やって来たのは
蛇の林檎──────シャングリラ・フロンティアというゲームに置いて、旧大陸の一から十五の街に存在するNPCが運営するカフェであり、VRゲームで有りがちな味覚制限効果が働く中で唯一、味覚制限がほぼ緩和された状態で此の世界の食事を楽しめる場所だ。
其れでも称号【美食舌】を獲得しなければ、料理も塩や砂糖を大量投入した大雑把な味わいにしか感じないので、プレイヤーによっては称号無しでは楽しめないという感想が有る訳だが。
アイトゥイルが開いたゲートを越えて、名前隠しのコートの中にアイトゥイルとディアレを隠し、足元の影にノワを擬態させ、インベントリアの片方にヒトミを収納してドアノブに手を掛け扉を開けば、大人な雰囲気が漂う店内にプレイヤー達の姿が相応に居る。
そんな視線が向く先はせっせと手を動かして調理を続けるウィンプと、出来上がった料理を体に乗せてサポートするサミーちゃん、カウンターではビキニアーマーを纏った金短髪の幼女がモシャモシャと料理に齧り付いている様だ。
「あ、ペッパー!」
「店内では御静かにが当たり前のマナーじゃないんですか?」
そんな中で誰かが此方に気付いて声を上げ、此方の存在が不特定多数にバレた。我先にと言わんばかりの勢いでプレイヤー達が殺到、瞬く間に包囲網を構築しようとしているのでカウンターに移動し、一先ずミルクを頼んで落ち着く。
「…………ふぅ」
ミルクが届き、飲み干し息を吐く。ウィンプもウィンプで金髪幼女の対応に忙しく、此方に気付けども其れ所では無い様子。其の幼女も出された料理を次から次へと、物凄い勢いで食しては彼女の腹の中へ消えている、大食い選手か何かなのだろうか?
「いやはや良く食べるな『ティーアス』ちゃん………」
「あの人の『アレ』はなぁ………。使ったら先ず『即死』だもんなぁ………」
(ティーアス…………確かペンシルゴンが言ってた『最強のNPC』で、サンラクの『師匠』なんだっけ)
あれから調べたが、シャンフロ内で起きるPKerによるPKを断罪する役割を持つ特殊な
見た目こそ幼女だが、此の手の類は別の
「……………………」
そんな此方の事情なんざ知ったこっちゃないとばかりに、ティーアスは粗方料理を食い尽くしたのか、ペッパーの方をジッ………と見る。其れはまるで自分の事を『品定めする』かの様な、そんな視線で見つめて居るので彼は声を掛ける。
「………えっと、顔に何か付いてま「ペッパー・
まさかティーアスにまで名を知られているとは思わなかったが、よくよく考えれば旧大陸を治めるエインヴルスの国王・トルヴァンテに名を覚えられていたので、おそらく他のプレイヤーやNPC経由で耳に入った可能性が極めて高い。名前と悪目立ちが極まっていると、喜ぶのでは無く悲観するべきだろう。
「
「………其れは光栄と言うべきなのか、何というべきか………」
何故最後にペパ子ちゃんを持って来たのかは知らないが、最速のNPCにも此処まで認知されているという事情は、ある種のネームバリューとネームパワーを誇るのは間違い無い。
と、ティーアスがマーニの山を置いて会計を済ませ、椅子から腰を上げて見上げる様に此方を見たので、此方も席を立ちつつ会計を済ませ、スッと膝を曲げながら視線を彼女に合わせた所、此の場に居た誰もが予想だにしなかった『驚きの発言』が、最速の賞金狩人の口から飛び出す。
「…………
「……………何て?」
どうしてこうなったのだろう?
ティーアスからの突然の運動相手に指名され、新大陸の前線拠点内の広場に移動する事となったペッパーは、一先ずアイトゥイルとディアレは毛玉に擬態から、蛇の林檎のマスターに一時的に預かって貰い、ノワは影を移動して別の場所に潜伏させて、此の突発的なイベント戦に頭を擡げて思考を回す。
「何だ何だ?」
「人混みが出来てる………」
「何か始まるの?」
「ペッパーに着せ替え隊じゃん、しかもティーアスまで居るし!」
「どうやらティーアスから、ペッパー氏が運動相手に指名されたんだとさ」
「マジで!?」
プレイヤー達が円を作り、人混みがコロシアムを構築する。ある者は建物の屋根に登ったり、ある者は戦術機を足場に高さを確保し観察、ある者はティーアスvsペッパーの賭けをし出したりと、何がどうしてこうなったのかと困惑しつつも、ティーアスと向き合う。
「ルールはどうしますか?」
「
「成程、非常にシンプルで」
何をして来るのか解らない、解っているのは『気付いたら負けていた』という情報と、NPC内で『最速』という事のみ。さて何をするのかとティーアスを見れば、彼女が得物を取り出して…………両手に握るのは箱というか、雰囲気としては十徳ナイフの様な『ヘンテコな物』という印象を覚える物を持っている。
「すぅ………ふぅ………!」
深呼吸を調え、インベントリアから取り出すは二つ。
一つは
もう一つは金晶独蠍"
他のプレイヤーが一体アレは何なんだと興味を示す中、彼は無言で皇金剣の柄尻に在る針で命晶核を刺せば、丸々と輝く黄金の玉は吸い取られて萎んでいき、最後には取り込まれてしまい。
同時に柄からは黄金の輝きを持つ、大剣に近しい分厚い七枝刀と言い表せる刃が産まれて、月光の輝きを受けてギラリと光を帯びた其れは、此の場に集いて観る者達の目に『鉱石を食わせる事で後付けの刃を精製するトンデモ武器』という印象を記憶に刻み付ける。
更には両脚に
「
「シャンフロ最速の賞金狩人、ティーアスさん。………挑戦者として、其の胸を御借りします!!!」
黄金に輝く剣刃を振るい翳し、連結スキルの
突発的イベント