変わる戦場
「…………………………」
「え、
日付が変わり、八月から九月に月は変わり、そして夜が更ける中、装骨天守スカルアヅチの天守閣に立つ大棟梁プレイヤー・笑みリアへ、風水導師の餡ジュが声を掛ける。
子竜を産み出して群体とする白竜ブライレイニェゴが、決戦フェーズ開始前に宣戦布告にやって来たクラン:
高耐久とリジェネによる要塞とも揶揄された緑竜ブロッケントリードが、旅狼創設メンバーの一人であるオイカッツォの手によって今し方に沈んだというアナウンスは、ノワルリンド討伐派閥のプレイヤー達に衝撃を与えていた。
ブロッケントリードの撃破に置いて、スカルアヅチの力が発揮された所は確かに有る……………だが其れ以上に笑みリア達ノワルリンド討伐派からして不味いのは、此の決戦フェーズで現れた四体の色竜の中でペッパーが宣言した『黒竜ノワルリンドと青竜エルドランザを生存させて、天覇のジークヴルムを撃破する』という状況の
だがそんな状況に在っても尚、勝利の可能性を捨てぬ者達が居た。
「おぅおぅ、大棟梁に風水導師。そんな湿気た面をするには早いぜ?周りを見な」
「
「そーすよ、プレジデント!まだユニークシナリオが終わった訳じゃ無いですし、こっからノワルリンドの首取っちゃえば俺達の勝ちなんですから!」
「私としても此のままボロ負けは嫌だし、一回ペッパー達にギャフン!って言わせたいしね!」
其の最たる例が『クラン:天ぷら騎士団』のリーダーでサイガ-100と同じく修正前剣聖で有りつつ、シャンフロ内で最大規模のクランを率いる『天首領』と。
そんな彼を慕い付いて来たクランメンバーや、クラン:阿修羅会を始めとした、PKerクランが跋扈した時代に彼に救われた恩を返す為に参上した野良プレイヤー、そして彼や笑みリア達と志を同じくするクランのリーダーが居るのだから。
「笑みリー、まだ僕達は負けた訳じゃない。此処からだってノワルリンドを倒す事に尽力すれば、まだ勝ち目は有る」
「…………そう、ですね。えぇ、其の通りです………やりましょう。其の為に此の城は在るんです、此の時の為に此の城は建ったのですから…………!」
憎悪と復讐………
だが、笑みリア達は知らない─────────自分達が復讐の対象とした"傷だらけ"。其れが緑竜ブロッケントリードとの戦いでエルドランザとMVPを争う程の奮戦の果て、其の身に『
・敵対対象:黒竜ノワルリンド、ドラクルス・ディノサーベラス"
・強化対象:敵対対象と戦闘状態にあるプレイヤー及びNPC
強化内容
・10秒ごとにHP、MPを回復
・全ステータスの強化
・全ステータスの強化補正
・ダメージボーナス
・スキルリキャストタイム30%軽減
・魔法強化
ドラクルス・ディノサーベラス"
其れから数拍置いて、内側から爆ぜる様なエネルギーと共に皮を破って脱皮を起こし、高熱を帯びた陽炎を噴き出しながらも血が滲む紅蓮の赤色に染まった『傷』を刻んだ姿へと、筋肉を骨を成長させて三周り程も大きな身体へ『変貌』させていた。
シャングリラ・フロンティアではモンスターとプレイヤーが戦う以外に、
其れが唯でさえ耐久型でリジェネをデフォルト搭載した緑竜を討ち取り、尚且つ青竜エルドランザとのダメージレースで首位を争う程の火力と、プレイヤーや亜人種NPC達以上にタンクとして戦い続けたエネミーに入った経験値は、其れこそ馬鹿にならない量を誇り。
「か、カローシスさん…………」
「責任取ると言った手前だけど、流石に『コレ』はちょっとヤバイかも…………」
午後十字軍のメンバー・栗鼠虎が声を漏らし、リーダーのカローシスUQは改めて『やらかした』という事実に立ち眩みを覚えた。
何せ"傷だらけ"の攻略を積極的に進めてきた午後十字軍にとって、其の"傷だらけ"が緑竜ブロッケントリード相手に撃破されるか、良くて共倒れになれば上々と思っていたの所を戦いで『生き残ってしまった』が故に、奴を進化させてしまったと少なからず後悔して。
「わ、わわわっ…………」
『進化しとるな、あの亜竜めは』
「ほぇ〜…………。バッキバッキに膨れてるよぉ〜………まるでハロン棒がうまだっち!しちゃったみたいだぁ…………」
「SF-Zoo諸君、スクショ撮ってるわよね!?無論、私は撮ったわ!」
「俺も!」
「私も!」
三者三様十人十色、驚愕や関心に恐怖や期待と、ありとあらゆる感情を纏めて混ぜた様な混沌の中で、元"傷だらけ"が三頭六眼でプレイヤーを、亜人種NPCを、青竜エルドランザをジッと見つめて。
三つの口から灼熱の吐息を吐いた、其の直後─────────
『『『ゴアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』』』
まるでブロッケントリードとの戦場にて勝ち残ったのは自分だと、そう誇示するかの様に強く………長く………大きく咆哮し、そして其の六つの目はカローシスUQとレーザーカジキにオイカッツォ、Animaliaとディープスローターにエルドランザを、其々一目見ており。
「あ、あの!」
そんな状況下、レーザーカジキがおそるおそる、元"傷だらけ"に近付いて行って。アイテムインベントリから万が一に残していた回復ポーションを取り出して、熱波に晒されながらも三つの口其々に一つずつ投げ入れたのだ。
「えっと、其の…………!傷だらけ、さん!ブロッケントリード討伐の協力………ありがとうございました!」
御礼を言葉を述べてペコリと、深々と頭を下げたレーザーカジキに対し、果たして元"傷だらけ"は何を考えたのかは、此の場に居る全ての者にも解らなかった。
「わわっ、ととと…………!」
力強く大地を踏みしめながら、のっそのっそと樹海の方向へと向かって方向転換の最中に、脱皮途中で張り付き残っていた『牡蠣の貝殻を数倍巨大にした鱗』を彼に向けて数枚落とし。
『『『ゴアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』』』
其のまま再び咆哮するや、樹海の中へと消えて行ってしまったのである。
そうして此の場には沈黙と静寂が訪れて、其の果てに誰かの止まっていた息が吐かれた事で全員がヘナヘナと、疲労からか地面に大の字や仰向け、尻を付いて座ったりしたのだった。
「……………ジークヴルムのシナリオが終わったら、進化した元"傷だらけ"を調査をしなきゃだなぁ……………」
「あ、其れなら私達SF-Zooも協力するわよ?」
「助かる………。しかし凄いな、レーザーカジキ君は。彼処で傷だらけの口にポーションを投げ込むとは…………」
「そうねぇ、何せ私の『自慢の弟』だからねー…………」
「え、そうなの?」
「あら、初耳だったかしら?」
カローシスUQとAnimaliaが話す中、プレイヤーや亜人種NPC達がレーザーカジキやオイカッツォに走り寄って、二人がゴチャゴチャに巻き込まれたのを見たエルドランザが、全員に叱咤する光景が展開されていたのである……………。
其れでも此れは、決戦フェーズの中の一つの戦いが終わっただけに過ぎず。
天覇のジークヴルムとの戦いは、未だ終わっていないのだから。
戦った友への餞別