嵐の前の静けさ
『…………レーザーカジキよ。時は来た』
「もしかして、ジークヴルムさんとの決戦…………ですね。エルドランザさん」
シャンフロの旧大陸、第十五の街・フィフティシアから離れた場所に存在する隠しエリア『栄光の廃船グローリー・エリス号』、嘗てはPKer達のクランとして名を馳せた『阿修羅会』が根城として使い。
其のクラン立ち上げを打診した女──────アーサー・ペンシルゴンが其の手でクランを滅ぼした此の地は現在、一匹の青き竜と一人の竜を模した装備を纏う青き魔術師たる開拓者が拠点としている場所で、其の竜…………『青竜エルドランザ』は太古の生物たるクビナガリュウの如き、長い首を持ち上げて『レーザーカジキ』へ言う。
『うむ、
「同じ場所………ですか」
『あぁ。レーザーカジキよ、心当りが有るなら申してみよ』
エルドランザの問い掛けにレーザーカジキは少し考える。ジークヴルムのユニークシナリオの討伐対象の白竜と緑竜の双方が、同じ場所を目指しているという状況は彼からしても『何が有ったらそうなるのか』と疑問を抱かずには居られなかった。
「………もしかしたら、ですけど。白竜と緑竜は『前線拠点』を目指していたりしてませんか?」
『前線拠点とな?』
「はい、僕達プレ…………えっと開拓者が、新大陸側に作ったという場所が在って、海岸にも面している場所でも有るらしいんです」
『フム………であるならば、其処が『戦地』に成り得るだろうな。だが妾達の狙いは端から『ジークヴルムのみ』、
「そうですね。目標を絞るのも大事ですから………」
海を覇する者に至らんとするが故に、エルドランザにとってジークヴルムの打倒は『通過点』でしか無い。何れは深海に潜む三強や不世出の存在達を越えるとなれば、ジークヴルム如きで止まる訳にはいかない。
レーザーカジキもまた其れが解っているからこそ、エルドランザの海中下でのレベリングに付き合い、時折パートナーのヴォーパルバニー・エストマと共にラビッツに戻ったりしつつも、エルドランザから褒美として与えられた『アイテム』で装備や武器等の強化をコツコツと続けて来たのだ。
『レーザーカジキよ、此れより妾は海を一気に渡る。其の背に確り掴まっておれ』
「はいっ!くれぐれも安全に行きましょう!」
『無論よ』
初めて遭遇した時は深海の強敵達によってズタボロだった彼女の身体は、此処最近のレベリングであの時よりも遥かに大きく、更に力強くなった。
鰭を伝って身体に攀じ登り、背中の頂部へとレーザーカジキが乗っかったのを確認したエルドランザは、其の身の大部分を『海へと溶かして』一気に水面を突き進む。
青竜は動き出し、友情を繋いだ青い魔術師と共に、断絶の大海を越えて旧大陸から新大陸へと向かって行く………。
新大陸・前線拠点。
ノワルリンドと
「私がティアプレーテンに城を建築するって………?」
「なんか『笑みリアさんが陣頭指揮執って、スカルアヅチ級の城を建築する』って噂になってるけど………やっぱデマなの?」
対傷だらけの戦略拠点とし、旧大陸のサードレマに匹敵する広さを誇る
誰が発端だったのか、音も葉もない噂は風と共に流れる中で膨張していったというらしいが、笑みリアはシャンフロを長らく共にプレイする間柄の『
「今の所スカルアヅチ級の城を『新しく作る予定とか無い』ですし、何よりスカルアヅチは『私の有給を有りっ丈注ぎ込んで作りました』から」
「ログインしても無表情と「ノワルリンド潰す」やら「スカー潰す」って呪詛吐きながら、トンカチ振ってる姿は『ホラー』だったからね。
笑みリアという
シャンフロ世界の重要NPCたる国王トルヴァンテや王女アーフィリア、慈愛の聖女イリステラも滞在して居る事からも、此の城が何れ程の力を誇るのか、想像するに容易く。そしてノワルリンドと傷だらけの、合計四つの首を飾る此の城の天守閣に入る事を許されているのは、建築者の笑みリアと『パーティーを組んだ者』しか資格を持たない。
「いやはや、王族でも足を踏み入れられない絶景ってのは、実に素晴らしい限りだや〜………」
「こんにちはディプスロさん、以前はどうもありがとう。今日は何か『話がある』とメールバードを受け取ったのだけれど」
「あぁうん。とびっきりの『特ダネ』だよぉん………」
片方の肩の後ろに『紅い腕を一本生やし』、其の動きがまるで彼女の心の内を静かに表すかの様に有る、シャンフロ内でも未だ片手で数えられる程度しか居ない、ファストトラベルを可能にする魔法使い系最上位職業:賢者の女プレイヤー、ディープスローターは笑みリアに対して端的に。
だが…………此の状況に至るまでに仕込み、蒔き続けた情報が開花した事による『確信』を以て、スカルアヅチを建てた大棟梁と其れを支える風水導師に対して言った。
「どうもドゥーレッドハウルを討伐した事も起因したのか、ユニークシナリオEXの影響かは知らないけど……………『白と緑の竜が前線拠点を目指して進軍を開始した』みたい」
ボイスチェンジャーでも用いているのかレベルの変声技法を駆使し、ブロッケントリードとブライレイニェゴの其々に接触からの相応の利点やらカマを掛ける形で『焚き付け』た事、其れによって二体の竜が前線拠点に向かった事、連動して『四つの亜人種達』が動いた事を隠しつつ、ディープスローターは話を続ける。
「笑みリアちゃん達が打倒して、晒し首にしたいって燃えてるノワルリンドは、此方もランダム転移で新大陸の片っ端から捜索したんだけど、残念ながら見付けらん無かった。エルドランザは聖女ちゃん様の言葉的に、竜達の集結で現れる可能性が高いと思う」
ノワルリンドの捜索はディープスローター自身が、赤竜ドゥーレッドハウル&
尤も其の捜索中に、ドゥーレッドハウル討伐の発起人たるペッパーが天覇のジークヴルムと激突、夜襲のリュカオーンが御座りで見上げている場面に遭遇した訳だが、ペッパーが『ジークヴルムを模倣した一式装備を所持している』といった情報は、流石の彼女でも掲示板放流に自らの意思で『待った』を掛けた程、其の破壊力は計り知れなかったのだ。
「…………以前の様に、また奇襲を食らうのは御免です。餡ジュ、前線拠点の皆さんに竜が動いたとの通達を。ティアプレーテンやリヴァイアサンに居るプレイヤー達にも同じく。戦力は少しでも多いに越した事は無い」
「解ったよ、笑みりー。直ぐに取り掛かる」
他の色竜が集まれば、ノワルリンドも動く可能性が高くなる。ノワルリンド撃破という目標を掲げ、スカルアヅチを作り上げた笑みリアにとって奴を必ず潰すと決めた以上、何が何でも討伐へ持っていく必要が有るのだから。
餡ジュが伝書鳥のハヤブサ達を呼び出し、コピペした文脈からなるメールを知人やゲームフレンドへと飛ばしまくる中、笑みリアとディープスローターは天守閣より移動し、賢者は脳内で産出した『竜達の前線拠点到達予想日数』を口にする。
「色竜の進軍速度にもよるけど、少なくとも『一か二週間以内』には到達するんじゃないかなぁ…………」
「
緊迫した空気の中で鈴の様に清らかな声が響き、二人が視線を移した先には聖盾輝士団の
「………明確に、とは言い切れませんが。此迄以上に『ハッキリとした光景』が、私には見えましたから」
プレイヤー達の間では『イリステラは未来を見れる』という疑惑が有るが、聖盾輝士団の団長のジョゼットに団員達の落ち着き具合から、彼女の言葉は真実味を帯びていると解る。
其れ以上にディープスローターからすれば、一度も面識が無い彼女が『正確に自分の名前を言い当てた事』に疑問を抱いたし、何なら一瞬自分の表情が崩れそうにもなったので直ぐ様顔に愛想の仮面を付け直し、イリステラに問い掛ける。
「十日後、ですか…………聖女様」
「はい。彼等は、彼女等は……来ます。笑みリア様の怒りの根幹たる『黒き竜』と、海を覇さんとする『青き竜』も。そして………『黄金の龍王』もまた、此処に集わんとしています」
即ち『残った色竜が一同に介する』という事。ディープスローターにとっては、コツコツ蒔いて積み上げた成果が聖女の発言によって、此の瞬間に『確約された』事を意味していた。
「其れにしても気になるのは、一体何故今になって此処に集まるのですかねぇ………聖女様?」
「ふふ………。ディープスローター様ならば、きっと『御理解り』でしょう?」
「…………へぇ」
イリステラとの僅かな会話、其の中でディープスローターは『イリステラがシャンフロプレイヤーのログを閲覧可能な可能性』を勘繰りながら、ニヘラ………と静かながらに微笑み。
そして此の時此の瞬間を以て、反ノワルリンド及び傷だらけ討伐派のプレイヤー達は来る決戦の時に備えて、慌ただしく準備や調整に追われる事となるのだった…………。
『ふン、我が片鱗を授かる栄誉を受けながら、随分とノロマな事だ』
「誰だって最初は弱い物ですよ!其処から強くなっていくんです!あ、ノワルリンドさんは『最初から強いからもっと強くなる』って事ですかね?!」
『ククク……。まぁ世辞としては『及第点』だな。良い、貴様の塵芥が如き媚を我は許そう』
「えっと、塵も積もれば山となるですよ!ノワルリンドさん!」
『………む?うむ。そうだな、うむ』
一瞬空を
「私の……えーと、友達や仲間の人達から聞いたんですけど、ジークヴルムだけじゃなくて他のドラゴンさん達も来るみたいです」
『今居るのは『老害』に『気狂い』、他には『高慢ちき』か。『小物』は斃され屍になった様だか………所詮はただ生を貪るだけの『雑魚共』に過ぎん。我が狙うはジークヴルムただ一つのみよ』
ノワルリンドの背中に乗った
尤もブロッコリートリトーンとブラブラニャンコの正しい名前は、ブロッケントリードとブライレイニェゴにドゥーレッドハウルなのだが。
「そうですね、目標を絞るのは私も賛成です。でもでも、ノワルリンドさんは前線拠点の方々から結構恨みを買ってるみたいだし………『私達』がノワルリンドさんを手助けするんです!」
応ッ!と親鳥を追う雛鳥達の如く、ノワルリンドの後を追って背中の羽根を羽撃かせ空を飛ぶ、ノワルリンドの眷族となった黒い
彼等彼女等はノワルリンドの様に常に空を飛び続ける事は出来ない為、定期的に地面へと落下しては木や岩などを踏み台に再跳躍する事で、低速かつ低空で飛ぶノワルリンドに追随しているのである。
『まぁ良い。此の我に
「最良の状態で挑んでこその挑戦ですからね!ノワルリンドさんはジークヴルムとの戦いに集中してください!」
『………ふん、言われるまでも無い』
黒竜は何を言うでもなく前を向き……………しかし其の背に乗せた少女を振り落す事もなければ、其の背に続く小さな影を振り払う事もまたなかった。
竜達が前線拠点に集うまで、残り十日──────。
決戦は8/31
※ディプスロは原作通り、白竜と緑竜を焚き付けて前線拠点に突撃させました。突撃させたのを確認した後、彼女は