あれから十数時間が経って
「ありがとうございましたー………」
某所に在るコンビニにて、レシートは不要と言われたので来客にお釣りを渡し、ペコリと御辞儀をし見送った梓は随分と『細く』なっていた。
(まさか夜中の二時を回るまで、二十回もヤる事になろうとは………。最後の五戦はアイツの、トワの『弱点』を見付けたから勝てたみたいな部分だったし)
思い出すのは昨夜から朝方に掛けての出来事。一昨日にカリスマモデルの
そして朝五時に永遠は仕事場に向かうべく準備をし、玄関で自分と深いキスを交えた後に『また会いに来るからね♪』と耳元で囁き、飾り気の無い笑顔を見せながら向かって行った。
文面
自分はそんな彼女の表も裏も知り、其れを理解したの上で恋人になる選択をした事を、色々思う事は有れども後悔する事は無い──────そう思いたい。
此の日の梓は細くなった状態ながらも、随分と晴れやかな表情を取り繕いつつバイトを終えて、ゴムや精力剤を購入してから住まいのアパートへと帰還。そして彼と同じ時間帯にシフトを組んでいたバイトの同僚や店長達からは
「梓君、滅茶苦茶痩せてない?」
「多分ダイエットしてるんじゃないの?」
「いや、絶対に何か有りそうだから面談してみるよ」
と、心配そうに見られていたのだった…………。
住まいのアパートに帰宅し、夕食に『刺し身丼御膳』を作って完食。普段はシャワーの所を栓を閉じて御湯を溜め、風呂として湯船に浸かりながら昨夜の激闘によって疲弊した、己の身体を労り。
水分補給とトイレを済ませて午後八時半にシャンフロへログイン、ラビッツの兎御殿の休憩室にて覚醒した彼を待っていたのは、自身の付き兎・アイトゥイルとリュカオーンの分け身・ノワが、ペンシルゴンとバチバチバチッと火花を散らし合い、其の横ではアイトゥイルにくっ付いている、彼女の付き兎・ゼッタだった。
「あーくんは私のモノだから………!」
『グルルルル………!!!』
「何してんのさノワとペンシルゴンは…………」
「実はペッパーはんの足首に、ノワはんが尻尾を巻き付けていたのが、風の噂でペンシルゴンはんに伝わったらしくて、こうなっちゃったのさ…………」
「アイトゥイルおねーたま、ペンシルゴンおねーたまが怖いでしゅ………」
一種の愛情表現ですら、ペンシルゴン的にはノワの行動を許容する事は出来ないらしい。此れはラピスに依頼してノワを強化するアクセサリーを作って貰ったと言ったなら、更に面倒な雰囲気になるのは火を見るより明らかで。
「あ、そうそう。あーくん、ラピスちゃんにノワちゃんのアクセサリー製作依頼をしたんだって?ちょっと私に『会わせてくれないかな』?」
既にラピスと接触していた事が、ペンシルゴンにバレていた。
「何故バレたし!?」
「良いかい、あーくん。今現在の君のネームバリューは、此のシャンフロでも『随一』なのだよ。そんな今の君が動けば、確実に他のプレイヤーも反応する。実際、ラピスちゃんは君が齎した宝石や鉱石で『
はぁ〜………と深い溜息を付きつつも、何処か誇らしげに言ったペンシルゴンは人差し指で彼を指す。ゲームでの彼は交渉や頼み事に関しても『相手に敬意を払い、必要な物をキッチリと用意して臨む』スタイルであり、実際シミュレーションゲームでも其の精神が功を奏した場面が多かった。
「現状NPCの宝石匠は数人いるらしいけど、プレイヤーでは『ラピスちゃん以外に存在していない』。だから彼女の活動を阻害しない様にしつつ、私達の7クラン連盟『
「………………成程な。つまり『彼女を俺達連盟の保護下に入れつつ囲い込む事で、後々に何か起こった時に力を貸して貰える様にする』──────と。そういう事だな?」
彼女がニヤリと笑う。どうやら正解らしい。
「サンラク君が右手に、あーくんが左手に着けている其の革手袋、どっちも『同じ宝石匠のNPC』に作って貰ったって疑惑が有るらしいじゃない?つまりはラピスちゃんも何れ、君達が持っている物と『同じ』のを作れる可能性が高い訳だ」
「まぁ其の人には製作依頼の為に、採掘した宝石や鉱石を多めに渡したから、凄まじい性能のアクセサリーを作って貰えたって部分が大きいからね」
『アトロフォスの
更には此等を作ったキャッツェリア最高の宝石匠・ダルニャータは、
即ち其れは、宝石や鉱石を糸へと転じ、布へと変えて、衣へと織る事を可能とする事に等しい、匠を名乗る者にのみ許された『極致の技術』と断言しても良いだろう。
「過剰な挙動にヘイト撒きの力を齎すアクセサリーともなれば、他のプレイヤーも挙って欲しがるのは目に見えてるもの。何せ
「おーいペンシルゴーン、黒幕魔王ムーヴしてないで早く戻ってこーい。ラピスさんの所に行って、ノワのアクセサリーを受け取りに行くぞー」
宝石製のアクセサリーでシャンフロ経済でも牛耳るつもりなペンシルゴンに、ペッパーは声を掛けつつ出発を促す。
そんなこんなしている内に、ニヤニヤ顔をしたペンシルゴンはペッパーの右腕に自身の腕を絡めて恋人繋ぎをしながら、ドヤ顔でノワを見下ろし。対するノワはグルルルル!と威嚇して喉を鳴らしたが、ふと何かを閃いたのかペッパーの影に潜行し、彼の左側の襟周りに出来ている影からひょっこりと顔を出すや、頬を舐めつつペンシルゴンにドヤ顔を仕返した。
「おーい、二人共。喧嘩とマウントの取り合いしないでくれ、時間もそんなに残ってないから出発するぞ。アイトゥイル、エイドルトへのゲートを頼む」
「解ったのさ」
両者を諌めつつ、アイトゥイルに指示を出し。彼女が開いたゲートを潜り、二人と二羽と一匹はエイドルトに在るラピスの賃貸している建物を目指し、旅立ったのである。
受け取りに行こう