一緒に居る事
※少し短いです
(き、気不味い………)
陽務 楽朗はシャイである。ゲームではロールプレイを通じてNPCの情緒や感情を高める事に強い手合いの彼だが、現実ではそうでは無く。
何せ初めて出来た彼女と二人きり、其れも自分の部屋に招いたという認識が此処でハッキリと自覚した事により、むず痒さと恥ずかしさとがゴチャ混ぜになっていたのである。
(ど、どうしよう………)
斎賀 玲は悩んでいた。勇気を出して告白し、想い人と交際を始めて、こうして彼の両親と妹に御挨拶から、彼の部屋に上がったという事実と夢心地の中で、次は如何なる一手を打つべきなのかを数多在る選択肢から選べずに居たのだ。
─────────会話に困った時にやる事、ですか。であれば既婚事実を作る他無い…………待ちなさい玲、待つのです玲
零か千しか選べない斎賀家の呪いを断ち切って結婚した、一番上の姉が述べた金言を流れる様に豪速球でぶん投げ、思考の果てまで吹っ飛ばして改めて考える。
─────────そういう時には身の回りの話をしたりして、少しでも自分と関係するワードを引っ張り出させるのが一番かなぁ。進路とか、ゲームの話とか、僅かでも触れる部分が合ったら、其処から会話を兎に角繋いで途切らせないのが大事なんだよ、玲ちゃん。
恋を知って一番の理解者になってくれた
「あ、あの!楽朗君、は…………大学は何処に、するとか………決めてたり、しますか?」
「大学、かぁ………。第一志望は来鷹だね」
「あ、実は私も、第一志望は来鷹………なんです」
「マジすか。因みに文系?理系?」
「えっと私は………─────────」
未来を見据え語り合い、進路に関する話を通じて、期末テストや受験シーズンになったら、一緒に勉強しようという事になり。
「喉渇いてきたな………。玲さん、水と麦茶どっち飲む?」
「あ、でしたら麦茶を…………」
「解った、じゃあ取ってく!?」
「あっ、楽朗くッ!?」
其れは乱数の女神の悪戯なのか、はたまた何か大きな意志が働いたのか。立ち上がった所に足首を挫いて倒れる楽朗と、其れを受け止めんとした玲も足首を挫くという、何とも奇妙な事情の炸裂からの二人は絡んで落っこちて。
そうして二人の現状は『玲が楽朗をベッドに押し倒していて床ドンしている』という、一目見間違えれば場合によっては修羅場不可避の光景が出来上がったのだ。
「あ、玲さん大丈夫?…………玲さん?」
「ぴゅっ─────────!?」
「玲さん!?玲さーん!?!?」
顔を熟れた林檎の様に真っ赤に染め上げ、ボスンッッッッ!!という水蒸気爆発じみたSEを響かせたまま目を回し、其のまま自分の胸の中に落ちて来て収まった事で、彼女の柔らかな胸が自分の胸板に潰れ、其の内側に在る筋肉の感触までもが伝わって来た。
「お兄ちゃーん、煩いけど何か在っ───────」
「あ、瑠美、ちょっ!?」
そして此の状況に追い打ちを掛けるかの様に、更に此処で妹の
「……………あー、成程『おたのしみ』中でしたかー。どうぞごゆるりとー」
「待て待て待て待て誤解だ、ちょっと待て瑠美ぃッッッッッッッッッッッッ!?!?」
棒読み半目ドン引きの表情と共に扉を閉めてそそくさと下がって行った瑠美に、楽朗の悲鳴に似た声が木霊せども時既に既に遅く。楽朗は此の一件が
「本当にごめんなさいッ………………!」
「いや、仕方無いって。まさか同じタイミングで同じ側の足首を挫くって、なんつー偶然だよって感じだからさ」
其れは其れとして乱数の女神は絶対許さんという決意を胸に、現実に居るならフルボッコにしてぇ………!という、決意と憎悪の炎がメラメラと燃え上がる中、玲は綺麗な土下座体制に在って。
彼女が気絶から回復するまでの数時間、ベッドに倒れたまま動けなかったのと、もう少しで夕食なので部屋を出て一階に降りれば、瑠美がジト目で此方に視線を突き刺して来たので、何時か絶対に何らかの形で復讐してやると決意し。
夕食は
玲は御家柄も有ってか、初秋刀魚を箸を使って物凄く綺麗に食して陽務家の面々を驚愕させ、楽朗は玲に食べ方のコツを聞いたりして、食卓は魚や旬の話題で繋がった。
そうして食事を終えて皿洗いを終え、件のVRシステムヘッドギアを取りに部屋へ戻り、夜の時間帯は一人で出歩くのは危ないと、楽朗は玲を彼女の家の近くまで送る事にし。
夜風が秋の味を含む中で街灯の多い道を歩き、此の日の事を思い出して会話を交わし合って、色々と忘れられない思い出を作ったのであった…………。
恋人同士、一歩ずつ