ペッパー、千紫万紅の樹海窟踏破に動く
「酷い目にあったよ、全く……」
ベルセルク・オンライン・パッション、通称『便秘』にて日本最強のプロゲーマーのカッツォと、顔見知りで鉛筆王朝を革命したサンラクから、痛烈なバグ技洗礼を受けた梓は翌日、グロッキーな表情になりながらもコンビニでのバイトに汗を流していた。
今日は大学の講義は無く、朝から午後4時手前辺りまでバイトが出来る日で、梓は揚げ物類を新しく揚げたり、商品棚に飲み物を補充したりと、忙しく働いている。
「だが便秘の技は、何れも凄かったな……。超速の発生をどうやって脚でパリィするかも、学べる事は多かったし」
腕が伸びたり、脚が蛸のように吸い付いたり。今までの格闘ゲームとは別の、最早何でもありな無法地帯の戦闘。だが、其れ故に新鮮で、人の身成らざる戦い方も大いに学ばせて貰った。
此の経験と、カッツォ&サンラクへの御礼参りは何れ必ず果たすとしよう……。そう心に誓い、梓はバイトを続けていく。今日はバイトが終わり次第、シャンフロのエリアの1つを突破しに行くつもりでいる。
活動範囲の拡張及び特殊クエスト攻略に向けてのレベリング、やるべき事は色々あるのだ………。
「アイトゥイル~!居るか~!」
無事バイトを終えてアパートへ帰還し、シャンフロへログイン後、兎御殿で目を覚ましたペッパーは、先ず手始めに御世話係のヴォーパルバニーのアイトゥイルを呼んでみた。
現状、此処兎御殿からペッパーが行ける街は、ファステイア・セカンディル・サードレマの3種類のみ。サードレマは広大であれど、留まり続けては何れ見付かる事になる。其の時はエンハンス商会会員証で、サードレマの上層の貴族エリアに逃げ込めば良いが、あくまでも其れは最終手段として取っておきたい。
「アイトゥイルが合流するまでに、スキルの確認を……おおぅ、新しく色々覚えたし、何れも此れも強化されてる……。やっぱり先生が託してくれた、此の首輪のお陰か…」
弱者が強者に至る為、尋常成らざる苦難を歩むべし。ヴァイスアッシュの言葉を胸に、ペッパーはレベルアップで得たポイントをステータスに振り分ける。
「今回はそうだな…器用に4と筋力と技量に5振って、残り10ポイントは万が一に取っておこう。レベリングは今まで以上に大変だから、残ったポイントは凄く大事になる」
経験取得が半分である今、レベルアップで得られるポイントはとても貴重になってくる。ペッパーはこうしてステータスにポイントを振り分けて、最終的にこうなった。
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PN:ペッパー
レベル:30
メイン
サブ
体力 15 魔力 10
スタミナ 74
筋力 55 敏捷 66
器用 35 技量 35
耐久力 26 幸運 15
残りポイント:10
装備
左:無し 右:リュカオーンの
頭:皮の帽子(耐久力+1)
胴:隔て刃の皮ベスト(耐久力+4)
腰:隔て刃の皮ベルト(耐久力+4)
脚:隔て刃の皮ズボン(耐久力+4)
アクセサリー
・鎖帷子(耐久力+10)
・旅人のマント(耐久力+2)
・
所持金:4520マーニ
スキル
・ラダースラッシュ
・呀突
・フラッシュカウンター→ジャストパリィ
・ブームスロー
・スピックエッジ
・ハイドレートワーク
・スイングストライク→バルガストライク
・レイズインパクト→ダイナモインパクト
・剛撃 レベル2→レベル6
・アクセル レベル4→レベル8
・ラッシュ レベル1→レベル4
・見切り レベル1→レベル4
・ハイプレス レベル1→レベル5
・二艘跳び→五艘跳び
・スライドムーブ
・ブートアタック→ジェットアタック
・水平斬り レベル2→レベル5
・垂直斬り レベル1→レベル4
・サンダーターン
・ハイビート レベル2→レベル6
・アクタスダッシュ レベル1→レベル4
・ステックピース レベル1→レベル3
・握擊 レベル1→レベル3
・投擲 レベル1→レベル2
・クライムキック レベル1
・首断ち レベル1
・ムーンジャンパー
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経験値半分というデメリットも、謂わば戦闘経験を多く積み重ねさせる事に直結し、スキルを幾度も使用にする事による理解度の蓄積。其れを致命魂の首輪は、装備者に教えようとしているのだろう。
「今更だが、ホント此の首輪はヤバイね…」
「ペッパーはん、呼んださ~?」
と、此処でアイトゥイルが戻ってきた事で、ペッパーは行動指針を彼女に伝える。
「やぁ、アイトゥイル。今から蜘蛛狩り…もとい千紫万紅の樹海窟に居る『エリアボス』を倒して、新しい街に行こうと思ってるんだ。手伝ってくれるか?」
「お~…遂に別の街に行くのさね、ペッパーはん」
「あぁ、長らく世話になったサードレマから、いよいよ別の街に向かう。先ずは旅支度を整える為、エンハンス商会・サードレマ露店通り支部に行く。近くの裏路地に扉を出してくれ」
「わかったさ~」
ペッパーとアイトゥイルは、千紫万紅の樹海窟のエリアボス攻略を目標に定め、行動を開始する。相手は枯れ巨木を住み家にした道化蜘蛛の名を冠する、巨大タランチュラ――――――『クラウンスパイダー』だ。
エンハンス商会・サードレマ露店通り支部。
相変わらず人の往来が激しい地域に店を構える此処は、やはり相応の人の出入りが有る。路地裏から出て、アイトゥイルをマントの中に隠して、人の往来のタイミングを合わせ、速攻で店に入店。
「ペッパー様、いらっしゃいませ!」
「こんにちわ。買い物したいのですが良いでしょうか?」
「はい!此方が当店が扱っている商品です。あ、あと商会の会長から『エンハンス商会にペッパー様が訪れたら、少しだけ割引して販売するよう』にと、指示を頂いています」
「え、本当ですか?ありがとうございます」
称号:【エンハンス商会御用達】には、フロンティア各地に点在するエンハンス商会でのアイテム購入時に、割引補正が働く効果がある。ペッパーは会員証に其の効果が内封されているのかな?と思ったようだが、予想は外れている。
だが何にせよ、少し割安でアイテム購入が出来るなら、其れに越した事は無いだろう。ペッパーは簡易食糧や回復ポーション等の消費アイテムや、投げナイフ等の痒い所に手が届く投擲アイテムを複数購入。
さぁ、いよいよ千紫万紅の樹海窟へ……と思った其の時、1人の少年プレイヤーとペッパーの視線が合った。彼は身長150cm程の小柄な体躯に、青い魔導師のローブと大きな魔法使いの帽子を装備、両手には銀色の腕輪が光っている。
頭上のプレイヤーネームは『レーザーカジキ』と表示され、見た感じはMPと器用に比重を置いた、ザ・後衛職の魔法使いのようである。
「あ、あの………ペッパー、さん……ですか?」
随分と恥ずかしそうにしながら、両手の指先を合わせたり、離したりしてはモジモジと、時折チラリチラリと見上げては帽子の縁で視線を隠している。
「え、はい。そうですけど…?」
「えっと…その……あの!……よ、よろしくお願いしましゅ………!!」
噛んだ、思いっ切り噛んだ。其れにしても随分と緊張しているようであり、一先ず落ち着かせようと思った矢先、ペッパーの目の前に1つの画面が表示された。
『レーザーカジキさんがフレンド申請をしてきました。受諾しますか?』
【Yes】or【No】
(フレンド申請?………もしかして、情報貰いに来たのか?此の子……)
此の時、ペッパーは知る由も無かった。レーザーカジキというプレイヤーが、ペッパーの起こした特殊クエストによって、フィールドに現れた小鎚持ちのヴォーパルバニーを発見し、交戦して敗れた事を。
其の時の出来事を掲示板に報告して、シャンフロに起きた変化をキョージュやAnimaliaが、ユニーククエストの可能性があると推測するキッカケを作ったプレイヤーである事を。
そして何よりも、此のレーザーカジキというプレイヤーが、ペッパー捜索スレ『胡椒争奪戦争』の住民である事を、彼自身知らなかったのである………。
エリアボス攻略に向けて準備万端。されど問題発生