る。しかし当の本人は、明鏡止水に似た凄まじい落ち着きをしており。
「1回受けてはみたいが、此の速度なら――――――『全弾撃ち落とせる』ぜ!」
ギギギッと、両手を突っ込んだ半ズボンから音が聞こえ。其の直後――――無数の拳がポケットより放たれて、無数の脚と激突する。叩き落とし、砕き割り、襲来する脚達を次々とポリゴンに変えていく。
何が起きているか解らなかったが、ブラックペッパーは其れを見てこう思ったのだ。まるで居合の拳が、流星群のように瞬いている……と。
永遠に続くと思われた、打撃と打撃の応酬は、サンラクが繰り出した連打によって、突然増えたブラックペッパーの脚擊を、宣言通りに全て撃ち落としきり。
最後は見とれていたブラックペッパーに、サンラクはヨーヨーで接近。先程と同じ流星群のような拳の連打を叩き込み、体力を0まで削り切ったのだった……。
「………負けたわ。凄いな、サンラク君」
拳の流星群を全身に叩き込まれ、地面に大の字に延びたブラックペッパーは、ポケットに手を入れたまま此方を見下ろす、サンラクに言う。
「いや…あの時の脚パリィは正直ビビった。ゴムパッチンで吹き飛ばすのは、俺でも予測出来なかったし。何より『新しいバグ技』が見れたから、スゲー良い気分だぜ」
ガトリングに似たゴムパッチンの連射、自分の意識と無関係に発動した其れが、サンラクの言ったバグ技なのだろう。
「………今回
サンラクに対し、ブラックペッパーはリベンジ宣言を突き付ける。其の目には必ずやって見せると、強い意志を込めて。
「おう。あと何て言うか…君付けじゃなくて良いっすよ、俺を呼ぶの」
「………解った。じゃあ『サンラク』って呼ぶよ」
「あぁ。よろしく、ブラックペッパー」
互いに握手を交わし合い、ブラックペッパーにとっては、便秘での初めてのフレンドが出来た。
「で、ブラックペッパーは何で便秘に?」
「あぁ、其れなんだけど。実はゲーマー仲間と待ち合わせしてて、此処で脚パリィの練習をしたくて。そろそろ来るかと……」
「おーい、ブラックペッパー!やっぱ先に戦ってやがったかぁ!!」と聞き覚えの声が背後から聞こえ、振り返ると其処には白で統一された服に、両手に白い鉄製のガントレットを、両足に白地のブーツを履き、薄朱色のヘアバンドで目元を隠した金髪の男性プレイヤーが走り寄ってきた。
プレイヤーネームは『モドルカッツォ』。間違いない、カッツォだ。
「モドルカッツォじゃねーか。随分久し振りなログインだな?」
「おう、サンラク久し振りだ。前にメールしたろ?便秘に新人入ってくるってよ」
「え、てことはブラックペッパーが?」
「はい、カッツォの知り合いのブラックペッパーです。改めてよろしくお願いします、サンラク」
ペコリと御辞儀をしたブラックペッパー。其れを見たモドルカッツォはサンラクに言った。
「因みになサンラク、こ…ブラックペッパーはレトロゲームが強くてな」
「ほぅ……んで?勝率はどんくらい?」
「恥ずかしいが…レトロ格闘ゲームに関して、コイツは俺より勝率は『上』だ。しかもコイツ『鉛筆』とも知り合いで、鉛筆の奴とブラックペッパーは今『シャンフロ』をやってるんだとさ」
カッツォからの紹介に、サンラクは「マジか」と驚愕していた。其れもそうだ、日本国内延いては世界強豪選手相手にバラつきこそあれど、殆どの相手に勝率7割を切らないカッツォが、得意としているジャンルのゲームで負け越している事実を、サンラク自身にわかに信じ難かった。
しかし普段からナチュラルに毒舌を吐くカッツォが、ブラックペッパーの実力を認めている事から、其の言葉に嘘が無いと思ったのである。
「マジかよ………っうか、ブラックペッパー。お前『鉛筆戦士』と知り合いなのか」
「ん?『鉛筆戦士』…?もしかして…カッツォが言ってた『鉛筆王朝を革命したクソゲーマー』って、サンラクだったの?」
「あぁ。というか其処まで知ってんのか」
コクリと頷いたブラックペッパーに、サンラクは更に驚いた表情をしている。日本最強のプロゲーマー、そして天下のカリスマモデルと知り合い。もしかしてコイツ、実はとんでもない大物なのではないか?……と。
「でだ、サンラク。実は俺、シャンフロ始めようかと考えてる」
「え、マジで?」
そんな折、モドルカッツォの爆弾発言が飛んで来て、サンラクは目を丸くする。其れも其の筈、モドルカッツォは理不尽を叩き付けてくるクソゲーを、自分と同じように好んでいる。
故にクソゲーから、文句無しの神ゲーに挑戦しようとしているゲーマーフレンドの真意が解らなかったのだが、其の理由をサンラクは知る事になる。
「前に鉛筆から俺個人にメールが来ててさ。アイツ『今の流行りのシャンフロをプレイしないとか、シナシナに干からびたカッツォ君ダッサーイ♪そんなんで、プロが勤まるんでちゅか~?』なんて、文面に全力煽り入れて来やがった。
ちょっとムカついたし、何か企んでるらしくてな……俺自身もシャンフロには少し興味が有るし、やってみようって思ってる」
モドルカッツォがシャンフロを始めようとしている理由は幾つかあるものの、半分は鉛筆戦士からの全力煽りが有って、もう半分は『ある情報屋』からもたらされた『情報』が理由になっているのだが。
と、サンラクはモドルカッツォにこんな質問を投げ掛けてきた。
「仮にお前……シャンフロ始めたら、鉛筆と一緒にプレイしてない俺を、全力で煽り倒す気だろ?」
「当然。しっかり煽らせて弄り倒してやるから、覚悟しとけよな~、クソゲーマーサンラクぅっ~?」
悔しい事にブラックペッパーの脳裏には、ペンシルゴンとカッツォが一緒になって、サンラクを煽りまくる情景が簡単に想像出来てしまった。一方でゲラゲラ♪と煽り笑いするモドルカッツォに、サンラクの後頭部と額に青筋がビキリと浮かび上がらせ、そしてモドルカッツォに言ったのである。
「あぁ、じゃあやってやろうじゃねぇか、モドルカッツォこの野郎!『フェアクソ』クリアしたら、速攻シャンフロ始めてやっから、覚悟しとけよこんにゃろう!!」
「サンラクおま、あの伝説的クソゲーの『フェアクソ』やってんの?!」
「マジ邪神のクソ尼がクソ過ぎてムカつきまくって、便秘で発散しに来たんだよ……!ホントあの野郎、マジゆ"る"さ"ん…!!!!」
プロゲーマーとクソゲーマーが何か話をしている。フェアクソ?何なんだ、其のゲームは……。
「あー…邪神思い出したら無性に殴りたくなってきたわ。ブラックペッパー、モドルカッツォ、バトルしようぜぇ…!!」
「え、俺ボコボコにされたばかりなんですけど!?!」
「お、良いじゃん。ブラックペッパー、実戦形式でバグ技沢山体験しようか?」
「もうサンラクとの戦いで、俺既にお腹一杯何だけどさぁー!?!」
あっコレ完全に、俺をサンドバッグにする流れだわ――ブラックペッパーは、心の中でそう呟いた。
そして其の予想通り、モドルカッツォからは、レトロ格闘ゲームでの勝ち越されまくっている恨みを晴らすように。サンラクからは、フェアクソなるクソゲーの邪神に対する怨念じみた物を叩き込まれ。
結局2人相手に、ブラックペッパーは1度もラウンドを取れないまま、便秘の洗練された数多のバグ技達の洗礼を、其の身を以て体感する事となった。
だが、ブラックペッパーもまた唯では負けずに、便秘最強クラスのプレイヤー2人からバグ技を学び取り、極一部の技では有るものの、脚でのパリィを行う事が出来るようになったのである………。
便秘の洗礼は、苛烈にして手酷く