ファイヴァルより兎御殿に舞い戻る
シャンフロ、第5の街・ファイヴァル。近隣に全ての風を飲み込み続けている大穴『
街中は強弱問わず常に風が吹いており、ペッパーの旅人のマントやファーコート擬態したビィラックは、上下左右から吹き付ける風に煽られ、揉みくちゃにされていた。
「マジで危なかったわ…こうも風が吹きっぱなしだと、移動も安心して出来ないな……」
「捲れ上がった時なんて、ワイの心臓なんか止まり掛けたのさ…」
「目に砂入って擬態解けそうになったけぇ…」
此の街は自分達にとって相性が最悪だった。マントが捲られアイトゥイルが白日の下に晒される危険性を、常に意識しながら歩かねばならず、ビィラックにとってはふとした拍子に、ファーコート擬態がバレる可能性も有り、兎に角全てが噛み合わない。
「ビィラックさんは、先にラビッツに戻っていて下さい。アイトゥイルは、サードレマの時と同じく擬装して隠れてて。俺はファイヴァルの武器屋でマッドネスブレイカーを成長させてきます」
「解った。終わったら、成長したソイツを見せちょくれ」
「気を付けてな、ペッパーはん」
アイトゥイルにマナポーションを2本渡し、彼女が開いた扉でビィラックは一足先にラビッツの兎御殿に帰還する。そして彼女の擬態を見届けた後、ペッパーは旅人のマントを一度外すや、駆け足でファイヴァルの武器屋に向け、移動を開始したのであった………
「おやおや…。ペッパーさんだねぇ……」
ファイヴァルの武器屋に辿り着いたペッパーを迎えたのは、ちんまりとした見た目で齢60代にも迫る眼鏡を掛けた老婆だった。この人が鍛冶師なのだろうか、そう思って話し掛けた時、老婆は驚く事を口にする。
「えっと、お婆様…」
「フフフ…。マッドネスブレイカーを
エスパーなのか、そうじゃないのか、ペッパーが言おうとしていた事を瞬時に理解して言ってきた。
「え、何で解ったんです?」
「長年鍛冶仕事をしているとね…其の人が何をして欲しいのか。何を望んでいるのか。武器はどんな姿に成りたいか…そういうのがちょっくら解るのじゃよ…」
ふぉっふぉっふぉっ…と笑っている老婆。話は早くて助かるが、此れは此れで怖い。
「じゃあ…お願いします。炎水剛岩は必要な分以外は、売却で費用にしたいのですが……」
ビィラックが造ってくれたマッドネスブレイカーと、栄古斉衰の死火口湖の火山内で採れた、炎水剛岩達をカウンターに積み上げていく。
「まぁまぁ…此れだけ有れば、十二分に育ててあげられるわ。任せなさいな、ペッパーさん。ただ…炎水剛岩は少し特殊な加工を必要とするから…『3日程』時間を貰って良いかしらねぇ?」
「はい。じっくり時間を掛けて、育ててやって下さい」
こうしてファイヴァルの武器屋にて、マッドネスブレイカーの三大成長形態の一工製作を依頼し終えたペッパーは、返す脚で風が吹く街中を駆けてアイトゥイルの待つ裏路地に逃げ込み、彼女が開いたゲートを越えて兎御殿に帰還する。
「いよっし。炎水剛岩を使うマッドネスブレイカーは、ファイヴァルで製作依頼完了!アイトゥイル、1回休んだら兎御殿の食事処に行くよ」
「おぉ、ソイツは新武器の前祝いなのさ?」
「あぁ。ライブスタイド・サーモンとホラルマッシュルームで、包み焼きにしたら絶対旨い筈だ。少し休んで来るよ」
「行ってらっしゃいなのさ~」
1度昼食を挟んだ休憩を取る為、ペッパーは毎度御馴染みとなった、休憩室のベッドにてログアウトしていった………。
1時間後。昼食&トイレ休憩を挟んで、シャンフロに再ログインしたペッパーは、アイトゥイルと共に兎御殿食事処にやって来た。暖簾の向こう側から漂う昆布出汁の良い香りに誘われながら、1人と1羽は室内に足を踏み入れる。
「おぅ、ペッパーやないか。久しいのぉ、飯でも食いに来たか?」
入って右側の食事受け取りと会計カウンターから、兎御殿の料理長でアイトゥイルの弟のティークが、ヒョッコッと顔を出してきた。
「御久し振りです、ティークさん。食材を手に入れたので、俺とアイトゥイルに貴方の料理を御馳走して貰いたいと思って来ました」
「酒に合うものを頼むさ~、ティーク~」
「応ともッ、因みに食材は何を使うんだい?」
ティークの問い掛け、ペッパーは既にアイトゥイルと何を食べるかを決めている。
アイテムインベントリから、千紫万紅の樹海窟で採れたホラルマッシュルームと、涙光の地底湖で釣り上げたライブスタイド・サーモンを取り出し、カウンターに乗せていく。
どちらも採って直ぐにアイテムインベントリに仕舞ったからか、採れたて新鮮の凄まじい活きに成っていた。
「そうですね。えっと…此のホラルマッシュルームと、ライブスタイド・サーモンを使った料理を………あれ?」
ふとペッパーが見ると、あんぐりと顎が地面に着いてしまう程に、口を開けるティークの姿が。
「ら、ららら、らららららら………!ライブスタイド・サーモンやどぉおおおおおおおおおおお!??!」
思いっきり叫んだ声が、兎御殿の外のラビッツの国にも響き渡った。
「
目をキラキラと輝かせ、ライブスタイド・サーモンを見つめたティークは、ペッパーに提案を持ち掛けてきた。
「ペッパー、コイツを………ライブスタイド・サーモンを、オイに卸させちゃくれんか!?」
まさかの展開にペッパーも驚く。食事処なので食材とマーニを用意して、食事を食べるだけかと思っていたのだが、食材の買い取りもしていた情報を獲られたのは、かなり大きい。
良い食材なら、相応の値段で買い取ってくれるだろう。
「えっ、あはい。良いですけど…御値段は如何程に?」
「おう……!其れなら━━━━」
ペッパーは此の時、ライブスタイド・サーモン1匹辺り、大体『1万マーニ』くらいだと予想していた。ロブスター1匹釣るまでに、大体30匹は釣れていたので、30万マーニは稼げる計算にはなるだろうと。
其れくらい有れば、各種ポーションや消費アイテム、後は投擲玉やらの買い物が出来るし、武器の育成・防具の新調等々、色々出来そうだと考えて。
しかし、食材系アイテムは高値で売れる物は、ペッパーが此れまでプレイしてきたゲームの統計上、かなり限られている。ましてや地底湖で釣り上げたサーモン、価値は流石に誇張し過ぎただろう…そう思っていた。
「1匹『10万マーニ』で卸させてくれぃ!」
ティークが此のサーモンに、己が予想していた『10倍』の値段を付けるまでは。
(……………んんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんん?????????)
「あ、あの~…………」
「どうした、ペッ「コレ全部、卸させて頂けませんかね?」…………ハァ?????????」
そう言ってペッパーはアイテムインベントリから、ペンシルゴンとのパワーレベリングの最中に釣り上げまくったライブスタイド・サーモンを次々と取り出し、食事受け取り口のカウンターに乗せていった。
ティークにとって此の光景たるや、自分の目の前に金塊が積み重ねられていくのと同意義に等しい、凄まじい光景であり。30匹のサーモンがピラミッド状に重ねられる頃には、彼はあまりの衝撃で気絶してしまい、アイトゥイルのビンタによって目を覚ます事に。
漸く落ち着きを取り戻したティークは、宣言通り1匹につき10万マーニの、合計300万マーニを支払って━━━━
「今日はライブスタイド・サーモンの造りじゃあああああああああ!オヤジやイーヴェルにも伝えて、豪勢にいっちょるぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!イヤッハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」
1周回って頭のネジが吹っ飛んだような、とんでもないハイテンションで、早速調理に取り掛かり始め。そしてペッパーは此の1日にして、とんでもない大金を入手する事になったのであった………。
そして同時にこうも考えた。珍しい食材を手に入れたら、ティークの所に持っていって換金しよう…………と。
大金獲得は突然に