VR初心者ゲーマーが往くシャングリラ   作:ガリアムス

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恐怖を前に人は何を思う




衝動と焦燥のデュアルドライヴ

フェアリア。其れは『フェアリア・クロニクル・オンライン〜妖精姫の祈り〜』にて登場する邪神(ヒロイン)にして、クソゲーマー界隈に置いては『ゲームのラスボスの邪神すらも上回る程の真なる邪悪』として知られる、色々な意味で最凶最悪の存在である。

 

クソゲーマー・サンラクを始めとして、此のゲーム自体をクリアまで耐え忍べたプレイヤーの数は少なく、ゲーム進行其の物すらも阻みに来る挙動は数多くのゲーマーにVR機材を投げ捨てさせた挙句、『こんなクソゲーなんぞ二度とやらんわ!!!』と言わせた、人生でプレイしたクソゲーの中でも五指に入れる者も多いゲームだ。

 

そんな地獄を乗り越えて、もう二度と其の(ツラ)拝みたくねぇと思っていたサンラクだったが、よりにもよって護衛対象の『第一王女アーフィリア』とは一部造形こそ違えど、殆ど同じだった事が絶大な衝撃を今の彼女()に与えていた……………主にトラウマ的な意味で。

 

「いや、いやいやいやいや……………!大丈夫だ、落ち着け、心を強く持て、俺は乗り越えた、乗り越えたハズ………。…………うん、ダメかもしれない……」

 

マフラーに擬態したエムルがピクリと反応するが無理も無い。クソゲーマーは通常のゲーマーと違い、メンタリティに優れている事は多々在るが、ゲーマーとはどう転んでも『人間』という枠組みからは逃れられず、同時に知性を持ち思考出来る唯一無二の生き物であり、何よりも『幸せな記憶』以上に『不幸の記憶』が刻み込まれて、尾を引き続ける者でもある。

 

ましてやトラウマともなれば──────彼女(フェアリア)の盾にされて邪神(ラスボス)に呪われたサブヒロイン(シャラハール)を、泣く泣く『無人島に置き去りにする原因』だったりともなれば、必然的に消えぬヘイトは記憶と心に燻り続けて、軈ては其の身を焼き焦がす業火にまで変わっていく。

 

「…………………決めた、決めたぞ。一番最初に攻撃して来たヤツを、俺は『()()()()()()()()』。何処へ逃げようが、何処に隠れようが。地の果て海の果て空の果ての何処に逃げようが、絶対に見付け出して──────『()()()()()()()』……………!」

 

死という概念を伏して形にした黒き死に捧ぐ嘆き(レクィエスカト·イン·パーケ)はリュカオーンの刻傷(こくしょう)だろうとも破壊されず。彼女()がブチギレながらに青筋を浮かべる様に、ピキリ……パキリ……!と破壊を食い止める音を常に鳴らし、暗闇の樹海に散らしながら在る姿は、ヴェールの内に在る顔を拝めずとも其の威容を代弁しているかの様で。

 

刻傷の権能によって周りの騎士達がサンラク達からジリジリと後退した挙句、ヴェールに隠れた『鋭利な視線』は王と王女を視覚外から不意討ちをせんとしていた騎士すら怯ませ、其の身を立ち竦ませて縛っている。

 

「成程…………歴戦の騎士達を怯ませる程度には手練れを寄越したようだ。……………まぁ良いでしょう、であれば最初に刃を向けた者が倒せば良いだけです」

「き、気をつけてくださいまし!ユリアンは本当に、とても強い剣士です!」

 

頼むから其の口を開かんでくれと無言で視線を飛ばしつつ、ユリアンを見据えたサンラクはまるで怒りの感情が一周回り、落ち着いた様にスン…………となっており。

 

「第三騎士団団長、『絶命剣(キリング·ソード)』ユリアン。今一度貴殿の名を聞こう」

「生憎外道に名乗る名等は無い」

「ふん…………なら『遅ェ』ばぎゃっ!?」

 

まるで『縮地』に似た挙動と、一瞬で『雷光』の如く移動し、ユリアンの顔面に拳を叩き付けていたのだ。

 

サンラクが使用したのは、ニトロティック・チャージとウォーロック・ティーンのレベルMAX状態の二つのスキルを合成。生まれたのはスキルレベル1に付き一回、十メートル以内の超加速と加速中にランダムなステータスにバフが入る『ニトロブレイズ・ブースト レベル1』であり。

 

開拓者最速の称号【最大速度(スピードホルダー)】による加速は、封雷の撃鉄(レビントリガー)(ハザード)によるモーション自体の強化や、封星の撃鉄(エイセイトリガー)(ハザード)の直線加速にこそ今は未だ及ばないが、其れでもユリアンがレイピアを突き出すよりも速く、己の拳の距離に到達。

 

加速(ブースト)された速さと共に放たれたレテ・バニッシャーを内封した右拳が、ユリアンの顔面に突き刺さった挙句に彼を数回回転させて、背中から地面に叩き落として気絶させたのだ。

 

「見えてるんだよ。そっちの挙動も、何もかもな……!エムルッ!サイナァ!!」

「はいな!【マジックチェーン】!」

「なっ!?」

笑止(おっと):貴方に二人には触らせません」

「ぬぐぉ!?」

 

付けていたマフラーがヴォーパルバニーに変わり、魔導書より放たれた魔力の鎖が騎士の凶刃を止め、別の方向から攻めてきた相手にはサイナが対処。其の僅かな隙間に多重的円周運動(オービット・ムーブメント)による円周挙動で回り込んで、擦れ違い様に手刀首トン二連で騎士を二人気絶に追い込み。

 

僅かな時間で団長と団員二人を無力化に追い込んで見せ、団長を踏み付けて団員の首根っこをサイナと共に押さえた事で、残った第三騎士団員全員の戦意を削ぎ落とすに至らせた。

 

「聞け、堕落せし騎士達よ!騎士団を率いる此の男と仲間の命が惜しくば剣を捨てよ!!不意打ちで陛下と殿下を狙う、卑劣な所業は万死に値する!今此の瞬間、貴様等の団長たる此の男の命を奪わぬは、聖女のせめてもの慈悲だと知るが良い!!!」

 

怒りのパワーを力に変えて、騎士団相手に彷徨う剣としての意志を見せ付ける。其の姿は黒い装束と女体化したサンラク本人の声、更にはリュカオーンの刻傷の威圧感も相まって此の場に置ける主導権(イニシアティブ)を完全に掌握していたのだ。

 

「──────道を開けろ、それとも団長を見殺しにした恥まで上塗りするつもりか?」

「くっ…………!」

「あ、お前はもう一回寝とけ」

「ごぶぇ!?」

「だ、団長ーーー!?」

 

ハイヒールの踵でゴリッとやってやった。騎士団長の顔にめり込んだが、此の程度で死ぬとは思えないので大丈夫……………だと思いたい。

 

「!サンラクサン、二つが此方に来ますわ!一つは『物凄いスピードで空を走ってますわ』!」

「ヨッシャ来たァ!!」

 

片方は空中を走っている事から『ペッパー』である事は確定。もう一つはおそらく『イベントフラグ』と予測出来るが、さて一体何が出て来るのか?

 

「サンラクッ!」

「エムル、無事さね!」

「サイナ、取り込み中か」

『ワゥ!』

「ペッパー、ナイスタイミング!!」

「アイトゥイルおねーちゃん!」

「カルネ=ヒトミ、此方の計算より十秒程速いですね。ですが到着タイミングは完璧、そう言わざるを得ないでしょう」

 

ペッパー・アイトゥイル・ヒトミ・ノワが合流した、最大速度(スピードホルダー)最大高度(スカイホルダー)の、およそシャンフロ内最高峰の機動力持ちが合流し、例え何方が倒れたとしても片方が生き残れば万事解決といった所。

 

そしてペッパー達が到着し、僅か五秒後に『奴』は樹海をブチ破って姿を現した。

 

『『『カロロロロロ………!!!』』』

「…………おっとぉ?三つ首ティラノさんが御来店ですか」

「身体中に傷………まさか!」

「報告:個体目ドラクルス・ディノサーベラス『傷だらけ(スカー)』。姉妹機(シスター)の報告に上がっていた、此の樹海に置ける『主個体』と推測されます」

「推奨:即時撤退行動」

 

刹那──────傷だらけが三つの頭より放った咆哮が、樹海の空気を震わせた事により、此の場に居た全ての命は『逃げなきゃ死ぬ』と確信するレベルの悪寒に晒された。

 

「……………………」

「!」

 

アイサインでペッパーに指示を送り、動き出したタイミングで傑剣への憧刃(デュクスラム)を手にウツロウミカガミを起動。ペッパーがヒトミと共にトルヴァンテとアーフィリアを誘導し始めたので、エムル・サイナと別離れなく死を憶ふ(メメント・モリ)を回収。

 

ユリアンと団員二人を解放して、ペッパー達の後を追うのだった…………。

 

 






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