VR初心者ゲーマーが往くシャングリラ   作:ガリアムス

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人が見る景色は、十人十色




夜闇を駆ける者、其れは誰の物語(其の二)

「オラァァァァァァァァァ!そろそろ死に晒せや、クソ蛇ィィィィィィィィィィィ!!!」

 

跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)(もり)を抜け、セカンディルを繋ぐ渓谷に掛かり、桟橋の前に陣取る貪食の大蛇に向けて、サンラクは吠えていた。

 

決して負け犬の遠吠え等では無く、既に何十回に及ぶだろう致命の包丁(ヴォーパルチョッパー)の斬撃と、致命の小鎚(ヴォーパルレッジ)の打撃でも未だ倒れない、此の大蛇のしぶとさに対して………である。

 

『シャアアアアアアアアア!』

「あーそうかい、そういうヤツかいお前は!じゃあ、やってやろうじゃねーかコノヤロウがよォッ!?」

 

右手の小鎚を解除し、跳躍で噛み付きを回避。髪のように束ねられた白毛を掴み、左手の包丁で大蛇の左目に向け、短剣系スキル『スクーピアス』を叩き込む。

 

『ジャアアアアアア!?』

「そしてェ!コレで終わりだ大蛇!」

 

ブッ刺した包丁から手を離し、取り出すは小鎚。此処までのレベリングの中で、獲られたポイントを振り分けて来た。そして現在のサンラクは、幸運が最も高い。

 

そして今、大蛇の左目には包丁が、己の左手には小鎚が、互いにクリティカルに関するダメージに補正が掛かる。

 

即ち━━━━━━━━

 

「一人式!パイルバンカー!!」

 

包丁の持ち手目掛けて、渾身の力で振るった小鎚の面が着弾し、刃が視神経を断裂させ、衝撃が脳を揺るがし砕く。

 

しかし大蛇も唯では死なず、残された僅かな力を振り絞り、尾先よりサンラクの背中に向けて、毒糞攻撃をぶちまけた。

 

「ぐえっ!?くっさ!?何だそりゃ、最後ッ屁!?」

 

直後、貪食の大蛇を構成するポリゴンが爆発四散して、ドロップアイテムと共に、致命の包丁が地面へ落ちる。同時に討伐者たるサンラクのレベルは、一気に2つ上昇して、新しいスキルに開眼する。

 

「おっしゃあ!複数人推奨エリアボス、単騎攻略だぜェェェェェェ!っか毒になってる!……10秒で1減るって事は、俺に残された時間は………およそ5分くらいか!?」

 

嘗て挑戦したクソ恋愛ゲーによって、トラウマと共に鍛えられたタイムスケジュール管理が、短時間で己の余命を導き出した。

 

「急いでアイテム拾って、ポイントは……ええいスタミナと敏捷に全ツッパだ!早いとこセカンディルに向かって、セーブなりしないとアイテム全ロスも有り得るぞ、マジ其れだけは勘弁!」

 

とあるクソゲーに、死亡=装備品と所持金を全喪失(ゼンロス)すると言う、身の毛も弥立つペナルティが在った。

 

とあるクソゲーに、死亡でセーブデータ破損=最初からやり直しと言う、製作陣のトチ狂った感性が反映されたゲームが在った。

 

ノーデスノーコンティニュー必須、ランダムエンカウトと内部ダンジョンが潜る度に変わる仕様、初見殺しのオンパレード等々……。クソゲーに相応しい要素を、プレイヤーに此れでもかと叩き付けたゲームを、サンラクは幾つも経験している。

 

「……やっぱ斬撃と打撃を、両方同時に遜色無く絡められるってのは良いな。スキルも色々覚えたし、小鎚二刀流ってもしかしたら、打撃系スキルも覚えやすくなるのか?って、急がなきゃヤベーんだった!うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!持ってくれよ、俺の体力ぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」

 

暗闇の世界を、敏捷とスタミナにポイントを振り分け、毒によるスリップダメージを受けながら、サンラクは一人全力疾走で駆けて行く…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの大蛇……まぁまぁの強敵だったけど、毒攻撃にさえ気を付けてれば、特に驚異じゃ無かったな」

 

サンラクが貪食の大蛇を討ち取り、最後ッ屁の毒糞によって毒状態となった事で、セカンディルへ全力ダッシュをしている頃。先に大蛇を殴り倒したオイカッツォは、セカンディルに向けて歩みを進めていた。

 

「にしても、本当によく動けるね『シャンフロ』は。『便秘』や『キャバクラ』なんかと、挙動にダンチの差が出てるな」

 

戦闘に置ける一挙手一投足の動きの滑らかさは、プロゲーマーとして感心する程である。プロの世界では戦闘に於いての1秒の動きが、其のまま勝敗に直結する場面が多々存在している。

 

無論、此れは他の格闘ゲームでも同じで、ビルディファイトも1つのガードの有無が、必殺ゲージを貯めるか否に関わり、自分も相手も其の1回の判断で勝ったり負けたりしているのだが。

 

「━━━━━━━━ォォォォォォ!」

「………ん?」

 

そんな時、オイカッツォの耳に『聞き馴染んだ声』が届く。まるで何かに追われているかの様な、切迫と逼迫に満ちた声である。

 

「ォォォォォォォォォォォ!」

「んんん…!?」

「ウォォォォォォォォォォォォォ!!あと2分しかねぇェェェェェェェェェ!?!セカンディルまであと少しだ、頑張れ俺ェェェェェェェェェェェ!!!!!」

 

ドドドドドド!と暴走に似た爆走で、大地を蹴り上げ走る半裸の鳥頭が、オイカッツォの真横を走り去っていき。本職:プロゲーマーたるオイカッツォは、其の僅かな錯綜の中でプレイヤーネームを見逃さなかった。

 

そして驚く。何せ、其のプレイヤーネームは如何なる世界(ゲーム)でも不動であり、不変であるからこそ、オイカッツォは気付けたのだ。

 

「………え、ちょ、ま!サンラク!?ってかアイツ、何で半裸!?防具売り払ってスタートしたのか!?」

 

クソゲーフレンドが今日、シャンフロを始められるとメールで知っていたが、まさかの防具売却鳥頭HENTAIスタートをしていた等、其れなりに付き合いの長いオイカッツォでも予想出来なかった。

 

「ってか、此れだと先にセカンディルに到着されるじゃねーか!!絶対煽ってくるだろ、あの野郎!」

 

互いに中指を立て合いながら、煽り煽られの関係に在るのがサンラク・カッツォ・鉛筆であり、此のままだとおそらく━━━━━

 

『え~!?先にシャンフロ始めたのに、未だにセカンディルにも到着してなかった、ノロマの魚類がいるんでちゅくわぁ~??????』

 

━━━━━等と、真面目に煽られる事になる。

 

「うぉぉぉぉぉぉ!あのヤロー、先着させてたまるかぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

オイカッツォもまた走り出す。だが、サンラクはキャラビルドとして、幸運・敏捷を中心にスタミナにポイントを振った、高速低耐久の幸運戦士。

 

一方のオイカッツォは体力・耐久を主体に、他ステータスをバランス良く伸ばしていく、軽戦士ビルドタイプ。要するに其処まで脚が速い……と言う訳ではなく。

 

「あ、あんの野郎…!速過ぎ、だろッが………!」

 

追い付く間も無く、先にセカンディルの門を全力ダッシュで越えて行った、クソゲーマーの背中を追う事しか出来なかったのだった。

 

サンラクに遅れる事、およそ30秒。オイカッツォも旅立ちの街・ファステイアから、跳梁跋扈の森のエリアボス・貪食の大蛇を越えて、第2の街たるセカンディルへ到着したのである………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………居ないなぁ」

 

セカンディルの大通り、シャンフロを始めた初心者プレイヤーが、沼掘り(マッドデイク)によって洗礼を受け、脱初心者へ向けた、レベリングや装備充実を目指す街。

 

初心者装備を纏うプレイヤー達が行き交う中、其の者は『極めて異質』で。純白の穢れが無い鎧兜は、見る者に高レアリティの装備であると主張し。背中に掛かるマントと、腰に巻かれた布に刻み、示された『黒の狼と咥えた剣のエンブレム』が。

 

男性アバターに纏う鎧で、街中を見渡す彼女(・・)は『サイガ-0』と言う、頭上のプレイヤーネームが示す。リュカオーン討伐を最終目標として定めた、廃人クラン:黒狼(ヴォルフシュバルツ)が誇る『最強の切札』にして、ゲーム内で『最高瞬間火力』を更新したプレイヤーへ贈られる、【最大火力(アタックホルダー)】の現在の所持者だ。

 

「……『陽務(ひづとめ)君』。何処に居るんだろう?……まだ、ファステイアかな……?」

 

『とある伝からの情報』によると、彼が今日『シャングリラ・フロンティア』を始めたという、とびっきりのグッドニュースが舞い込んだ。

 

様々なゲーム(・・・・・・)をやって来た彼が、何を思って此の神ゲーに挑んだのか、其の心境を彼女は知る術を持たない。しかしながら、他のゲームで逢えなかった彼と、出逢う事が出来る千載一遇のチャンス━━━━何としても物にしなくてはいけない。

 

「ォォォォォォォ!宿屋何処だァアアアアアアアアア!!あと1分しかねぇちぎじょぉぉぉぉぉぉぉ!!」

「━━━━━━えっ」

 

そんな時だ。サイガ-0の耳に届く、何時も影から見ていた、大切な『想い人の声』がセカンディル中に響く。直後に目の前の道を通り過ぎるは、半裸鳥頭のプレイヤー。頭上に表示されていたのは………『サンラク』。

 

ある人曰く、彼はゲームをする際に名前を統一するタイプのゲーマーで、全て『サンラク』でプレイしているのだとか。

 

「見つけた…………陽務君!!」

 

セカンディル全体の地図は、既に頭の中に覚えている。此処から先回りして、彼が30秒以内で宿屋に………否、其れでは『間に合わない』。

 

サイガ-0が自身に補助魔法を掛けていく。敏捷を、跳躍を、筋力を、高めに高めて跳躍する。石造りの地面が皹走り、砕き割れ、其の巨体が宙へと飛んだ。

 

跳躍中にアイテムインベントリから全回復(フルド)ポーションを取り出して、進行方向と着地位置を調整。着地と同時に巻き起こる衝撃波と砂埃、落下によるダメージが自分の体力を削る。

 

しかし其れは今、そんな事は些細な問題であり。

 

「あ、あの!全回復ポーション…です!毒を…治せますッッッッッ………!」

 

 

嗚呼、神様━━━━どうか…どうか、此の一瞬だけ。

 

弱気な私に力を貸して。

 

 

切なる想いを抱え、抜かれた木製の栓に留められた薬液が、溢れる声を思わす様に、サンラクへと叩き付けられたのだった。

 

 

 

 






プレイヤー達は、未開の世界を生きていく


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