火力の極致
双理の鎧と
其れは旧大陸にて出現したバハムートの三番艦・ベヒーモスの最奥階層に在るレベルキャップ解放設備によって、三桁の領域に踏み込んだサイガ-0が纏っていた双貌の鎧と
そして此のシャングリラ・フロンティアというゲームに置ける世界観から、此の武器と防具は世界の『根本』に関わる存在であるとされている。
ジークヴルムの角が五つ破壊され、戦場より五つの分身が霧散し消滅した中、鎧と剣の持ち主たるサイガ-0は黒の神に関する詠唱を行って。
其の詠唱は次なる段階へと進んでいた。
「───我が白の半身を謳う。夢見る先は至高天、強欲故に暴君たる白き神。全なる唯一つ、
大地に大剣の鋒を突き立て、先程の詠唱によって右半身は悪魔の如き相を見せる『黒』へ染まり、此の詠唱によって彼女の左半身は神々しき『白』へと染まった。
だが此の地に倒れた二つの神の骸は、本来ならば『左に黒』の『右に白』である筈で、矮小なる人の身に始源の力は身に余るモノで。奇しくも
「我が身の左右、二律背反の
大剣の内側、左右から中心へと伸びる黒と白、其の剣身より溢れし二色の光…………神骸の大地より溢れし始源の波動が『翼』を形作り、サイガ-0を包み込み。軈て突き立てた大剣の、正中線で分かたれし左の黒と右の白に吸い込まれ、更に力を高めていく。
「我が右方はエレボスの理、我が左方はアイテールの理。双理反転、双つ神と我が身を以て
莫大な力を大地より吸い上げ、白と黒に分かれ輝きを放つ大剣へと流れ込み、莫大量の白と黒を逆の色で搔き回しながら渦と成り、相反する二色は巨大なる『円』を…………根源に限りなく近い力の『太極図』作り、其の中心で途轍も無く莫大極まる力が『急速に圧縮されていく』。
「始源よ
太極の剣に搭載された切札たる其の『魔法』は、三つの発動条件を満たす事によって、初めて其の力を解放出来る。
一つ目に、短縮及び省略不可の『完全詠唱』を要求している事。
二つ目に、剣と鎧の装備者に別枠で追加される『白と黒の太極ゲージ』が其々50:50という『完全拮抗状態』にしておく事。
そして三つ目に、発動者の始源に関する隠しステータス『侵蝕律の数値が100以上』である事。
此等の条件を満たして初めて其の魔法の使用が解禁され、其れ等全ての条件を満たした今、白と黒の二つの摂理を説く二重螺旋が光輝と成りて、ジークヴルムの前に顕れる。
其れをブリュバスによって片目を潰され、残されたもう片方の龍眼にて目撃したジークヴルムは、其の力を前にして回避という選択肢を自ら捨て去り、堂々と叫んだ。
『我が名はジークヴルム!対始源焼却生体ユニットにして、偉大なるジーク・リンドヴルムが産み出せし最高傑作ッ!!故に……故に!
逃走や回避もせずに真っ向から立ち向かい、始源を灼き滅ぼす焔を以て打ち砕くという、神代より現在に至るまで続く黄金の龍王としての覚悟と矜持を、真正面からぶつけられたサイガ-0はほんの僅かに気圧された直後、自分の背に莫大量の
視線を僅かに向けた先、分身に対処していたサイガ-100やアーサー・ペンシルゴン達が肩で息をし、其の後ろには膝がガクガクに震えながらも自分に視線を送る、支援職のプレイヤー達の姿が在り…………おそらくサンラク達がジークヴルムの角を破壊した事で分身が消え去り、其の対処に当たっていた者達を引き連れて大急ぎで此処に到着したのだろう。
皆の期待や希望を背負い、何よりもあの人に相応しい自分になる為に。プレイヤーの中で最速たる彼の輝きに並び立つ、最高最大の一撃をジークヴルムに示す事が、自分の仕事だと確信して。
「我が身を
『
魔を滅する渾身の灼熱威吹と、刃円の中心に拳を叩き込む動作を経て放たれる双色の神話。
力と力が、始源を焼く黄金の焔と白黒の螺旋波動が、真正面からぶつかり合いて、互いに譲らぬと鍔迫り合う。
ゼンド・アヴェスター…………其れが双理の鎧と太極の剣を手にしたサイガ-0が手に入れし、シャンフロ最高瞬間火力を叩き出してレコードホルダーに至った『アルマゲドン』を越える、彼女の新たなる『切札』。
其の効果はアルマゲドンと同じ段階乗算による連続ダメージ判定を叩き付けるのだが、此のゼンド・アヴェスターは『二回ヒットする毎に威力乗算増加が可されていき』、最終的には『
其れは十一回連続ダメージ判定を叩き込むアルマゲドンの、およそ『五倍弱のヒット数&総合威力数倍以上』という、シャンフロの世界の中で最も『始源』に根深く関わる逸品だからこそ成せた、所謂『究極奥義』と断じる事が出来る。
『ぐっ…………オォォォォォ!!!』
「ッ、行っ、けぇ……………!」
仮に嘗ての自分がジークヴルムと鍔迫っていたならば、きっと自分は負けていた。
仮にジークヴルムの角が六本の状態でブレスと勝負したならば、きっと自分は装備と武器共々、黄金の焔に焼き尽くされて消えていた。
ジークヴルムの角がペッパーによって一本折られ、
結果は言うまでも無く、サイガ-0のゼンド・アヴェスターが勝り、ジークヴルムの灼滅威吹をブチ破って頭部に直撃。モノクロの大爆発と共に黄金龍王に残された左上の角、其の最後の一本が砕かれた挙句に、ジークヴルムの巨体を青天井に転倒させた。
「ぐ、ぅう………っ」
放ったならば『勝利を絶対とする』、双貌の鎧と神魔の剣の時代の誓約は、双理の鎧と太極の剣は変貌前と『異なる誓約』を、
くすんだ灰色に姿を変えた異貌の兜に着いた瞳が、彼女の意志とは関係無く静かに閉じられ、彼女の身体には誓約の一つである『侵蝕律』の上昇と行動不能状態が襲い掛かり、異形の騎士は大地に両膝を着く。
「やぁやぁ、レイちゃん。すっごい一撃だねぇ!」
「
「ゲージ、的に……今すぐは、無理………です、ね」
「そうか………。威力は相応の高さだが、やはり動けないのが難点だ。そう考えると『リュカオーン相手』では実用性が低いだろう」
「姉さん…………」
「リュカオーン基準で物事考えるの、あんまり良くないよ
妹や悪友、恋人に其の友人達がリュカオーンのEXシナリオを解放して以来、シャンフロにおける物事を『リュカオーンに対して有効か否か』で考えつつある
クリアした者達から、其れも身内から情報を受け取るのが気に入らないのか、
ほんの僅かな弛緩………戦いは未だ終わっていないが、其れでも自分に出来る全てをやりきったという達成感が、サイガ-0から僅かに警戒を消して。
そして周囲のプレイヤー達も、シャンフロの最高火力の称号持ちの放った大火力の命中と、ジークヴルムに残された最後の角が破壊された事で、些細ながら気が緩み。
「いや、まだだッッッッ!!!」
そんな時に響いたのは、一目ではジークヴルムと誤認してしまう様な似通いに、ジークヴルムを鏡写しにして人間大に縮めた様な出で立ちを。
黄金覇龍の鎧を纏って、夜空を飛んで叫んだ『ペッパー・
そして、そんな一瞬の時間は─────────
『───あぁ、そうか。此処が………『我の死地』であるか』
そう言い放ったジークヴルムの言葉に、ゾワリッ!と。
シャングリラ・フロンティアの化物じみたリアリティだからこそ…………正確にはプレイヤー達の『感情をコントロールした事で
『始源を組み伏せ、使役する。………考えてもみれば、其れこそが偉大なる神代の人々が、最初に捨てた
巨体が倒れて巻き上がった土煙の中から響く、ジークヴルムの静かな独白は、此の場に立つ全てのプレイヤー達に対し『
『おぉ、
土煙という帳が晴れて、其処に在ったのは神々しいまでに輝ける、天をも覇する黄金では断じて無く。
『人よ、此の世界に遍く広がりし一号の人よ。人よ、此の神骸の世界を拓きし二号の人よ。此れこそが…………ジークヴルムの課す、お前達への
まるで内側から爆ぜる様に燃え、無事な部位の方が少ない程に身体は灼け爛れ、最早ジークヴルムという存在其の物がまるで『太陽』と化した、そう言っても過言では無い様な姿だった。
『…………此れより放つは、我が身を糧とし薪とする『
太陽が如き黄金の龍王、其の全身が音を立てる様に隆起し始め、全身から発せられる黄金の力が一点へと…………ジークヴルムの眼前へ『収束』し、其れは一つの『球体』を形作る。
『
今はまだ『人間一人程度』の大きさの、そんな小さくとも莫大なるエネルギーを内封する球体が一度瞬いた次の瞬間、太陽からプロミネンスが噴き出して宇宙空間に放出されるが如く、無作為に放たれた幾本ものレーザーが戦場へと出鱈目に飛んで行き。
レーザーの射線上に居た者達は、光に呑まれて一瞬で消し飛び。レーザーの近くに居た者達は、熱に焼かれて身体は溶けて蒸発し。大地に着弾地点に居た者達は、発生した爆発と衝撃に吹き飛ばされた。
『む、ノワルリンド………』
試練を課し、焼かれて消えて、吹き飛び散る生命達を見るジークヴルムの片眼が、其れを見た事で『困惑』の感情に揺らいだのである。
其の理由は単純で─────────
唯一匹………単身でジークヴルムへと肉薄する、ノワルリンドの姿が其処に在ったのだから。
竜は往く
※900話記念、設定開示コーナー
神匠の御業たる
神の名を冠する鍛冶師の手により物質へ至った、至高にして至上の輝きを宿す、黄金龍王の冠を砕きし栄光と象徴の証。
其れは世界に発露せし概念、神の御手により空想より顕われ、
概念より物質に変革せし今、此の逸品は作り担う者の手により、新たなる姿に変わる。