ペッパー、クラウンスパイダーに挑むの巻
新しいオンラインゲームを始めた頃、見知らぬプレイヤーからのフレンド申請をされた場合、其のプレイヤーが考えている事は大きく分けて2通り存在する。
1つは初心者狩りを生業とするプレイヤーで、コレはまぁオンラインゲームでは良くある事なので、登録は一旦保留として装備やレベリングをし終えたら受諾して、一方的に解除してくれば、ソイツは『そういう奴だった』と見極められる。何なら第二、第三の被害者を出さないように、運営に通報してクリーン化に手を貸す事もする訳で。
で、もう1つは打算等関係無しの単純に御近づきになりたいプレイヤーで、実は此のタイプのプレイヤーはかなり少なく、見極めるのは熟練プレイヤーでも難しい。そして今、俺の目の前にいるレーザーカジキなるプレイヤーは直感的に『後者』の存在で、どう対処するかによって今後のシャンフロライフに影響を及ぼすだろう。
(レーザーカジキが、何を考えてるかは俺には解らない…。だが、無下には出来ないな…こういうタイプのプレイヤー)
「うん、良いよ。ただ、此方も色々有って今から向かわなくちゃ行けない場所が有るんだ。情報が欲しい場合は
そう言って、ペッパーはフレンド申請のOKボタンを押した。無論何かしら起きた場合は、真っ先にペンシルゴンへ相談すると心に決めて。
「あ、ありがとう…ございましゅ…しゅっ!!」
嬉しいのかなんなのか、レーザーカジキがまた噛んだ。いや流石に緊張し過ぎだろと心で呟きながらも、ペッパーは「では、俺は此れで」と少年に一礼し、エンハンス商会を後にしようとする。
「あ…えっと!ペッパーさん、コレをどうぞ!」
フレンド登録の御礼か、はたまた何か企み事を含んでいるのか、レーザーカジキが自前で買ったであろう『MPポーション』を1ダース、ギフトとして此方に贈ってきた。
(魔法使いじゃないんだけど…一応善意と見て受け取っとこ)
「ありがとうございます。では此方も」とペッパーはアイテムインベントリの中から『エンパイアビーのハチノコ』をギフトとしてレーザーカジキに贈り、商会から出て直ぐに移動系スキルを駆使して裏路地を走り、千紫万紅の樹海窟へ続くゲートを潜り抜けていった。
余談だが、エンパイアビーのハチノコをレーザーカジキがエンハンス商会の受付に見せた所、エンパイアビーの巣でしか採れず、高効能の強壮薬の原材料であるらしく、2万マーニで取引して貰えたらしい。
千紫万紅の樹海窟にアイトゥイルと共に到着したペッパーは、スキル:ハイビートのデメリット緩和と他スキルの再使用可能になるまでの間、早歩きで此のエリアのボスが居住とする枯れた巨木を目指していく。
「ペッパーはん、ペッパーはん。此処の頭張ってる道化蜘蛛わはな、上からずどん!って物落として来るんさ」
道中、マントに隠れたアイトゥイルがクラウンスパイダーに関する情報を喋ってきた。おそらく其の蜘蛛は、巨木の最上部に糸と巣を張り巡らし、落下物で圧死させるタイプのボスであると考察出来る。
「落下物注意って訳か…となると、地上に引き摺り落とせれば、かなり優位に戦えそうだな」
「あとな、ペッパーはん。其の蜘蛛を倒すと時々出てくる『上質な糸』は、織物とか防具の糸に使われたりもするのさ」
「ほほう、レアドロップか…売ったら何れくらいのマーニに換金出来るだろうか」
そんな何気無い会話を重ねていると、目的地たる巨木が見えてくる。樹海の僅かな隙間から零れる光に反射した無数の白糸が見え、眼前には内側が繰り抜かれて真っ暗な空洞が。
其の空洞の内側…………正確には『上の方』から魑魅魍魎の気配漂い、彼方此方に張り巡らされた糸が、雰囲気をより過密にしている。
ゆっくりと忍び足で入口付近まで接近し、空洞の入口から恐る恐る、空洞の上層を見上げたペッパーはあまりの暗さに驚いた。
「うわぁ…コレは松明やらカンテラの類いが無いと、目が慣れるまで移動もキツいな……」
「其処はワイの酔息吹で何とか出来るのさ…。問題は頭蜘蛛が、一体どのくらいの高さに居るかさね」
「あぁ。先ずは奴の居場所が解らないと、何も始まらない。アイトゥイル、酔息吹を頼む」
「はいさ~」とマントから飛び出し、アイトゥイルが右肩に乗る。其のまま瓢箪水筒の中の酒を口に含んで、45度の角度を付けた酔息吹の炎を放つ。
炎が闇を照らし、頭上には無数の岩や巨木が、巣の糸に絡み付いてぶら下がり、其の奥には大小揃えて4つの赤い光が見え。
直後、上から落ちてくる風鳴り音が聞こえ、1人と1羽が回避すると、先程自分達が居た場所に枯れた巨木が落下。ポリゴンと化して消滅する。
「当たったら即死だな……あ」
体力と耐久が低い自分の場合、直撃=死だと確信していると、どうにも右側が明るい。左目で視線を上に向けつつ、右目で其の方向を見ると、肩に乗っているアイトゥイルの武器:嵐薙刀・虎吼の柄に吊り下げられて揺れる、妖炎桃燈が1つ。
「光源有ったわ…ってうお!?」
再び落下物接近の音、其れも連続で来る。回避しながらペッパーは、アイトゥイルに指示を出す。
「アイトゥイル、今俺達の位置は桃燈の灯りが教えてる!相手にこれ以上、情報を与えない為に灯りを消してくれ!」
「わ、わかったさ!でも、ペッパーはん灯りが無いと移動はキツくないさね!?」
「確かにキツいかもね。…でも、さっきの酔息吹と桃燈の灯りで、此の巨木の構造が少し『特殊』な事に気付けた」
桃燈の灯りをアイトゥイルが消し、真っ暗な闇が戻る中でペッパーは明るかった時に見た物を整理し始めた。此の巨木、設計者のミスか攻略の為の配慮か、どうにも内側の壁面が『螺旋階段』のように、せり出ている部分がある。
「使って下さいと言わんばかりの其れ、狙わない手はないよな…!」
スキル:五艘跳び並びにムーンジャンパー起動、強化された跳躍力で地面を蹴って高く舞い、巨木のおよそ四合目手前まで一回の跳躍だけで到着する。
(暗闇に眼も順応してきた……今なら道化蜘蛛が張り巡らせた糸の位置も解るぞ!)
「ペッパーはん、此処からどないするさ?」
「蜘蛛の糸を掻い潜って、御大層に構えた頂上の巣から、アイツを地上に引き摺り下ろす!」
スキル:アクセルを使ったペッパーは、万が一に備えて旅人のマントの装備を一時的に解除。螺旋階段状の足場を駆け、反射で狙った落下物攻撃と、行く手を阻む蜘蛛の糸の合間を駆け抜けていく。
「蜘蛛型のモンスター相手に、プレイヤーが一番やってはいけない行動は『糸に衝撃を与える事』。巣を張るタイプの蜘蛛は、獲物が巣に引っ掛かった『振動』を利用して狩りを行う」
「其れを利用して、敵を糸に絡め取るのさね?」
「そう。だから逆に其れを利用する。……見えた」
巨木の7合目辺りまで着た時、ペッパーとアイトゥイルは其の存在を逸早く視認する。白に包まれた体毛と黒い八脚、大小異なる赤い四眼と腹には巨大なピエロの顔。
エリアボス・クラウンスパイダーが其処に居た。
「さぁて、お前の出番だ…!」
「耳塞ぐさね!」
アイテムインベントリから取り出すのは、沼掘りとの戦いでもキーアイテムになった、投擲玉:炸音の試作品。其れをスキル:握擊で力を込めて握り、即座にスキル:投擲及びブームスローの重ね掛けで、クラウンスパイダーの巣の真横を狙って玉を投げ込み、同時に最上部を目指して再びダッシュ。
巣に直撃した瞬間、投擲玉は起動して強烈な音波が巣を揺らし始めた。クラウンスパイダーが其れに反応し、発生源に向かおうとする。
「それ、もう一発!」
移動しながら次は右側に同じ要領で投げ込み、着弾と同時に音の嵐が巣を揺らしていく。
「蜘蛛って虫は巣を張る事で知られているが、其の自慢の巣が何らかの理由で修復不可能なダメージを受けると、決まって『ある行動』を取る」
二ヶ所からの同時の音による衝撃で横糸が弛み、ブチリブチリと千切れ出し。宿主の重量を支えられなくなった巣が、徐々に崩壊を始めた。
其れを察知してか、クラウンスパイダーは糸を吐く器官の尻疣を小刻みに動かし、真上に向けて糸を放って逃げようと、腹部を立たせた。
「当然の行動を取るよな、クラウンスパイダー。だが…其の行動を『狙ってる奴』も居るんだぜ?」
ハイビートによって高められた敏捷と共に、ペッパーが壁を蹴ってクラウンスパイダーの腹部に取り付くや、アイテムインベントリより取り出して左手に握った
そして、クラウンスパイダーの尻疣へ刺突攻撃のダメージ補正上昇スキルの『ステックピース』と、筋力を参照した攻撃補正を更に追加する刺突攻撃スキル『呀突』の重ね掛けで、ピンポイントで刺し貫く。
『ギジイイイイイイイイイイイ!?』
「アイトゥイル、今だ!」
「はいさ!!」
ペッパーの合図を待ってたとばかりに、アイトゥイルが酔息吹でクラウンスパイダーの周りの糸を焼き払う。
「クラウンスパイダー、お前だけ地上に落ちてくれ」
ペッパーは死刑判決のように道化蜘蛛へと言い、クライムキックで落下へのダメ押しの一発を蹴り込んだ。足場を失い、糸を放つ手段も失い、クラウンスパイダーは焼け落ちる巣と共に、遠く離れた地上へと真っ逆さまに落ちていくのだった………。
デカイ蜘蛛を地上に落とせ