VR初心者ゲーマーが往くシャングリラ   作:ガリアムス

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此れは彼と彼女の話




インパクト・オブ・ザ・ワールド 〜人よ、其の一歩に幸有らん事を(前編)〜

8/7、十一時四十五分。

 

俗世間は夏休み真っ只中な都内某駅にて彼女はまるで花の如く立ち、待ち人の到着を今か今かと頭から湯気を立ち昇らせ赤面、夏物の服に身を包みながらに待っていた。

 

彼女の名は『斎賀(さいが) (れい)』、由緒正しき斎賀家の家系に産まれ、学校では文武両道で高嶺の花と知られる少女。そして日本が世界に誇る『神ゲー』であり『おま国ゲー』と揶揄されるシャングリラ・フロンティア内で、瞬間最高火力を記録した『最大火力(アタックホルダー)』の称号を持ち合わせる、シャンフロ廃人の一人である。

 

(今日は陽務君との外出………陽務君との外出………)

 

数日前シャンフロの地にて彼女はサンラクと約束をしていた。其れは現実での彼との関係を更に進展させる事であり、其れはある種の『おでかけ』という名の『ショッピング』でもあり、そして『デート』でも有るのだから。

 

「お、居た居た!『レイ氏』……じゃなくて、『玲さん』待たせた?」

「ひひゃい!?い、いいえ!今さっき来たばっかり…………でしゅ!」

 

夏服今時の服装でやって来た相手の到着に、噛み噛みになりながら玲はサンラク…………『陽務(ひづとめ) 楽郎(らくろう)』に玲は答える。

 

今回の玲の目的は『楽郎との距離を更に詰める事』でも有るが、サブミッションとして『最近使っているヘッドギアの調子がどうにも悪いので、買い換える際の意見を実物を交えて聞きたい』という物だ。

 

「えっと今日は玲さんが使っている、ヘッドギアの調子が悪いから買い換える際のアドバイス………でしたっけ?」

「は、はい。いざって時に、其の………『強制ログアウト』が起きては、とても不味い、です………から」

 

強制ログアウト──────VRゲームの黎明期に置ける火災や地震を含む、プレイヤーの身体に悪影響を与える外的要因が発生した際の『防衛装置』として、ヘッドギアやVRチェアに搭載されている機能である。

 

システム側や出力に対するトラブルが起きても発生する上、其れによって此れ迄のセーブデータが破損によって努力が水泡に帰す事も有ってか、バックアップデータを別に取って置く事を推奨する程、今の御時世では『当たり前』として行われており。

 

「ですので、其の………陽務君がオススメする………ヘッドギアを、教えていただければ…………と思いまして」

「了解です。力になれるかは解りませんが、協力しますよ」

「は、ひゃい!御願いします!」

 

そんな訳で斎賀 玲にとって陽務 楽郎との距離詰めと言う名の、ある意味で『ショッピングデート』とも呼ぶべき戦いは幕を開けたのである………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

実を言えばVRシステムは主に『ヘッドギア型』と『チェア型』の二つの系統に分かれており、其々にメリットデメリットの両面を持ち合わせているのだ。

 

先ずヘッドギア型だが、一番のメリットはチェア型よりも『リーズナブル』かつ『場所を取らない事』であり、格安で手に入る事と収納スペースを食い潰さない事が魅力で、実際に賃貸暮らしをしているプレイヤーの大半が、今もヘッドギア型に御世話になっている事が多い。

 

またヘッドギア型は『手首足首にガジェットを巻き付け、反応を更に拡張する』事も可能で、より臨場感と直感的なアバター操作が可能と言う強みがある一方、其の『総合的な出力』に関してはチェア型の方が圧倒的に勝っていたりする。

 

対するチェア型の強みは『拡張要素を加えに加えたヘッドギア型を、たった一台のみで上回れるだけの出力を叩き出せる』という点が、何よりも優れている。特にプロゲーマーともなれば、使っている機種の出力の段階で勝敗に左右されては元も子もないので、拡張性以上に総合力で判断される事が多いのだ。

 

欠点はやはり『購入費用の高さ』と『配置スペースの確保』という二重の問題、最新鋭ともなれば其の値段は『一台数百万』は下らず、重量も百キロは越えるので限られた者にしか手が出せないレベルの代物。

 

更に室内に置く都合上、移動スペースやらに影響が出る他にハウスダストが排熱口に入ったりして、機材トラブルを起こす危険が常に付き纏ったりと、ヘッドギア以上に油断ならない代物でも有る。

 

「ヘッドギア型もチェア型も、其々に持ち味が有り………。予算と相談したり、メーカーを選んで購入したり、してます…………」

「トッププレイヤーやプロゲーマーともなれば、やっぱり機材の不調には敏感になるんですかね?」

「はい………。特に私や姉は、其の辺りは結構敏感なので………今使っているヘッドギアが故障して、修理に出している間の代用品を、探しておかないと、と………」

 

駅の周辺に在る電化販売店のVR機材エリアにて、ヘッドギアやチェアを見て回りながら、玲は自分のプレイ周辺の事を話す。あわよくば楽郎が使っているヘッドギアのメーカーを聞ければ、其れと同じ物を購入して会話に繋げる事も画策しているので、僅かな情報でも彼女からすれば金銀財宝に等しい物になるのだから。

 

「ん〜…………。今使ってる『ヤオナギ製のヘッドギア』は全体的なバランスは良いし、買い換える前まで御世話になった『フェニクス社のヘッドギア』は射撃武器関連の出力なら一番だった………みたいな話が有るんだよな」

 

VRゲーム黎明期より掲示板にて連綿と続くヘッドギア及びチェアのナンバーワン会社談話、数多の企業が十人十色のVRシステムを開発・日夜鎬を削り合う、ある種の『ゲーム環境』とも言うべき見えない戦場だ。

 

「あ!実は私が今使ってるヘッドギアも、其のヤオナギ製でして…………!特にインベントリとかの持ち物整理は、とてもスムーズな印象有ると、思います…………!特にリアルタイムイベントだと、操作性って出力以上に大事だと言いますか…………!あ、あぅ………」

「…………やっぱり最高クラスのプレイヤーともなると、操作性も大事になるんっすね………。今度買い換える時にちょっと参考にしてみます」

「は、はい!()()()の意見ですが、参考になったなら幸いでしゅっ…………っ……………!!」

 

深々と頭を下げ、そして自分が放った言葉にボスン!と水蒸気爆発を起こした斎賀 玲。そして其れを見ていた買い物客や店員は、彼女と彼のやりとりを見てこう思ったのだ。

 

 

 

 

『最早コレ、告白宣言じゃん』

 

 

 

 

──────と。

 

 






其れは彼女なりの勇気


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