貴方の仕事、私の仕事
「ペッパー、助かったぜ」
「準備期間中に依頼されたからね。仕事はキッチリこなすのが一流って奴よ」
「違いねぇ」
ドラクルス・ディノサーベラス『
そしてペッパーはサンラクが受けたクエストの護衛対象、先王トルヴァンテと第一王女アーフィリアに向き合って片膝立ちになった後、ライノベレーの帽子を外して片手に持ち。
名前隠しの三部位一体の装備の名隠し機能をオフにした状態で、頭上に己の名前が示される中、彼はまさに黒騎士の如く挨拶を行った。
「御初に御目に掛かります。トルヴァンテ国王陛下、そしてアーフィリア王女殿下。私はペッパー、ペッパー・
「初めましてなのさ、国王陛下と王女殿下」
『ワン!』
「
何時見ても其の場に応じたロールプレイが、ペッパーは様になっていると思うサンラク。彼の名を聞いたトルヴァンテとアーフィリアは目を丸くして、国王は彼に言った。
「御主がノアベルト・オルトロス・サードレマが言っていた『蒼空を舞う勇者』、そして夜の帝王の分け身か…………」
「サードレマ大公の名前…………もしや、私を御存知なのですか?」
「うむ。開拓者達の中で『最も高き空まで飛び』、そして『最も深き海の底まで潜りし者』。サードレマを駆けし『黒い流星』の噂が流れ、ファステイアの地に埋没した『巨大なる獣』を呼び起こし、そして『夜の帝王の分け身を従えた』気高き魂を宿す強き者であると………そう余の耳にも届いておる」
そりゃあ
「さて……………」
サンラク的には、さっさとクエストをクリアしてしまいたいというのが事実でもある。理由は至極単純で、此れ以上アーフィリア相手に
一応ペッパーが撮影した新大陸の空中写真のコピーが在り、
「仇討の刃よ………余とアーフィリアを救い出した事、褒めて遣わす」
「………国王陛下の御言葉、我が身に余る光栄に御座います」
トルヴァンテから声を掛けられたサンラクはペッパーがやった様に、しかしてペッパー程で無くとも騎士道的ロールプレイを行い、トルヴァンテに己という存在を示す。
人脈や顔の広いプレイヤー達は、こういうロールプレイの積み重ねで広めているんだろうなと思いつつ、後々の事も踏まえて粗相をしない様に心掛ける。
「仇討の刃よ、御主の名を申すが良い」
「名乗る程の者ではないのですが………サンラク、と申します。こちらはヴォーパルバニーのエムル、モンスターではありますが頼りになる相棒であり、そして此方のインテリジェンスガールのサイナは機械の身なれども、我が身と我が相棒をサポートする、素晴らしき参謀役に御座います」
「ふふーん、ですわ!」
「
耳ピコピコのエムルに満面のドヤ顔を決めるサイナを見つつ、何やかんや言いながらそっちのロールプレイも様になってるじゃんと、心の内にてペッパーは思う。
互いに首を狙って来る殺人兎に容姿は違えどメカガール、更に勇者に至ってはリュカオーンの分け身を連れているともなれば、トルヴァンテとアーフィリアの表情も驚愕や困惑に、興味と恐怖の色を帯びていく。
が、アーフィリアは其れ以上の……………サンラクという命の恩人に眼差しを向けて言ったのだ。
「サンラク……サンラク様と仰るのですね」
「んっぐ、えぇ…………ハイ」
「………
「んぐぐぐぐ…………」
「まるで………そう。まさしく御伽噺の中の、英雄の様で……!」
「ぐっ………?!」
サンラクの様子が『おかしい』事にペッパーは気付いて、助け舟を出す様にロールプレイを展開する。
「トルヴァンテ国王陛下、アーフィリア王女殿下。こうしている間にも先程の騎士団の追手や、此の樹海に潜むモンスターが御身に襲い掛からぬとも限りません。故に此の場より移動し、開拓者が作り上げた教会まで戻るというのはどうでしょうか?」
「…………うむ、其の通りだ。アーフィリアよ、今は我が身を大事にするのだ」
「あ、は、はい!御父様!」
父と娘の話題を逸らし、サンラクに目配せを送ったペッパーに、サンラクはヴェールで表情は隠れながらもサムズアップで応え。前線拠点たる港町を目指して、再び移動を開始するのだった……………。
突然ですが、開拓者の中で最も速い者と最も高く跳べる者が組み合わさると、護衛系任務では何が起きるでしょう?
「サンラク、百メートル先の地面に舗装跡を見付けた。道を辿れば前線かティアプレーテンまで行けるよ」
「ナイスだ、ペッパー。足首を挫かねぇ様に降りて来てくれ」
「了解っ」
正解は『空中からの観測と最速のルートの割り出しによる、護衛対象の迅速な移動が出来る』──────だ。
「此のペースで行けば今夜中には帰れそうでは有るか…………」
「サンラク、皆は無事か?」
「火炊くとモンスターに気付かれて面倒になるし、其の状況にならないだけ十分と言えるがな」
「問題無い。私とサイナの視界内監視とエムルとアイトゥイルの聴覚補助で、此の付近にモンスターは居ない事は確認済だ」
サンラクの身に付いているリュカオーンの刻傷、ペッパーの右手に在るリュカオーンの愛呪の
「……………
「……………
「三つ先の木の所に何か居るですわ」
「あぁ、確かに居るさね」
耳元で囁くヴォーパルバニーズと征服人形の声を受け、コクリと頷き合ったペッパーとサンラク。国王の護衛をサンラク達に頼み、ペッパーが
「こんばんわ」
「ひ……むぐぐっ!!?」
レーアドライヴ・アクセラレートで瞬間移動から真正面に陣取り、悲鳴を上げようとしたので口を優しく押さえれば、其の存在が『短弓を握る植物性の繊維で織った衣服を着た、金髪耳長の
黒狼の鋭眼の効果時間が継続する中で周りを見れば、彼女の後方には百人以上居る森人族達と、
「済まない、麗しい森人族の御嬢さん。自分は貴女に危害を加えるつもりは有りません。何より此処で悲鳴を上げれば、他のモンスターに気付かれてしまいます」
「ひ、ひぇ…………」
「ですので。貴女の後ろの方に居る方々に、合わせて頂けないでしょうか?貴女や貴女達を『導いている方』の様な気がしますので」
「ひゃ、ひゃい…………」
「ありがとうございます」
リュカオーンと同じ眼の色を宿した開拓者から、視線を向けられた森人族の女子の『エレナ』はビビりながらもコクコクと頷いて彼を案内し。
「エレナ…………と、名無し…………えっ、まさか………!?」
「
「えっと、貴方が森人族を導いている人かな?自分はペッパー、ペッパー・天津気だ」
エルフスキー達の期待を背負い、誰一人の脱落者を出す事無く彼等彼女等の故郷・ティアプレーテンへ辿り着き、森人族の天啓を受けて前線拠点に移動していた勇者『トットリ・ザ・シマーネ』と、カルネ=175号機こと『カルネ=イナコ』。
最大の空と最深の海を見たシャンフロプレイヤー史上初の二冠を戴いた勇者、名を隠す装備の機能を切って頭上に己の名を示し証明した『ペッパー・天津気』。
ネームバリューや実績は異なれど、二人の勇者が樹海の内にて巡り合ったのである。
勇者と勇者の邂逅