VR初心者ゲーマーが往くシャングリラ   作:ガリアムス

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一夜明けて




其の一閃は天を絶つ

征服人形(コンキスタ・ドール)との契約にイムロンとの遭遇及び協力関係の構築、そしてレベルキャップ解放とグランシャリオの強化フラグ、更には同調連結(ハイコネクション)によるスキルの強化と、シャンフロにてイベントの目白押しの一日を過ごした其の翌日。

 

現実世界でも大学の夏休みが一週間後に迫り、日に日に暑さが増す此の頃。バイトを終えて帰宅した梓は真っ先にシャワーを浴びて、衣服を洗濯に出した後に冷やし中華を夕食に作り食した後、洗濯物を干して乾いた物を畳んで収納し、午後九時にシャンフロへとログイン。

 

兎御殿にてアイトゥイルの開いたゲートを越え、ノワとヒトミと共に待機させ。其の脚でやって来たのはサンラクも稼ぎで通う、水晶に彩られた殺意と暴力の地雷地帯たる水晶巣崖(すいしょうそうがい)だ。

 

「本当の御目当ては金晶独蠍達なんだけど………!でも邪魔するなら、此方も容赦は出来ない!」

 

今日も今日とて水晶群蠍(クリスタル·スコーピオン)達は元気に外敵排除の為、己の生命を掛けている御様子。ただ以前と違うのは、やはり蠍達の『行動パターン』の変化で。

 

「あっぶ!?水晶投げて来た(・・・・・・・)!」

 

緊急修正で一部のモンスターに修正が入ったとは記載されていたが、此の行動は間違いなく『対ペッパー用の戦術』として水晶群蠍達が新たに確立した戦術だ。

 

近接担当と投擲担当に役割を分担し、自身の損傷を度外視しての波状攻撃。水晶群蠍や金晶独蠍(ゴールディ·スコーピオン)開拓者(プレイヤー)には簡単に狩らせてはやらんと、製作陣の意図を感じられる程に物量を絡めての攻撃が襲い掛かる。

 

「…………良いね」

 

対するペッパーは笑う。其れはこんな逆境の中でさえも、シャンフロ運営が挑戦者(こちら)を飽きさせない為の処置として、水晶群蠍の行動パターンを更に多彩にした事に対する『感謝』であり。

 

「レベルキャップ解放でも、初心を忘れず挑戦しようかッ!」

 

狼皇の鼓動(ルプリス・ヴァースリズム)黒狼の鋭眼(アーテオル・ガウス)闘心狼魂(ウルフェス・アーハン)剛狼重肢(エナハ・ガウシル)の四種を起動、襲い掛かる水晶の津波をミルキーウェイで夜空を駆け走り越え、離れた場所に居る投擲担当の蠍の一匹に肉薄。

 

ギルフォードブレイカーを手に取りて、エルクによって判明した三桁スキルの一つ『星幽界導線(アストラルライン)』を起動。一体の蠍に描かれる光の道をなぞり描き、其の手で振るうは鎚武器攻撃スキルの『業撃(ごうげき)茨木俱緞(いばらきぐだん)】』。

 

三桁の壁を越えた事で習得に至った視界と鎚撃が、下手な金属よりも尚硬い水晶の鎧に守られた頭部を打ち砕き、脳髄をトマトの様に潰した感触をペッパーに齎す。

 

「………成程。星幽界導線はプレイヤーの攻撃を補助、其の武器で繰り出せる『最大威力を発揮出来る道筋』を教えてくれるスキルか!」

 

強烈極まる鎚撃を受けた水晶群蠍が水晶の大地に崩れ落ちて、其の身を構成するポリゴンを崩壊。ドロップした素材を速攻で回収し、残った蠍達を相手にリュカオーンの愛呪によって発現したスキルの加護を受けながら、蠍達の機動力を支える脚達を次々に叩き砕き、方向転換に失敗して転んだ蠍を同胞が踏み付け越えて来る様は、下手なゾンビゲー以上の怖さが在る。

 

「今日此処に来たのは、宝石を採掘しに来たんじゃない。金晶独蠍を、阻むなら水晶群蠍も狩る為!そして今の自分の力を此の場所で、証明する為に来たんだからな!」

 

襲い掛かる攻撃を空中回避、インベントリアから灼骨砕身(シャッコツサイシン)を取り出しながら右手を刺し、即座に別武器に切り替えた。器用の数値が上がったからか、今まで以上にメニュー画面の操作性が向上し、スムーズに取り出しや装備の変更が出来る。

 

ペッパーの両手に武器が握られる。片や()()、片や()()の、今の彼女()の背丈に迫る程に大きな、機械チックの『巨大籠手』が力強く握られて、月光に照らされギラリと輝く。

 

其の武器は『煌蠍の籠手(ギルタ・ブリル)』、サンラクのフェイバリットウェポンにして、ペッパーも素材を揃えて漸く手に入れた、兎の国の若き古匠・ビィラックが一番最初に作りし、傑作と呼べる甦機装(リ·レガシーウェポン)の一つだ。

 

「金晶独蠍が出て来るまで、意地でも生き延びてみせる。掛かって来い、水晶蠍達よッッッッ!!」

 

勇者の声が水晶の地に響き、そして轟くは水晶群蠍を殴り砕く音である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァッ……!ハァッ………!多いな、本当に………!」

 

レベルキャップを取り除いた事で自分が強化されども、水晶群蠍達の脅威度は変わらない。灼骨砕身の相殺効果終了まで思う存分に煌蠍の籠手を振るいまくり、水晶群蠍達を倒し続けたペッパーの前に金色の蠍が。

 

水晶群蠍を狩り取る変異種にして、同胞喰いでしか己の空腹を満たせない偏食個体たる金晶独蠍が、まるでボス登場とばかりに静寂と成った戦場に現れたのだ。

 

「漸く出て来たか、金晶独蠍……!待ってたぜ、お前と戦える此の時をさ………!」

 

本命の金蠍の登場、フィールドの整地具合、水晶群蠍を減らした数、大親分の出撃までのリミット。条件は全て此処に整った、後は金晶独蠍を相手にあのスキル(・・・・・)が通用するか否かを、此の瞬間に確かめる。

 

「頼むぞ、風神刀(ふうじんとう)碧千風(そうせんふう)】………!金蠍を斬り裂く一撃を、奴に叩き付けるんだ!」

 

鞘より翡翠の太刀を抜刀、意識を収束しつつ正眼の構えで金晶独蠍と向き合いながら、ペッパーは己の持つスキルを点火していく。

 

蓮華音穏(れんかねおん)の進化スキルで、呼吸による空気中の酸素やマナ粒子の吸引を『吸引力の衰えない唯一つの掃除機』のキャッチコピークラスの吸い込みで、超スピードにより取り込む『仙暁ノ極意(せんきょうのごくい)』で体内に入れ、MPの一定数値回復効果と体力リジェネ効果を持つ『王源律命(ウルカト・チャクラ)』で補強を掛け。

 

八天無双(はちてんむそう)剣王武心(マスラオ・センス)天壱夢鳳(てんいむほう)英雄王の威光(ギルガメッシュ・サイン)で強化、奮魂絶闘(オーバード・ソウル)で己の体力を5%に追い込み、窮極致超越(アレフ・オブ・トランジェント)で更なる強化、駄目押しとばかりにオーバーヒートで更に強化を上乗せして。

 

 

 

準備完了(・・・・)だ」

 

 

 

其の言葉を引き金(トリガー)とし、金晶独蠍が襲い掛かる。

 

「サキガケルミゴコロ、真界観測眼(クォンタムゲイズ)速界見眼(シンクロ・アイズ)。そして清明界玉到観(クリスタル・アドバンテージ)界域を見定む眼(ターゲ・ザ・ワールド)

 

高速で情報が処理され、己の死の未来(ビジョン)に対するカウンターを掛けるペッパーは、透明化と立体的に視認した金晶独蠍の巨体に在る核を見定め。

 

晴天流(せいてんりゅう)──────轟風(とどろかぜ)

 

フローティング・レチュアとゲニウスチャージャーで空中に踏み込み、風雷を乗せた翡翠の太刀筋一閃で金晶独蠍の尾と毒針の『境界線』を、強化された筋力と威力重視の抜刀で振り抜けば、刃先に感じるはクリティカルの感触。

 

同時に金晶独蠍の針が断首された死刑囚が如く、夜空を舞って水晶の地に落ち。アトロフォスの白蒼翼(はくそうよく)により全損したスタミナが回復して、レーアドライヴ・アクセラレートで針を速攻で回収する最中にペッパーが見たのは、金蠍の全身から此れ迄に生きて蓄積した魔力を闘気の如く噴出させ、目に見えて憤怒に狂いし姿に変わる瞬間で。

 

此の瞬間にペッパーの脳内では、金晶独蠍の怒り状態への移行の条件に、金晶独蠍の体力が一定ラインを切る事と尻尾の針を破壊される事の『二つ』になり。彼女()は此の戦いに決着を付けるべく、自身の切札たる『同調連結スキル』を切る事を決めた。

 

「一撃だ、金晶独蠍。お前を此の一撃で仕留めてみせる」

 

凄まじい魔力の発生は生半可な物では断じて無い、此方の接近や近接攻撃を押し返して近付けさせない出力は、前衛職のプレイヤーからしても厄介極まる程だ。

 

上段の構えを取る、金晶独蠍が襲い掛かる。思考と敵の攻撃を見定め、齎す視界のスキルが活きている間に勝負を決める!

 

「我が一閃は天に届く──────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同調連結(ハイコネクション)スキル。

 

シャングリラ・フロンティアの各街や特定の場所に在る特技剪定所(スキルガーデナー)にて、レベルキャップを解放して三桁に昇った開拓者(プレイヤー)が利用出来るコンテンツであり、レベルかマーニを対価として自身の習得しているスキル達を連結、別のスキルに変える事が出来る物。

 

そして連結にはスタミナや機動力、攻撃系に防御系等のカテゴリーに『七種類のスキル』が存在しており、1〜7のランクで区分けされているとエルクは語っていた。

 

ラビッツに在る兎御殿、特技剪定所にて今の自分が持つ『八つの斬撃スキルを合成』し、一つのスキルとして纒めた其れは、連結ランクは堂々の『7』としてペッパーの新たな『手札』に刻まれる事となり。

 

そして其の一閃が、金晶独蠍を相手に解き放たれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「我が一閃は天に届く──────」

 

言葉がペッパーの口から紡がれる。其れは今使おうとしている同調連結スキルの使用条件には、使用者の『詠唱』が必要で在るとされているが故に。

 

「其の刃は風を裂き、其の刃は曇を割り、其の刃は霧を晴らす」

 

ある意味では中二病と捉えられる痛い台詞、しかし此のスキルはプレイヤーによる詠唱の進行率により、斬撃の威力・破壊力・敵へのダメージ向上・振り下ろし速度上昇・装甲貫通・斬撃耐性の完全無効化。

 

そして()()()()()()()()()には、其の斬撃に対して相手は『相応の筋力と威力で無くてはパリィが不可能』となる程に、凄まじい一撃と化す。

 

「流天抱きて剣を掲ぐ、心血一念身捧ぎ信ずる斬撃。天も地も、過去も未来も、因果と輪廻の(さかい)を分かつ………!」

 

だが其れだけの威力を誇る一刀には、当然ながらデメリットも存在している。

 

一つ目は詠唱中の上半身の姿勢は、常に『大上段の構えで固定される』事。脚関係のスキルは使用出来れど此の状態では防御が難しく、実質発動者は『ガード不能』に等しい。

 

二つ目は斬撃を放った瞬間に、使用者のスタミナを全損+空腹度を10%まで削り取る事。即ち此の一刀を外すor防がれる=敵による反撃からの回避は不可能になってしまう事を意味する。

 

「我が剣刀(つるぎ)は獣を斬り伏せ、巨なる敵を果たし斃す牙。天に轟きて、地すらも頒つ光と成らん…………!」

 

襲い掛かる猛攻を回避しながら、ペッパーの詠唱は止まらない。レーアドライヴ・アクセラレートで適性距離を維持し、唱える言葉と刀を持つ手に力が上乗せされる。

 

「魂の一刀!渾身の一剣!我が命を徹して(はがね)と共に!」

 

詠唱の完遂、振り翳される水晶を断ち切る金色の大鋏。

 

「竜を、龍を。そして………神をも断つ!!!」

 

だが勇者が振るった其の刃は、魔力の蒸気の帳を斬り開き、金晶独蠍の鋏よりも早く頭部に到達。

 

まるで研ぎ澄まされ、唯一つの刃毀れも無い包丁が魚を骨を断つ様に速く。そしてノートの紙を適切な入刀角度で切り裂く紙切り鋏の如く、唯々真っ直ぐに唯々疾く振るわれて。

 

 

 

 

 

 

 

振り返ったペッパーの視線の先には真っ二つの、文字通り開き(・・)にされた金晶独蠍の巨体が、水晶の大地にて倒れ伏し。ポリゴンを崩壊させていく姿が、其処に在るだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

八連結同調

 

絶天(ぜってん)

 

 

 

 

 

 

 

天をも絶つ、斬撃スキルの同調連結。其の最高峰(・・・)とも呼べる一閃が、バフを盛り盛りにして放たれた結果、合金の如き硬度を誇る金晶独蠍の身体を、見事に一刀両断せしめて見せたのだ。

 

「金晶独蠍よ。約束通りにお前を、此の一刀で仕留めてみせたぞ」

 

ペッパーの言葉をトリガーに、金晶独蠍を構成するポリゴンは崩壊してドロップアイテムが散乱し。食料アイテムをインベントリアから取り出し食らい始めたと同時に、水晶巣崖其の物が(・・・・)大きく鳴動する。

 

「……………どうやら水晶巣崖の『大親分』が、騒ぎを聞き付けて出撃して来たって感じかな?」

 

地面に落ちている素材を全て回収しインベントリアに入れ込めば、水晶の大地から現れる『超巨大な水晶の尻尾』、続いて『超巨大な鋏』に『超巨大な脚達』と『超巨大な身体』が。()()()()()()()()()()()だろう、超巨大な立体駐車場と喩えられる『超巨大な水晶群蠍』が、ペッパーの前に現れたのだ。

 

そして同時に知らされるアナウンスにより、彼女()は此の超巨大蠍の名が『水晶群老蠍(エルダー·クリスタル·スコーピオン)』である事を、此の瞬間に知ったのだった。

 

「水晶群老蠍…………其れがお前の名前、か」

 

周りを見れば何時の間にか他の水晶群蠍達が、自分の周りを包囲している。超巨大水晶群蠍は名前からして、蠍達の長老個体である其の者に付き従い、『今からお前を殺す』と宣言しているかの様に、ギチギチと水晶を鳴らしてガキンガキンと鋏を打つ姿は凄まじい限りだ。

 

「勝てるか勝てないかじゃないなコレ、そもそも戦えるか否かって感じだろう……………」

 

オーバーヒートの効果は切れ、スキルによる補助も消えた今、包囲を突破して逃げ切る事は不可能と言って良い。ならば此のまま死ぬのか?そう言われたなら、ペッパーは『否ッ!』と答える。

 

「上等だ、唯で殺られてやるつもりは無い!お前の其の自慢の甲殻、死ぬ前に一欠片でも剥がして持ち帰ってやろうじゃんか!」

 

残された力を振り絞る、死する其の瞬間まで笑え!

 

ゲームを本気で楽しめるなら、こんな理不尽もスパイスだ!

 

「うおおおおおおおおおおお!!!」

 

勇者が再び吠え、水晶群蠍達が襲い掛かる。

 

其の時のペッパーの表情は、此の上無く『笑顔』であった。

 

 

 






其の瞬間まで抗え


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