大金入手から、一点しての危機
「いやぁ~………。世の中、何が金に成るのか解らないな~。アハハハハハ………」
兎御殿・食事処を後にしたペッパーは、ライブスタイド・サーモン30匹が300万マーニに変わった事で、浮かれ半分怖さ半分が入り交じって、グチャグチャになった感情と共に、アイトゥイルを肩に乗せて歩いている。
「ペッパーはん、ペッパーはん。お金沢山入ったなら、良いお酒を奢って欲しいのさ」
「……そうだね。アイトゥイルには何時も御世話に成ってるし、何か良い酒でも買おうか」
金銭面は余裕が有るので、エンハンス商会に寄って良い酒でも労いに買うとするか……そう思っていた時である。
ふと目の前が光に包まれて、ペッパーとアイトゥイルは『何故か』兎御殿の
「あらぁ~ペッパーさん、アイトゥイル姉さん、久しぶりねぇ~♪」
「……あれ?何で此処に立ってるの?」
自分達は確かに休憩室に戻って、其所からサードレマの裏路地に行こうとしていた筈だ。何時の間にか特技剪定所に居る事実にペッパーは混乱するも、逸早く真実に辿り着いたアイトゥイルが、受付で営業スマイルをしているエルクに答えを突き付けた。
「なぁ、エルク。さっきの光をやったんは『アンタ』やな?何が目的なのさ?」
「あらあらぁ~アイトゥイル姉さん、兎聞きが悪いわねぇ~?さっきティークが叫んでたじゃない、ライブスタイド・サーモン……って」
「ちぃ…流石は銭ゲバ妹兎さ。もう金の匂いを嗅ぎ付けて来たのさね」
つまりは、さっきの光はエルクが仕組んだ罠で、此方に何か買わせようと考えている……という事だろうか。
「えっと、エルク……さん?因みに此処から出るには?」
「少なくとも『5つ』は買って欲しいわねぇ~。ペッパーさん『200万マーニ』以上は、確実に持っていそうだから……ねぇ?」
エルクの狙いは、此方の所持金が100万マーニになるまで、秘伝書やら何やらを買わせまくるつもりかと、ペッパーは気付いて頭をもたげる。
しかしエルクは、そんな悩むペッパーの背中を押すべく、こんな事を言ってきた。
「其れにぃ…今回売りたいって思ってるのは、ラビッツの~延いては兎御殿の中でもぉ…『特別な御客様』にだけぇ売り出すつもりでいる…とぉっても貴重で、とっても凄い……『
シャンフロ各地の街に点在する特技剪定所には、秘伝書以外に『極之秘伝書』と呼ばれる、強力なスキルを内封している巻物が販売される事がある。
性能面ではユニークに及びこそしないものの、其れ等のスキルは何れもが一線級に等しく、中には極め抜けばユニークにも引けを取らない、凄まじい性能を誇る物も多い。
ただ、其のスキル達は全てが例外無く『一定の条件を満たし、特定のモンスターを
故にスキルを最高練度に至らせる為、自らのレベルを下げてスキルの熟練度を高めに掛かる、レベルダウンビルドを敢行する、ガチ勢開拓者も居るとか居ないとか。
「極之秘伝書…ねぇ。値段を見せて貰っても?」
「ペッパーはん!?酒買う分の金は残してさね!?」
「あらぁ、興味があるのねぇ~ペッパーさん。此方が其の極之秘伝書よぉ」
躊躇する所か、興味を示して値段を聞いたペッパーに、アイトゥイルは当初の酒用の資金を残すように言い、エルクは意外と言った声色で手に持った巻物を広げた。
同時に1人と1羽の前に、無数のスキル達が立ち並び、其の全てが頭文字を『
そして其の値段はというと、安い物で30万マーニの一番高い物に至っては150万マーニという、やはりぼったくりレベルの金銭要求をしてきた。
「うぉあ…?!やっぱり極技なだけあって、相応のマーニは要求するよねぇっ…!?」
「さぁさぁ、どれにしますかぁ?」
ずずずずいっと迫るエルクに、ペッパーはプレッシャーを感じながらも、致命極技の内容を確認していき、判った事があった。
其れは致命極技の全てが『レベル50以上』で初めて習得条件が『開示』される事。つまりは仮に購入したとしても直ぐに習得は出来無い上に、規程練度に到達するまでスキルの詳細も判らない、謂わば『先行投資』を意味する。
(そうなると……だ。多く購入しても、全て習得出来る訳では無く、絞り込んでの購入が必須になるか…。ならば━━━!)
数分の沈黙の果て、ペッパーは極之秘伝書の中から2つ、致命の秘伝書から3つを購入する事に決めた。
「エルクさん、決めました。先ずは致命の秘伝書からで、
極之秘伝書からは、
「はぁい、お買い上げぇありがとうございますぅ♪」
三日月巴9万マーニ、水鏡の月8万マーニ、月光円舞13万マーニの30万マーニ。晴謳80万マーニと那由多轍60万マーニの140万マーニ。5つのスキルで合計170万マーニと、ペッパーは現在の所持金の半分以上が、スキルの秘伝書により一瞬で消し飛ぶ事になったのだった……。
「暫く特技剪定所は行きたくないな…」
エルクによって手にした大金が、半分以上持っていかれたペッパーは、アイトゥイルを肩に乗せて、溜息と共に兎御殿の廊下を歩く。
「銭ゲバ妹兎は『ああゆう』事を普通に仕出かすから、ほんまに厄介なのさ。ただ其の分スキルも強力な物が多いし、進化すると使い方次第で化ける技も多いのさ」
「其れはそうなんですよねぇ………」
実際ブルックスランバーを首チョンパで一撃必殺にし、レーザーカジキを落下死から助ける事が出来たのも、一重に
未進化であれだけの威力を誇る御業を、最終極致まで至らせたなら、何れ程の強さに成るのだろう。そして致命極技の技は習得した時に、何れだけの恩恵を自分にもたらすのか。期待が否応無しに高まってしまう。
「よしっ、うだうだするのは此処まで!アイトゥイル、サードレマへのゲートを頼む!」
「任せてなのさ!」
兎御殿の休憩室に走り込み、アイトゥイルがゲートを開く。何時もの様に彼女を旅人のマントの中に隠し、扉を開いてサードレマの入り組んだ裏路地の一角に出る。
と、出たのも束の間、此方を見ていた複数人のプレイヤーと目と目が合った。
「…………………………ん?」
「…………………………ん?」
暫しの沈黙。そしてペッパーは反射的に、スキル:ムーンジャンパーと七艘跳びを同時点火。建物の壁をクライムキックを使って『三角跳び』の要領で跳ね、屋根の上に避難した。
唐突な出来事に、プレイヤー達は唖然として。しかし直ぐに落ち着くや、大声で叫びまくる。
『ペッパーが居たぞぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!屋根の上に逃げたあぁあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!』
其の声に反応したプレイヤー達が建物の屋根を見上げる中、ペッパー本人は千紫万紅の樹海窟に続くゲートへ━━━━━━『向かっていなかった』。
「ペッパーはん、どないするのさ!?」
「このまま他のエリアに続くゲートに行っても、待ち伏せされて捕まるまでがオチだ!だからこそ、一回『キッチリ』追手を振り切る必要がある…!と、そうも言ってられなさそう!」
スキル:バリストライダー並びにボディパージ、駄目押しのオーバートップビートを起動させた彼の視界には、自分と同じように建物の屋根を使って追い掛けてくるプレイヤーが点々と見える。
「待ちやがれー!」
「情報寄越せー!」
「ペッパー待たんかゴラァ!」
「そんな血眼で脅す奴等に、渡す情報なんかねぇ!」
鋭角移動に防御を捨てて敏捷を高めたペッパーは、疾風となってプレイヤーの前を走り去っていく。
「くっそ、アイツ速いぞ!」
「いや待て…この先はサードレマでも『上級貴族』とかしか、立ち入れない場所じゃねぇか!」
「馬鹿だな、ペッパー!自ら行き止まりに飛び込むなんてよぉ!」
他のプレイヤー達は、ペッパーが間違えた選択をしたと考え、黒い笑みを浮かべていた。此れで漸く情報が入手出来ると。
(………まぁ。彼等がそんな風に考えてるなら、此方にも在るんだよ。こんな状況を打破する『切り札』って奴がな……!)
移動しつつ、アイテムインベントリから『あるアイテム』を取り出し、ペッパーは目的地となるサードレマの『上層と下層を隔てる門』の前に到着する。
「貴様、何者━━━!?」
「此処から先は━━━━えっ!?」
行く手を阻まんとする門番が槍を使って、通せんぼうを掛けるも、ペッパーが取り出した『エンハンス商会会員証』を見た瞬間、槍を引いて『どうぞ、お通り下さい!』と言い放った。
そしてペッパーを追い掛けてきた他プレイヤーは、会員証も無ければ通行証無く、門番達によって『お引き取りを!』と弾かれてしまう。
彼は其の様子を確り見届け、怨嗟に等しい声を挙げるプレイヤー達を背にして、上層エリアへと消えていったのだった……。
ラン・オブ・ペッパー in サードレマ
致命を冠する極みに均しき其の御業は、弱者が真なる強者へと至る為に、其の身に課される