栄養補給は必須
ホテルや旅館の宿泊での楽しみの一つに、食事や風呂の要素はある種の『御決まり』とも言える立場に在る。
更に言えば、提供される食事の質によって其のホテルや旅館の質という物は決まり、勤める従業員や職人の研鑽が骨組みや外郭をより強固にし、そして最終的に其のホテルや旅館の『品格』として発露するのだと、個人的に思っている。
「うめぇうめぇ…………」
「良かったねぇ、あーくん」
今の自分は多分、人生史上初『語呂力を消失しながら食事を取ってる変人』の図になっている。
ビュッフェスタイルで綺麗に盛り付けられた料理達から好きな物を選び、其処に栄養バランスを含めた観点から選りすぐり、皿の上にキャスティングして劇場を作り上げ。
永遠と向かい合い、盛った料理を台本に寄り添う役者の如く上品に口へ運び、朝食を食い逃した分も昼食と合わせて此処で腹に収める事が、今回のタスクだ。此れで三回目かつ腹六分目なので、今回取っていた和食で終わりにしよう。
因みに一回目は中華の、二回目は洋食です。
「そう言えばサン………じゃなくて楽郎は?」
「何か軽く食べられる物って言いながら、スイーツ食べに行ったんだって」
「へ〜………」
人の好みは人其々と言うので、あまり気にはしない。友人のソウちゃんこと創太 蒼助、或いはシャンフロで武器狂いの異名持ちのSOHO-ZONEと、中学時代にとんかつ屋へ一緒に食事をした時だったが、彼が千切りにしたキャベツを味噌汁に入れて食べるのを目撃した事が有る。
彼曰く『程良く浸して食べると美味しい』と言っていたので、一度真似はしたが口に合わなかった物の、其れでも『そういう
「ふぅ………良い具合に満たされた。御馳走様でした」
「御馳走様でした」
『食べ放題は自分の胃袋と要相談、御残しは絶対駄目が基本条件。いただきますとごちそうさま、決して忘れる事無かれ』と、五条家の家訓にもそう書かれているのでキッチリ守る。
レストランを出て部屋に戻る道すがら他の客とすれ違ったりするのだが、天音 永遠と其の彼氏が一緒に居ると解る人には解るらしく、二度三度見てはギョッとした表情で首を回したり、彼女へ恐る恐る声を掛けたりやら握手したりやら、自分は思いっ切り敵意を向けられて睨まれたりしつつも、自分の部屋へと向かう。
「…………やっぱり付いて来るのね」
「とーぜん。エキシビションマッチの明日まで時間は有るし、少しでも君と一緒に居たいんだよん♪」
「解った解った………」
スッと手を差し出して姫をエスコートする王子の如く、梓は永遠と手を繋いで共に歩く。自分の宿泊部屋に着き、周辺に誰かが居ない事を確認して、素早く部屋の中へと入った。
ベッドに隣り同士で座ってスマフォでGGCに関する情報をリサーチすれば、新作ゲームの発表を行うリアルタイムステージイベントを現在進行系で配信をやっているらしく、シークバーを動かして過去の映像を再生すれば『シャングリラ・フロンティアの物理エンジンたる『シャンフロエンジン』を搭載した新作ゲーム』の紹介をしており。
其の中で一番槍を飾ったのは、明日のエキシビションマッチで実機プレイというパフォーマンスを行う『ギャラクシアヒーローズ:カオス』、続いてルスト&モルドがチャットアプリで声高らかに叫んでいる、二人にとっての神ゲーたる『
そして何より梓にとっての
「『ギャラクシー・ブレイダーズのフルダイブ型VRゲーム化、しかもシャンフロエンジンを搭載して完全リメイク』…………!?
彼にとってのオリジンにして神ゲー、レトロゲーム界隈で五指に入る真ラスボス攻略難度を誇る、ギャラクシー・ブレイダーズがVRゲームとして再誕する。夢か幻かと疑った己の頰を思いっ切り引っ叩き、痛みがじんわり伝わった事で此れが現実だと解って歓喜する。
「おぉ〜、あーくんにとっての神ゲーって奴かな?此のギャラクシー・ブレイダーズって」
「あぁ!まさか夢にまで見た、自分のオリジンたるレトロゲームがVRゲームに生まれ変わるなんて…………!発売日は…………まだ判んないが、此れで俺には『生きる理由』が産まれた!発売日判明に完全クリアまで、絶対死ねなくなったわ………!」
何時の日か訪れる其の時を待ち侘び、声高らかに『ギャラクシー・ブレイダーズは良いぞ!』と誇りを以て叫ぶ為、今以上に健康に気を遣う人生方針を固めていれば、Eメールアプリに二通のメールが着信。
一通は『自分の父親』からで、内容は『
果たして何が有ったのやらと永遠と共に部屋を出て、途中で『物凄くグロッキーな表情の楽郎』と合流。聞けば『オーダーをミスってトンデモスイーツを一人で平らげる』という地獄を越えたらしく、暫くスイーツは良いから肉や魚が食いたいと愚痴を零した。
そんなこんなで慧の宿泊部屋に到着し、先に着いていた恵が内側からドアを開けて、三人が中へ入れば表情が凝り固まった慧が頭を抱えて、恵もまた曇り顔をしている。
「どーしたカッツォ、此の世の終わりみたいな顔しやがってまぁ」
「あー……………今から言う事を、ちゃんと聞いてくれ。本当に不味い事になった……………」
其の表情からしても非常に不味い事態らしく、一体何が起きたのやらと心配する中、慧は『最悪過ぎる情報』を口にする。
「実は家のスポンサーからの依頼で『ルインズ・ウォー・ハウンズ6の世界大会決勝戦に強制参加させられて』、ギャラクシア・ヒーローズ:カオスのエキシビションマッチに『参加出来なくなっちゃった』……………」
唐突過ぎる出場不可の宣告を告げられ、連密に組んでいたプランの大多数が音を立てて崩壊を喫していくのが、梓と楽郎に永遠の脳内で響き渡り。
三人は漸くして「「「……………………は?」」」と、其の一言を口から放ったのである。
風雲急を告げる