VR初心者ゲーマーが往くシャングリラ   作:ガリアムス

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シグモニアの戦い




紅蓮に染まる戦場の下で

「あー…………。ちくしょー、してやられた…………」

 

サンラクにEメールで連絡を入れ、サミーちゃんに御願いして洞窟内を整備後、インベントリアを通じてブリュバスを洞窟内に設置したペッパーは、其のブリュバスの中から這い出して頭を掻いている。

 

契約者(マスター)、随分苦戦しているな」

帝晶双蠍(アレクサンド·スコーピオン)が居る場所には、見えないけど蠍毎に『テリトリー』が存在するみたい。そして其の一線を越えなければ周りは手を出さないが、逆に越えたなら周りの蠍達が高エイムのビームを叩き付けて袋叩きにしてくる。今回の死亡原因がまさに其れって所さ…………」

 

ペンシルゴンの実戦的訓練を観ていたが、見ると体験するとでは認識に差が生まれるのは事実であるとは、一体誰が言ったのだろう。…………間違いなく自分では有るが。

 

かれこれ『七回目』リスポーンだが、ペッパーはラビッツでの観戦・此の地で実際に戦闘した事で、帝晶双蠍とシグモニア前線渓谷に関する幾つかの『新知識』を手に入れられた。

 

始めに、帝晶双蠍は『テリトリー主義者』である事。元の種族である水晶群蠍(クリスタル·スコーピオン)が『種族主義者達』なのだが、自分以外の他の蠍が襲われても基本的に『放置』を決め込み。

 

しかしながら自分の領域に、万が一にも他の同胞や敵が侵入したら、有無を言わせず全力を以て『其の敵や蠍を倒しに来る』疑惑が有る。寧ろ今回の戦いで其の予想がハッキリしたと言って良い。

 

次に帝晶双蠍が居る丘に生えている鉱石は、『ツァーベリル帝宝晶』という名前であり、三回目の挑戦時に何とか一つ採掘。フレーバーテキストを確認した所、『日光と月光によって碧と紅に其の色を変える特性』と、変色時に『周囲の魔力濃度を爆発的に高める』特性を保有している事。

 

そして先程の帝晶双蠍との戦いで甲殻の一部を砕いて入手した事で、あの蠍の身体を構成する鉱石も此のツァーベリル帝宝晶と()()の物である事が、素材のフレーバーテキストで判明したのだ。

 

宝石匠の手で糸や布にしたならば、帝晶双蠍から作った物の仮称は『アレクサンド・ストリング』や『アレクサンド・ヴェール』、ツァーベリル帝宝晶は『ツァーベル・ストリング』と『ツァーベル・ヴェール』になるのだろうか?

 

最後に、此の地で大戦争をしている超巨大列車砲百足のトレイノル種と、超巨大要塞蜘蛛のガルガンチュラ種の二種族は、ツァーベリル帝宝晶から放たれる莫大な魔力を生命維持活動の『エネルギー源』にしている可能性が有る事。

 

単なるエネルギー補給なら、倒した相手を喰らった方が早いのでは?と思ったのだが、戦場で足を止める事=死が直結している状況で呑気に食事なんてした日には、自分が屍を晒すのがゲーム内の戦争で起きる『常識』。まともな食事に有り付けない事は多々有る、そんな『当たり前』なのだ。

 

大量の魔力を放出するツァーベリル帝宝晶、超巨大な身体を効率良く維持する為には昼夜で変色する結晶から栄養を受ける以外に方法が無い、つまりトレノイル種とガルガンチュラ種は其れが在る丘をブッ壊すという名の『自殺行為』はしない。

 

要するに、だ──────『ツァーベリル帝宝晶か帝晶双蠍のドロップアイテム』を所持していれば、トレノイル種かガルガンチュラ種の『親玉』からのヘイトを受けない限りは、少なくとも攻撃されなくなるかも知れないという『予想』が有る。

 

「よっし。取り敢えず帝晶双蠍を倒して、皆の分のツァーベリルを採って来る」

契約者(マスター)、御武運を」

 

岩戸がゴルドゥニーネの手で開かれる。トレイノルとガルガンチュラの戦争(ドンパチ)を避けて空中を駆け上がった先、八度目の戦いになる帝晶双蠍の領域に踏み込めば、甲殻の一部が欠けた紅蓮色の帝王が出迎えた。

 

水晶群蠍(クリスタル·スコーピオン)金晶独蠍(ゴールディ·スコーピオン)とは一線を画す、変幻自在の光線狙撃の射手よ!此処でお前を倒してみせるッ!」

 

堂々たるペッパーの宣言、先に動いたのは帝晶双蠍。力強く滾る『紅蓮色』の甲殻が、美しい『碧色』へと変化を遂げてビーム攻撃の予備動作が行われる。ペンシルゴンが戦っていた時に見た帝晶双蠍は『体外に出したレーザーの()を受信する時間』で、其の次のレーザーの『種類』が変化していた。

 

戦ったからこそ解ったが、帝晶双蠍のビームの受信時間が五秒以内なら『単発レーザー』・十秒なら『進行途中で三つに枝分かれ』・十五秒以上なら『極太レーザー』の三種類となっており、其の中でも三つに枝分かれするレーザーが兎に角厄介で、何よりも周りの鉱石に『反射』して無作為に飛んで行く。

 

速度はウェザエモンの断風(たちかぜ)程では無いが、仮に反射を許した場合は水晶の地で出鱈目に屈折し、五回は無作為に飛んで来る為に、サキガケルミゴコロ・真界観測眼(クォンタムゲイズ)窮極致超越(アレフ・オブ・トランジェント)局極到六感(スート・イミュテーション)星幽界導線(アストラルライン)の、何れか五つのスキルの内の一つの補助無しでは避けられない、そう確信する『危険な攻撃』でもある。

 

しかし此のビームは、其の全てが『魔力』で構築された光である事。帝晶双蠍との戦闘距離を『6〜7m以内を維持すれば』単発と極太の攻撃を避けつつ、三つに枝分かれする前の一本の状態で対処する事が可能だという事。

 

そして帝晶双蠍一体毎のおおよそのテリトリーは、ツァーベリル帝宝晶の採掘地点を中心に『縦が85mと横幅150mのドーナツを切り分けた様な区間』で、其の領域と空域内で立ち回れば周りの帝晶双蠍はビームによる援護射撃が来ない事を、此れまでの戦いの中でペッパーは掴んでいた。

 

「弾き返せ、冥王の鏡盾(ディス・パテル)!」

 

深海の帝王のレンズ状の頭蓋を以て造られた、神代技術による素材活性の円盾(バックラー)が花開き、枝分かれ前の魔力による光線を真正面から受け止めて弾き返せば、帝晶双蠍の顔面に直撃して其の身を後退させる。

 

強敵との戦いで彼が何時も思い出すのは、ラビッツでの実戦的訓練…………無闇矢鱈に突撃するのではなく、敵の攻撃や挙動を引き出して頭の中に叩き込み、敵の特性や体の構造を戦いの中で精査し、そして有効打となる攻撃方法を導き出して打倒する。其れこそが『ヴォーパル魂』の在り方なのだと。

 

「次はお前だ!水晶群蠍達相手には数の暴力で活かしきれなかったが、一対一(タイマン)ならば話は変わる!」

 

インベントリアに円盾を収納し、インベントリから取り出すのは採掘でもポピュラーなアイテムたる『ツルハシ』。鉄vs帝晶か、或いは木の枝vsコンクリートという、比べるまでも無く結果が目に見える対決。

 

だが其の相手が『鉱脈に擬態した百足蚯蚓』であったり、重要器管を除いて殆どを『鉱石で構築した蠍』の様な存在であるならば、其の常識は完全に()()する。そう、今まさに──────帝晶双蠍の頭部に叩き付けられたツルハシの尖端が、其の鮮やかで強靭な水晶の鎧に食い込み、目に見える大きな『亀裂』を迸らせた様に。

 

「よし、効いた!取り敢えずラビッツに帰ったら、黒鉄丸共々強化してやりたいなっ……………と、来た!!」

 

帝晶双蠍の巨体を活かしつつ、前鋏を広げた上での突撃………サンラクならば『抱擁(ハグ)タックル』とでも名付けそうな、プレイヤーを自分の領域から外側へ押し出し、他のテリトリーの帝晶双蠍に叩かせんとする其の行動は、自分にしてみれば『数少ないデレ行動』と言って良い。

 

効果時間残り僅かなミルキーウェイで鋏と尻尾を潜り抜け、ツァーベリル帝宝晶を背中に向ける形を取りつつ、ペッパーは再び帝晶双蠍と対峙する。

 

「此処でお前を倒すと決めたからな………!絶対に勝つ!!!」

 

変色する甲殻、再び握られる冥鏡。

 

紅蓮輝く夜空の下に、勇者と皇帝の死闘は続く。

 

 

 






挑戦忘れるべからず


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