準備はコツコツと
夕食は野菜たっぷりの冷やし中華を作った梓は、飲み物にちょっと興味が出て買ったスーパーの強炭酸水で食事を済ませ、シャワーを浴びて髪を確りと乾かし、筋トレを行った後にトイレと水分補強をして再ログイン。
ペッパーとして覚醒し、アイトゥイル・ノワ・ヒトミを連れてビィラックの鍛冶場へとやって来れば、既にサンラク・エムル・サイナが居て。
彼の手には、以前ラビッツ防衛戦で無尽のゴルドゥニーネが従える
加えてもう一つ、全体的にダークカラーを主体として白い剣と花のエンブレムを刻み、柄尻には歪んだ時計の歯車と黄金の長針と黒い短針が付いている、サンラクの背丈を上回る『巨大な大剣』もドッシリと置かれている。
「やぁ、サンラク。其れって修繕されたアラドヴァルか?あと何か凄い大剣?が在るけど」
「お、ペッパー。新大陸やドレッドハウス?の戦いやらを踏まえて、色々と準備していた。此方は合間合間を縫って強化し続けて『
んで此方は
どうやら此方も知らない内に、サンラクはサンラクで戦力を増強していたらしい。アラドヴァルは形状からして片手剣と大剣が融合した所謂『
「レベルキャップ解放の御陰で筋力を強化出来たからか、アラドヴァルも確り持てる…………。うん、良い仕事だビィラック。
「当たり前じゃ!オヤジの嘗ての友人の武器!其れを任された以上、わちの持ち得る全てを注ぎ込んだんじゃからなッ!」
「おぅおぅ、どうやら出来たぁようだなァ……」
「オッ、オヤジ!?」
片手で回したり虚空を薙げば、炎のエフェクトが空間を舐める様に起き、鞘に収め直したサンラクのサムズアップに、ドヤ顔+耳ブンブンと身体は素直である様子のビィラック。
そんな最中に背後から現われたヴァイスアッシュに全員の視線が向いて、サンラクは即座に差し込みロールプレイを展開する。
「兄貴。アラドヴァルを勝手に切り詰めたのが不味いってんなら、
「構やしねぇよう。元々ドルダナの奴が槍の穂先を折って出来た
「ウッス!」
良い舎弟ロールだ、相手が極道の親分に当たるNPCを鑑みても、かなりの高評価を叩き出しているだろう。と、去り際に何か思い出したのか、ヴァイスアッシュがビィラックを見て。其の視線は鍛冶師では無く、まさしく
「ビィラックよぅ。良い仕事をするじゃあねぇか」
「ひゅっ」
ビィラックの様な職人気質のキャラに『娘を褒める父親ムーヴ』の不意打ちが炸裂し、彼女の表情が三割方ネチョくなって、泣き止むまでに暫く時間が掛かったのだった………。
「ビィラックさん、大丈夫ですか?」
「泣"い"どら゛ん゛わ"い"!」
「取り敢えず鼻噛むか?」
「…………………う"ん」
其の顔や声で言っても説得は皆無である。どうやらヴァイスアッシュの御褒めの言葉は、ビィラックにクリティカルで入ったらしく、何度か鼻を噛んで漸く落ち着くに至った様だ。
「……………うぅ、兎に角じゃ。アラドヴァルの方は片手でも両手でも使える『雑種剣』になったが、リペアの頃より剣の力は落ちとる。英傑武器が
『作られた武器の声を聞く』──────シャンフロの鍛冶師達は武器に寄り添い、使い手に握られた武器を真に望む姿へと変える事が、携わる者としての一つの境地なのかもしれない。
「ビィラックさん。朽ち灯るアスカロンは今日、冥府よりも尚深い深海の冷気を得て、朽ち照らすアスカロンとなりました。次の段階へ進む為に必要な素材を教えていただけますか?」
インベントリアから朽ち照らすアスカロンを取り出し、ビィラックに見せ。彼女は其れを受け取って暫くジッ…………と、吟味するかの様に眺めて。ペッパーに返し、こう言った。
「今のアスカロンに必要な物は『
そうしてリペアの段階に入った英傑武器には、使い手として『過去と決別する
彼女の説明から英傑武器は初期は『朽ち果て』状態で発見され、
其処からアスカロンと同じく深海の冷気を受けて『朽ち照らす』状態、もしくは朽ち灯るor朽ち照らす段階で必要な素材を用いての修繕を経る事によって『リペア』になり、其の段階で『
「再構築は『必要な素材が集まれば出来る』が、再生成は『武器の持ち主が敗北した時の相手を知る必要が有る』。アラドヴァルはアラドヴァルの、アスカロンはアスカロンの、其々の武器を握った者の戦いに敗れた相手の話を、な…………」
「アスカロンの関係者…………。ルルイアスで出会ったアラバさんが、アスカロンの持ち主は
「成程…………其の荒ぶる深海の王をアスカロン・リペアを用いて討ち取る事。其れが再生成を行う上での条件じゃな」
詰まる所『アスカロンを再生成派生にするなら、アトランティクス・レプノルカ"
「ビィラックさん。武器の修繕と以前作って貰った
耐久値が減っている武器に加え、最近は他の武具に置いてけぼりにされている店売り武器の黒鉄丸とミリア・アティオン、クリスタルナイフを次なるステージに上げてやりたいのは事実であり。
ペッパーは黒鉄丸の真化素材に大量の『アムルシディアン・クォーツ』を、ミリア・アティオンはアルクトゥス・レガレクスの最高レア素材の『巨遣龍魚の剛刃仙骨』を含めた素材達。
深海で仕留めたキリューシャン・スフュール"
逆にビィラックは「既に一つずつ作っているのにまだ作るんか?」と、そんな疑問を抱いた様に首を傾げてジト目で聞いたので、ペッパーはこう答えた。
「こういう物は予備をおけば、万が一が有った時に安心出来るんです」
ほんの些細で有り得ないかも知れないが、万が一にもシャンフロのアップデートで『プレイヤーが死亡した時に装備していた武器や装備品が、死亡地点にバラ撒かれる仕様が適応される可能性』が出た場合、死んだ場所によっては取り戻しに行けないエリアへ転がってしまう危険が有る。筆頭候補地はシグモニア
今の内に出来る事をしておけば、仮にアップデートで泣きを見ずに済むという物、僅かに可能性が有るならば前々から準備をしておくに越した事は無いのだ。此の手の予感は高確率で当たる事が多いので、素直に従っておいた方が良い。
「…………まぁ、ワリャが言う『いざって時』に備えるのは大事じゃ、深厳戟響脚や冥王の鏡盾含めて三日で仕上げるから待っちょれ」
快く引き受けてくれたビィラックに感謝の意を示し、武器と素材を手渡し時間を確認すれば、既に八時半を過ぎており。サンラク達に「先にホルヴァルキンに向かっておく。九時になったらポポンガさんが呼ぶから、ランドマークとセーブポイントの更新を忘れないで」と伝えて、アイトゥイル・ノワ・ヒトミと共に鍛冶場を後にし。
兎御殿の休憩室からゲートを潜り、鉱人族の故郷・地下都市ホルヴァルキンへと向かって行ったのである………。
英傑武器の派生