盛り上がりとは別の場所
ペッパーが新大陸にて
久し振りに職業:忍者のプレイヤーのみが入る事を許されたギルド『忍の巣』に、パートナーのヴォーパルバニー・シークルゥ(箱擬態状態)と共にやって来た
普段は入る事も出来ない忍の巣に在る『開かずの回転隠し扉』、其の先へと案内された後に『此の道を其のまま進め』とだけ言われた彼女は、階段を登って長い長い廊下を歩き、そうして辿り着いたのは『油を貼った皿に灯心を入れた灯台の明かりだけが照らす薄暗い部屋』。
そして己の前には簾と、其々に貼り付けられた『龍』『蛸』『狼』『蛇』『士』『兎』『奏』の漢字一文字が、其々達筆で味と威を以て其処に在った。
「忍者・秋津茜よ。今宵貴様は我等が七の忍全てに『力を認められた』。今、貴様の前には『三つの道』が有る」
「…………一つ。天を舞う竜の如き、即ち我が龍忍道」
「…………一つ。深淵に座す蛸の如き、即ち我が蛸忍道」
「…………一つ。闇に潜む狼の如き、即ち我が狼忍道」
七つの簾、僅かな灯りによって輪郭が見えるのみながら、龍・蛸・狼の場所より声が聞こえて来た。
『
目の前の其々が掲げる一つのみ漢字、ユニークモンスター達と深く関わり、世界を突っ走るプレイヤー達と居る秋津茜だからこそ……………此の七の頂点達は『七つの最強種に対応した忍達なのだ』と正しく理解出来たのだ。
NPC達はユニークモンスターの事を大まかな程度しか把握していないが、何故七忍達が其れを知っているのかを秋津茜は知る由は無く。
「汝の縁は此の三つの道を作った。只なる忍の道も在ろうが……我等としては三つの道を選ぶ事を推奨する」
「龍忍道でお願いします!」
三つの簾とは別の場所から聞こえた声、そんな中でも秋津茜は脊髄反射の如く『自分が進む忍の道』を即答すれば、部屋には沈黙が訪れて。
「………フッ」
「くっ………」
「蛸はダメか……」
「蛸はダメであろう、
「蛸はな……」
「………世知辛いのぉ、
其々から出る一喜一憂の声に秋津茜は首を傾げるも、内の一つより「此方の戯言だ、貴様は気にするな」とだけ言われて。
暫く待っていれば、昔の手品で見た超能力に似た浮遊マジックで…………然して
「其の巻物に記されし『術の悉くを習得せし時』に、再び此方に来るが良い。其の時こそ、貴様に『龍忍聖』の証を授けよう─────故に我等七星の忍の名に於いて、今此時より忍者・秋津茜を『龍忍』として認める」
「「「「「「異義無し」」」」」」
龍の簾より声の後、他の簾から聞こえた老若男女様々な声は闇の中に溶けて消え、秋津茜が周囲を見回せども其処には誰一人とて気配は無く…………彼女が巻物を手に取った瞬間、目の前に現れた『転職イベントを完遂したクエスト画面』の表示が、其れを物語っていた。
『隠し
『ジョブチェンジ!メイン
『称号【双竜並び立つ】を獲得しました』
「…………えっと、帰って大丈夫…………なんでしょうか?シークルゥさん」
「…………箱は答えんで御座るよ」
箱に擬態して背中に背負った致命兎の鎧武者に問い掛けど、返って来たのは箱に成り切る為の言葉のみ。転職イベントを終えて狐の御面で顔を隠し、元来た道を戻って回転扉を抜ければ内側から鍵が掛かる音が聞こえ。
「…………………」
「…………………」
「…………………」
職業:忍者のプレイヤー達の視線が刺さるが、此れは至極真っ当であり。自分達がどうやっても入れない、
剰え『ノワルリンドと融合してフィニッシャーを担ったプレイヤー』として名が広まった秋津茜に、他のプレイヤー達は否応無しに注目する……………否、注目せざるを得ないのだから。
「あの、道具を買いたいんですけど………」
「御意に………」
「………えっと、秋津茜さん、で良いのかしら?」
「はい?」
そんな状況も何処吹く風と、普段通りに忍者のプレイヤーが愛用するクナイや手裏剣と言った投擲アイテムを補充する彼女に、一人のくノ一装束の女プレイヤーで考察クラン:ライブラリに所属する『
「もし良ければで良いのだけど、あの開かずの隠し扉の先で『何があったのか』教えて欲しいのだけど………。もし答えてくれたら、私が知ってる限りの『忍者ジョブで作れる武器について』教えるわ」
天鞠は忍の巣でも数少ない『武器種:鎖鎌の製作レシピ開放者』であると同時に、此のギルドの中でも『武器種:鎖鎌の使い手として上位の練度者』でもある。
ペッパーが冥響のオルケストラの情報を齎し、
其の先で辿り着いた決戦の舞台、
そんな彼女が自分の持つ手札を切って交渉に望む姿勢は、ライブラリを知るプレイヤー達からすれば『ガチで臨んでる』と確信する程度には、天鞠の本気度合いが凄まじい物で。
「えーと………。案内された先で、『七星の忍さん達に認められて隠し上位職業に転職してました』!名前が『龍忍』?という物です!!」
「……………えっ、龍忍!?」
「「「「「「!?!?」」」」」」
シャンフロに置ける忍者という職業は此迄、サービス開始から『奥義がランダム習得の一回個っきりでリセマラ不可』な上、更には『他の職業と違って最上級職が長らく未発見状態』という問題が横たわっている事から、最上位職や隠し職業自体が無かったバックパッカーと並ぶ『不遇職』というレッテルを貼られ続けていた。
ペッパーが明かしたバックパッカーの星化職業:
「そ、其の話、詳しく聞かせてくれない!?」
「私も!」
「オレも聞きたいっ!」
何か隠す訳でも無く至極あっさり答えた事で、周囲に居たプレイヤー達が次から次へとやって来る。
此の一件を機として、忍者職のプレイヤー達は『龍忍』を中心に『蛸忍』や『狼忍』といった七星の名を冠する忍へ次々と転職する事になるが、其れはまた別の話であり。
当事者の秋津茜は龍忍聖に必要な巻物内の全魔法習得の為、シークルゥと共に再び新大陸へとファストトラベルしたのだった…………。
其れは忍者が目指す一極点