其の時、ノワルリンドは
『ジークヴルム………!』
「ジークヴルムさん………!」
爆ぜる様に燃え上がるジークヴルムの姿を見、
最終試練と述べ、此の地が滅びて消えるという台詞から、ジークヴルムは『自爆しようとしている』と予想するには充分な要素と理解出来、そして産み出された球体からレーザーが無作為に飛び始め、戦場が大混乱の様相を呈する中で空を駆けてペッパー・
「ノワルリンドさん!秋津茜!ジークヴルムさんが新大陸を巻き込んで、自爆しようとしてるが解るか!?」
「ペッパーさん!はい、かなり不味いかと………!」
ペッパーの合流から、ノワルリンドの視線はペッパーと秋津茜を見て、別の場所ではエルドランザとレーザーカジキが下がりつつもジークヴルムを狙う姿を見て。
そしてレーザーを撒き散らすジークヴルムの姿を見て、其の果てに一つの結論に行き着く。
『ペッパーよ、秋津茜を連れて行け─────』
「え?わわっ、ノワルリンドさん!?」
そう言った直後、ノワルリンドは大きく身体を震わせて秋津茜を背中から振り下ろし、ペッパーは慌てて秋津茜を背中でキャッチする。
「ッ、一体何を………!?」
『ふん、単なる
空中で広げた翼を更に大きく羽撃かせ、限界一杯まで広げたノワルリンドが直後に更に高く飛翔して。そうして上空高くまで昇り詰めた黒の巨体は『空中宙返り』を行い、其のまま下へと猛烈な加速を加えて落ちて行く。
『─────────!!!』
「ノワルリンドさんッ!」
「…………ん?!」
天より轟く咆哮と巨大な漆黒の彗星が、地上に煌めく黄金目掛けて落下し。プレイヤーやNPC達が空を見上げる視線の先、大気圏内で石の欠片が割れるが如くノワルリンドの巨体から『何かが取れた』様に離れたのを、ペッパー含めた極一部のプレイヤーのみが気付き。
そして……………
「ああっ!!」
「ノワルリンドッッッ!!!」
ジークヴルムの眼前で肥大化し、膨張を続ける光の球体からレーザーは放たれ、龍王へと突貫したノワルリンドの身体を無慈悲に貫き。秋津茜の悲鳴とペッパーの叫びが木霊す中で、漆黒の竜の巨体は黄金の龍王に着弾する。
『ッ!』
『特攻』を敢行したノワルリンドの巨体を、ジークヴルムは右手を掲げて受け止め………足裏が接触する地面にヒビが迸って、巨体は地面に沈み込んだ上に後方へと押しやられた事からも、凄まじい威力だと判る。
対するノワルリンドはと言えば、魔滅の閃光に巨体を貫かれてズタボロの身体、眼からは光を喪い、圧倒的な加速を乗せた身体は関節が有らぬ方向に曲がり、圧し折れたと判る程の惨状だった。
ノワルリンドの謎めいた行動、ジークヴルムへの突貫、そして失敗という『あまりにも間抜けな自滅』という、滑稽を通り越して愚か過ぎる行動は、プレイヤー達からしても『ノワルリンドが死んだ………?』と困惑させ。
だが其の光景を目の当たりにしても、ノワルリンドが撃破されたという『システムアナウンスが響かない事』に対し、少なからず疑問を抱いていた時…………ペッパーの背中には『大型犬一匹分の重量』が突然伸し掛かった事で、危うく空中での姿勢制御に影響が出そうになった。
『ほれ、何をしてるかペッパー!さっさと飛ばんか!ジークヴルムのレーザーが来るぞ!』
「えっ、えっ?え、ノワル、リンド………さん!?」
「の、ノワルリンドさん…………『小さくなりました』?」
ペッパーがレーザーを避けつつ、エルドランザとレーザーカジキの方向に向かって飛び出す中、視線を一瞬だけ自分の背中に向けた時。
秋津茜の胸の中に抱き抱えられた、大型犬サイズのモンスターを…………其のサイズまで縮んだ『ノワルリンド』を見て、一体何が起きたのかと混乱する中、ノワルリンド本人ならぬ本竜から『答え合わせ』が出された。
『此れこそ我が究極秘奥たる『
「何か可愛いですね!」
『オイ待て撫でるな、何をするか秋津茜ァッ!!?』
「御乗車中は御静かに御願い出来ませんかねぇ!!?」
わぁぎゃあと喚き、ギャンギャン吠えて、ドタバタの状況の中でペッパーはレーザーを何とか避けつつも、樹海の隙間を抜けて飛びながら、同じ距離を取って体勢を立て直していたエルドランザとレーザーカジキを目視、合流する。
「レーザーカジキ、エルドランザさん!」
「大丈夫ですか!?」
「あ、秋津茜さん………って、ジークヴルムさん!?」
『ジークヴルム!?』
「わぁ、待って下さい!?ペッパーさんですよ!」
「え、あ、本当ですね………!わぁ、カッコいい………!」
『高慢ちきめ。本領は海中でありながら、地上で生き延びるとは運が良い奴め………』
『黒い暴虐とやら、貴様は随分と小ぢんまりしおったな』
レーザーが飛び交い爆発と轟音が起きる中で距離を離しつつ、ジークヴルムの方を見れば出現した球体が少しずつ『大きくなっている』のが、三人と二匹には解った。
もしアレが最大まで膨張し、弾けた時………其れがジークヴルムの言った『
そんな緊急事態の最中だった。
『───────あぁ、白状しよう。してやるとも。我は……いいや
大型犬サイズにまで縮んだノワルリンドがぽつりと、誰にも明かしてこなかった自身の心の内に秘めていた、己の想いを…………竜王を目指した『原点』に関わる話を独白する。
『俺は俺自身を確立した其の時から、俺は奴のように成りたかった…………』
同時に其れは自身の機能に特化する為、其の構造を異形へ変える傾向を持つ色竜の中で、ノワルリンドだけが比較的真っ当な『ドラゴン』の形状をしていた理由なのだと、黒竜の言葉からペッパーとレーザーカジキは勘付いた。
『………だが、力を付け………俺という存在がいるのだと、奴に戦いを挑んで………『気付いた』のだ』
「何に…………、ですか?」
『奴はもう『終わっていた』。少なくとも此の決戦が始まる前、虫共の根城を守らんと立ち塞がった…………『あの時』までは』
"
だからこそ決戦フェーズで、ジークヴルムに突撃してぶつかり、内にて起きた『変化』を察知し、そして其れがペッパーという
『奴が此迄生きて来た中で、何かが有って………其れが『完結』していた。其れが『あの時』までだった。…………そして今此の瞬間、奴の中で時が再び
だからこそ、ノワルリンドは嬉しくも有り。
だからこそ、ノワルリンドは許せなかった。
『ッ……………己が憧れてきた存在の正体が、腑抜けた抜け殻と知った失望が!此迄に積み上げ続けた研鑽を、無感情に鼻で笑われた怒りが!叩き壊してやらんとした決意を、先んじて越された悔しさが!貴様達には解るか!?』
誰よりも──────此の世界で
其の大きな正の感情が反転し、大きな負の感情になったからこそ、ノワルリンドはそんなジークヴルムの腑抜けた
『…………だが、ああも『必死な姿』を見せられては、俺とて覚悟を決めねばならん。奴の最後だろう
『ノワルリンド、貴様………』
自分自身の力で傷付き、声高らかに自分が死ぬ事を語りながらも、ジークヴルムは全ての生命達へ『力を示せ』と尚も叫んでいる。遠くで輝き、其の命を燃やし続ける姿に、ノワルリンドは力強く睨み付け、己の竜眼に輝きを焼き付ける。
嘗て何も知らずに憧れた、あの日見たジークヴルムの勇姿の再来を。人や竜も知れずに唯一つの身で始源を灼き祓い滅ぼして来た、天をも覇する黄金の龍王の矜持を。
決して忘れず、其の脳裏へ刻み付ける様に。
『ならばせめて、奴の『最後の願い』を叶えてやるのが俺の。……………いいや、…………
『…………………』
自重気味に笑う黒竜を見て、ペッパーにレーザーカジキとエルドランザは何も言わず、秋津茜は返す言葉を見つけられないでいた。
サンラクならば気の利いた言葉の一つでも返せただろうし、ペッパーならばノワルリンドの決意を後押しする言葉を口にするだろうが、彼女にはそんな技術は無い。
だからこそ──────彼女は『心からの言葉』を以て、己の想いをノワルリンドに語ったのだ。
「私、ちょっと前にサンラクさんやペッパーさん、レーザーカジキさんに一回聞いてみた事があったんです。………『何故そんなに頑張れるんですか?目標もなく頑張れるんですか?』 ……って」
上を向き、前を向き、憧れを見て。そして走り続ける秋津茜は、常に前を向き続ける三人は無論リスペクトすべき人物達であり……尽きせぬ疑問を抱く相手でもあった。
そして三人は其々言葉や持論は異なれど、共通して『一つの答え』を持っていた。
「『未来の自分が、過去の自分を誇れる様に』………きっと『憧れ方に正しい答えは無いんです』。人には人の、其々の走り方が在って、目指すものが在って。……けれど、抱いた想いと真っ直ぐ駆けて来た道程は、きっと………ううん、『絶対に間違いなんかじゃないんです』!!」
こんな時、彼等は………彼女等は何と言うのだろう?
秋津茜の憧れ、秋津茜が持っていない事柄を輝かせ、シャングリラ・フロンティアを楽しむ人達ならば、何を言うのだろうか?
秋津茜が持っていない慎重さで、着実な積み重ねを続けた果てに、
秋津茜が持っていない智謀で、プレイヤーのみならずNPCすらも掻き回し、思うがままに操るアーサー・ペンシルゴンなら。
秋津茜が持っていない練磨で、シャンフロ最高火力というレコードホルダーの、極点たる称号の一つを持つに至ったサイガ-0なら。
秋津茜が持っていない技術で、巧みに刀を操って敵を切り裂き、モンスターやプレイヤーと戦う
秋津茜が持っていない輝きで、門魔法という魔法の極致を習得と、エルドランザと心を通わせたレーザーカジキなら。
秋津茜が持っていない領域で、見た事も無い三次元的機動のロボ捌きを以て、ジークヴルムを翻弄して見せるルストなら。
秋津茜が持っていない視点で、ルストと一糸乱れぬ完全な連携を展開し、戦場で火力以上の貢献をするモルドなら。
秋津茜が持っていない大胆さで、破天荒に最速たる称号を賜った速さを以て、此の世界を駆け抜けるサンラクなら。
秋津茜が持っていない思考深度で、数多の偉業を成してプレイヤーやNPC達の運命を切り開き、世界を変えていくペッパー・
自分と違うから、自分に無い物を持っている人は、秋津茜にとって須らく『尊敬すべき人達』で、追い掛けたくなるし、目指したくもなる。そして其れを諦めるのは、何もかもが『終わった後』で良い。其々までは其の手を伸ばし、走り続けていたいのだと。
動機が何であれ、駆け抜けた道はきっと誇れる筈だと、秋津茜は信じている。そうして其れは、ノワルリンドと出会ったばかりの頃に言い放った言葉で。
そして、何故秋津茜がノワルリンドに肩入れする理由もまた、あの日と変わり無く。だが少しだけ、付け加えて宣言する。
「私は………『諦めずに頑張ってる人を放っておけないんです』。だから………、だから、ジークヴルムさんに勝ちましょう!
其れが彼女の信念