其の時、世界は━━━━━━━
王都ニーネスヒル内、ニーネスヒル大聖堂でシャンフロのアイドル、慈愛の聖女 イリステラとの会合を終えた、ペッパー&アイトゥイルは現在聖女ちゃん親衛隊こと、聖盾輝士団団長のジョゼットと共に懺悔室に居た。
「
おそらく此方が
「さっきも説明したが、此れに関しては一点物だよ。後、聖女様との『約束』は守ってくれよ?」
「任せなさい。イリステラ様に誓って、貴方との約束はちゃんと守ってみせるわ。勿論、クランのメンバー全員にもキッチリ言い聞かせるし、情報の一片でも流すようなら、クランからの追放も考える」
フンスと胸を張りながらも、懺悔室の入口をキリッと鋭く睨むジョゼット。直後、ガタゴトッと音が聴こえた辺り、聞き耳を立てた団員が居たのだろう。
アイトゥイル及びユニーク
「コホン…して、ペッパー殿。此れから貴殿はサードレマに向かうのか?」
先程のフランクな口調より、再び聖盾輝士団団長としてのロールプレイに入ったジョゼット。切り替えが早い。
「そうですね…ニーネスヒルの宿でセーブして、今日は終わりにしようかなと」
「成程、ならば『コレ』を貴殿に差し上げよう。開けば一度行った場所へ瞬時に行ける。使い切りの品物では有るが、大いに役に立つだろう」
ジョゼットが『ギフト』として渡してきたのは、ファンタジーでよくある古ぼけた巻物。受け取ったペッパーは、早速巻物の性能をチェックする。
大いなる魔術師が魔術媒体に刻んだ、深き叡智が刻まれた魔法。開けば其の魔法を詠唱無しに発動出来るが、一度使用したならば、媒体は其の効力を失い、唯の紙屑に成り果てる。
使用者が最後にセーブをした場所に飛ぶ事が出来る。
あ、絶対ヤバいレベルの金が掛かる、ヤバいアイテムだ。マジックファンタジー系統のレトロゲームも経験したペッパーの記憶が、己に向けて警鐘を鳴らした。
今はアイトゥイルが居るお陰で、兎御殿との往来が出来ているが、万が一に彼女をラビッツに待機させた場合、帰る手段がリスポーン以外無かったが、此の巻物があれば死なずに戻る事が出来る。
「良いんですか?こんな貴重な物まで貰って…」
「問題無い。だが、万が一の事も踏まえて『フレンド登録』をしてはくれないだろうか?PK対策と守る事に関しては、誰にも負けないと自負している」
『ジョゼットさんから、フレンド申請が来ました』
『登録を、よろしく御願いする』
『登録しますか?【Yes】or【No】』
シャンフロに置いて、最強を誇るプレイヤーに対して贈られる、名誉たる『称号』が有る。
万物を打ち砕く、絶大な『火力』に。
何人たりとも崩せぬ、絶対の『防御』に。
追随を許さぬ、抜きん出た『速度』に。
数多の敵を討ち取る、一騎当千の『撃破』に。
傷付けど倒れる事なき、不屈の『耐久』に。
究極をも極め、深淵にも届いた『魔導』に。
戦場に倒れ伏す、万人を治す『治癒』に。
シャンフロのシステムは規定値を超えたユーザーに、其の称号を授与する。そして其の内の一つにして、最大の防御を誇る者へ与えられる、ゲーム内レコード【
現在の保持者こそ、ペッパーの目の前に立つジョゼットだと知るのは、とある戦いの一幕での出来事になるのである………。
「あ~………ちゅかれた………」
「ふぅ……緊張したのさ………」
ニーネスヒル大聖堂での重大イベントを乗り越えたペッパーとアイトゥイルは、王都の裏路地に入って開いたゲートを通って兎御殿に帰還する。
「ジョゼット……聖盾輝士団……イリステラ……。うーん、色々有ったなぁ………」
少し悩んだものの、ジョゼットとフレンド登録を結んだペッパーは、兎御殿の休憩室のベッドに座って、もう一つのフレンド申請者たる『キョージュ』を見る。
ペンシルゴン曰く、考察クラン:ライブラリの中でも根掘り葉掘り情報を聞いてくる、厄介なおじいちゃんとの事らしい。
「トワはそう言っていたけれど、そう見えなかったんだよな……。考察面で御世話になりそうだし、ジークヴルムさんとの決戦の時にも、味方は一人でも居た方が良い。
其れに……ウェザエモンとの戦いが終わったら、クランへのスカウトに対する交渉もしないといけないから、連絡手段の確保は大事……だもんな」
幼女のガワを被ったおっさんだろうが、其の先に罠が仕込まれようが、突き進んでやる。ペッパーはそう決意を固めて、キョージュのフレンド申請を許可し、此の日のシャンフロを終え、ログアウトしていった。
しかし、彼は知らなかった………。
キョージュというプレイヤーが、フレンドとなった者が『とてつもない事』をしたならば。例えば『ユニークモンスターの掌に乗っかり、空へと舞い上がって飛んで行く』等と、常識外れの事をすれば直ぐ様
其れにより、送り付けられたハヤブサの大群が兎御殿の休憩室を占拠して、ペッパーは唖然となるのだが、其れは翌日の話である…………。
同時刻、所変わって此処は
夕焼けが夜闇へと変わる頃、一人のプレイヤーが人知れず『とある』戦いを続けていた。
「うっし!やっとレベルが上がったぜ。これでレベル14か、あんま上がらなくなってきたな。……と、やっと手に入ったわ」
プレイヤーの名はサンラク、此の森でヴォーパルバニーが落とす『ドロップアイテム』を狙い、狩りを続けて漸く、御目当てのアイテムを入手する。
名を『
途中遭遇した別のヴォーパルバニーが、包丁とは別の小鎚を落とした事で、2本づつ揃えようとする欲望が働き、ヴォーパルバニーを中心にモンスターを狩って、レベリングを行って。
そして先程の戦闘で、御目当ての致命の小鎚がドロップしたのだ。
「大体110体くらいかな、あの兎を狩ったの。お陰で小鎚と包丁各々2本ずつ、手に入れられた訳だけど」
二刀流対応可能な、クリティカル補正を高める斬撃武器と打撃武器。両手打撃・両手斬撃・斬打二刀流………思い付く戦法を、片っ端から試してみたい欲求が、沸々と内側より湧いてくる。
「現状、使えそうなスキルはと……『スクーピアス』に『ラッシュストンプ』。其れと『アクセル』に『フラッシュカウンター』……まぁ他は無いよりゃマシか」
レベリングの中で覚えたスキルを頭に入れつつ、サンラクはマップを確認する。簡易的で大雑把な地図に表示された現在地は、どうやら跳梁跋扈の森を抜けて、セカンディルの方面まで来ていたようだ。
「ファステイアの方じゃなくて、セカンディルが近くなってるか。このまま引き返すのも面倒だし、渓谷を渡って━━━━!」
草を掻き分け、渓谷を渡らんとしたサンラクが目撃するのは、白毛を頭と尾に生やした巨大な大蛇こと、跳梁跋扈の森のエリアボス『貪食の大蛇』が、とぐろを巻いて桟橋の前に立ち塞がっている。
「成程……門番って奴ね。しかも
傭兵の双刃を装備し、サンラクは大蛇に立ち向かう。此の敵を乗り越え、初めての街たるセカンディルに到着する為に戦う。
「いくぞ、オラァ!」
噛み付き、薙ぎ払い、巻き付き……蛇型モンスター特有のモーションを見切り、表皮を切り裂かんとする。
が、そんな最中に良くない事は起きる物で、傭兵の双刃が耐久値限界を迎えて、流動する巨体にぶつかった瞬間、バキン!と一際大きな音を立てて、刀身が砕け散ったのだ。
「げぇっ!?コイツ、硬いぞ!?」
距離を放しながら、サンラクは貪食の大蛇を見る。硬い表皮、常に動く巨体、並大抵の武器ではダメージが入らない。
「……はっ。こんな程度の事なんざ、何度も何回も味わって来たんだよ、コッチはなぁ」
左手に致命の小鎚を、右手に致命の包丁を握りて、サンラクは不屈の瞳で大蛇を睨む。
理不尽なエンカウト、クソの様なヤケクソ調整、意味不明のバグ。幾多の『クソゲー』を乗り越え、攻略してきたゲーマーにとって、此の程度『朝飯前』にもなりはしない。
「覚悟しろよ、デカ大蛇。お前は此の包丁と小鎚の実験検証用に、しゃぶり尽くしてやるよ!」
逆境である程に、己が昂る程に、プレイヤースキルとテンションの高まりが重なる程に、クソゲーマー・サンラクは『強く』なるのだ。
漆黒に空が染まる中、サンラクと貪食の大蛇、鳥と蛇の戦いはヒートアップしていく………
世界は廻る、人は動く