激突し、火花散る
会場から声援を受ける事はプロの仕事上で幾度か経験した事は有れど、RwH6の決勝戦を助っ人として勝利に導いた後に急いで着替えて全力疾走で向かった先、何故か裏方に居る幾人かのスタッフから「御腹の調子は大丈夫ですか?」と心配され。
やっとこさ会場に到着したかと思えば、解説席に思考深度のおかしいレトロゲーマーが座っていたり、会場の観客席に居る観客達にプロゲーマー、応援を頼んだ仲間達がモニターを見上げて唖然としていたのを見て、自分も見上げればシルヴィア相手に
オマケに第一ラウンドから『コレ』なのだから、一体何がどうしてこうなったのかと、慧は
「重役出勤も此処まで来ると、流石に感心するねぇ
「あ、慧!やっと来てくれた………!」
「正直すまんかった。メグ、ペンシ……えっと名前隠し、今は顔隠しの番だよな?…………解説席にA-Zが居るのは今は良いとして、状況はどうなってる?」
「時間稼ぎにせよラウンド一つ取るにせよ、顔隠し君はシルヴィちゃんに対抗する為に警察署を襲撃したって感じ。後、其の前にシルヴィちゃんの蹴りを掴まえて、アスファルトに叩き付けてた」
「……………ライオットブラッドが効き始めてる?」
「だろうねぇ〜」とモニターを再び見上げる名前隠しに、カースドプリズンでリアルミーティアスに対抗する顔隠しの姿を見、もしかして…………という『期待』を抱く。
何せ顔隠しは、サンラクというクソゲーマーは、初見殺しという面からすれば今迄出会い戦ってきたゲーマー達の中でも『最高峰の実力者』であり、そしてシルヴィアと同じ『テンションファイター』であるからこそ、其の爆発力の高さを誰よりもよく知っているのだから。
「ッ、随分とアグレッシブじゃない!」
「フハハハハハハハハハハ!!!効かん効かんきかぁああああああん!」
「ぐっう!?」
カースドプリズンが吠えて、エンジンが轟々と雄叫びを、マフラーが爆煙を上げて稼働する。
リアルミーティアスの蹴りを受けた直後に、加速しながらにドリフトを絡めた『人間がバイクになる挙動』で、蹴りを加えた数秒しかない硬直時間に後輪タイヤの回転からグローブ状のガンドレッドをブチ噛まして吹き飛ばす。
やっている事は
三半規管はダメージを受けるし、下手すればクラッシュ不可避だし、カッツォはまだ来てないし、何なら何故に自分が全米一位を相手にカッツォの『前座』をやらされなければならないのか…………!
そんな理不尽に対する『ドス黒い感情』が、カフェインと共に赤血球に乗って体内を巡って走り、感情の振れ幅が振り子の如く大きくなって『爆発しろ』と訴える。
「何回地面と土ペロしたと思ってるやがる!何回壁のシミになったと思ってやがる!多過ぎて百回から先は数え忘れたわ!というか覚えてねぇよ!!一々気にしてたら死にゲーなんざ攻略出来るわきゃねーだろが!!!」
「何の話!?ッて気持ち悪ッ!!?」
「別ゲーの話じゃあああああああ!!肩輪走行タックルッッッ!!!」
A-Zがアメリア相手にエクストララウンドまで縺れ込む激闘を、夏目氏が辿々しくも確かなロールプレイでルーカスに健闘を、名前隠しが大魔王とラスボススイッチで会場に恐怖を引き込んだ様に、奴等にも負けたくないという感情が顔隠しの背中を押す。
何よりも─────────祭りの会場に来られずとも、テレビやネットを通じて観ているだろう
シルヴィア・ゴールドバーグは自分と同じテンションファイターであり、そして自分の『上位互換』とも言えるプロの格ゲーマー、そんな彼女は常にリズムを更新し続けて、戦闘の流れを己の物としてしまう規格外の怪物だ。
では彼女にダメージを与える方法は何か?其れが『彼女の先手を取ってカウンターを叩き込む事』、相手のリズムで戦うのでは無く、己が出したリズムに彼女を乗せて『選択肢を収束させてリズムを奪い取る事』なのだ。
別の言葉に例えるなら、暴れるヘラクレスオオカブトを専用の巨大ゲージの中に入れる様に。自由に飛び回る小鳥を鳥籠に閉じ込める様に。一度重力圏に踏み込めば光すら逃れられぬブラックホールの様に。およそ一筋縄で勝たせてくれる訳が無い最速の相手に、顔隠しは『先手も後手も取らなくてはならない』という─────────そんな
「相手の掌の上?相手のリズム?知るかそんなもん!クソ食らえだ!!相手の策や思考なんざ、此方が爆音叩き付けて
「……………ッ、カースドプリズン…………!」
「ウォオオオオオオ!天地逆転、頑張れ俺様の三半規管キーック!!!」
カフェインと燃料が燃え、接地した肩タイヤを利用した反時計回りの回転を乗せた脚のタイヤが、跳ね返り跳弾するミーティアスの蹴りを回転による受け流しから、カウンターの如く回転蹴りが突き刺さった。
手数と速度はミーティアス側が断然上だが、今の状態でバイクを複数台取り込んだカースドプリズンは、歩行もまともに出来ない最遅の状態ながら、機動力と単純な馬力は相手の数倍を誇っている、あまりにも『チグハグな状態』である。
だがリアルミーティアスが数十発の蹴りを打とうが、カースドプリズンの打撃や蹴りの一発直撃だけで戦況を巻き返せる、事実カースドプリズンが体力二割を切る中でミーティアスは体力残り僅かという、端から見ても『まさか』や『もしかして』と抱かせるには充分な様相を呈して。
「フハハハハハハハ!ハーハッハッハッハッハッハ!!!さぁどーすんだ、シルヴィさんよぉ!此のままラウンド貰っちまうぜぇー!?」
「─────────す………い……す………いい……」
「あん?何だ?」
突如ぼやき始めたミーティアス、否シルヴィア・ゴールドバーグに顔隠しが首を傾げて。
「凄く良いよ、No Face!君のカースドプリズン!凄く良いッッッ!」
「お、おぅ………そりゃどうも」
目にハートマークならぬ
「A-Zやアメリアの戦いも、そして今回のエキシビションマッチも、学べる事や楽しめる所にドキドキも沢山在った。けど第一ラウンドから、こんなに
今回の戦いでアメリアはカースドプリズンとして己の殻を破り、A-Zはヒーローとしてのリアルミーティアスの更なるステップを踏んだ。
そしてシルヴィにとって一番の幸運は、今迄出会い戦ったカースドプリズン達の中で、最も『らしい』カースドプリズン使いに出逢えたという事。
だからこそ、彼女は試すのだ。
目の前に立つカースドプリズンが己が探し求め続けた存在、ミーティアスの原作者から『リアルミーティアス』と呼ばれてよりずっと、今日まで胸の内に秘めた『答え』を確かめる為に。
「だから、ちょっと『試したくなっちゃった』」
地面に脚を着け、ミーティアスがスタート体勢を整える。
「今から全力で、真っ直ぐにダッシュするから─────────『私に攻撃を当ててみて』」
ヒーローとはヴィランが居てこそ、初めて真に輝ける。そしてリアルミーティアスとして、己の全存在を懸けて倒さねばならぬ『リアルカースドプリズン』が居てこそ、初めて自分は『流星』として輝けるのだと。
「……………ふ、ふはははは!良いね、ゼンイチ直々の挑戦状か!受けるのは癪だが、どっちが上か
取り込んだオブジェで作ったガンドレッドを拳状態に構え、不安定な体勢をタイヤと両腕と足腰のバランスで整え、カフェインによりテンションとバイブスを高めたカースドプリズンが、全白バイのエンジンをフルスロットルにし迎え撃つ。
数秒の静寂、そしてシルヴィのミーティアスが地面を蹴り凄まじい加速をする中、カースドプリズンは取り込んだ全エンジンによる加速と研ぎ澄まされた集中力、そして嘗て一度だけ『
回転するカースドプリズンの巨体の足元を『スライディングで股抜きする』も、肩にガンドレッドの拳が『僅かに掠った為に』体力を削られた事で、ミーティアスの体力は0になる。
「……………
流星が倒れる最中、獰猛な肉食獣めいた視線が注がれるのを見た呪われし監獄は、次のラウンドは今以上に『凄まじい戦いになる』事を肌身で犇々と感じたのである…………。
全米一位の挑戦状