ペッパー、次なる目的地へ
「よっしゃ逃走成功だぁ!情報欲しいなら、其れなりの対価で
サードレマ・上層エリア。下町とは一線を画す高級感と綺麗な街並みが広がる、上級貴族や一部商人を始めとする権力を持つ者のみが入る事を許された場所である。
ペッパーは特殊クエストによってエンハンス商会会員証を手にしていた為に入る事が出来たが、彼を発見して追い掛けてきた他プレイヤーが通行証が無い為に、門番によって足止めを食らう中、アイトゥイルと共に彼は此処へ避難出来た。ペンシルゴンが言っていた通り、会員証のお陰で、安全地帯に逃げ込めた様な形に成った訳だ。
「其れにしても…綺麗な場所だな。下町エリアも良く見える」
下と上とで隔絶された空間を見るペッパー。そして感じるのはNPCの視線━━━━やはりリュカオーンの
「………アイトゥイル、裏路地に入ったら兎御殿に帰還して、フォスフォシエにゲートを繋いでくれ。酒は其所で買ってくる」
「解ったのさ、気を付けてさね。ペッパーはん」
今後の事も踏まえて、装備は確実に新調して置いた方が良いと考えるペッパー。幸い所持金は、まだ130万ちょっと有る。金は有るだけ有った方が良いが、使い所では奮発しきっておかなくては、持ち腐れになった経験が有るが故に。
オーバートップビートのデメリット解除と同時、裏路地に移動した1人と1羽のパーティーは、開かれた扉を潜り抜け、彼より手渡されたMPポーションで失った魔力を、風来兎は供給。そして再び扉をフォスフォシエへと繋ぎ、彼は1人で街の防具屋へと走って行く。
「ひょえ…!?い、らっしゃい…ませ!!!」
フォスフォシエ・防具屋にやって来たペッパーは、直ぐに店内へと入る。其の店の受付には女性NPCが立っていたものの、ペッパーの姿を見た瞬間に顔を真っ青に、冷や汗と恐怖に震えながらの台詞を言ってくる。
夜の帝王の呪いを憑けた、ヤベー奴認定をNPCに食らっているペッパーは、既に其の反応には慣れきった表情で、彼女へ用件を伝えた。
「すいません、新しい防具を一式で購入したいのですが……」
「は、はい!?た、ただいま!?!」
彼女の台詞と共に、目の前の画面に羅列する防具一式の数々。此処まで御世話になってきた、隔て刃シリーズと初心者装備の皮の帽子に、心の中で『ありがとう』と伝えて、彼は新たな装いを
新装備の候補となったのは『3種類』。
1つ目は『
2つ目は『スカルバーディーシリーズ』。亡邪の飛竜こと、ワイバーンゾンビの素材を使って製作された一式装備であり、呪術系統に対する耐性並びに、竜型モンスターに特効能力を内臓している。費用は30,000マーニ。
3つ目は『ブラッディスカーシリーズ』。費用は55,000マーニと、此の街では最も値段が張る一式装備なのだが、自身のレベル以上のモンスターとの戦闘時に、此の装備を身に付けている部位ごとに、ステータスへ1%のフル装備で4%のバフが乗る。
「よし、蒼零シリーズとブラッディスカーシリーズ、両方を買います」
「は、はい!お、おおおお、買い上げ!ありが、とう…ございましたっっっ!」
代金を支払い、防具一式が2種入ったペッパーは、早速自身をコーディネート。
色々な組み合わせを試し、最終的には蒼零シリーズの頭装備『蒼零のヴォージュハット』と脚装備『蒼零のスートズボン』、ブラッディスカーシリーズの胴装備『ブラッディスカーの長ラン』と腰装備『ブラッディスカーのベルト』に変更。
黒と赤、そして蒼の三色でバランスを取った、其れなりに良い新生装備に生まれ変わったのだった……。
防具屋にて装備を調えたペッパーが、次に辿り着いたのは、以前にマッドネスブレイカーは3つの成長派生形態を内封している、ユニーク武器と教えてくれた恰幅の良い女性鍛冶師が店主の武器屋。
「あら、ペッパーさん。御久し振りですね」
「はい、御久し振りです」
扉を開けて中に入ると、女性が此方に気付いて声を掛けてくる。防具屋の時とは打って変わって、普通に話して接してくれている事が、こんなにも嬉しく感じる不思議だ。
「今日はどのような御用件かしら?」
「此方の武器を見せて貰えませんかね?出来れば『斬撃系統』の武器種を」
「解ったわ」と彼女がペッパーの前に武器カテゴリーを絞った物を見せてくる。其所には種類別に、『短剣』『片手剣』『大剣』『両手剣』『太刀』『大太刀』等と種類がズラリと並び、ペッパーは其の中の『太刀』をタップし、売られている武器と性能を確認していく。
「太刀でも色々有るんだな……何々、耐久値が高くて初心者にも扱い易い『
他にも色々有って…『
改良に必要な素材コストが少なく、
此の先のエリアで有効な消費アイテム『聖水』や、閃光玉として使える『
其所での目的は唯一つ。己に課せられた、マーキングのもたらす表面上の僅かばかりの恩恵、デバフと呪術関係に対する耐性能力の検証を行う為に。
奥古来魂の渓谷………フォスフォシエとシャンフロ第8の街『エイトルド』の間に存在している谷で、嘗ての時代に起きた、人と人との戦争の激戦地になった場所である。
血を血で洗い、大勢の死者を出す程の戦いは、皮肉な事にモンスターが介入する形によって、強制中断せざるを得なかった。
其の結果、渓谷には大量の瘴気が蔓延。生者を憎み、生者を寄せ付けぬ、死者達の世界と成っているのだとか。
「……で、此処に来たわけだが……汚染されてる筈の空気が、随分『美味しい』のはマーキングの影響なのか?」
死んだ珊瑚礁のような白い岩肌が谷と底を作り、フィールド全域を灰色の靄が被い尽くす場所なのだが、ペッパーの周りの空気だけは『澄みきった綺麗な物』になっている。リュカオーンの呪いには、自身よりも弱い魔術や呪術、瘴気がもたらすデバフを弾き、其の身を守っているのだろう。
と、ドスンドスンと地鳴りが聞こえ、其の方向をペッパーが見ると、全身が骨だけの四足歩行の蜥蜴のようなドラゴンが、如何にも悪臭漂う息を吐いて此方を睨んでいる。おそらくアレが『ワイバーンゾンビ』で、フォスフォシエの防具屋で売られている『スカルバーディーシリーズ』の素材になるモンスター。
早速狩らせて貰おうかと、買ったばかりの黒鉄丸をアイテムインベントリから取り出すも、右手にリュカオーンの呪いがワイバーンゾンビの視界に映った瞬間、一転して逃走してしまった。
レベル38でワイバーンゾンビが逃走、エリアを満たす瘴気もマーキングで無効化、其れ等の要素が頭の中で組み込まれた結果、導き出される答えは1つのみ。
「…………………もしかして、此のエリア限定ヌルゲーになってしまった可能性有ります?」
本来ならば聖水や聖職者が必須となる、デバフがうざったいエリアなのだが、ユニークモンスターの呪いによって、エリアボスまで散歩するだけの簡単な物に変わってしまったのである。
が、そんな彼の前には『新たな敵』が現れた。
黒く煤け、血の痕に汚れ、錆が蔓延る甲冑に身を包み、青く燃える手綱を左手に、右手には身の丈程のボロボロの長剣を握り、股がるは関節周り以外、全身の至る箇所に鎧を纏わせた軍馬。
然して其の者と馬には『首より上が存在せず』、剣を振り翳してペッパーの首に鋒を向けている。
「リュカオーンの呪いを見て逃走しないって事は、あのデュラハンは確実に俺よりレベルは『上』だな。良いぜ、全力で俺の首を取ってみな!」
ペッパーも未知の強敵を前に、闘志を燃え上がらせた。アイテムインベントリより
奥古来魂の渓谷にて、レアエネミー『
向かうは瘴気が満ちる死者の谷間、そして現れるは首無し騎士