ペッパー、ヴァイスアッシュとオハナシをする
ペンシルゴンと共に涙光の地底湖でのパワーレベリングをした日から4日が経った。大学の講義やコンビニでのバイト等で日々を忙しく過ごした梓は、実に何週間振りかの1日フリーの日を手に入れたのである。
時刻は午前9時。今日は1日中雨天の予報が有り、朝からシトシトと雨がパラ付いている。
「今日やるべき事は
何時ものように朝食を食べ終わり、トイレを済ませて機材確認や水分補給用の水を近くに置いて、窓は雨風が入らない程度に空け、玄関の鍵を閉め、機材を頭にセット。
布団に寝転がり、梓はペッパーとなってシャンフロへとログインする。
「おぅ、ペッパー。久方振りじゃな」
「ペッパーはん、おはようなのさ」
兎御殿の休憩室のベッドで目覚めたペッパーを、待っていたとばかりに、ビィラックとアイトゥイルの2羽の黒兎達が覗き込んでいた。
「おはようございます、ビィラックさん。アイトゥイル」
「ペッパー。ワリャがわちに修繕頼んどいた武器等は、キッチリ直しておいたけぇ」
ビィラックの手でアイテムインベントリの中に入った武器達は、耐久値MAXまで回復していた。流石は名匠、素晴らしい仕事っぷりである。
「其れよりペッパーはん、ワイとビィラック姉さんと一緒に来て欲しいのさ」
「え、何ですか?」
そんな折、アイトゥイルがペッパーにこう言ってきて。疑問に思っている最中に、ビィラックの言葉によって彼は大きな衝撃を受ける事となる。
「何でもオヤジが、ペッパーに聞きたい事が有るみたいじゃ。前にワリャが手に入れた『えすえふすぅつ』?やったかの。其れをオヤジに話したら、そんの実物を見せちょくれんかって言ってたけぇ」
もしかしてヤバい案件だったりしたのか?と脂汗ダクダクになり始めたペッパーは、自分の肝を磨り潰される様な気持ちを味わい、断頭台で処刑される死刑囚の如く、重い足取りでヴァイスアッシュが待つ大広間へと、ビィラック&アイトゥイルと共に向かったのであった……。
兎御殿・大広間。嘗てペッパーがアイトゥイルの案内の元、ヴァイスアッシュと初めて邂逅した此の場所で、彼等は向き合っている。相違が有るとするならば、此処に名匠のビィラックが居る事だろうか。
「ペッパー。おめぇさん、随分良い顔立ちになったな。見違えてるぜ」
「あ、ありがとうございます。先生」
ヴォーパルバニーの大頭ヴァイスアッシュからの一言に、ペッパーは正座をしたまま頭を下げた。
パワーレベリングが功を奏したか、はたまた其れも折り込み済みだったのか、何にせよヴァイスアッシュはペッパーを見ながら、人参型の煙管の煙を吹かしている。
そうして暫しの沈黙の後、ヴァイスアッシュが『本命』となる話を切り出してきた。
「ビィラックから聞いたがよぉ…おめぇさん等、神代の鐵遺跡で『レディアントシリーズ』を見付けたんだってな?」
「はい。地下3階を探索中に駆動鉱石を採掘しようとしたら床が落ちてしまい、其の床に乗った先で辿り着いた隠し部屋の中を探索して見付けました。
部屋には映像も在って、其所に映っていた女性は『蒼空を飛ぶ為の『答え』の内の『器』である事と、自分の『夢と願い』が心正しき人によって、叶えられる事を祈る』と言っていました」
ペッパーは其の時の状況を詳しく報告し、アイテムインベントリから部屋の中に在った箱から入手し、大切に守ってきた『レディアントシリーズ一式と籠脚』を取り出して、ヴァイスアッシュに提出する。
「確かにレディアントシリーズだぁ…しかも状態も良い。厳重に保管されてたんだなぁ…」
1つ1つを持ち上げ、撫でて、見定めるヴァイスアッシュの眼は、鍛冶師としての真剣な眼であった。
「よろしければ、先生にお渡し致しますが…」
「気にするこたぁ無い…。コイツを見つけ、ソイツから想いと夢を託されたんだろう?ならよぉ…コレはおめぇさんの
そう言って装備と武器をペッパーに返したヴァイスアッシュは、彼に向けて問いを投げ掛けた。
「ペッパー。仮にコイツを構成する物を揃えて、此の世界に甦らせた後、おめぇさんは『何を成す』?」
蒼天を望み、夢を叶え、人が空を飛び、舞えるようになった。だが、空を飛べる様に成ったが故に争いは起き、血は流され、蒼空は悲しみで染まった。
ヴァイスアッシュはペッパーの口から聞こうとしている。蒼空を飛ぶ事の重大さを、己の身一つで背負いきれるか。レディアントシリーズを造った先人より、託された想いと願いに応え、夢を紡ぐ覚悟が在るか━━━と。
ペッパーは考える、自分はレディアントシリーズを復活させた後の事は、現状考えていない。しかし其れを公にすれば、1つしか存在しない此の装備を巡った争いが再発するだろう。そうなれば嘗ての二の舞になってしまう。自分に出来る事は、成さねばならぬ事は何か?其れをヴァイスアッシュに伝え、自分の道を明確にする事だ。
「先生、俺は……『今の自分では』まだ。レディアントシリーズを正しく、真に使えるとは思ってはいません」
現在の己がどういう立ち位置に居るのか、今の己にレディアントシリーズが渡ったならどうなるか、其れをハッキリとヴァイスアッシュに向けて伝える。
「俺は未だ『小さく』、そして『弱い』と自覚しています。そんな自分が空を飛ぶ力を持てば、其の力を狙って他の開拓者が襲い掛かるでしょう」
ペッパーの言葉にヴァイスアッシュは「ほぉ?」と、少し意外と言うような声を放つ。
彼が授けてくれた致命魂の首輪によって、他のプレイヤーよりもステータスポイントは多く貰えてはいるものの、廃人組にはスキルもステータスも遠く及ばないし、圧倒的な力で迫られれば、幾ら強かろうが関係無い。
強奪されて自分の手元を離れれば、次の所有権を巡る争いが勃発して、戦争が起きる事は目に見えている。
「首輪を授けた、オイラが言うのも何だが…おめぇさん、自分を悲観しちゃあいねぇかい?」
「此の世界には、自分よりも強い開拓者やモンスターは大勢居ます。託された願いや想いさえ、ましてや自分の物も守れないようでは、レディアントシリーズを纏う資格等、俺には在りません」
いつか決着を付けなくてはならないリュカオーンに、トワと約束したウェザエモンとの決戦、其の先に有るサイガ-100やキョージュとの交渉。
レベルで勝てないにしても、『心』で敗北してしまう事の無いようにしなくては、自分に夢と願いを託してくれた彼女に、申し訳が立たない。
「俺は『弱者』です。其れでもこんな俺を信じて、神代の時代に世界へ示した『答え』を、蒼天に抱いた『夢と想い』を託してくれた彼女の。最後に遺した『願い』を守り抜けるように。
俺は更に強く、そして必ず。本物の『勇者』になります。一人の大馬鹿な男が放った『虚言』が、何れ本物の言葉と成って『実現』し、此の世界に示せるように」
此れは自分から、ヴァイスアッシュに示す『宣言』だ。今はまだレディアントシリーズは纏えない、其れを纏うに相応しい人間に成ってみせると………彼にそう伝えた。
静寂が部屋を支配する。ヴァイスアッシュは此方を見つめ、静かに眼を見ていた。此処で眼を反らせばきっと、先程までの言葉は全て『嘘』だと思われるに違いない。怖かろうが、チビりそうになりながら、ペッパーはヴァイスアッシュの視線と向き合い続ける。
「……………虚言を本物に変える勇者、かぁ。良い『覚悟』じゃねぇかよぉう、ペッパー」
「!」
ヴァイスアッシュが笑う。其の笑みはペッパーの宣言を、1人の男の覚悟を
そして彼はペッパーに、アイトゥイルに、ビィラックに語り始める。
「レディアントシリーズ一式の中にあるぅ
ティラネードギラファ&カイゼリオンコーカサスの最初のタッグ戦で、戦闘開始から5分後に食らった強力な雷風の攻撃。そしてヴァイスアッシュの台詞から、ペッパーはレディアント・ソルレイアこそが、2体の甲虫皇に対する『ギミックウェポン』で有ると悟った。
「最後に1つ。
そして明かされた事実。嘗て世界に示した人が蒼空を舞う為の『答え』、レディアントシリーズ一式と籠脚の『器』と甲虫皇達が守り続ける『魂』、明かされていなかった最後の1つたる『機構』は、サードレマから行ける3つのエリアの最後の一ヶ所に。
ユニーク小鎚たるマッドネスブレイカーの成長派生形態へ必要となる『炎水剛岩』が在る場所と同じ処に存在していたのだった………。
致命兎の大頭が語る、空を舞う答えの最後の在処