ユニーク小鎚を揃える為、ペッパー奮闘の話
※沼豊穣の岩の数を修正しました
「………っと。此れでフォスフォシエとラビッツのゲートは繋がったさね、ペッパーはん」
フォスフォシエの人目の付かない裏路地で、マントの中からアイトゥイルがラビッツへのゲートを開く。
「ありがとう、アイトゥイル。あっちに着いたら、今度はセカンディルに繋ぐゲートを開いてくれ」
「……ペッパーはん、やっぱり『アレ』が理由さ?」
「まぁ………ね?あんな事言われたらさ、やらない訳にはいかないしな」
彼が思い出すのは、数分前に武器屋の女鍛冶師が言った台詞。特定の鉱物アイテムを含んだ育成で、マッドネスブレイカーが『3つの成長形態』に変化していくという内容だった。
「マッドネスブレイカーの成長先が、まさか『複数在るなんて』予想だにしなかった……。そんなん聞いたら、俄然『
レトロゲームで収集アイテムを含め、100%の完全クリアまで徹底的にやり込むプレイヤースタイルであるペッパーは、狂気じみた笑みを浮かべる。
彼のゲーマーとしての誇りや魂が叫んでいるのだ……全てを揃えろ、全てを育てろ、全てを最後の極致まで連れて行け……と。
「トラウマの採掘が何ぼのもんじゃ…!残ったポイント全部幸運にブッパして、四苦八苦の沼荒野の採掘ポイント全部を掘り尽くしてでも、マッドネスブレイカーを2本拵えて、全成長派生形態に育ててやろうじゃん…!」
言うが早いか、アイテムインベントリからMPポーションを取り出して、アイトゥイルに手渡し。ステータス画面で余っていた、10ポイント全てを幸運に振り込む。
同時にロックオンブレイカーの製作秘伝書+の中にある、マッドネスブレイカー単体に必要な素材をチェックし、頭の中に必要数の表を形成して、準備を整える。
「やってみせろよ、ペッパー…!今日中にマッドネスブレイカー2本分の素材調達して、翌日以降に各々のエリアで指定の鉱物を集め、マッドネスブレイカーの全成長形態を育成してやる…!!」
「ペッパーはん燃えとるさ…。夏のおてんとさんみたいさね……」
フフフフフ…!と、ドス黒いオーラとゲーマー魂の炎を織り混ぜ放つペッパーに、アイトゥイルは相棒の今まで見た事の無い表情を見て、若干引き気味な顔をしていた……。
ラビッツの兎御殿に戻り、即座にセカンディルの裏路地へと移動したペッパーは、スキルのアクセル・ハイビートを重ね掛け、一気に走り出す。
嘗て、朝からマッドフロッグの皮集めに、湖沼の短剣と湖沼の小鎚、マッドネスブレイカーを作るべく採掘エリアで小鎚を振るいまくって奔走した、懐かしき四苦八苦の沼荒野に到着する。
ハイビートのデメリットが解除されるまでの間、夕焼けの夜闇と僅かな冷たさを含んだ風が吹く中で、岩影にじっと身を潜め。採掘ポイントの周りに他のプレイヤーが居ないかどうか確認し、旅人のマントでマッドネスブレイカーを隠しつつ左手に装備後、ペッパーは採掘を開始した。
(平常心…平常心…鉱石集めは平常心……物欲センサーは敵だ…心の水面を立たせる事無く…俺の心は平常心………)
マッドネスブレイカーを単品で作る場合、四苦八苦の沼荒野内の採掘ポイントで『最も希少な鉱物・沼豊穣の岩』が1本製作毎に5個必要になる。
他にも沼棺の化石や灰色鉄鋼に銀色鉄鋼等、此処で採れる鉱石がかなり必要であり、
しかしペッパーは現在、リュカオーンの
(無心になれ。されど夢中であれ。寄り道、脇道、回り道。然して、全ては己が道。成れば…物欲センサー、恐るるに足らず!)
マッドネスブレイカーが唸り、スキル:ラッシュが起動。叩き付け、叩き付け、叩き付け━━━『一心不乱』に採掘ポイントに己が小鎚の擊を叩き込む。
残されたポイントの幸運全ツッパに加え、強化されたスタミナとスキル、そして出身:探索家の子の恩恵が無数の歯車同士を噛み合わせ、大きな力と畝りを起こす。
採掘ポイントを掘り尽くしては、出て来た鉱物資源を精査しつつ、マッドネスブレイカーの耐久回復に砕き割り、再び移動して同じ要領で繰り返していく。
(小鎚の二刀流なら、もうちょっと早く掘り尽くせるんだが…。まぁ、其れは其れとして割り切ってしまおう、そうしよう)
後悔の先に道は立たず、失敗の過去は未来の成功へ繋ぐべし。無いものは無いのだ。今の自分に有る物を用いて、己に出来る事を唯々やりきる。
1つまた1つと、採掘ポイントを掘り尽くしながら、ペッパーは内なる昂りの焔を燃やし、表面上では黙々と無言で採掘を続けていた。
其の途中、他のプレイヤーがペッパーに気付いて、声を掛けに来たようだが――――
『
――――と、無言の威圧を放って追っ払う。
現実世界の時刻が午後9時手前を指す頃、ペッパーは数時間に渡る、四苦八苦の沼荒野採掘ポイントマラソンの果て、マッドネスブレイカー生産に必要な沼豊穣の岩を11個並びに、大量の副産物を掘り出してラビッツに帰還し、此の日のシャンフロを終える事となった。
尚、夕飯は今から作ったら時間的に遅くなるからとの理由を付けて、近場に在るコンビニの弁当と野菜ジュースで済ませる事にしたのである……。
翌日、大学の講議が終わりバイトのシフトが休日だった事で、シャンフロにログインし、兎御殿の休憩室で目覚めたペッパー。
其処には相棒にして御世話係のヴォーパルバニーのアイトゥイルの姿は無く、代わりに鍛冶師のビィラックが仁王立ちで待っていた。
「おぉ、やっと来たかペッパー。全く、何時までも来んから、此方から会いに来たわ。待ち草臥れとったぞ」
「あ、ビィラックさん。こんにちわ」
フンスと鼻息を1つ吐いて、起き上がったペッパーにビィラックが歩み寄ってくる。
「
そう言ったビィラックがペッパーのアイテムインベントリに、修復した小鎚達を入れ。そして取り出したのは、鉄よりも硬度な鐵に等しい艶を纏った脚装甲と、強靭にして鋭き角で出来た爪先、そしてバンデージは円錐形の針が妖しく煌めいた『
クアッドビートルの堅牢な甲殻をふんだんに使い、シンボルである角で形成した爪先と共に、如何なる攻撃をも弾き飛ばし、蹴りに使えば大きな衝撃を産み出し。
エンパイアビー・クイーンの針がもたらす致死の毒を纏うバンテージは、至近距離下の膝蹴りに利用すれば、強烈無比な隠し手となって敵を倒す刃に成れる。
「クアッドビートルとエンパイアビー・クイーンの素材を使い、ペッパーのアイデアで形にした、名匠ビィラック特製のガンドレッグ!其の名も……『
「きたああああああああああああ!かっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
ブシカッツォのリーエルが用いたリジェクターアーマーが此処までに至るとは思っても居らず、ペッパーは大興奮。
早速装備を…と思った矢先、クイズ番組で不正解を告げる『ブブーッ』のSEが鳴り響き、目の前に現れたのは『必要ステータスが足りていない為、装備出来ません』の一文。
其の横には『必要ステータス』と証して『レベル35以上・筋力70・技量50』の表示が現れ。ペッパーは歓喜より一転、絶望のドン底に突き落とされる羽目になったのだった…………。
寄り道や回り道、其れもまたゲームの醍醐味