VR初心者ゲーマーが往くシャングリラ   作:ガリアムス

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幕開け




目を開いたまま悪夢を見る

「さぁ〜て、日本人らしくアレッ………コホン。…………ハイドロハンズ君を『オモテナシ』しなくちゃ、ね」

 

A-Z(恋人)が見せ、Nu2meg(メグちゃん)が示したロールプレイのスイッチを入れ、クロックファイア(名前隠し)は戦闘開始と共に発生したヴィラニックタイムで、手頃な『生贄探し』を始めていた。

 

ケイオースシティの市民(NPC)()()では無いヴィランキャラに対して『明らかに警戒』を示すのだが、一部ヴィランに関してはヴィラン側から危害を加えたり、被害を出さない限りは『普通に接してくれる』という特徴が有る。

 

数日のゲームとシステム周りの検証で、名前隠しはクロックファイアの場合は『市民が左目に埋め込まれた紅い義眼を見ない限り警戒しない』というシステムの特色を掴み、会話を含めたコミュニケーション等が出来るといった『メリット』を発見していた。

 

そう…………名前隠しにとってはNPCとの会話が問題無く()()()、NPCが此方の思う様に()()という要素こそ、自分というクロックファイアが『存分に力を振るえる事』に他ならない。

 

と、そんな折に自分の脚に誰かがぶつかって、べチャリと何かが落ちる音に小さな声が。右目で見下ろせば小さな女の子が尻もちを付いて、近くにはアイスクリームが地面に落っこちていた。

 

「ご、ごめんなさい!おねーさん!此の子の不注意で………!」

「あ、いえいえ。御構い無くー。元気な女の子ですね〜」

 

直後、駆け寄って来たのは女の子の母親と思しき女性。『おそらくアイスクリーム屋で購入したアイスを食べるのに夢中で、女の子は此方に気付かなかったのだろう』…………と、此の母と娘の状況を盤面情報()()でクロックファイアは大方の事情を把握したのだ。

 

「栗きんとんアイス……………ぐずっ」

「(栗きんとん?栗きんとんアイス?何かチョイス渋くない?)…………とと、泣かないで御嬢ちゃんって『クマさん』も言ってるよ?」

 

女の子の前に膝を付いて視線を合わせ、まるで手品師としか思えない挙動で頭に乗せたシルクハットを取って、帽子の縁を軽く叩けばPOM!と軽快なSEを鳴らし、現れたのは『クマのぬいぐるみ』だった。

 

「はい、どうぞ♪」

「わぁ〜!マジシャンみたい!」

「良いんですか?」

「えぇ、勿論」

 

そう言って悪魔()は自然な笑みで嗤う(笑う)、己の内なる本性を隠す様にして。

 

「ただ、此方のクマさん。ちょ〜っと『注意して欲しい事』が有って──────」

 

再びシルクハットから飛び出すクマのぬいぐるみ、其れを手に取ったクロックファイアが右目を開けて、徐ろに道路へと放り投げる。

 

「えっ………」と栗きんとんアイスの少女の母親が困惑し、地面で数回バウンドした所に走って来たのは、何十人もの乗客を乗せたケイオースシティを走る一台のバス。

 

其の車両が道に転がり込んだクマのぬいぐるみを、クロックファイアが作った『爆弾』を圧倒的な質量で轢き潰した、次の瞬間─────────一つの大爆発(一輪の紅い華)が電脳の都市の中で爆ぜた(咲いた)

 

「強い衝撃を与えると、あの様に『爆発』しますので……………どうぞ御注意を」

 

爆炎がバスの乗客と運転手を飲み込み、断末魔の叫び声が轟いた爆発音に掻き消されながら、先程までバスと市民『だったモノ達』が宙を舞って弧を描き。

 

近くに在ったバス停で到着を待っていた別の市民や、爆発の音に止まっていた通行人達を等しく無慈悲に、雪崩の如く纏めて巻き込み、人々の悲鳴と絶叫が魔王による『劇場の開演を告げる演出として』利用されたのだ。

 

当然ながら愛しい我が子に渡され、ベッタリと吸着し『一定以上の力で無ければ剥がせない爆弾』を着けられたと知った母親は、恐怖に震えて娘を見て。母に助けを求めんとし、視線を向けた娘の前で快楽第一主義者の爆弾魔は、母親にもクマのぬいぐるみを『くっ付ける』。

 

「あ〜其れと。もし力付くで剥がしたり、逃げたりすれば『任意で爆発させられるので』、あのバスや乗客みたいに木っ端微塵に消し飛びますよぉ……………?」

 

母親と娘の命運はクロックファイアの掌の上に。そして魔王(ヴィラン)は淡々と二人に対して『御願い』をするのだ。

 

「我が子の身の安全を手にしたければ、私の命令に忠実に従う事。……………モチロン『断()ない』よね?」

 

悪者(サタン)は平穏を嗤い、正義(ヒーロー)は未だ現れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『『……………やっば』』

 

ラウンド開始早々、クロックファイアが起こした惨劇に実況及び解説の二人、更には観客達すらも言葉を消失。漸く状況を飲み込んで言葉を零した訳だが、あまりにも凄惨な状況が実況と解説の二人の心情を其のまま零させる事となったのだ。

 

『…………はっ!?こ、コレはえっと、随分げど………ゴホン!思い切った作戦で…………ヒエッ』

『あ………No Name選手、また市民に爆弾を付けましたね………。ギャラクシアヒーローズの最新作、色々なプレイが出来ると、言います………あ』

 

実況が。解説が。スクリーンの中のクロックファイアが起こす惨劇への準備で言葉を失い、観客達も唖然や驚愕に恐怖の絶句から、ブーイングと悲鳴へと様変わりして会場中の空気が震撼する。

 

「………あ、あれが少女達の憧れ…………カリスマモデルの、所業…………なの?」

「解るよ、夏目(ナツメ)氏。現実って残酷だよな」

「あぁ、アレが彼女だ。相変わらず惚れ惚れする、清々しいまでの手慣れた技だ」

 

恵はドン引き、顔隠しは同意、レトロゲーマーは目を閉じたまま状況を理解し頷く中、アレックスが操るハイドロハンズが消防車と共に現場へとやって来た。

 

が、其処に突撃して来たのはクロックファイアにプリティー・ベアー・ボムをくっ付けられた市民達で。前に右に左から、剰え建物の上から落ちて来てはハイドロハンズと消防隊員達、消防車と別の市民を巻き込んでは盛大に爆発。現場には悲鳴と恐怖と絶叫の、三重奏(トリオ)合唱(コーラス)として奏でられる。

 

 

 

『助けてヒーロー』と市民が叫ぶ。

『貴方なら絶対助けてくれる』と市民が期待し。

『コレを取ってハイドロハンズ』と市民が一縷の望みを掛ける。

 

 

 

原典(コミック)の特色を色濃く、余す事無く、細部に至るまで命が吹き込まれ、リアリティが全面に滲み出た市民(NPC)達がハイドロハンズに助けを求め、我先にと肉の津波と化して押し寄せれば、其の中の数人が爆ぜて市民とヒーローを巻き込み吹き飛んだ。

 

『の、No Name選手!次から次に市民を爆弾に変え………ああ!今度はタクシーと其の運転手も爆弾に………きゃあああああ!?!』

『これはひどい…………あ、混乱に乗じてヘリコプターに…………うわぁ…………』

 

ブーイングと悲鳴が現実と架空の都市に響き、ズタボロのハイドロハンズのコスチュームの内側に居る中の人が、苦虫を噛み潰した様な表情をしており。

 

騒ぎを聞きつけ現れた報道ヘリに爆弾を取り付け、キャスターやカメラマンに操縦士諸共人質に取ったクロックファイアが、上空から高笑いと共に爆発を引き起こしながら何処か遠くへと逃げ去って行く。

 

そして目的地に着いたが最後、ヘリコプターから飛び降りて爆弾を起動し、ヘリ諸共キャスター達を爆殺しながら、己の目的を完遂するべく『次なる準備』に取り掛かったのである………。

 

 






悪辣故に悪鬼も逃げる


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