ペッパー、新エリアへ
水晶工芸が盛んな街・エイトルド。水晶巣崖の侵食を受ける此の街は、定期的に押し寄せる水晶を間引き、其の際に採掘された水晶を用いた加工・整形が盛んに行っており、街の至る所に水晶が使われている。
其の為、水晶系武器及び防具が脅威的な格安の値段で入手出来る街として知られ、サードレマから大まかに『3つのルート』に分かれる中でも人気が高く、中級者プレイヤーが選ぶ一式装備ランキングで、ベスト5に食い込む程だ。
そんなエイトルドにやって来たペッパーとアイトゥイルは、夕方の街並みに水晶灯の魔力光が放つ、仄かな輝きが少しずつ影と闇を照らし、現実世界のネオン街に似た明るさを得ていく中を駆け、静かな裏路地に入って彼女が兎御殿とエイトルドのランドマークを繋ぎ、往来を可能にしていく。
「これで此処と兎御殿は何時でも行けるのさ」
「ありがとうアイトゥイル、MPポーションをどうぞ。其れと今日最後の一仕事として、兎御殿に戻った後にシクセンベルトに向かいたいんだ。良いかな?」
「ん…他のエリアも攻略するのさ?」
「あぁ。其のエリアは『正攻法』だと攻略に時間が掛かるが、今の俺達なら多分『其所まで』時間が掛からずに、エリアボスを倒せる………と思う」
「任せてさ」とアイトゥイルがゲートを開き、ペッパー達は兎御殿を経由して、シクセンベルトへと向かったのだった………。
シャンフロ第6の街・シクセンベルトは、2つのルートへと分岐する街である。
1つは、高地である此の街から先の道を登り、シャンフロ第10の街で、大陸では最も高地に在るとされる『テンバート』へ向け、雲海によって足元が満たされた『
もう1つは、街から続く坂を少しだけ下り、轟々と唸りを上げては、大質量の水流が流れる大河を泳ぐか、飛び石の様に設置された足場を渡るかの二択ながら、現実的に飛び石を渡る以外の選択肢無しの。そして落水=溺死に直結する、危険なエリア『
現在、ペッパー&アイトゥイルが来たのは後者の大河ルートであり、夕焼けに照らされながら走る広大な激流と、大型リゾートプールで見たようなターザンアスレチック味を持つ、無数の飛び石が目の前に広がっていた。
「事前に情報を調べてはいたけど…絶対飛び石に乗ったら崩落する系のギミック有るでしょ」
彼の予測は当たっている。事実、此の大河を渡る場合は正しいルート上にある、飛び石を渡らなくてはならず、一歩間違えようものなら怒濤の水流に押し流されて、溺死する以外の道は無くなるのだ。
「夕日染まる激流…跳ねて舞うは兎の如く…なのさ」
「出来るなら、満月の空の下で挑んでみたい気持ちは有るけれど………日が完全落ちる前にエリアボスを倒して、先に在る街にもランドマークを付けるよ」
ペッパーはそう言い、アイテムインベントリからレディアント・シリーズ一式装備と籠脚を取り出し、現状装備を入れ換えて次々と装着。
起動の合い言葉たる『
「ペッパーはん、まるでアメンボみたいなのさ」
「飛び石の正解ルートが解らないなら、そもそも着地せずに浮遊して渡れば、何の問題も無いってね」
一式装備を持ち込んでのエリア攻略。其れも空を飛べたり、浮遊しての移動が出来る代物ともなれば、目撃された場合に色々と面倒事は避けられない。
成れば、自分が取るべき方法はただ一つ。
「最短で!最速で!此の大河を突っ切る!」
レディアント・ソルレイアのモジュールから出る、白翼のオーロラが唸り、
改めて思うが、本当にヤバい。常にエネルギーが補給され続ける上に、やろうと思えば成層圏すらも飛び越えて、宇宙の果てまで飛んでいけるだろ、此のユニーク
ジークヴルムが言っていた『其の気になれば、自分と同じ高さまで飛べる』の意味を、全身に纏って運用してみたからこそ、初めて理解出来た。
「まぁ、成るようになるだけだな…」
「ペッパーはん…?」
思考は止めない、問題は見られた場合の対処だ。要は自分の名前が入って、尚且つ此の装備のスクショを撮られなければ、情報の拡散までに時間が掛かる。
人間とは基本的に、空想という物を信じない。其の空想を現実に変える、頭のネジがブッ飛んでいるイカれた
出来る訳が無い、そんな事は不可能だ、頭オカシイんじゃねぇの?という意見は、正に其の多数派の意見で少数派を押し潰すのに、此程うってつけな言葉は無い。そんな多数派の戯れ言を、少数派はブッ飛ばして空想を現実に変えてきたのだが。
「!」
そんなペッパーの装着し、フルフェイスヘルメットたる機能を持つレディアント・ヘルメイトが、大河の中腹辺りに一際大きな飛び石が在り、其所で複数人のプレイヤーが休んでいる姿を捉える。
「アイトゥイル、確り掴まってて!」
「はいさ!」
脇腹に掴まるアイトゥイルを支える様に、右腕を彼女の背中にくっ付け、速度で彼女が飛ばないよう固定し。
金色のエナジーウイングが煌めき、四肢の白翼のモジュールが唸り、速度が更に上がって。大きな飛び石を過ぎる頃には、金の閃光が軌跡を残して行ったのみ。
其の後に吹き荒れた突風と遅れて発された水流の波が、休んでいた開拓者達にぐっしょりと引っ掛かり、彼等彼女等は新手の奇襲かと身構えたものの、何も無かった事に怖いモノを覚えたのだとか……。
「ふぅ…他のプレイヤーには、何とか気付かれずに越えられたかな」
ハイスピードでの浮遊滑走を緩め、エリアボスが潜んでいるであろう、シクセンベルトの対岸付近までやって来た。
普段は濁流であるはずの大河は、此の近辺だけ『複数の飛び石』が入り組んでいる事により、川の流れが比較的穏やかになっている。
「ペッパーはん、此処だけ『嫌な感じ』がするのさ」
「あぁ、油断しないでいこう━━━!」
背後より殺気を感じ、浮遊滑走で避けた彼等の頭上を、ピラニアの牙と頭・アリゲーターの顎と胴体と四肢・サンショウウオの滑りが掛かった体皮。
全長8mクラスは在ろう、翔風桜結の大河のエリアボス『
「アイツか!此のエリアのボスってのは!」
挙句にシャンフロのモンスターの中では珍しい『捕食モーション』によって、四肢を、胴体を、頭蓋を、脚を噛み砕かれて、殺される。
更に此処のエリアボスの体力は、中盤訪れるエリアでは其れなりに高く、ぬめりを含んでいる皮膚によって、斬撃・打撃の通りが悪く、攻略法としては鯢鰐の皮膚を魔法か炎属性武器で水分を取り除き、其所を集中狙いすれば比較的倒しやすくはなるのだ。
「先ずはアイツを岸に引き上げて、地上戦に持ち込む!」
ペッパーはそう言い、水中を潜る相手を水上に引っ張り出す為、アイテムインベントリから以前に涙光の地底湖でのパワーレベリングの際に、ペンシルゴンから渡された『釣竿』と、エンハンス商会で購入した『釣餌:生肉』を取り出して、針に生肉を括り付けるや、水面に投げ入れて浮遊滑走を行い、岸側へ誘い込む。
実は此の鯢鰐、釣竿を用いた『フィッシングアクション』で釣り上げる事が可能で、パーティーを組んだならば、機動力の有る職業持ちが避けタンクを担い、他メンバーは対岸に辿り着き次第、釣竿を使って鯢鰐を釣り上げ、水中から地面に引きずり出して、炎属性武器や魔法で叩くという物である。
そして其れを現在、避けタンクを兼任しながら、フィッシングアクションが出来、尚且つ水上に居ながらに可能としているのが、光輝へと昇る金龍王装を装着しているペッパーで。飛び石の合間の水面を浮遊し、垂らした釣り針に着けた生肉を揺らして、鯢鰐を誘き寄せるべく、スキル:挑発で
「来た!食い掛かった!」
フィッシングレトロゲームで、現実の釣り堀で、シャンフロでライブスタイド・デストロブスターの釣り上げで経験した、獲物が食い付いて釣竿にズシッと来る、形容し難い此の重さが、鯢鰐が食い付いた事を指先から電気信号を以て、己に教えてくる。
釣糸を通じて相手の進行方向と逆になるよう、釣竿を倒して体力の消耗を促し、泳がせ、引っ張り、相手を自分のペースへ陥れ。
「オラッシャアアアアアアアアアアアア!!!」
一本背負いの要領で釣竿を引き、水中にいた鯢鰐を岸辺に引き摺り出す事に成功する。
『カロロロロロ…!』
「さぁ、此処からは一気にギアを上げてくぞ!サンショウワニ!」
釣竿をインベントリに収納、スイッチする形で取り出すは新しい武器。
『ガロロロァアアアアアアア!』
「先ずは何処を狙うのが正解か、其れを見極めからだ!」
開かれる大顎の噛み付きを躱わし、エリアボスを水辺に戻さないよう、常に背後に大河を来るように位置取る。
尻尾による薙ぎ払いをレディアント・ソルレイアの上昇で、突進攻撃をパウリングプロテクトで弾きつつ、ペッパーは得てきた情報を元に、攻略方法を組み立てていく。
「噛み付きは大振りで破壊力抜群、尻尾による薙ぎ払いも広範囲で厄介だし、突進攻撃も十二分のスピードだ。だがしかし、水中よりも動き自体は遅い。もしかしてサンショウワニ、地上戦が苦手なのか?」
『ガロロロァアアアアアアアァアアア!!!』
どうやら正解であるらしく、咆哮による怒りを顕にする鯢鰐だが、顎を上げて咆哮を行ったのをペッパーは見逃さない。
「チェッ━━━ストォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!」
ヴァンラッシュブレイカーの炎熱を放つ緋色の面が、下顎をアッパーカットの如く、フルスイングでブッ叩く。其の衝撃に鯢鰐の巨体はフワリと浮き上がり、背中から地面に倒していく。
たった一回の打撃にペッパーが重ねたスキルは、小鎚・鎚を用いての打撃を直撃させた箇所に、丸い弱点部位を『刻み付けて』、ダメージやスキルの影響を其の部位へ『ストック状態』とし、再び其の箇所を叩いた場合に其の時の攻撃ダメージと補正を『乗算』させる、致命鎚術【満月押印】。
鎚系統の武器での攻撃時に『装甲貫通能力』付与を追加する『命撃鐵破』と、打撃スキルによる攻撃時に破壊属性を乗せる『クラッシュレッジ』。駄目押しに自身の筋力と技量を参考として、ダメージ補正を上昇させる鎚武器系攻撃スキル『ボルベルグストライク』を使用したのである。
『ガロァアアアアァァアギャルォオオオオオオオオオオ!!!!!!!』
が、強力なノックバックで引っくり返されたにも関わらず、直ぐ様巨体を振り子の様に左右へ振った鯢鰐は、早々にダウンから復帰して再び噛み付きに来た。
「アイトゥイル!」
「はいさぁ!」
マントから現れたアイトゥイルが、瓢箪水筒の中にある酒を含み。ペッパーは右手に投擲玉:炸油を握り、スキルの握撃で握り締めてギミックを起動。同時にスキル:投擲で鯢鰐の口を目掛けて投げ、アイトゥイルが酔伊吹で放った炎が、可燃性の油によって威力を上昇。
『ガロァアアアアァァア!!!????』
爆炎に均しき火炎放射が炸裂し、口内を超高熱で焼かれ、大火傷を負った鯢鰐は堪らず顎を振り回し、大河の中に逃げ込もうとした。
「サンショウワニ、俺はお前を相手に地上に引き摺り出す事でしか、勝つ事が出来なかった。次に会う時は、お前が得意とする水中の土俵で、俺が勝つ!」
「決めるさね、ペッパーはん!」
鯢鰐が最後に見たのは、赤に輝く小鎚で下顎に刻み付けた刻印目掛けて、全力の一撃を放つペッパーと其の付き兎たるアイトゥイルの姿であり。
アイトゥイルの薙刀からは無双の連斬撃が迸り、ペッパーは満月押印を刻んだ場所へ、弱点部位への攻撃時にダメージ補正を大きく追加する攻撃スキル『グラシャラスインパクト』に、打撃スキルのクリティカルを高める『ヴァーティカルセンス』。そして鎚系スキルの中でも、ポピュラーな攻撃スキル『一撃絶壊』による、全身全霊全力全開渾身のフルスイングが刻印の位置に打ち付けられて、スキルによる
装甲貫通と破壊属性が時間を越えて爆発、衝撃波が鯢鰐の下顎から伝導、脳を
ペッパーはアイテムを拾って、アイテムインベントリに収納し。一式装備を大河を渡る前の状態に戻した後、アイトゥイルを旅人のマントの下に隠して先へ進み。
シャンフロの現在の大陸に在る、此の地を統治する王族が住まう御膝元にして、他の街とは一線を画す賑わいと人々が住む、大陸最大の都市たる『王都ニーネスヒル』に到着したのであった…………。
王が住まうエリアに、胡椒は来る
水中からの飛び掛かりでプレイヤーを水の中に落とし、溺死と捕食モーションによる攻撃で、肉体と精神の両方にトラウマを植え付けてくるモンスター。
また体力が半分を切ると、フィールドの飛び石を噛み砕いて、ジャンプで行ける範囲を絞り込んでくる為、最後まで油断しない事。
攻略法として、釣竿によるフィッシングで岸に引き上げ、水に戻させなければ比較的楽に倒せる。