人が見る景色は、十人十色
「オラァァァァァァァァァ!そろそろ死に晒せや、クソ蛇ィィィィィィィィィィィ!!!」
決して負け犬の遠吠え等では無く、既に何十回に及ぶだろう
『シャアアアアアアアアア!』
「あーそうかい、そういうヤツかいお前は!じゃあ、やってやろうじゃねーかコノヤロウがよォッ!?」
右手の小鎚を解除し、跳躍で噛み付きを回避。髪のように束ねられた白毛を掴み、左手の包丁で大蛇の左目に向け、短剣系スキル『スクーピアス』を叩き込む。
『ジャアアアアアア!?』
「そしてェ!コレで終わりだ大蛇!」
ブッ刺した包丁から手を離し、取り出すは小鎚。此処までのレベリングの中で、獲られたポイントを振り分けて来た。そして現在のサンラクは、幸運が最も高い。
そして今、大蛇の左目には包丁が、己の左手には小鎚が、互いにクリティカルに関するダメージに補正が掛かる。
即ち━━━━━━━━
「一人式!パイルバンカー!!」
包丁の持ち手目掛けて、渾身の力で振るった小鎚の面が着弾し、刃が視神経を断裂させ、衝撃が脳を揺るがし砕く。
しかし大蛇も唯では死なず、残された僅かな力を振り絞り、尾先よりサンラクの背中に向けて、毒糞攻撃をぶちまけた。
「ぐえっ!?くっさ!?何だそりゃ、最後ッ屁!?」
直後、貪食の大蛇を構成するポリゴンが爆発四散して、ドロップアイテムと共に、致命の包丁が地面へ落ちる。同時に討伐者たるサンラクのレベルは、一気に2つ上昇して、新しいスキルに開眼する。
「おっしゃあ!複数人推奨エリアボス、単騎攻略だぜェェェェェェ!っか毒になってる!……10秒で1減るって事は、俺に残された時間は………およそ5分くらいか!?」
嘗て挑戦したクソ恋愛ゲーによって、トラウマと共に鍛えられたタイムスケジュール管理が、短時間で己の余命を導き出した。
「急いでアイテム拾って、ポイントは……ええいスタミナと敏捷に全ツッパだ!早いとこセカンディルに向かって、セーブなりしないとアイテム全ロスも有り得るぞ、マジ其れだけは勘弁!」
とあるクソゲーに、死亡=装備品と所持金を
とあるクソゲーに、死亡でセーブデータ破損=最初からやり直しと言う、製作陣のトチ狂った感性が反映されたゲームが在った。
ノーデスノーコンティニュー必須、ランダムエンカウトと内部ダンジョンが潜る度に変わる仕様、初見殺しのオンパレード等々……。クソゲーに相応しい要素を、プレイヤーに此れでもかと叩き付けたゲームを、サンラクは幾つも経験している。
「……やっぱ斬撃と打撃を、両方同時に遜色無く絡められるってのは良いな。スキルも色々覚えたし、小鎚二刀流ってもしかしたら、打撃系スキルも覚えやすくなるのか?って、急がなきゃヤベーんだった!うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!持ってくれよ、俺の体力ぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」
暗闇の世界を、敏捷とスタミナにポイントを振り分け、毒によるスリップダメージを受けながら、サンラクは一人全力疾走で駆けて行く…………。
「あの大蛇……まぁまぁの強敵だったけど、毒攻撃にさえ気を付けてれば、特に驚異じゃ無かったな」
サンラクが貪食の大蛇を討ち取り、最後ッ屁の毒糞によって毒状態となった事で、セカンディルへ全力ダッシュをしている頃。先に大蛇を殴り倒したオイカッツォは、セカンディルに向けて歩みを進めていた。
「にしても、本当によく動けるね『シャンフロ』は。『便秘』や『キャバクラ』なんかと、挙動にダンチの差が出てるな」
戦闘に置ける一挙手一投足の動きの滑らかさは、プロゲーマーとして感心する程である。プロの世界では戦闘に於いての1秒の動きが、其のまま勝敗に直結する場面が多々存在している。
無論、此れは他の格闘ゲームでも同じで、ビルディファイトも1つのガードの有無が、必殺ゲージを貯めるか否に関わり、自分も相手も其の1回の判断で勝ったり負けたりしているのだが。
「━━━━━━━━ォォォォォォ!」
「………ん?」
そんな時、オイカッツォの耳に『聞き馴染んだ声』が届く。まるで何かに追われているかの様な、切迫と逼迫に満ちた声である。
「ォォォォォォォォォォォ!」
「んんん…!?」
「ウォォォォォォォォォォォォォ!!あと2分しかねぇェェェェェェェェェ!?!セカンディルまであと少しだ、頑張れ俺ェェェェェェェェェェェ!!!!!」
ドドドドドド!と暴走に似た爆走で、大地を蹴り上げ走る半裸の鳥頭が、オイカッツォの真横を走り去っていき。本職:プロゲーマーたるオイカッツォは、其の僅かな錯綜の中でプレイヤーネームを見逃さなかった。
そして驚く。何せ、其のプレイヤーネームは如何なる
「………え、ちょ、ま!サンラク!?ってかアイツ、何で半裸!?防具売り払ってスタートしたのか!?」
クソゲーフレンドが今日、シャンフロを始められるとメールで知っていたが、まさかの防具売却鳥頭HENTAIスタートをしていた等、其れなりに付き合いの長いオイカッツォでも予想出来なかった。
「ってか、此れだと先にセカンディルに到着されるじゃねーか!!絶対煽ってくるだろ、あの野郎!」
互いに中指を立て合いながら、煽り煽られの関係に在るのがサンラク・カッツォ・鉛筆であり、此のままだとおそらく━━━━━
『え~!?先にシャンフロ始めたのに、未だにセカンディルにも到着してなかった、ノロマの魚類がいるんでちゅくわぁ~??????』
━━━━━等と、真面目に煽られる事になる。
「うぉぉぉぉぉぉ!あのヤロー、先着させてたまるかぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
オイカッツォもまた走り出す。だが、サンラクはキャラビルドとして、幸運・敏捷を中心にスタミナにポイントを振った、高速低耐久の幸運戦士。
一方のオイカッツォは体力・耐久を主体に、他ステータスをバランス良く伸ばしていく、軽戦士ビルドタイプ。要するに其処まで脚が速い……と言う訳ではなく。
「あ、あんの野郎…!速過ぎ、だろッが………!」
追い付く間も無く、先にセカンディルの門を全力ダッシュで越えて行った、クソゲーマーの背中を追う事しか出来なかったのだった。
サンラクに遅れる事、およそ30秒。オイカッツォも旅立ちの街・ファステイアから、跳梁跋扈の森のエリアボス・貪食の大蛇を越えて、第2の街たるセカンディルへ到着したのである………。
「…………居ないなぁ」
セカンディルの大通り、シャンフロを始めた初心者プレイヤーが、
初心者装備を纏うプレイヤー達が行き交う中、其の者は『極めて異質』で。純白の穢れが無い鎧兜は、見る者に高レアリティの装備であると主張し。背中に掛かるマントと、腰に巻かれた布に刻み、示された『黒の狼と咥えた剣のエンブレム』が。
男性アバターに纏う鎧で、街中を見渡す
「……『
『とある伝からの情報』によると、彼が今日『シャングリラ・フロンティア』を始めたという、とびっきりのグッドニュースが舞い込んだ。
「ォォォォォォォ!宿屋何処だァアアアアアアアアア!!あと1分しかねぇちぎじょぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「━━━━━━えっ」
そんな時だ。サイガ-0の耳に届く、何時も影から見ていた、大切な『想い人の声』がセカンディル中に響く。直後に目の前の道を通り過ぎるは、半裸鳥頭のプレイヤー。頭上に表示されていたのは………『サンラク』。
ある人曰く、彼はゲームをする際に名前を統一するタイプのゲーマーで、全て『サンラク』でプレイしているのだとか。
「見つけた…………陽務君!!」
セカンディル全体の地図は、既に頭の中に覚えている。此処から先回りして、彼が30秒以内で宿屋に………否、其れでは『間に合わない』。
サイガ-0が自身に補助魔法を掛けていく。敏捷を、跳躍を、筋力を、高めに高めて跳躍する。石造りの地面が皹走り、砕き割れ、其の巨体が宙へと飛んだ。
跳躍中にアイテムインベントリから
しかし其れは今、そんな事は些細な問題であり。
「あ、あの!全回復ポーション…です!毒を…治せますッッッッッ………!」
嗚呼、神様━━━━どうか…どうか、此の一瞬だけ。
弱気な私に力を貸して。
切なる想いを抱え、抜かれた木製の栓に留められた薬液が、溢れる声を思わす様に、サンラクへと叩き付けられたのだった。
プレイヤー達は、未開の世界を生きていく