訪れるは、死した火山の火口痕
栄古斉衰の死火口湖を、ペッパーとアイトゥイルにビィラックが登山を開始してから、およそ1時間半。山登りを続ける一向は現在、珍妙な光景を目の当たりにしていた。
『ギョエー!!?ギョエー!!?』
死した火山の山肌に住み着き、登山ルートで進んできた開拓者達を捕獲し、火口湖に放り込んで死に様を嗤う悪辣な鳥型モンスター『ブルックスランバー』。登山を続ける1人2羽のパーティー目掛けて、5羽以上の群帯を形成しつつ、大きな口を開けながら突進してくる。
だが、旅人のマントで隠れているペッパーの右手に刻まれた、リュカオーンの
「先生が今の俺なら取りに行けるって言ったのは、コレが理由かぁ………」
「あの鳥達、随分綺麗に曲がってるのさ」
「夜の帝王の獲物に、ワリャ等は手ェ出すなっちゅうこっちゃな」
本来の登山ルートは、ブルックスランバーの持つ特性によって、上級プレイヤーでも突破が困難を極めるのだが、ユニークモンスターの呪いが機能した結果、一切の妨害も被害も受ける事無く、順調に山登りが出来ているのだ。
「うーん…戦わなくて済むなら、其れに越した事は無いけれども…。進化したスキルや、秘伝書の技を試運転がてら試したいんだよなぁ…」
リュカオーンの呪いが良い方向で機能したが、本来はデメリットの方が目立つ為、誤差の範囲である。と、一向の目前には山肌が途切れ、青空と白い雲が見えてきた。
ペッパーが足早に走り始め、到達したのは直径10㎞に渡る大円を描く火口は自然が作り出した光景で、既に活動を終えた底には水が溜まって湖となっており、脚を滑らせて落下すれば先ず助からないだろう。
「絶景さね~、絶景さね~」
「此処の火口の何処かにワリャが言うとった、空を飛ぶ答えの
「あの女性が、誰かに盗まれる可能性を想定しているなら」
火口付近を歩き回れば、きっと何かしらのヒントが得られる可能性が高い。早速ペッパー達は火口を時計回りに探索を開始し、火口内部の壁面に存在するであろう『違和感』を目を凝らして、よく観察。
壁面に不自然な所は無いか、突起物らしき物は存在していないか。僅かな違和感をも見逃さないように、ペッパーは探索ゲームで手懸かりを探すように、ビィラックは耳をピンッと立て、アイトゥイルは小物入れから筒を取り出し、クルクルと回しては中をじっくりと見詰めていた。
「……ん?アイトゥイル、スルーしようと思ったけど其れは何です?」
「コレさね?オカシラが誕生日のお祝いにくれた、ワイの大事な『宝物』なのさ。観てみるさね、ペッパーはん?」
アイトゥイルから手渡された其れを覗き込むと、遠くに見える壁面が、目の前に在るかのように近くに見えている。どうやらコレは、昔の偵察兵が使っていたタイプの、年代物なる『一眼望遠鏡』の様だ。
「望遠鏡か。ありがとうアイトゥイル、返すね」
「ペッパーはん、コレを知ってるのさ?」
「あぁ。見張りや偵察に使われた道具で、危険や違和感を逸早く発見するのに重宝したんだ」
人類の発明や科学は豊かさの追求や、最適への到達から産まれた物が多い。近眼を解消する為に眼鏡が産まれ、眼鏡の要素を利用して遠くを観れるようにした物が望遠鏡、其れを元にして双眼鏡が、更に遠くを観る為に天体望遠鏡が産み出された。
「……よし。アイトゥイルは望遠鏡で引き続き、火口壁面を観察して、少しでも小さな違和感を感じたらビィラックさんか俺に教えて」
「解ったのさ、任せてさね」
アイトゥイルの意外なアイテムにより、探索は少しだが捗りそうである。此の調子で機構を見付けて、炎水剛岩を堀当て、レディアント・ソルレイアの装備可能になるレベル40を目指してレベリングを……そうペッパーは予定していた。
だが神は、そんな思惑を一瞬で破綻させ、其の上で試すかのように、特大地雷を豪速球で顔面パスするように、1人と2羽に向けてぶん投げてきたのである。
「………ん?おぅ、アイトゥイル。何か『声』が聞こえてこんか?」
「………あ、確かに聞こえるのさ。しかも『聞き覚え』が有るのさ」
聞き耳でレーダーの役目を担うビィラックが何かの声を耳にし、アイトゥイルが更に反応して望遠鏡で声の方角を覗き込むと、此方に向かってブルックスランバーの群帯が十数羽突っ込んで来る。
そして先頭の1羽は、ペリカン特有の頬袋に『人間を頭から呑み込んで』運送しており、呑み込まれた其れは「あああああああああああああああ!!?」と悲鳴を上げていた。
「ん?何か聞こえるぞ?」
「鳥達が人の頭呑み込んで、此方に向かって来てるのさ、ペッパーはん」
「………あのペリカンダチョウめ、プレイヤー丸呑み運搬する趣味……いや待て」
背筋を撫でる嫌な予感。此方に向かってくるペリカンダチョウ、運ばれているプレイヤー、自分達の背後に在るは深い火口湖。ピースが組み合わさり、ペッパーの脳内に『最悪のシナリオ』が産み出される。
「あの鳥作ったヤツ、絶対趣味悪いだろッ!?ビィラックさん、アイトゥイル!俺の肩に!先頭の鳥を止めて、呑まれたプレイヤーを助ける!」
「おう、解ったけぇ!」
「はいさ、ペッパーはん!」
予想が正しければ、あのペリカンダチョウはプレイヤーを丸呑みして、火口湖に放り投げて落下死させる、悪趣味なモンスターだ。つまり今、自分達以外で其のプレイヤーを助ける事は出来ない。
スキル:スケートフット並びにバリストライダーを起動。おまけとして、レベルアップで手にしたステータスポイントを敏捷に11振り込んだペッパーは、山の斜面を滑走し、アイテムインベントリから
『ギョエー!!?』
「やぁおはよう。そして口ん中の物を盛大に吐き出せペリカンダチョウ!」
逃げようとターン旋回をする僅かな隙、ペッパーはスキル:首断ち・ラダースラッシュを重ね、駄目押しに
『ギョエ………』
首関係に関するスキルの重ね掛けが効いたのか、はたまた致命剣術自体が凄まじい威力だったのか。『壱刃決殺』によって首チョンパされ、呆気ない断末魔の鳴き声と共に、プレイヤーの頭を丸呑みにしていたブルックスランバーが消滅。ペッパーの目の前には『青玩駝鳥の羽根』がドロップアイテムとして出現する。
「ふぃ~…一撃で首を斬り取れたわ。失敗してたらヤバかった……」
「ペッパーはん、この人って前に会ってた人さね?」
ドロップアイテムの羽根を拾い上げ、アイテムインベントリに仕舞った其の時、アイトゥイルが旅人のマントを引っ張ってきて、ペッパーが振り向いた時、彼は衝撃と共に絶句した。
「きゅう………」と目を渦巻きの様に回していたのは、見覚えが有る青色の魔導師ローブ、大きな魔法使いの帽子、身長150cm程の小柄な少年のアバター。
「しっかしあの鳥共…開拓者を弄ぶったぁ、随分腐った性根をしてるけぇ…!」
「本当に許せないのさ…!見掛けたら焼き鳥に…ペッパーはん?」
下手をすればプレイヤーが死亡していた事案に、ビィラックとアイトゥイルの姉妹は怒りを顕にしていた。が、其れ以上の感情に曝されていたのは、助けに入ったペッパー本人であり。ビィラック、アイトゥイルの2羽を肩から下ろし、大きく息を吸い込み。
『いや何で此処に居るんだよレーザーカジキィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!!?』
火口湖に向かって、今の心境を木霊せたのだった……
まさかの乱入者