就職せよ
職業クエストを受注して脳内時計が三分に迫る中、サンラクは装備を着替えつつ、ボスというか女頭領と思しきドレスを着た女性NPCを追い掛けて、バイオリンとギターの弦楽器複合から奏でられる旋律をバックグラウンドに、彼女の案内の下で店内を歩く。
仕事を終えて帰って来たのか、ロングスカートに長袖の屋敷に仕えるメイド服を着ている、ゴツい見た目で髭を生やしたダンディなオッサン。
一見普通のスーツに見えるが、注意深く見直せば
そして其の隣で色々と露出度の高いビキニアーマーを着た硝子玉の様な瞳の幼女が、骨付きのマンガ肉………或いはケバブと見間違う様なデカい肉を、無言でモシャモシャと齧っているという、これまた不思議な光景が其処には在った。
「此処は
「ふむふむ………思想は立派だが、ソイツは『慈善事業』って奴かい?」
隠し職業『仇討人』なる職業は、要約すると『難易度の高い案件のみを受ける専門職』という事らしい。まるで
「其れは理由の
「…………成程」
潜在的な危険因子や戦闘狂等々命知らずを集め、表社会では持て余すor見向きもされない難題をクリアする者達、其れが仇討人なる存在らしい。
つまり
「で? 招待されたら即採用なのか?」
「そうねぇ……。実力の保証はされているから、其れで良いのだけど………何か自慢話でもして貰えるかしら?」
自慢話かアピールか、何にせよ『自分は此れだけの力を持っている』という、証明が出来る何かを示せと。
そんな中で彼がインベントリアを操作し取り出したのは、マブダチの素材として余っており、使っていなかった『
そしてもう一つ、駄目押しとばかりに『黄金の天秤商会の筆頭株主』を証明する、『天秤のマークを刻んだ金色に輝く純金製のカード』を取り出して女頭領へと見せれば、此処まで眉一つ動かさなかった彼女の目は丸くなった。
「
「────あらあらまぁまぁ……此れは思った以上だわ。流れる
「其の噂ってのは具体的にどんな物で……?」
人間聞いたら不味いという噂も、好奇心には勝てないという物であり。そしてサンラクも例外では無かった。
「そうねぇ、一番の噂は『夜の帝王をも退けた夜駆けの
「カイジンにキジン……」
誰だよこんな噂広めたのは?前々から見ていたNPC由来か、或いは対抗戦を観戦してたプレイヤーにNPCなのか?取り敢えずデイリーミッションだ、おのれリュカオーンぜってぇ許さねぇ!──────と、そんな事を脳裏に浮かべて呟いていれば、女頭領はこう言ってきた。
「ある時は『鳥を模す覆面』を、ある時は『魚を模す覆面』を被り、サードレマでは『身体をすっぽり覆う白布のお化け姿』で闊歩してた、なんて噂もあったけど『貴方』だとは思わなかったワ。フフフ………人なのか怪しいというのも、あながち間違いではないかも知れないわね?」
「非ッッッッ常に不本意だけど、事実が
もう脳内で三分タイマー掛けて着替えるのも一々面倒臭くなったサンラクは、インベントリアから
其れよりも、さっきから立て続けに服装を変えたり、いきなり自刃し始めているにも関わらず、黄金の天秤商会筆頭株主証明書以外で動じなかった此の女頭領は、中々豪胆なキャラ付けがされている様だ。
「では今日の所は軽い紹介という形で、後日詳しくという事でどうかしら?」
「……解った。じゃあ今日は帰らせて貰うかな」
そうして女頭領の案内の元、個室に案内される。其処には魔法陣が刻まれており、床の上に立つと光に包まれて入って来た蛇の林檎の個室へと戻って来た。
一度ステータス画面を開いた後に退出すると、マスターが焼き上がったばかりの美味しそうなアップルパイを用意しており。コレを何時かはダース単位で食べてみたいと思いながら、御持ち帰り用に包んで貰って店を出つつ、サンラクはサードレマの裏路地に在るエムルとの待ち合わせ場所に───────
(招待されただけで
サンラクが確認したステータスに表記されたメイン
仇討人………頭領による説明からするに、ガチガチの戦闘職業。そしてモンスターとの戦いや人からの依頼によって、生計を立てるともなれば──────!
「き……むぐぐっ!」
「オッシャ、来たァ!」
サードレマの裏路地に空気を切り裂くような悲鳴……を無理やり押さえ込んだ声が届く。自分以外にも数人プレイヤーが居たようだが、自分以外に其の声は
だが其処には確かに。『追われて逃げていたけど、捕まりました』とでも言いたげな様子の光景──────『非力ながらも必死に藻掻いて何とか抵抗している女性と、口元を押さえ付けながらに連れ去らんとするガサツな見た目をしている大男』だ。
「囚われの女性とか、百科事典作れるくらい救って来たんだぜ俺は!」
気分はまさに、レディの危機に颯爽と駆け付けるヒーローの如く!
「いざ助d「た、たすけて……!」っぐ!?」
駆け出さんとした寸前、手を掴む小さな感触に前のめり気味な身体を起こして振り向けば、今にも溢れて零れんばかりの涙を浮かべた、小さな幼女がサンラクを見上げ叫んでいた。
「おとうとが、わたしのおとうとが……!もんすたーに、おそわれて……!」
「んぐっ!?」
此の状況下で訪れた取捨選択のルート分岐。というより此の幼女を『何処かで見た気がする』。いや、今悩んでいる時間は有りはしない。なればこそッ!
「五秒以内に片付けるッ!」
集中しろ!最速最短でケリを!就職の為にも!!無職は嫌じゃ!!!
『最!』
『速ッ!』
座標良し、暗闇に紛れようとしている男女と自分は今、直線の導線で繋がれている。スタートダッシュ時に幼女の手を振りほどくのに、一瞬の躊躇が有るも許容範囲。あの
『解!』
鎮圧は速攻かつ迅速に行うべし!あの二人が入らんとしているのは建物と建物の隙間、故に左右を壁で挟む形だという事。リコシェットステップの進化系であるグラビティゼロ。アクロバットとの合成で消滅したスキルを、思い出す様に『
『決ッッッ!』
建物の隙間に入られる前に黒雷を纏ったサンラクが、女を攫う不埒者の男の顔面を、嘗てフェアクソ相手に繰り出した『飛び蹴り』によって蹴り抜いたのだ。そして不埒な大男を蹴り飛ばしつつ、勢い其のままに空中を舞い……空中錐揉み回転をしながら封雷の撃鉄を解除。
「多分コイツが最適k『スパァン!』──────」
フリットフロートによる減速で着地を果たした其の瞬間、灼骨砕身の効果五分+刻傷による装備可能三分の、合計装備可能時間八分の経過によって、身に付けていた服が高らかなSEと共に弾け飛び。
「───
「はっ──────!?」
後方から聞こえた声がスルリと耳を通り過ぎ、先程まで幼女が居た筈の場所では僅かな砂塵が舞っている。
其の速度はファステイアで戦ったルティアよりも、いや此迄に経験してきた全てのゲームを思い返しても、比肩し得ない程に速い。
「───
「アンタ、さっきの幼女………!」
声のする方へ振り向けば、力なき幼子の姿を衣服ごと脱ぎ捨てた、硝子玉の様な瞳を向けるビキニアーマーの幼女が居て。仇討人ギルドで肉に齧り付いていた、
「
彼女は最強の賞金狩り