ガロックワームとのリベンジマッチ、始まります
ファステイアで全ての準備を整えたペッパーは、何度目になるファステイア坑道に辿り着いた。相変わらずのレベリングと金策で人気の此の場所の奥地に、倒すべきヤツが居る。
「行きますか」
坑道に入り、他プレイヤーの邪魔にならぬよう通り抜けつつ、一路奥地に続く道を歩く。道中の敵は極力戦闘を避け、衝突不可避なら白鉄の短剣で対処し、致命の小鎚の耐久値を温存していく。
そうして辿り着く、ファステイア坑道・奥地。普段なら此所で鉱脈に擬態し、
まるでペッパーが此所に来ることが『分かっていた』かのように、最初から姿を見せている。強者の余裕なのか、再び喰らってやろうと無数の足を波の如く動かし、此方を見下ろしている。
「よぉ、久しぶりだな………ムカデミミズ」
お互い言葉はいらなかった。此所から行われるのは、喰うか喰われるか。原初から続く、捕食者同士の生き残りを賭けた命の闘争だ。
「さぁ、リベンジマッチだ!!!!!」
坑道の奥地が大きく揺れ、砂埃と砂利がポップコーンのように弾けて踊る。幾重の歯と底無しの口内を顕にしながら、巌喰らいの蚯蚓はペッパーに迫った。
『ギュリアリラアアアアアアアアア!!!』
「いきなりフルスロットルってか!!」
対するペッパーは巌喰らいの蚯蚓の突進攻撃を回避し『全速力』で左側面に斜め移動を行う。大地を削る巨体が唸り、ペッパーの前を過ぎて。
しかし蚯蚓は其の巨体の流動を止めることは無く、突進からのUターンで、更なる突進へと繋げてきた。
「いっくぞ!!!」
そう言い放つペッパーは移動と併行して、アイテムインベントリから『あるもの』を取り出す。巌喰らいの蚯蚓は再び、丸呑み攻撃の為に突進してペッパーとの距離を詰めてくる。
「ステップワーク!」
ギリギリに近い状態に引き付け、移動補助スキルで回避するペッパー。そして回避だけでは終わらない。両手に握った其れを横に、まるでプロ野球選手の豪快なフルスイングで振り抜く。
「今ッ、スイングストライク!」
腰を入れた打撃スキルの使用。高速回転するベルトコンベアの様な蚯蚓の岩肌に、其の一撃を叩き込む。鉄と巌が激突し合い、激しい火花が弾けて散り。
『ギュラアアアアアアア!?』
巌喰らいの蚯蚓が今までにない悲鳴を上げた。身に纏う鉱物を含んだ岩の鎧が『削られ』、『飛び散り』、擬態で使う鉱脈は裂き傷のように『開かれていた』。
「へっ、どーだい!人が産み出した、採掘技術の結晶の味は!」
してやったり!と獰猛な笑みのペッパー。彼の手に握られていたのは、対巌喰らいの蚯蚓の秘策の1つにして、打撃武器の枯渇を補う物。
人類が鉱山に置いて、人力で鉱脈を掘る為に作り上げた発明品━━━━━━━『ツルハシ』であった。
鉱山という物は、時折『人体』に例えられる事がある。
山に茂る木々を毛として。
山の斜面を肌として。
内部の地層を筋肉として。
そして鉱脈を血管に、鉱物源を臓器として。
巌喰らいの蚯蚓は、鉱脈を『囮として』採掘者達を喰らう。自らの弱点を如実に晒すことで、自分という存在を敵の思考から『隠す』。
手品師が用いる『ミスディレクション』とも呼ばれる其れは、鉱物喰いの大蚯蚓が過酷な生存競争で生き残るべく、習得した『武器』だ。
しかし其の武器が対策されよう物なら、立ち所に強点はより明確な弱点へと変わり果てる。
「結構効いただろ、ツルハシの1発。岩のベルトコンベアみたいな所に、鉄がぶつけられたんだ。そりゃ鉱脈が削られて、傷を負う摂理が待ってる」
ダイヤモンドを加工するならばダイヤモンドを、鉱脈を削るならツルハシを。簡単な事であるが故に、意外に気付かない。まさに灯台もと暗しである。
(ただ、此の方法には問題がある……!)
ペッパーは注意を蚯蚓に当てながらも、自身が握るツルハシを見た。先程のアクションで振るったツルハシの耐久値が1度の攻撃で7割弱まで減らされ、警告を報せる表示画面がアップされていたのである。
(ツルハシは所持限界の5本のみ。…つまり其れを使い切ったら、作戦をシフトしないといけない!)
勝機が在るとすれば、致命の小鎚に内封された『頭部攻撃時にクリティカル補正の上昇』と『クリティカル成功時のダメージ補正が入る』の2つの能力。
つまりペッパーにとって、巌喰らいの蚯蚓に勝利する条件に『5本のツルハシが持つ間にヤツの頭部を覆う岩鎧を砕き、無防備な箇所に致命の小鎚を叩き込む』。もしくは、『体の削った箇所に出来た肉体露出部位に、斬撃武器を斬り付けまくる事』が追加された。
「……この皮膚がヒリ付く感覚、久しぶりだ」
昔に遊んだRPGの真ラスボス、回復アイテムの持ち込み制限が掛けられた中での戦闘を、ペッパーは思い出す。
1度でも回復配分をミスれば、即GAMEOVERに繋がる程の相手に全神経を集中させ、一手一手の選択のプレッシャーとの戦いをした、あの日の緊迫感が脳に伝わる電気信号を、より鋭敏に感じさせた。
『ギュララララァアアアアアア!!!』
「殺るってか!?此方は元からお前へのリベンジに来たんだからな!!!」
怒りの咆哮に晒されても、ペッパーは怯まない。今日此所でヤツに引導を渡すと決めている。
突進を回避し『左右のステップ』を踏みながら、ツルハシを振り上げ、岩鎧の表皮を叩き割る。
身体を捻り、尾と胴での凪払いが襲い掛かれば、其の身を『跳躍して』飛び乗り、ツルハシで一撃を入れて直ぐに退避。
巨胴の踏み潰しには、ツルハシを用いたフラッシュカウンターで弾き、其の隙に頭部を『連続で』何度も砕く。
一撃の被弾が命取りとなる戦いは、彼の精神力を少しずつ削ぎ、更に追い討ちを掛けるかのように、覚悟していた事態が着々と迫りつつあった。
「くっ…思った以上に消耗が激しい!」
着実に、確実に、巌喰らいの蚯蚓の身体を守る鎧は砕かれ、肉体露出は多くなった。だが戦いが続く中でツルハシが1本、また1本と犠牲になり、ペッパーの状況が徐々に不利に変わっていく。
「諦めるな…!例え残り1本が無くなっても、最後までやりきってから後悔しろ!!!!」
弱気になりそうな己の心を言葉で鼓舞し、突進攻撃を掛ける大蚯蚓の、僅かに上がった顎にツルハシの一撃を叩き込んだ。
耐久限界を迎えたツルハシは、ポリゴンと化してペッパーの手より消滅し。巌喰らいの蚯蚓は衝撃に仰け反り、其の顎を護っていた岩鎧が遂に砕け散る。
「ッしぃ!やって━━━!」
直後、ゲームの中で培った感覚が回避の警告を発し、直ぐにステップワークでペッパーは距離を取る。其の数秒後。
『ギュリアラアリァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!』
頭付近の鎧を砕かれ、身体中を傷付けられ続けてきた大蚯蚓は、まるで発狂したかのように怒り狂い、咆哮と共に其の巨体を坑道奥地の天井と地面に対し、力一杯交互に叩き出し始めたのだ。
「うわわわ!?何だ、発狂か!?」
ボス特有の第二形態に突入したのかと身構えるが、彼の視覚の見える位置に表示されたのは『10:00』というタイマー。同時にカウントはスタートし、1秒ずつ時間が失われていく。
「まさか…制限時間で倒せなきゃ、ヤバい?」
此所に来て追加される更なる『縛り』。10分で大蚯蚓を倒せなかった場合、何が起きるかは解らないが、ある程度の予測は出来る。
(おそらく…いや十中八九『強制敗北』になるだろう)
ゲームの中にはボスとの戦いに時間制限が設けられている時がある。其の時間に倒せなかったのなら、ヒロインや友達が死亡したり、GAMEOVERに直結していたりと、プレイヤーの心理に焦りを与える要素だ。
「へへっ、良いね。最高じゃん。10分でケリを付けてやるよ、ムカデミミズ!」
そう言ったペッパーは、アイテムインベントリから武器を取り出した。ファステイア近辺のレベリングの最中、戦闘したヴォーパルバニーがドロップした其れは、赤黒の刀身と刃が煌めく包丁。
残り10分で勝負を決めろ
巌喰らいの蚯蚓は『特殊クエスト:岩砕きの秘策』を受注後、『レベル10以上で再戦し』かつ『1度もダメージを受けずに、ツルハシを用いた頭部もしくは顎の岩鎧の破壊』の条件を満たしていた場合のみ、発狂状態と制限時間超過による強制敗北イベントが追加される。
発狂状態は1度以上、巌喰らいの蚯蚓との戦闘によって死亡しており、かつ特殊クエスト受注後の戦闘で巌喰らいの蚯蚓から1度もダメージを受けていない場合に移行。防御力が急激に低下しスタミナも大きく消耗するが、攻撃力が尋常な迄に高まり、並大抵の防御は繰り出す前に潰されるので通用しない。
また10分という制限時間で発狂状態の巌喰らいの蚯蚓を倒せなかった場合、ファステイア坑道・奥地及びファステイア坑道の全域が崩落し、其のフィールド内に留まっていたプレイヤーは装備の有無に関係無く、窒息による即死判定が適応され、崩落後から2週間立ち入る事が不可能となる。
つまるところ、10分で倒せなかったら崩落させた責任を他のプレイヤーに追及されるから頑張れって事ですね