VR初心者ゲーマーが往くシャングリラ   作:ガリアムス

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リベンジ・トゥ・ムシキングズ





天に光、木々に風、目覚めし遺物に祝福を

千紫万紅(せんしばんこう)樹海窟(じゅかいくつ)。ペッパーはアイトゥイルと共に、幾度目になる此の場所へ走り、やって来た。

 

「すぅ~……ふぅ~…」

 

周辺に他のプレイヤーやモンスターが居ないか、聞き耳と気配を探りつつ、巨木の樹皮に寄り掛かり、緊張を解す呼吸法で、ペッパーは心に余裕と落ち着きを取り戻す。

 

「ペッパーはん、大丈夫さ?」

「…緊張してないと言ったら、其れは嘘になる。怖いかって聞かれたら、正直に言うと……逃げたい」

 

手汗が滲み出て、いざという時に武器を落としてしまいそうになる。ゲームの中の勇者達も、御伽噺の勇者達もきっと、全員が勇敢だった訳では無い。ある者は恐怖で身が(すく)み、ある者は絶望に沈みそうになって。

 

だが、其れでも。勇者達は仲間達に支えられ、誓い交わし合った約束を果たす為、恐怖を絶望を乗り越えて世界を救ってきた。

 

「彼女は……たった一つ遺した夢と想い、そして願いを俺に託した。だったらさ……其の選択が正しかったって思えるように、俺が証明してみせたいじゃん」

 

ヴァイスアッシュに誓った、虚言を現実にする勇者に成る。其の為にも、ティラネードギラファとカイゼリオンコーカサスに、あの時よりも強くなった己を示してみせると、ペッパーは恐怖を心の内に留め、戦意を奮い立てて樹海窟を歩いていく。

 

歩き、歩き、歩き続け。あの日と同じ1匹の蛍が、此方にやって来る。1人と1羽の周りを旋回し、導くように移動して付いて行くと、蛍達が天ノ川を作り上げており。

 

幻想的な道の先には樹海の天を突く、二本の巨木たる双皇樹が聳え立ち、周りには円状に整地された跡が唯々不気味に在る。奥に在る双皇樹の間には、黄金の中に翡翠の光が宿る、巨大な宝石が静かに鎮座して、木漏れ日に照らされ、淡く光を放っていた。

 

「来たな……」

「そう、さね…」

 

あの日の戦い、そして敗北がトリガーとなり、特殊クエストの歯車が動き始めた。リベンジを誓い、新たな武器を手にして、様々な可能性を探り、精進と鍛練を重ねて続けて。こうして今、自分は仲間に支えられ、此処まで辿り着いた。

 

歩み寄るは円で敷かれた境界線、此処を跨げば戦が始まるだろう。

 

「じゃあ、行ってくるよアイトゥイル」

 

戦地に赴く覚悟の瞳。其れを見た風来兎は内より込み上げ、溢れる感情に襲われ。

 

「ペッパーはん!」

 

ペッパー顔を横に向けた、次の瞬間━━━━━アイトゥイルが彼の頬に『キス』をしていた。彼女自身の行動に、頭と感情の整理が追い付かない。

 

「……あ、アイトゥイル…!?」

「………絶対、勝ってさ」

 

漸く言葉を発したペッパーだが、アイトゥイルの黒毛を纏う頬が赤く、細目を潤ませながら言って。彼の肩から降りて、近くの草影に身を潜める。

 

「フッ…そんな事されたら、尚更負けられないな」

 

ニッと口角が上がり、ペッパーは草むらに隠れるアイトゥイルへ、背を向けつつも右手でサムズアップを作り、円内へと足を踏み入れる。

 

直後━━━━━風と雷の魔法で創られたフェンスが、背中側で立ち上がり、彼の逃げ道を封じ込め。同時に吹き荒れる風と轟音の羽音が鳴り響き、翡翠色のギラファノコギリクワガタ・ティラネードギラファと、漆黒と黄金色のコーカサスオオカブト・カイゼリオンコーカサスが、潜んでいたであろう双皇樹の後ろより現れた。

 

『再ビ来タカ…!勇者……ヨ!』

 

ティラネードギラファがそう言い。

 

『アノ日ヨリ…!ヨクゾ、此処マデ…成ッタ!』

 

カイゼリオンコーカサスが続く形で述べる。どうやらレベル40へ到達し、尚且つレディアント・ソルレイアを所持する事で、会話に変化が生まれるのだろう。

 

「ティラネードギラファ!カイゼリオンコーカサス!お前達に敗れたあの日から、俺は強くなった。見せてやる、今の俺の力を!」

 

ギルフィードブレイカーを装備し、吠えたペッパーが構え。

 

『我ハ…颶風ノ申シ子!ティラネードギラファ!』

 

翡翠の甲皇虫が、名乗りて叫び。

 

『我ハ…雷嵐ノ申シ子!カイゼリオンコーカサス!』

 

漆黒と黄金の甲皇虫が、名乗りて叫び。

 

『『再ビ、訪レシ勇者ヨ!其ノ培ワレシ『力』ヲ、我等ニ……示セ!!!!』』

 

羽音と羽ばたきが双皇樹の幹と枝を揺らし、地面に落ちた木葉が舞い上がり。二体の皇達は、ペッパーが空を舞う夢を継ぐに相応しき者であるかを、己の身を以て確かめるべく、再び襲い掛かる。

 

此処に勇者を目指す1人の人間と、2匹の甲虫皇達の戦いが━━━━━始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

此の2体には幾ら攻撃を叩き込んでも、ダメージのポリゴンが発生しない。ニ度目の戦いで初戦と同じく、打撃武器や斬撃武器に切り換えても尚、ティラネードギラファとカイゼリオンコーカサスにはダメージは無かった。

 

致命刃術【水鏡の月】や致命舞術【月光円舞】等のスキルを絡めて、攻撃を凌ぎ続けるペッパーは2体はギミックモンスターであると確信すると共に、訪れるであろう『其の時』を虎視眈々と待ち続ける。

 

ヴァイスアッシュは言った。レディアント・ソルレイアは、2体の甲虫皇達が繰り出す、大きな一撃を受ければ眠りから覚めると。

 

「あと、何分!?いや、今はそんなのどうだって良い!マジで回避に集中しないと殺られるって!?どぅおあ!!!?」

 

前回の時の体力1残しで、戦闘強制終了とは限らない。移動系スキルもフルに利用し、ステップを絡め、走り続けるペッパー。

 

風が真横を擦り抜け、雷が大地を抉り、2体の甲虫皇が巨体を用いて、力強い一撃を叩き付けてくる。耐え忍び、回避を続け、突撃を往なして弾き。

 

そして━━━━━『其の瞬間』は訪れる。

 

ティラネードギラファとカイゼリオンコーカサスが天に舞い上がり、各々の象徴となる鋏と三ツ角を光らせて、風と嵐が巻き起こる。

 

『夜ノ帝王ノ呪イ、刻ミシ…勇者ヨ!』

『我等ガ試練、越エテ…ミセヨ!』

 

空を切る烈風が走り、爆ぜる稲妻が迸って、ペッパーの視界には初めて戦った、あの日の光景が蘇る。

 

目を閉じ、息を吸い込み、ペッパーは叫ぶ。脳裏に浮かべるは、因縁深きアーサー・ペンシルゴンこと天音 永遠。彼女は何時も『ゲーム』を楽しむ時には、そう言っていたのを思い浮かべて。

 

「さぁ…『ド派手』に行こうか!」

 

アイテムインベントリより、レディアント・ソルレイアを取り出し、装備した瞬間に彼を襲うは、轟雷と旋風の融合攻撃。

 

最初と同じくして、彼が光と風に包まれた時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奇跡は覚醒(おき)た。

 

 

 

 

 

 

 

 

着弾地点に起こるのは━━━━━『息吹(いぶき)』。

 

まるで此の世界に産み落とされた、新しい生命が産声を上げるようにして、其れは起動(めざめ)る。

 

嘗て一人の女性が描いた、蒼天の空を舞うという途方もない夢物語。

 

人と人が争い、其の夢と願いは潰え。何時か正しき者によって、再び甦る事を願い。唯一遺して逝った彼女の想いは、永く遠い時間を越えて、遂に結実する刻が来た。

 

「行こうぜ…レディアント・ソルレイア!ティラネードギラファとカイゼリオンコーカサスに、俺達の力を見せてやろう!」

 

絶大な風と雷の奔流の中心にペッパーが立ち、両脚に装備されたレディアント・ソルレイアが、放たれた烈風と轟雷の悉くを喰らい尽くし、其の鋼の脚にエネルギーを蓄積。

 

同時にバンデージのドリルが音を上げて回転し、ラジエーターは開かれて白い蒸気を放出。響いたのは『エネルギー・フルチャージ!』の音声だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

此の日、此の時、此の瞬間。

 

 

神代の時代に『始源』の胎動へ抗う、唯一無二の『龍の王』を模倣し、人の身に纏い、彼の者を支える為に創造された、『光輝へと昇る金龍王装(レディアント・ドラゴニウス)』の一欠片が甦ったのである。

 

 

 

 

 

 

 






目覚めよ、レディアント・ソルレイア


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