状況流転
「ノワルリンドッッッ!」
「ノワルリンドさん!!!!」
ジークヴルムの放った
吹き飛んでプレイヤーやNPCを巻き込み地面を転がったノワルリンドに、空からペッパーが地上では秋津茜が全力疾走で彼に近付いた。
『ぐ、がっ…………』
「ノ、ノワルリンドさん…………」
「生きる事を諦めるな、ノワルリンド!回復ポーションを使う、秋津茜も手伝って!」
「は、はいっ!」
『ごぉ………、ぐ…………ッ…………』
「死なせない、絶対に貴方を死なせたりしないっ………!」
「ノワルリンドさん、頑張って下さい………!」
致命傷では無いが、一目で瀕死に近いと解るダメージ量。此処までジークヴルムの攻撃に晒されてきたノワルリンドは、既に限界が近く……………そして灼滅威吹によって満身創痍まで追い込まれた。
其の様子はプレイヤー達にある感情を抱かせ、感情は言葉となって発露する。
────────チャンスなのではないか?
────────ヤツはクリア条件の一体
────────今なら倒せる
────────千載一遇の好機だ
────────ノワルリンドを潰せ
秋津茜の思考が警鐘を鳴らし、ペッパーは持ち得る回復ポーションから一部を残してインベントリアから取り出し、彼女に譲渡しながら言う。
「俺が彼等彼女等を止める。秋津茜はノワルリンドさんの回復と、彼の傍に居てやってくれ」
「ペ、ペッパーさん…………」
唯其の言葉を述べて、ペッパーがノワルリンドを倒さんと躙り寄る者達の前に躍り出て、勇者は盾を取りて力強く声を発する。
「聞けッ!此の骸の大地に立ちし、数多の知恵を持つ生きとし生きる全ての者よ!ノワルリンドに復讐せんと牙を見せんとする剛の者よ!ノワルリンドを討ちたければ、先ずは俺を踏み越えて行け!此方も全力で抵抗させて貰うがなッ!!!」
龍王の威を纏い、シャンフロという世界で数多の偉業を成した勇者の叫びが、此の場に立つ者達に響き轟く中、其の手に勇者の盾たるイーディスは手に取られ、美しい鏡面が者共を写し出す。
パワードスーツの頭部の双眼の奥に宿る人の眼が睨み、胸部のエネルギー生成装置から溢れるエナジーが蒸気の如く揺らぎ、有象無象を圧倒する様はリュカオーンの
『グルルルルルルルルルルルルルルルルル…………!!!』
「ペッパーはんを倒しても、ワイ等も居るのさ!」
「ペッパーさん一人に背負わせないよ」
「拙者も居るで御座る!」
「サンラクさんが来るまで、やってやりますわ!」
「
「やぁやぁ、あーくん。堂々と言い切ったねぇ!ヒューヒュー!」
「
「茶化すな、ペンシルゴン。…………気乗りはしないが、私も相手になるぞ?」
「あ、えっと…………俺も居るぞ!」
「私も居るよー」
「其の、私も…………居ます」
『ヴルルルル………!』
リュカオーンの分け身のノワ、ヴォーパルバニーのアイトゥイル・ディアレ・シークルゥ・エムル、
そしてアスクレピオスを見せる
「悪いなプレイヤー諸君、こっからはイベントシーンだぜ」
「聖女様の御前だ、武器を下ろせ!!」
「邪魔はさせん!」
「
其処に到着するは、黄金で荘厳なる装備を纏って身の丈程有る奇妙な棒を握る
瑠璃色肌の
「聖女様の為、悉くを妨げるモノを弾く!其れこそが我等が聖盾輝士団の務めッ!今より此の場において、何人たりともノワルリンドに手を出す事、叶わぬと知るが良い!!」
ジョゼットの号令を元に、聖盾輝士団団員達が前に出る。同一規格の同一装備によって一致団結の意向を示す、シャンフロ内でロールプレイガチ勢クランによる一体感は、ノワルリンドを擁護する者達の心強い味方となり、敵対する者達には越え難き分厚い壁となりて立ち塞がった。
「み、皆さん…………!」
「おぅ、秋津茜。確り前を向け、ジークヴルムとの戦いは此処からだ。お前や其処の黒いの含めて、キリキリ働いて貰わねーとな」
「あ、えと、其の…………」
「───────少し、よろしいでしょうか?」
「ふえっ!?あ、はい!」
「申し訳有りません。彼の方へ………黒き竜へ少々問いたい事が有るのです………」
「え、えと、ノワルリンドさんに………ですか?は、はい…………どうぞ………」
凛としながらも、神々しき気配を纏い…………だが同時に、彼女を邪魔してはならないと、彼女に逆らってはならないと、そんな得体の知れない雰囲気に気圧された様に、秋津茜が横に逸れる。
「黒竜ノワルリンド。天覇のジークヴルムに
『ぐ、ぉ………む………ッ…………』
「言葉は必要有りません。ただ、貴方の『心のままに』。………其れだけで、私には『通じます』から」
満身創痍地に伏せども闘志は折れずに消えず、イリステラを睨み付けるノワルリンド。他のプレイヤーの動向に目を光らせる者達の中で、ノワルリンドとイリステラの話を聞く事が出来たのは、ノワルリンドの近くに居た秋津茜とヴォーパルバニー達のみで。
戦場に沈黙が訪れ、其の果てにイリステラが『決意を固めた』様に片手をノワルリンドに翳し、其の唇で言葉を紡ぐ。
「──────どうか、どうか。今一度立ち上がって。傷付き倒れた其の身体、今再び戦う力を………【
『うぉ、オオオオオ、オオオオオオオオオッ……………!!!』
イリステラの掌から光が溢れ、奔流の如くノワルリンドへと流れ込む。まるで『録画した建築映像を早送りで見せられているかの様な光景』と共に、満身創痍だったノワルリンドのダメージは『最初から無かった』という
「貴方の
『フン…………元より『其のつもり』だ。我はジークヴルムを倒す!そして此のノワルリンドこそが、唯一絶対の『真なる竜王』たる事を此処に証明するッ!!』
翼を広げ、ノワルリンドはジークヴルムを睨む。己の願いを叶える為に、もう遅れは取らないと宣言するが如く在る。
「ノワルリンドさん! えと、治ったんですか!?」
『何を突っ立っている秋津茜よ!貴様………此のノワルリンドと共にジークヴルムを討つならば、無様を晒すで無いぞ!』
「は、はいっ!げんこつさんかい?で、頑張ります!」
粉骨砕身とツッコミするべきかと思ったが、直後に膨れ上がった威圧がプレイヤーにNPCの視線を向かせる。其処に居たのはやはりジークヴルムで、其の龍の双眼はノワルリンドを見た後にイリステラを見ていた。
『………ほう、貴様。…………いいや、
「偉大なる黄金の龍王。人を『愛するが故に』世界を焼く者よ。こんな私とて、唯
『………そうか。今宵は本当に『善き日』だ。長く永く、そして遠く、幾星霜の悉くが満たされていく。ならば─────!我が灼滅の前に立つので在れば、其の悉くは『灰燼すら遺らぬ』と知るが良いッッッ!!』
ジークヴルムが宣言し、翼を広げて夜空に黄金を満たす。睨み付け立つ………そんな至極単純な姿でさえも、凄まじい威圧が放たれて、更に強く重く身体に伸し掛かる。
プレイヤーやNPCの大多数がヘタれたり後退り、巻き込まれぬ様にと下がりて逃げ出す中、勇者武器持ちや一部プレイヤーにNPCはジークヴルムを前に、怯む所か逆に睨み返す。
「嗚呼、どうしましょう。私、死んでしまうかも………?」
「いいえ、いいえ聖女様。………此の私が貴方の前に立つ限り、如何なる滅びも厄災さえも。貴女を傷付け、そして穢す事は決して叶わぬと。黄金の龍王に、天覇のジークヴルムに証明して見せましょう」
最大防御を冠せしシャンフロプレイヤー最強の防御を持つ、騎士系職聖騎士派生の最上位職業:
ジークヴルムへ其の矜持を示すべく、立ち塞がったのだった。
輝士は立つ