急募するは、レベリングへの最適解
シクセンベルトに到着したペッパー達一向は、裏路地にてアイトゥイルのゲートを、ラビッツとシクセンベルトに繋いでいた。
「此れで完了さね、ペッパーはん」
「アイトゥイル、ビィラックさん、今日は御協力ありがとうございました。アイトゥイルにはMPポーションを、ビィラックさんには駆動鉱石を」
「ありがとうさ、ペッパーはん」
「おぅ。わちはラビッツに戻って、マッドネスブレイカー2本分の製作に取り掛かるけぇな」
「よろしくお願いします」と頭を下げ、ビィラックとアイトゥイルがゲートでラビッツへ帰還するのを見届け、自分はこのままシクセンベルトの武器屋で、マッドネスブレイカーの3つの内の成長派生形態の1つを育成する手筈を整え、ログアウトしようかと考えた時だ。
シャンフロに同期したEメールアプリに1件のメールが着信して、ペッパーは誰からだろうと其の内容を確認。其の内容に少し笑みを溢しながら、メールを通じて少しのやり取りをしたのである。
件名:シャンフロ始めた
from:ブシカッツォ
to:A-Z
よぉ、A-Z。今さっきシャンフロにログインしたぜ。いや、これホントスゲェな。自分の身体みたいに、思った以上に動きやがる…。クソゲーと全ッ然違うわ
あぁ其れと、鉛筆の方にも俺始めたって報告入れといたぞ。因みにアイツのレベル何れくらいか解るか?早いとこ追い付いて、メールで煽られた分レベルマウントで取り返してやりたいんだけど
件名:Reシャンフロ始めた
from:A-Z
to:ブシカッツォ
おめでとう、ブシカッツォ。一先ず此れからよろしく。鉛筆…もといペンシルゴンのレベルに関しては、俺自身聞いてないし、気にしてないから解らないが、装備から見るにレベルカンスト前提だと思う
俺もシクセンベルトに到着したが、レベリングでちょっとした縛りが入っててキツい所だから、ペンシルゴンにレベリングに最適な穴場を聞くつもりでいる
まぁ確実に何かしら要求されそうだが…因みに俺レベル30
件名:マジかよ
from:ブシカッツォ
to:A-Z
マジか、カンストか…。こりゃ当分煽り散らかしそうだわ鉛筆のヤロー。あとさらっとレベルマウントで煽るの止めろ、地味にムカつく
色々試して直ぐ追い付いてやっから、首洗ってサンドバッグにされるつもりで待ってろよA-Z
件名:Reマジかよ
from:A-Z
to:ブシカッツォ
んじゃ其の時には安全圏に雲隠れしますんで^^
まぁでも、レベリングで鉢合わせん時には御互いに強くなって、ペンシルゴンに煽られないようにしようぜ?ブシカッツォよぉ
「…相変わらず負けず嫌いだわな、ブシカッツォの奴め」
彼のゲーマーとしてのタイプを知っているペッパーは、フフッと微笑を溢す。そして彼は、あまりやりたくは無かったが、
故に彼はペンシルゴン相手に、暴利を吹っ掛けられる事を覚悟した上で、Eメールアプリでメールを作成する。だが其の胸中に宿ったモヤモヤした想いは、文脈を綴る程にメレンゲのように膨れていき、いざ送信しようとすると其の指先が震えて送信を拒み。
数回に渡る添削を繰り返した果て、ペッパーはメールを送信した。
件名:シャンフロの先輩として
from:胡椒
to:鉛筆
非常に不本意ですが、シャンフロの先輩であるトワに聞きます。サードレマから行ける地域で、レベリングに効率的な穴場を教えて下さい
特殊クエスト関係を進めてたら、新しい武器が解放されるみたいで、其の武器はステータスの他に一定のレベルが装備条件になってるらしく、今現在リュカオーンの呪われた身なので大変です
協力する場合には、ユニーク関係以外で何かしらの要求は呑む用意があります
(お、送っちまったぁぁぁぁぁあああ………。いやマジどうするよ……あの時から俺の胸ん中はモヤモヤしたままだし、ペンシルゴンに弄り倒されそうだしで本当に嫌だぁぁぁぁぁ…………)
自分が自分でメールに綴った文章を思い出して、裏路地の壁に額を擦り付けて落ち込むペッパー。彼女に弱みを見せる事は即ち、ロクな事にならないに繋がる為にこういう事自体やりたくは無かった訳なのだが、背に腹は変えられない。
と、Eメールアプリに1件の新着メールが届いて、不安が99.9%支配した状態になりながら、嫌な顔をしつつもペッパーは内容を確認する。
件名:Reシャンフロの先輩として
from:鉛筆
to:胡椒
サードレマから行ける、レベリングに最適な場所ならペンシルゴンお姉さんは知ってるよぉ?要求を呑んでくれるなら、一緒に其処に行きたいけど明日以降で空いてる日は有るかな?集合場所はサードレマの蛇の林檎…何時もの所でね
其れと…ありがとね。あーくんが私を頼ってくれて、嬉しいな
理不尽な要求をされるかと身構えていたが、パーティーを組んで欲しいというだけらしく、ペッパーはホッとしかけるも、此の文章に裏が有るかもしれないと文脈の隅々まで確認を取る。
だが、何処を見ても其れらしい表記は見当たらず、此れは合流後に何かしら仕掛けてくる可能性が高いという結論で、一旦落ち着く事にして。
頭の中に入ったバイトのシフト表と大学講義予定を思い出し、ペンシルゴンに2日後なら行けると連絡したのであった………。
シクセンベルトの裏路地から、ペッパーは街の武器屋にやって来た。此処で今まで世話になったマッドネスブレイカーを
「こんばんわ~」
「いらっしゃい…ってペッパーさんか、アンタ?」
応対してきたのは、片目がモンスターの引っ掻き傷で潰れ、左腕には酷い火傷の痕が残る男性。前掛けを着け、鍛練を重ねたであろう筋肉が、只者でないと解った。そんな男性がペッパーを見て反応してきたので、彼は「はい、ペッパーです」と答える。
「そうか、サードレマから遺跡を越えてきたんだな…。フォスフォシエや、セカンディルの鍛冶師からの
「ありがとうございます。早速なのですが、フォスフォシエの女性鍛冶師から、マッドネスブレイカーに駆動鉱石を加えると、別の姿になると聞きましたが…育成出来ますか?」
「勿論。素材は持ってるかい?」
どうやら快く依頼を受けてくれるらしく、ペッパーはカウンターにマッドネスブレイカーと鐵遺跡で採掘した駆動鉱石を乗せていく。
「うん…これだけ有れば、充分に育てる事が出来るよ。ただ今日はもう遅いし、2日程時間を貰えないかな?」
「お願いします」と男性に頼み、ペッパーは一先ずミッションを完了した。2日後にラビッツの兎御殿からシクセンベルトへ飛び、武器を受け取ってサードレマの蛇の林檎に集合。ペンシルゴンが知っているレベリングの穴場で、甲皇帝戦脚が装備可能に成るまで練度を高める。
此処に計画は整い、後は当日に備えて準備を…と思いながら武器屋を出た時に、ペッパーは自分に対する視線を感じた。
何処からの視線かと辺りを見回してみると、桃色の髪をツインテールに束ね、左右に3つずつの計6つの桜色のリボンで各々を結び、赤のラインを通すワンピース型の衣裳を纏う『キョージュ』なる少女アバターが、ペッパーをじぃぃぃ~…と凝視している。
「………………………」
「………………………」
視線を感じながらも、何食わぬ顔で横を通り過ぎようとするペッパーだったが、旅人のマントを捕まれてしまい、尻餅を付かされて逃げられなくなってしまう。
「あ、あの~…俺に何か御「噂に聞いてはいたが、此処まで特徴が一致しているとはね」ブッフ?!?」
少女から発された声は、見た目と年齢不相応の激渋のおっさんボイスであり、不意打ちにも程が有りすぎる衝撃に、ペッパーは思わず吹いてしまった。
「…何かおかしい事でも?」
「すいません…あまりに唐突だったので。えっと……」
何から話せば良いのか解らない状況を察したのか、キョージュなる激渋ボイス魔法少女は、自ら話を切り出した。
「そう言えば自己紹介をしていなかったね。私はキョージュ、考察クラン『ライブラリ』のリーダーを務めている」
「ライブラリ…もしかして、ネットで考察記事を有志のプレイヤーが書いてるのって」
「ほほう、君も読者だったか。そう…クランメンバー達が様々な情報を精査し、調査し、観察し、考察し合い、シャンフロの謎を日々解明しようとしているクラン、其れがライブラリだ」
ライブラリがアップしている考察記事の中には為になる情報も多く、神代の鐵遺跡に関する記事も面白かったのも記憶に新しい。
「時にペッパー君。君は『リュカオーン』に認められ、其の身に呪いを刻まれたという情報を耳にしたが…本当かな?」
やはり其れが目的かとペッパーは心中で警戒を強め、同時に少し幸運だったと思った。もしもアイトゥイルとビィラックが居る状態で、さっきのマント引っ張りをされていたなら、間違いなく大変な事になっていただろう。
「……其の話をする前に。此処だと人通りも多いのと、リュカオーンの話は『ある人』と同席でないと話せないんですよ。連絡して合流した後で、何処かの店で話をする感じでも良いですかね?」
ユニーク関係の話である以上、ペンシルゴンに相談しなくてはならない。こういう場合、悪巧みと策謀ならば彼女程の適任者は居ない。
キョージュは少し考えた後で「ふむ…良かろう」と納得。ペッパーは「ありがとうございます」と頭を下げて、ペンシルゴンに伝書鳥の梟を送り。
其の数分後に、何らかの魔方陣と共に満面の笑顔で現れたペンシルゴンが、キョージュを見た瞬間に一変して苦虫を噛み潰した様な、露骨過ぎる嫌な顔をしていたのだった。
此のまま終わる……と思っていたのか?