対ウェザエモン、新武器生産へ
ペッパーがシャンフロにて、特殊クエスト【颶風を其の身に、嵐を纏いて】をクリアし、次なるクエスト【想いの御手よ、境界線を超えて】と【七星の皇鎧よ、我が元に集え】を受注した日から、数日の時が過ぎた。
季節は4月が終わり、5月の始まりの日。世間では後数日で
そんな人によっては天国や地獄で割れる中、比較的天国側に居る梓は、大学での講義やコンビニのバイトをしながら過ごし、此の日も朝からバイトで忙しく働き。午後3時にバイトを上がって、スーパーで食材を購入しつつ、午後4時頃にアパートに戻って、必要な物以外を冷蔵庫に収納。
水分補給並びにトイレを済ませ、何時もの様にゲーム環境の構築と、日課に成った指差し確認を行う。
「夕食を含めた買い出しは出来た。VR機材の動作確認…OK。布団を敷いた、水分補給用の飲み物…良し。窓開け、ドアの施錠確認…完了。トイレもバッチリ。よし、やりますか!」
頭に装着し、仰向けで布団に寝転がった梓は、現実の世界より、シャンフロで嵐を巻き起こすプレイヤー・ペッパーとなって、未知なる世界を拓く者となるのだ。
「あ、ペッパーはん。久し振りなのさ」
シャンフロにログインして、兎御殿の休憩室に在るベッドで目を開いたペッパー。聞き慣れた声の御世話係たるヴォーパルバニー・アイトゥイルが覗き込む様に見つめていた。
「アイトゥイル、久し振り。早速だけどビィラックさんの所に行って、色々頼まないといけない物が有る。付いてきて」
「はいさ~」とアイトゥイルが頭に乗っかり、ペッパーはビィラックの元に向かう。
「ビィラックさん、御久し振りです!」
「おぉ、ペッパーか。また随分日が空いたの」
ビィラックが仕事場にしている鍛冶場に着くと、彼女は自分の使う道具を念入りに磨いて、入念なチェックをしており、此方に気付いて声を放った。ペッパーも実際、リアルが忙しく、数日間ログイン出来なかったのは、否定しない。
「此方も色々有りまして…黒鉄丸とアレの修繕って出来てますか?」
「おぅ。ワリャが修繕を頼んだ武器と、錆び付いた斬首剣をワリャ用に整えて、鍛え直しちゃきに」
ビィラックがペッパーのアイテムインベントリに、耐久値MAXまで回復させた太刀・黒鉄丸と、仕立て直しを行った武器を入れ、彼は其の内の一つたる武器の内容を見た。
赤く光る刀身は高き熱により強く、より強靭な刃となり、今は遠く喪われた栄光を、持ち主と共に歩み、其の刃で再び世界に示さんとする。其れは再起であり、再生であり、再誕である。
首に対する攻撃時に、ダメージに補正が入る。
火炎属性及び炎熱攻撃による、耐久値減少を大幅に抑制する。
片手でも扱う事が出来、中距離対応可能なリーチを持っているコレは、今の自分にとって貴重な武器になる。
「ありがとうございます、ビィラックさん。其れと、新しい武器の製作を依頼したいのですが、良いでしょうか?」
「ほぅ?ペッパーはまた、面白い物でも思い付いたのか?ほれ、素材を出してみぃ」
クイックイッと利き手で手招くビィラックの言葉を受け取り、ペッパーはアイテムインベントリに仕舞っていたモンスターの素材を取り出す。
其れは死ぬ瞬間までも気高く、そして高潔な魂を示し続け、神代に示された蒼空を舞う夢と願いを紡ぐ者を待ち望み、己に託して逝った二体の甲虫皇が遺した、ドロップアイテム達だった。
「コイツは…!?ティラネードギラファとカイゼリオンコーカサスの…!双皇甲虫達の素材じゃけぇ…!!で、コレで一体何を作るんじゃ!?」
颶風の申し子と雷嵐の申し子の素材に、ビィラックの眼は一際キラキラと輝く。というのも、シャンフロに於いて雷属性や風属性の武器・魔法等は、現状大陸の中盤以降でしか手に入らず、魔法を魔導書で習得出来たとしても、レベルアップや熟練度を高めるのに苦労する事になる。
故に最初から雷属性や風属性を内蔵している武具は、数多有る武器の中でも取り分け稀少度合が高く、シャンフロに在る『武器や防具のコレクト狂いのクラン』では、其れ等を常備する武器や武具、防具の買取を血眼になって行っているとかいないとか。
ペッパーはビィラックの腕前を信じ、其の上で数日前の返信メールに記載されていた、其の武器種の名前を彼女へ伝える。
「ビィラックさん。彼等の素材を用いて『太刀』を2本と『大槍』を造って頂けますか?大槍の穂先はカイゼリオンコーカサスの3本ある雄角を、全部使って構わないです」
━━━━━もし造れるなら、ウェザエモン攻略に関わった知り合いがメイン武器にしてる太刀の新造と、私が麒麟相手に対抗出来る雷属性の大槍を造って欲しい
其れがあの日、ウェザエモンの情報をEメールで送ったペンシルゴンが、此方の返信時の質問に対する解答で、機械属性のメカである麒麟に電撃を叩き込み、伝達回路をブチ壊せないかと考えたのだろう。
もう一つの太刀は、ペンシルゴンと共にウェザエモン戦経験者であるらしく、メインを太刀とする時代錯誤の女剣客なのだとか。二本製作の理由だが、一本をペンシルゴンのオーダー通りに其の知り合いに渡し、もう一本は性能確認で自分が使用する為。普通に使うか、性能を確認した上で使うかでは、後者の方が信頼度は高い。
「ペッパー、今回はワリャにしちゃ堅実なオーダーをしたの。じゃが、両手武器は夜の帝王のマーキングの影響で、使えんじゃ無かったのか?」
「武器は使えませんが、やっぱり一度は気になるし、憧れるんですよね。両手武器の格好良さとか、凄まじい破壊力に」
大剣・バスターソード・大太刀・ハンマー・ハルバート、etc……。現状、リュカオーンの呪いによって右手が使えない以上、製作しても意味が無いのは理解している。
其れでも憧れは捨てられない、夢は諦めたくは無い物で、慈愛の聖女イリステラに頼んで呪いを解呪する以外の、何らかの方法で両手武器を使えるようになりたいという、ペンシルゴンのオーダー抜きにしての、ペッパーが持つ、切なる想いなのだ。
「成程の、よぅ解ったけぇ。なら太刀に使うなら鋏とコレと……大槍は角とコイツと…コレを主体に使うかの。太刀は1本作るのに半日、大槍は造り終わるのに1日貰うがエェか?」
全て出来るのに二日掛かるが、問題無しと判断して「よろしくお願いします」と頭を下げたペッパー。
「ペッパーはん、此れからの予定は何か有るのさ?」
そんな時、アイトゥイルが質問してくる。夕飯調理までは時間も有るし、数日前に改修を頼んでいた『武器』も受け取りに行きたい。
「アイトゥイル、ファイヴァルへのゲートを開いてくれ。マッドネスブレイカーの成長派生形態、其の二つ目を取りに行く」
「はいさ~、任されたのさ」
ウェザエモン攻略に向けて、ペンシルゴンが準備を進めている。自分に出来る事は多くなく、限られているだろう。其れでも己が成せる事は、此の手で全てやりきる心構えでいる。
アイトゥイルと共に休憩室に帰り、彼女をマントの中に隠してゲートを越えようとしたが、危うくSFドラゴニックスーツのままで、街に繰り出そうとしていた事に気付き、装備をスーツ装着前の物に替え直し、改めてゲートを潜り抜けたのだった…………。
梓がペッパーとして、シャンフロにログインした頃。新しいプレイヤーが開拓者として、此の世界に降臨する。
「………お?おぉ………って『森の中』?街からスタートじゃねぇのか」
出身:彷徨う者を選択した場合に、
彼は『半裸』であり、同時に『鳥の被り物』を装備していた。というのも、シャンフロではキャラメイク時の初期装備売却による
代償に耐久値は完全に捨て去られ、せめてもと顔を隠すのに選んだのが、此の『
端から見ても『HENTAI』スタイルなのであった。
「体力30の耐久値3って……1回当たっただけでオワタ式ってか」
と、そんな事を呟く彼は殺気を感じて、ステップ回避で其の場を離れ。直後走った刃が彼の近くに聳えた木を、打ち倒して行った。向き直ると、包丁を握ったヴォーパルバニーが1羽居り、彼の頭を鋭い視線で見つめている。
「さて…神ゲーの戦闘って奴はどんなもんか、試させて貰おうか!」
レアエネミーを前に、インベントリの中にある『傭兵の双刃』を取り出して、両者共に逆手で構えつつ、刃の切っ先で迫るヴォーパルバニーの刺突を弾き、逆手で腹部を裂いて地面に叩き付け。
体勢を整えようとしたヴォーパルバニーに向けて、左手の傭兵の双刃を投擲。兎の頭に刃が刺さり、怯んだ其所に追撃の首筋目掛けた一閃で仕留め切った。
ヴォーパルバニーはポリゴンとなって爆散、持っていた包丁はドロップアイテムとして地面に落ち、同時に彼のレベルは一気に3つも上昇して、幾つかのスキルを獲得する。
「今の敵、ヴォーパルバニーって言うのか。ってかレベルが3つも上がったし、スキルも色々覚えた。レアエネミーって奴なのか?」
ドロップアイテムの包丁を拾いながら、彼は戦闘を経て感じた事を言い放つ。
「此処までバグらずに戦闘出来るって凄くね?」
………と。
プレイヤーネームは『サンラク』。
本名を
クソゲーハンターが、神ゲーたるシャンフロへ降り立った瞬間だった。
双皇甲虫の素材を用いた、烈迅と稲妻の武器