VR初心者ゲーマーが往くシャングリラ   作:ガリアムス

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無事に危機を脱するまでが遺跡散策です




宝探しの後は脱出までがセット

神代の鐵遺跡にて、隠し部屋に納められていた『レディアントシリーズ』なる、ユニーク遺機装(レガシーウェポン)と呼ばれる武具防具を入手、もとい授けられる形で夢と願いの結晶を受け継いだペッパーは、其の装備一式全てをアイテムインベントリに仕舞い、改めて研究所なる此の部屋を見渡した。

 

「重要な施設…なのかは定かじゃないが、其れでも特殊クエストの最重要アイテムは手に入れられたから、良しとしよう」

 

出来れば此処に在る資料を挟んだファイルやらも、希少アイテムの匂いがしたので持ち帰りたかったが、獲得不可能状態だった為に泣く泣く諦める事に。

 

「ペッパー、此処からどう脱出するけ?乗ってきた円状のフィールドはもう動きゃせんが」

「何か良い作戦有るかいな?」

 

遺跡散策やダンジョン系統のゲームで、宝探しを終えたなら其の後にやるべき事は1つしかない。宝を保持したまま生きて此処から脱出する、王道にして摂理たる戦いが待っている。

 

「アイトゥイル、ビィラックさん。先ずは俺達が今居る場所の状況を確認しましょう」

 

脱出ゲームにおいて、大事になる要素は3つ。

 

何時如何なる状況でも、制限時間が差し迫ろうが、落ち着いて行動する冷静さ。

 

残されたアイテムやシチュエーションを元にして、脱出への道筋をイメージする頭脳。

 

最後に脱出する1分1秒まで諦めず、そして油断せず、未知を楽しみ抜ける己の心だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

隠し部屋から出たペッパー達一向は、先ず自分達が置かれている状況を整理する為に、部屋入口周辺並びに隠し部屋内の今一度の探索を開始。そして数十分程の散策よって解ったのは、先ず此の部屋が地下4階の中腹地点に存在していて、登れば地下3階へ降れば地下5階に行ける事が解った。

 

ただどちらのルートにも問題が存在しており、地下3階へ登る場合は此処から少し行った先に在る、鉄製梯子を使えば地下4階を経由せずに行けるが、鼠返しの様になっている床に阻まれることになり、仮に床を壊そうとして動いたなら、先程のサプレスドローンの歯車型(タイプギア)に襲われ、3人纏めて落下死する危険性が非常に高い。

 

一方の地下5階に降りるルートの場合は梯子もなく、光源がアイトゥイルの妖炎桃燈、降る際の命綱が『あるアイテム』のみになる上、暗闇の中で敵が襲って来ての戦闘と全員無事に降りられるか解らないリスクと引き換えに、隠し部屋内部で見付けた遺跡の簡易見取図によって、エリアボスの目の前のエリアに向かう事が可能になるというもの。

 

「決めました。下に降りましょう」

 

ペッパーの答えは即決だった。地下3階に登ったとしても地下4階に立ち寄れないともなれば、確実に罠である可能性は高く、そしてビィラックとアイトゥイルが共にパーティーに居る以上、全員生存による鐵遺跡脱出が彼の中では絶対条件として定まっている。

 

エリア攻略、遺跡脱出。其れは自分を含めて、誰一人として欠ける事無く、皆で手にした宝物と喜びを分かち合ってこそ、宝探しゲームは自分達の完全勝利だと考えるが故に。

 

「地下に降りるんはエエが、アイトゥイルの桃燈じゃ狭い範囲しか照らせんぞ?」

「確かにそう。だけど、何時かこういう事態に陥る『かもしれない』って考えて、エンハンス商会で色々買っていました」

 

そう言ってペッパーはアイテムインベントリから、消耗品アイテムの1つたる『ロープ』を取り出す。

 

「遺跡散策と言ったら、やっぱりロープは必須。雰囲気以上に、文字通り自分達の命を繋ぐ綱にだってなれる」

「流石ペッパーはん、準備に余念が無いのさ」

 

あらゆる可能性を考慮し、エンハンス商会にて購入していた5本のロープ。1本に付き10メートルの其れは、全て繋げて伸ばした場合には、およそ48メートルが限界の長さ。

 

つまり此処から地下5階までの深さが、80メートル以上あった場合は、落下ダメージを加味しても生か死の二択になる為、自動的に地下3階に登るルートに切り替える以外方法が無くなってしまう。

 

危険な賭けであるのは変わりはしないが、鼠返しで落ちるよりかはまだ勝算がある、分の悪くない賭けだ。何よりも自分達はエリアボスの攻略を目指している。成ればこそ、危険を承知して進むのみ。

 

遺跡探索ゲームであった、縄同士のより強くする結び方で5本のロープ達を結び合わせて、1つの長いロープに変える。片側を梯子の根本に力一杯結びつつ、残りを暗闇で見えない其処へと垂らす。

 

「アイトゥイル、ビィラックさん。しっかり掴まっていて下さいね」

「はいさ~」

「頼むけぇ」

 

2羽の黒兎を腹に乗せ、ペッパーは腰にロープを通しながら、ゆっくりと1歩づつ、地下へと向かって降りて行く。

 

ロープの軋む音が暗闇と静寂の中で木霊しながら、アイトゥイルの妖炎桃燈が照らす僅かばかりの光源を頼りに、ペッパーは慎重に上下左右や自身の足元、光灯る場所から見えていない暗闇部分の対応出来るよう、耳を研ぎ澄まして音を聞いた。

 

(今はまだ大丈夫……。けど、何時何処から来るか解らない以上、此方もチンタラしてる訳にはいかない)

 

緊張で手汗がロープに滲む。ペッパーは落下の危険を加味しつつ、旅人のマントで時々手汗を拭きながら、少しずつ地下へと降りて行く………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

降下を開始してから、およそ10分が経過する頃。ロープの残されたメートルも少なくなり始めた時、漸く待ち望んでいた物が見えた。

 

「ペッパーはん!地面が見えてきたさ!」

 

妖艶桃燈が照らす中でペッパー達が見たのは、有ると信じて降り続けてきた、地下5階の地面。

 

「やっと着いたけぇ…ロープが足らんかと、肝を冷やしたのぉ…」

「本当ですね…兎に角、何とか……」

 

ロープを手離して降りようとしたペッパーだったが、アイトゥイルの妖炎桃燈が照らした地面と壁を見て、強烈にさて多大な『違和感』を抱いた。

 

降りようとしている地面は、何故か『人が3人分通れそうな広さで有るにも関わらず、なだらかな斜面になっている』のである。謂わば此処は、まるで『スロープ』の一部の様な場所の様で。

 

「ペッパーはん…どしたん?」

「アイトゥイル、ビィラックさん………此処の地形に何か違和感が有りませんか?」

 

2人にも此の違和感が伝わっているか。もしくは其れに気付けるか。そう思って、彼は質問を投げ掛けた。

 

「違和感じゃと…?見た感じ、地面が『斜めに』なっちょるけんの」

「あ………本当さね。でも其れがどうしたん?」

 

2人は知らない、ペッパーは知っている、探索ゲーの醍醐味を。

 

「遺跡系統のダンジョンっていうのは決まって、暗黙の了解に似たある種の『約束事』が在るんですよ」

 

旅人のマントの装備を解除し、ロープを振ってブランコの様に漕ぐ。遠くに飛べるように、少しでも距離を稼げるように。身体を大きく振り、ペッパーは飛ぶ。

 

「御二人共、着地したら絶対に俺から離れないで下さい」

 

そう忠告したと同時に着地、足裏から伝わる衝撃。落下ダメージが入ったことで体力が僅かに減少するが、そんな事は此れから起きる事に比べたなら、些細な事でしかない。

 

着地を関知したのか、遠く遠く背中の方の、奥の奥からガゴン!と一際大きな音が鳴り響き、地面をゴリゴリと削りながら此方に向かって『何か』が来ている。

 

着地と同時に、アクセル・ハイビート・アクタスダッシュ等の移動系スキルを全起動したペッパーは、背中に古部り憑くように迫る存在に向けて言う。

 

「さぁ…生還か死かの鬼ごっこ(デッド・オア・アライブ)だ!」

 

爪先に力を込めて、指先を真っ直ぐに伸ばし、状態を低く落としたフォームで、ペッパーはアイトゥイルとビィラックを背中に乗せながら、一心不乱に走っていく。

 

「な、何じゃあ!?ありゃあ!?」

 

妖炎桃燈の僅かな光の中、ビィラックが背後に迫ってきた物の存在に気付いて声を上げた。視界を僅かに後ろに向けると、遺跡脱出ゲームで十八番なコテコテの巨大鉄球が、スロープの床を削りながら此方に迫って来ていた。

 

「脱出ゲームなら、最終盤面即死ギミック対策は必須科目だよなぁ!」

 

足を踏み込み、腕を振るい、ペッパーは駆けていく。しかし其れでも、徐々に、確実に、先んじて走り出したにも関わらず、距離が狭められていく。

 

「!ペッパーはん、彼処!」

 

アイトゥイルが指差す先、500m程向こうに人が一人通れるスペースが見える。おそらく、鉄球に押し潰される前に入れれば、三人纏めて生き残れる。

 

だが、今の状態では全員鉄球に潰されて、ガメオベラ一直線の状況に変わりはない。

 

負けない……!

 

負けられない………!

 

負けたくない………!

 

此処で自分が殺られれば、アイトゥイルとビィラックも巻き添えで死ぬ事になる。そうなればもう二度と会えなくなってしまうかもしれない。そんな予感が、ペッパーの脳裏を過る。

 

「うぅぅおおおおおおおおおあああああああああああああああああああああ!!!!!!!」

 

アクセルとハイビートが強化補正が最大地点まで到達し、ペッパーの速度が過去最大まで上昇する。だが其れでも足らない。此のままでは、出口に到着するギリギリで自分達が鉄球に潰されてしまう。

 

 

 

『此の身を削っても良い』。だからもっと、速度を寄越せ。

 

『己の命を差し出してやる』。だからもっと、速度を出してみせろ。

 

 

 

「負けってぇ……たまるかぁああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

自らの殻を破るように、全てを引き出しきるように、ペッパーはブートアタックの進化によって、攻撃だけでなく『モーションを含めたアクションの速度』を、スタミナの消費と引き換えに加速させる『ジェットアタック』を使用。

 

迫っていた鉄球を強化したダッシュアクションで突き放し、逃げ場たる出口へとヘッドスライディングにより、一瞬早く飛び込んだ。

 

出口に激突した鉄球がペッパーの身体を押して、スライディングで滑った身体はダメージが入り、ペッパーは体力が尽き果てる前に、回復ポーションをインベントリから出して、がぶ飲みに走る。

 

「ペッパー…!ワリャほんまに、無茶するなぁ!」

「お疲れ様さね、ペッパーはん…!」

 

あと一歩踏み出すのが遅かったら。あと一瞬ジェットアタックを起動するのが遅れたら。もしくはあの時にロープを振らずに降りていたら。ビィラックかアイトゥイル、もしくは二人か自分を含めて三人共々全滅していた。

 

そんな、有り得たかもしれない可能性を噛み締めつつも、即死トラップで全員生存という最高の結果を噛み締めながら、ペッパーはハイビートによって発生したスタミナ回復量半減が解除されるまで、暫く寝転がっていたのだった……。

 

 

 






限界を越えて、走り抜いた開拓者


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