VR初心者ゲーマーが往くシャングリラ   作:ガリアムス

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ペッパー、ユニークNPCと出逢うの巻




胡椒、神ゲーのアイドルと相対す

王都ニーネスヒル。シャングリラ・フロンティアの大陸内で、首都とも言うべき此の街は中世ヨーロッパよろしく、大都市として物資の流通や人の往来によって発展している場所だ。

 

そんな賑わいと活気が満ちる王都の一角に座す、巨大な大聖堂。其の中の貴人用の大部屋にて、ペッパーとアイトゥイルは頭を垂れていた。

 

何故、1人と1羽は此の状態に有るのか?理由は至極簡単で、彼の目の前に『シャンフロ屈指の人気を誇る、現役アイドルさえ敗北する存在』が居て、其れを守る『白金の騎士団』の団長が、横で大絶賛目を光らせられている状況に在るが故に。

 

どうしてこうなったのか、少し時間を遡る事になる………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

事の発端は、ペッパーとアイトゥイルが王都ニーネスヒルに到着した、およそ30分程前まで遡る。

 

翔風桜結(しょうふうろうけつ)大河(たいが)を渡り終えたペッパーは、アイトゥイルをマントの下に隠したまま王都の正門を潜り抜けるや、人目に付かない路地裏を目指して、広い王都をひた走っていた。

 

しかし後少しで裏路地に入れる所で、其の行く手を白金の剣と盾を背負い、如何にも高貴な騎士甲冑一式に身を包む、腰には同じ短剣を全員共通で携え、同様装備で統一したプレイヤー達が囲んで、逃げ道を阻んできたのである。

 

「ペッパーさんですね?私達は『聖盾輝士団』というクランの者です」

「是非とも、貴方に御同行を頂きたく存じます」

 

一糸乱れぬ統率力と、僅かな情報から此処を訪れる可能性も考慮し、待ち構えて居たのか。ペッパーはどうにかして、此の場から逃げられないかと思考を巡らせるが、其れを見た団員がこんな事を言ってきたのである。

 

「身構えなくても大丈夫。我々は貴方が持っている『情報』を、欲している訳ではありません」

「は、はぁ…では如何なる理由でしょうか?」

 

其の問いに、彼等は、彼女等は。ペッパーが衝撃を受けるに等しい答えを、唯々提示するだけだった。

 

「貴方に逢いたいと言う…我々の『聖女様』からの強い『要望』。そして貴方が此処を訪れると、運命神より『御告げ』を受けて王都へと来訪し、到着を待っていたのです」

 

聖女━━━━シャンフロにて、其の名前で呼ばれるNPCは『1人しか』居ない。ペッパーの右手に呪い(マーキング)を刻んで、今も夜闇を駆けているだろう、ユニークモンスター・夜襲のリュカオーン。

 

世界に七つのみの最強種から強者の証として刻まれた、デメリットが大半となる呪いすらも、其の聖なる祈りによって解呪する事が可能である、ユニークNPC『慈愛の聖女 イリステラ』。

 

『シャンフロのアイドル』と呼ばれる彼女が、木っ端の開拓者たる自分を名指しした上に、王都を訪れると予知し。普段拠点としているフィフティシアからニーネスヒルまで『クラン:聖盾輝士団』━━━通称『聖女ちゃん親衛隊』を護衛に付けて、遠路遥々此処までやって来ていたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聖盾輝士団の団員達に囲まれて、厳戒態勢の元に護衛が付けられたペッパーは、彼等彼女等が用意していた馬車に揺られ、イリステラが待つというニーネスヒル大聖堂へ向かっていた。

 

「どうしてこうなった」

 

十中八九ジークヴルムの手に乗った事が全ての原因であるとして、彼が何処かしらで暴れたならば、此方が責任を追及されても仕方が無い。しかし、あの時の彼の口調や雰囲気から理由も無しに、其れをやるようには思えないのである。

 

と、ガラガラガタゴトンと石で舗装された道を進んでいた馬車が止まり、団員の一人が「此方です」と降車を促してきた。

 

「うわぁ………」

 

王都ニーネスヒル。シャンフロ屈指の大都市である為、都内に立つ建物も軒並み豪勢だったり、豪華だったり、巨大だったりするのだが、此の大聖堂は王城━━━とまではいかなくとも、かの有名な『ノートルダム大聖堂』をモチーフに、其れを一回りか二回り大きくしたような、立派な建築として堂々と聳えていた。

 

此処に聖盾輝士団が崇め奉り、自分に逢いたいとやって来たイリステラが待っているのだろう。

 

「ペッパー殿、よくぞ参られた。私は『ジョゼット』、クラン:聖盾輝士団の団長をしている者だ」

 

大聖堂を見上げるペッパーに、女性の声で語り掛ける者が一人。聖盾輝士団の団員達と同じ装備ながら、しかし其の身に纏う覇気は、団員達と一線を画す存在。間違いなく、クランの中でも一番の実力者だろう。

 

「あ、はい。ペッパーです、よろしくお願い致します、ジョゼットさん」

 

マントの中にアイトゥイルを隠しつつ、ペッパーは左手をジョセットに差し出し、彼女も何かを察してか左手で握手に応じてくれた。

 

「早速だが、ペッパー殿。私に付いて来てくれ」

「解りました」

 

今更逃げて良いですか?なんて言おう物なら、イリステラの好感度は地に落ちる所か、ジョセット率いる聖盾輝士団に白い目で見られる事は避けられない。此処は大人しく従って、波風を立たせないに限る。

 

ジョゼットの後に続く傍ら、他の団員達が進路上の両サイドを固めて、規律正しく整列していく。まるで、重要人物の護衛の様な状況になっているが。

 

彼女の後に続き、並び立つ他の団員達の勇姿を間近で見つつ、其の果てに貴人用の大部屋と思われる、大きな扉の前に着いた。

 

「ペッパー殿、此の先にイリステラ様が御待ちだ。くれぐれも、粗相の無いように」

「はい…あと、一つ質問良いでしょうか?」

「何か」

 

首を傾げるジョゼットに、ペッパーは周りの団員達に聞かれないよう、細々とした声でヒソヒソと話す。

 

「此の先って付き兎のヴォーパルバニーが入っても、大丈夫だったりしますかね?一応、俺のパーティーに入っているんですけれど…」

「……解った、私がイリステラ様の護衛とペッパー殿の監視に着く。他の団員達は、此の部屋に立ち入らんとする不届き者が居ないか、厳重警戒を続けてくれ」

 

「「「はっ!」」」と、一糸乱れぬ掛け声を響かせ、一同直ぐ様に行動を開始。そしてジョゼットもまた、入室に当たって自らを律し、扉をノックして言った。

 

「イリステラ様。件の開拓者を御連れ致しました」

「━━━━どうぞ、入ってきて下さい」

 

ジョセットの声に扉の向こう側から、鈴の音のような澄み渡る声が耳に届く。

 

「アイトゥイル、部屋に入ったらマントの中から出て来て。あと、酒は飲まないでね。聖女様が目の前に居るから」

「解ったのさ」

 

扉が開かれてペッパーが入室し、マントの中からアイトゥイルが出て、1人と1羽は部屋の最奥に座る女性の姿を見る。

 

光さえも透き通るような銀の、後ろに束ねても尚も肩に掛かる程に長い髪。クレリック系ながらも、聖女と言う存在を明確に、より際立たせる純白の衣裳。

 

そして何よりも、彼等彼女等が見たのは、あまりの美しさに、魂は愚か自分達の全てが、吸い込まれそうな『瞳』で。夜明けの寸前の夜空と、太陽が昇る青空の境界線を思わせる、そんな神秘的な美しさを持っていた。

 

ペッパーそしてアイトゥイルは、本能的に片膝を地に着け、頭に装備した帽子と唐笠を外すや、胸に当てるようにして頭を垂れる。彼女こそがイリステラ、二次元や三次元の女性達が霞んでしまう程に、綺麗で美しい女性である。

 

「貴方がペッパーですね。初めまして、私はイリステラ………光栄な事に皆様から聖女と、頼られる者です」

 

透き通る優しい声が、耳と心に響く。シャンフロのアイドルと言われる由縁を、ペッパーは理解出来た気がした。

 

「初めまして、聖女様。私はペッパー、世界を旅する木っ端の旅人でございます。此方は、私の付き人のアイトゥイルと申す者。以後、御見知りおきを」

「ペッパーはんから紹介をいただいた、アイトゥイルと申します。『御頭』より貴女様の御活躍は、遠く我等の国にも高らかに響いております」

 

普段の呑兵衛たる雰囲気は何処へやら、細目を開眼しビシリと決めたアイトゥイルに、ペッパーは今目の前に居るのは俺が知ってるアイトゥイルか!?と驚愕、ジョゼットはヴォーパルバニーが人語を発した事に目を丸くする。

 

「七つの最強種の一角に強者たる刻印を刻まれ、他の一角に其の名を覚えられ、遠い時代の蒼天への願いを紡いだ勇者。そして其の傍らに共に立つ、ヴォーパルバニー。一度御逢いしたいという、私のわがままを聞いてくださり……ありがとうジョゼット」

 

ニッコリとジョゼットに微笑むイリステラ、そんな聖女からの御誉めの言葉に、ジョセットは直ぐに片膝を付きつつ、彼女に向けて言う。

 

「其れが貴女の御望みとあらば。我等一同、必ずや叶えましょう」

 

アイトゥイルの見栄切りに、イリステラに褒められても、聖騎士としてのロールプレイに一切ブレがないジョゼット。しかし問題は解決していない。

 

イリステラが言った『蒼天の願いを紡いだ勇者』というフレーズ。おそらく彼女は、自分が保有している光輝へと昇る金龍王装(レディアント・ドラゴニウス)を見せて欲しいと、言ってくる可能性が有るとペッパーは予感した。

 

「ペッパー………私が今回、貴方に逢いたいと願ったのは、是非『蒼天を舞う答え』━━━其れを此の目で見たいと思ったからです。嘗ての時代に世界へと示された、人の想いが創り上げし『結晶』の輝きを。そしてそう遠くない未来に、貴方が『世界を動かす鍵』となる事を、予知したのです」

 

そして其の予想は当たり、イリステラは光輝へと昇る金龍王装を見たいと言ってきた。ペッパーはジョゼットの方を見ながら、心の中で思考を重ねる。

 

今現在此の場に居るのは、イリステラ以外にアイトゥイル、そしてクラン:聖盾輝士団の団長・ジョゼット。仮にイリステラの要望に答え、天覇のジークヴルムを模したユニーク遺機装(レガシーウェポン)を纏ったとして、彼女が其の情報を外部に漏らさないと、絶対の自信を以ったとしても言い切れない。

 

そして自分も此の装備一式の情報が、何かの拍子に外部に漏れて拡散した場合、現在追われている身であるが故に、対処する事は困難を極める。

 

「解りました。━━━━━ですが、一つ。聖女様が仰った蒼天に舞う為の答えは、私自身他者への開示をあまり好んではおりません。嘗て其の力を巡り、大きな争いが起きた事で、私の手元に在る物以外は全て破壊されたと『先生』は話し、私に夢と願いの『続き』を託しました」

 

伝えるのはレディアントシリーズの力が引き起こした、神代の人類の争いと過ち。不用意に此の情報を扱えば、再び同じ事が繰り返されるという、現実の歴史も示し続ける事実。

 

「此処で見た事を、何れ訪れる『ジークヴルムさんとの戦いの時まで』、秘匿して頂けるのであれば、私は喜んで聖女様の御要望に御答え致します」

 

我を模した神代の遺産を継ぐ者よ、己が信ずる者と共に、我を超えてみせよ。ジークヴルムとの約束を胸に、ペッパーはイリステラに言い切った。

 

暫しの沈黙、イリステラはジョゼットを見て、こう言った。

 

「━━━━━ジョゼット、良いですか?」

「我等一同、貴方とペッパー殿に誓って此の約束、必ずや御守りします」

 

深く頭を下げて、彼女は聖女の意向に従う。其れを見届けたペッパーは、アイテムインベントリからレディアントシリーズ一式装備を取り出し、一つ一つを其の身に纏っていき、最後に合い言葉たる『起動せよ(Wake up)』と唱えて覚醒させる。

 

白翼のモジュールが顕れ、黄金のエナジーウイングが展開。ペッパーの身体はフワリと浮かび、室内の天井まで飛翔するまで10秒と掛からなかった。

 

「凄い………」

 

イリステラの前でも聖騎士ムーブで固めていた、ジョゼットの口調が崩れる。無理もない、魔法やスキル等を一切使わずに、ノーリスクで空を飛べる一式装備等、シャンフロでも特級レベルの代物だ。寧ろ拝めただけでも、彼女は幸運と言って差し支えない。

 

と、飛翔からゆっくりと床に降りていくペッパーだったが、其の最中にイリステラが呟いた、小さな言葉を聞き逃さなかった。

 

「世界を動かす勇者……蒼天を舞う答えを紡ぎて、其の手に『大いなる遺産』の全てを揃えし其の時。強き仲間達と共に、巨大なる『滅びの力』へ立ち向かう……」

 

大いなる遺産と言うのは、ユニークモンスターを模した遺機装であると予測出来る。だが、滅びの力とは一体何なのか?

 

「聖女様………?」

「ずっと昔……私が産まれて初めて『運命神』より賜った、最初の『神託』です」

 

重要な台詞を述べたイリステラは、其の言葉の意味を思考しているペッパーに向けて、こう言ったのだ。

 

「ペッパー。もし貴方が望むのであれば、此の場でリュカオーンの呪い(マーキング)を祈りにより、浄化する事が出来ます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最強種が強者に刻んだ呪いと言う名の傷痕は、ペッパーにとっては厄介極まりない存在でもあった。右手の装備枠が潰された事で、片手武器しか使えない&格下モンスターの逃走というレベリングに対する縛りの追加。此れだけでもシャンフロをやる上で、何時如何なる時も己の身に乗し掛かってくる。

 

本来ならば『多額の御布施』や『大聖堂への通い詰め』を何度も行う事で、初めて対面する事を許されるイリステラとの面会。其の過程をスッ飛ばして、此の場で呪いを解除してくれるという、世紀のビックチャンスが巡ってきたのだ。

 

普通のプレイヤーなら、喜んで彼女へと頼むだろう。だがペッパーはイリステラに対し、こう述べたのである。

 

「聖女様。ありがたき御言葉と提案、とても感謝しております。ですが………其の御話は受けられません」

 

此処を逃せば、もう二度と巡って来ないだろうチャンスを、ペッパーは自らの意志で断ったのだ。

 

「私は以前、夜襲のリュカオーンと戦い、敗れました。しかし夜の帝王と恐れられる、黒闇の狼の右目へ一太刀の刃を突き立て、切り裂いたのです。

 

そして頭蓋を砕き潰される直前、リュカオーンへ約束しました。『自分が刻んだ其の傷を、決して忘れるな』と。もし此処で呪いを解呪してしまえば、自ら約束を破ってしまう………そんな気がして。

 

なので……ごめんなさい」

 

ペッパーの言葉に、ジョゼットは驚きを隠せない。呪いを解除出来るチャンスを棒に振って、リュカオーンに取り付けた約束の為、呪いを背負い続けるペッパーの覚悟に。

 

其の覚悟にイリステラもまた、迷い人へ此の先に進むべき道を示すように、こう言ったのである。

 

「ペッパー、サードレマを治める『大公殿下』の元を尋ねてみて下さい。天を覇する龍王の鎧を纏い、彼に見せたのであれば、きっと貴方が『探している物』を、彼は託してくれる筈です。

 

貴方の其の気高き『覚悟』と、揺らぐ事の無い『信念』が在れば、其れは必ず貴方に『応えて』くれるでしょう」

 

 

 

━━━━━━━━と。

 

 






開拓者よ、サードレマへと迎え

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