VR初心者ゲーマーが往くシャングリラ   作:ガリアムス

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走れ、衝動のままに




勇者ペッパー、新大陸を駆ける

シャングリラ・フロンティア、新大陸──────其処は動物と恐竜のキメラと化したモンスターや純粋な恐竜型のモンスター、或いは其の何方にも属さない普通のモンスターの三種類に区分されている。

 

レベル99 Extendの領域に立ち、旧大陸から波濤を越えてきた開拓者達でさえ、油断しようものなら木の影や空から降ってくるモンスターに、瞬く間に文字通り『食料』やら『おやつ』もしくは『玩具』にされる程、此の大陸は攻略の難易度は旧大陸の比では無いのだ。

 

そんな新大陸の恐竜キメラが跋扈し、開拓者達を阻む樹海を目指して地面ギリギリを『カッ飛びながら』、眼前に広がっては四方八方を見渡せども、乾いた砂が広がるばかりの地域たる『ディルトセオ大砂海』を全速力で進み続ける、黒い小さな影が一つ在る。

 

「空を走るのは未知の地帯であるからして危険。要するに地上ギリギリを浮遊しながら走る事で、地面を通じて音が出ない様にすれば良い…………!」

 

キャッツェリアを飛び出して見定めた方角へと突き進む道中、様々なモンスターに遭遇したが戦闘を極力避ける為にウツロウミカガミや、ダッシュスキルを使用してペッパーは駆け抜けた。封熱の撃鉄(ニッショウ・トリガー)(スペリオル)はアイトゥイルとノワが居るので使えないし、レディアント・ソルレイアもユニーククエストの進行で現在装備不可に在る。

 

故にこそ……………彼女()は持ち得る武具の中から、此の状況で最も有効な選択肢として其れを選んだ。ビィラックの作りし甦機装(リ.レガシーウェポン)の一つにして、ユニークモンスター・深淵のクターニッドが根城としている『反転都市ルルイアス』の夜、冥府の深海より招かれたキリューシャン・スフュール"恕志貫徹(ファースリィオ)"を討伐し、其の素材を惜しむ事無く用いて作った籠脚(ガンドレッグ)こと『深厳戟響脚(アンピィ・トゥルリテ)』を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深厳戟響脚(アンピィ・トゥルリテ)───────正式名称を『甦機装(リ.レガシーウェポン)ビィラック:【深厳戟響脚(アンピィ・トゥルリテ)】』。煌蠍の籠手(ギルタ・ブリル)冥王の鏡盾(ディス・パテル)風雷皇の御手(サルダゲイル・アトゥヌ)風雷皇の擊貫斧(サルダゲイル・イドゥン)を含めた甦機装達の共通特徴とも言える、装備者の言霊を用いて使用可能な能力を此の武器も例外無く搭載している。

 

一つ目は装備者の周りに漂うマナを足裏に吸い寄せ、薄い膜の様な状態にして足裏に展開するという、謂わば空中ジャンプ(スカイウォーカー)の進化派生先の一つ『フリットフロート』に、其の進化スキルたる『ヘルメスブート』を組み合わせた挙動が出来る【収着せよ(Sorptionting-up)】。

 

水中や海中の様な呼吸が困難な環境では『装備者の意識を集中させて唱える事により』、同様の効果を発揮出来るので有用。空中や水中での停着や疾走に加えて咄嗟のブレーキにも使える為、機動系スキルとの組み合わせれば益々化ける可能性が在る。

 

二つ目は足裏に吸着したマナを、装備者の言霊や意識を集中させて『弾き出す事』で、空中や水中での()()()()を。謂わば『スカイウォーカー』じみた行動を可能にする【弾けよ(Poping-up)】。

 

さながらポップコーンの如く、文字通り弾ける(ポップ)様な勢いでカッ飛ぶ為に、水中や海中に空中での緊急回避の手段としては素晴らしいと断言しても良いが、其れ故に使用タイミングを間違えたならば頭から地面や壁に激突する危険を孕む代わりに、使い熟せば楽しいのは間違い無いだろう。

 

此の武器に搭載された必殺技たる【超過機構(イクシードチャージ)】は割愛するが、三つ目の能力…………ペッパーは此の三つ目の能力こそが一番『ヤバい』と思っているのだ。深厳戟響脚の三つ目の能力、其れは『耐久値が0になる()()で此の武器は破壊されない』。

 

此れだけ見れば甦機装は破壊されず、破損状態でオブジェクト化するのであまり意味が無いのでは?と考えられるが、此の能力は『ユニークモンスターの呪いの上位互換』………リュカオーンの刻傷による装備破壊も、此の武器は破壊される事は無い。

 

即ちサンラクにとって此れは、刻傷による脚装備の破壊を気にせずに装備し、脚撃による格闘戦と脚撃スキルを習得する事が。更には脚に装備が着けられるので、腰装備の形状によっては『下半身を完全に隠す事』が出来るのだ。

 

「サンラクがいつか使わせてくれって言って来たら、ブッ壊さないでね?って忠告はしておくとして…………。ちょっと休憩しないと、か………。アイトゥイル、ノワ、喉は大丈夫か?」

「暑いのさね…………」

『クゥン…………』

「よし、水分補給と腹拵えをしよう。近くに岩とか日陰は………在った!」

 

視覚系スキルを点火して周辺の索敵を行い、砂原に点在する突き出し残った岩場へと一気に飛び込む。砂漠という環境による熱射に照らされ、しかも黒コートという熱の籠りやすい衣服で移動していた事で、一人と一羽と一匹の身体から水分をジワジワと奪っていた。

 

インベントリアを操作し、消費アイテム『革袋の水筒(飲料水入り)』と木皿を取り出して。アイトゥイルに水筒を、ノワには木皿に革袋から並々と水を注ぎ入れて、ちゃんと飲める様にし。

 

「はい、二人共。エンハンス商会で買っておいた飲料水だよ」

「ありがとうなのさ」

『ワゥル〜…………』

 

グビリ……!グビリ……!と喉を鳴らして、一人と一羽は水筒の中身に有る飲料水を飲み干して行き。ペロペロペロペロと木皿に並々入った水は、瞬く間に空っぽになってしまった。

 

「ぷはぁ〜!生き返るぅ…………」

「っはぁ〜!身に染みるのさ〜…………」

『グルゥ〜〜♪』

 

渇いた身体に水分が送り込まれ、萎れた細胞の一つ一つが蘇る感覚を味わいながら、息を吐いて体を伸ばす。未踏の地域を開拓するのは何時だって不安だ、だからこそ其処を切り拓く為の準備は入念にするのが、ペッパーのスタイル。

 

こんな事も有ろうかとエンハンス商会で購入しておいた、水や食料に各種回復アイテム、果てには再誕の涙珠やらはインベントリアの一画に整頓して置かれているのだ。乱雑に詰むのではなく、整理して置く事で出し間違えを防ぐ為に。

 

「さて、周辺に敵が居ないかどうかを調べなくちゃな。頼んだよ、使い捨て魔術媒体(マジックスクロール)【アクティブソナー】」

 

キュルアの店で購入・羊皮紙を開いた事で解き放たれた其の魔法は、発動者を中心に『半径三十メートルという条件の元、高低差を含めた地形情報初めとして、プレイヤー・NPC・エネミーの座標を脳内に表示させる索敵魔法である。

 

魔法媒体に刻まれる魔法は、基本的に『習得難易度』によって値段が変動する。アクティブソナーは二十万マーニ・瞬間転移(アポート)は百万マーニ・座標転移(テレポート)は五百万マーニ、座標移動門(テレポートゲート)に至っては一千万マーニのブルジョア的だったが、必要経費と擲ったので一切後悔していない。

 

「周辺に敵は無し………アイトゥイル、ノワ。後五分休んだら出発するよ」

「了解なのさ」

『ワゥル』

 

開拓者一人と黒毛致命兎一羽と夜の帝王の分け身一匹という、極めて異色なる一団は再出発に向けて束の間の休息を続ける。果たして彼等彼女等は此の大砂海を越え、目的地たる樹海とレベルキャップ解放の施設へと辿り着けるか。

 

 

 






休む事も大事な事


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