VR初心者ゲーマーが往くシャングリラ   作:ガリアムス

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戦場に立つ勝者は




成長する事、前進する事。其れは一分前の己を越える事

アーミレットが舞い散り砕け、数多の花火が咲く。

 

毒液の巨大砲弾が大地に弾け、穢して濡らし。

 

紅蓮の夜天から光が落ち、有象無象の尽くを貫く雨を落とす。

 

シグモニア前線渓谷(フロントライン)は現在、トレノイル種の雌個体の『トレイノル・センチピード・ドーラ』と、フォルトレスの女王個体たる『フォルトレス・ガルガンチュラ・エンプレス』の二体が種族の生き残りを賭けて武を振るい。

 

其の騒音にブチ切れた上層の主である『帝晶双蠍(アレクサンド·スコーピオン)』が、普段は不干渉を貫き合う周辺テリトリーの同胞と共に高エイムのビームを放ちまくって黙らせるという、控え目に言って阿鼻叫喚の地獄絵図が其処には在った。

 

だが、今此の場に置いて最も『ダメージとヘイトコントロール』を行い、ドーラ及びエンプレスの両者にダメージを与えている者が…………………『一人』居る。

 

「『ドーラの毒よ、其の身を蝕む有毒に変われ』!!!」

 

トレイノル・センチピード・ドーラの持つ毒生成器管の位置をスキルで把握し、全身に流れる毒液が神代の大いなる遺産の一つ『深淵を見定む蛸極王装(オクタゴラス・アビスフォルガ)』を纏ったペッパーが、一式装備限定時の能力『状況改変(じょうきょうかいへん)』を言霊に乗せて放った事によって、筋繊維に流れる毒液達は『麻痺毒』へと書き換わり、大地を駆けるドーラの無数の脚達を止め。

 

そして其処から離れた直後、飛来するビームが甲殻にダメージを積み重ね、アーミレットの大群が着弾から爆発した事で軋んだ音を立てて砕け散り、反撃の毒液が空中を走るペッパーに向けられ飛んで来る。

 

其れは読んでるんだよな(・・・・・・・・・・・)ッ!」

 

空中で更なる加速を加えて瞬間的に上空へと跳ね跳んだ事で、毒液はエンプレスの顔面に直撃。不倶戴天の宿敵から幾度も食らった毒に汚染され、超々巨大なる要塞女王蜘蛛の身を着実に蝕む。

 

「おぅおぅ、そんなんで良いのか女王様ァ!此のままブツ切りにしてやんぞゴラァ!!エムル、サイナ!あと一息だ!気ぃ抜かずにお前等の牙をぶつけに行けぇ!!」

「はいなァ!」

「了解ッ」

 

身体に黒雷と黒炎を纏いつつ、其の身に罅を走らせては金と蒼の水晶剣を叩き付けて、巨体の破損箇所に産まれた隙間を滅多斬りにしながら、サンラクはチャンスとばかりに全力でダメージを積み重ね、其の後隙を補う様にサイナとエムルも各々の攻撃を加え続ける。

 

「トレイノルの動きも、随分鈍ってきた。でも此の状況、狙うなら『要塞』だね………!兎ちゃん達!ヒトミちゃん、ノワちゃん、そしてウィンプちゃんは安全圏に退避!百足は後で私達で処せる!!」

「撤退援護は任せろ、安全圏に皆を導く」

「気を付けるのさ、ペンシルゴンはん!」

「ペンシルゴンしゃん!がんばって!!」

「い、いわれなくてもかくれるわよー!?」

『グルルゥ!』

 

ペンシルゴンが指示を出し、ヒトミに輸送される形でアイトゥイル・ゼッタ・ウィンプを抱え、ノワと共に安全圏たる空洞に走り出す。

 

「蠍ビーム来るぞ!」

「退避ッー!!」

「了解、回避機動」

「ぽぴゃあああ!!?」

「あっぶな!?」

 

水晶の蠍は敵が弱みを見せた瞬間に袋叩きを仕掛ける様に、此の戦場で脚を止める事は即ち『撃ち抜いてください』と、敵側に宣言する様な物に等しく。

 

光の雨にして裁きの槍とも言える、帝の名を関する煌帝の矛先が列車砲百足と要塞女王蜘蛛、そして逃げ惑う小蝿達をブチ抜かんと迫り。

 

「皆、俺に任せて!『ビームよ、俺一人に収束せよ』!!!」

 

状況改変の権能、無数に飛ぶビームが突如として折れ曲がり、ペッパー唯一人に光の槍が迫り来る。

 

「おおおッ……………ああああああああああああああああああああああッッッッ!!!!!」

 

空中で音が()ぜり、勇者の身体が走り出す。光を背に駆けた先にドーラ在り、流星の速度を纏った疾走が過ぎ去った刹那、谷底を裂き這うレーザービームはトレノイル・センチピード・ドーラの体節を直撃。

 

フォルトレスによって飛ばされたアーミレットの爆撃に、脚の爪先での踏み付け、更には帝晶双蠍のビームを幾度も幾度も食らい続けた甲殻は既に限界を迎えており──────まさに断頭台で落とされた刃が重力に従い、罪人の首骨を断ち切るが如く、頭部から離れた体節と体節の間を焼き斬り別ち、谷底へと落としたのだ。

 

「フォルトレスを攻め落とせッ!行けぇ!!!」

『『『『任された(ですわ)!!』』』』

 

紅く染まった大槍が、二つの剣を重ねて成分結晶を取り込み続けた大剣が、魔法の刃と神代製の遺産たる斬撃が。要塞女王蜘蛛の命令中枢たる脳をブチ抜き、腹部と胴を繋ぐ接続箇所を居合一閃と魔力刃と二天一流の斬刃が絶ち分ける。

 

ギチチチ……………と。其れは細い声か音を零して、巨大なる身体は遂にシグモニアの谷底に倒れ、列車砲百足と共に其の身を構築するポリゴンを崩壊させていく。

 

未だ蠍のビームが飛び交う中、単身空中を駆けるペッパーはトレイノル・センチピード・ドーラとフォルトレス・ガルガンチュラ・エンプレスを見つつも、己の心が為すままに言葉を綴って礼を述べた。

 

「トレイノル・センチピード・ドーラ。シグモニアの渓谷を超高速で駆け走り、着弾による超広範囲の毒液汚染と巨体を用いた締め潰しによる圧殺を仕掛ける、大いなる巨体を誇し列車砲よ。

フォルトレス・ガルガンチュラ・エンプレス。何千何万に匹敵するアーミレットを淀み無く指揮し、時に爆撃へ時に盾として用い動かす、超大たる要塞よ。

俺達は己等の持つ全てと深淵の盟主の威光を用いなくては、双方を討ち倒す事は出来なかった。此程の強敵と出逢い、戦えた事を俺達は決して忘れず、そして此の先も誇りに思う。戦ってくださり……………ありがとうございました」

 

ペッパーの言葉をトリガーとしてか、トレイノル・センチピード・ドーラ並びにフォルトレス・ガルガンチュラ・エンプレスを構築するポリゴンは爆散し崩壊。静寂に包まれた戦場に二体の女王の素材達が、まるで噴水の如く噴き出し溢れて積み上がり、山脈とも言うべき巨大な山が産み出され。

 

「最後の大仕事!二人がドーラとエンプレスの素材を回収するまで、俺が帝晶双蠍のヘイトを引き受けるッ!」

 

自ら率先して死地に飛び込むペッパー、其れを見たサンラクは彼の意図を読み取ってペンシルゴンにエンプレスのドロップアイテム回収指示を出し、エムルとサイナには撤退命令を送り。己は封雷の撃鉄(レビントリガー)(ハザード)によるモーション速度強化でドーラのドロップアイテムの山脈に突撃、次々にインベントリアへと放り込んでいく。

 

上から時折聞こえる声と通過する光線達を見ながらも、ペンシルゴンもまた疲労と眠気に襲われるアバターを動かし、エンプレスの素材が積み上がり出来た山へ到着し、両の手を目一杯動かし続けてインベントリアへと放り込む。

 

が、此処で時間切れとばかりにシグモニアの大地が鳴動。ボコボコと現れるアーミレット・ガルガンチュラに、トレイノル・センチピード・グスタフ、更にはフォルトレス・ガルガンチュラという戦争の再開戦を告げるゴングが打ち鳴らされ。

 

サンラクとペンシルゴンは回収を急いだが、雪崩の如く殺到したアーミレットの自爆に巻き込まれた二割弱のドーラとエンプレスの素材達が消失、二人も爆炎に焼き焦がされて死亡したのだった…………。

 

 

 

 






戦果上々


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