其の頃、別の場所
シャンフロ旧大陸、第十五の街・フィフティシア。
嘗ては終点の地や終わりの街と呼ばれ、今では第二の旅立ちの街とも成った此の場所は、二つの大陸を結ぶ往来の船が着く港であり、同時に『ある戦いの最前線でも有る』場所だ。
「神話の大森林捜索隊からの連絡、
「よし!視認性最悪だから、兎にも角にも安全第一で撤退!木こり部隊は?」
「『大海間を結ぶ船』の材料を一部確保して、此方に戻って来てる!」
「次は俺達の番だな………」
「無茶はすんなよ。奴さんに『取り込まれたら』、アバターが死ぬまで操作出来なくなるからな」
「
ギャグにツッコミを入れたプレイヤーに他の者達の視線が向くも其の表情は固く、未だ緊張感を解けずにいた。
「ライブラリが公開した、天覇のジークヴルムの真理書に書かれてた『
「『森林に高度な擬態をする駝鳥と孔雀の合成獣』、ってのが生きて帰って来れたプレイヤーの情報だもんな」
「緑の果実をぶつけられると果汁が溢れて、液体が触れた部分から体力やら『持ってかれた』らしいから、そもそもアレを撃ち落とすのは悪手だろうよ」
神話の大森林内を徘徊、木に擬態してモンスターやプレイヤーに尾羽に付いた果実を投げ当て、当てた存在の体力や魔力は愚かステータスすらも奪い取り、其れすら足らなければ緑一色に染め上げて従わせる右方始源の『緑』。
無作為に、かつ選り好みはせず、行く先々で出逢ったモンスターやプレイヤーを緑に染め、従わせて歩いて行く異形の孔雀は、数週間前に打ち倒された青の仔馬を思わせる厄介極まる存在でも有る。
「しかも操ってる緑一色のプレイヤーが扱う『スキルや魔法を使って来やがる』ってのが、もう既に大分厄介な気配が有るっつーか…………」
「仮に上位帯や廃人プレイヤーが殺られたら、其奴のコピーが襲い掛かるんだろ?其れこそ『詰み』じゃん!」
「逆に考えれば緑一色の奴等を間引いて戦力を集めつつ、果実を何とか出来る手段を整えられりゃ、俺等でも何とかなるかもしんねぇ」
「だから今、私達は急ピッチで『新しい大陸間移動の船を築船する』…………そうでしょ?」
「あぁ。だからこそ木こり部隊と緑間引部隊に分けて、緑一色の連中が増えない様にしてる訳だからな。兎にも角にも『二百人の参加人数上限』が設けられてるし、
「レイドモンスターの報酬はリスクリターンがハッキリしてるが、明らかに人間辞めさせる雰囲気マシマシなのがね」
「とはいえプレイヤーによっちゃ『ブッ壊れ評価』食らってるのも有るし、一概に決めらんないのもな………」
旧大陸側の青の撃破、及び未だに全容が掴めずに居る黒・赤・白に、底知れぬ力を持つ気配漂う緑、更には海の向こうに在る新大陸の、まだ見ぬ五色の始源達。シャングリラ・フロンティアに息付く自分達に無関係では無いと、静かなる通告をし続けている様であった……………。
所変わってフィフティシアの造船所。
神話の大森林にて蠢く『緑』の始源を相手に命を懸け、文字通り必死になって戦う者達が切り倒して持ってきた木材を、黄金の天秤商会・エンハンス商会・カルカダ=コラス商会の三大NPC商会が扱っている素材や鉱石を用い、
「どうだ、調子は?」
「ん〜『ゴキゲン』だねぇ〜。いやはやVIP限定とは言え、市場にレア鉱石や素材が出回ってくれた御陰で、耐久性の高い船を造船出来るのは最高だよぉ〜♪」
「アムルシディアン・クォーツを叩いて伸ばして船の装甲に!なんて夢見たが、やろうと思えば何とかなるもんだな…………地獄だけど」
「「「「「ホント其れな」」」」」
苦笑いを浮かべつつも、彼等彼女等はトンカチを打ち鳴らす事を止めず、木と木を繋いで浸水を防ぎ、其の上に水による腐食やフジツボの張り付きを防ぐ様に、アロンカレス瑠璃硬晶で作ったコーティング材を吹き付けて、更なる補強を施していく。
「噂に名高い『ツチノコさん』が使った船…………聞いた話じゃ『ノーマン君』にツチノコさんが出費して、製作に協力したって話じゃない?」
「征海船…………正式には『魔導推進征海船』で、動かすには『ラピステリア星晶体』が必須なのよな」
「だからこそ水晶巣崖の決死周回や三大商会に頼み込んで、漸くラピステリア星晶体の手に入れた訳じゃないか」
「…………まぁ『五大造船クラン』も手に入れた訳だが」
「俺達は『製作の速さ』を競ってる訳じゃない。やってるのは『安全第一に人を運びつつ、速く海を渡れる船』を造ってるんだからな…………!」
「「「「「「其の通り」」」」」」
新大陸にて起きた竜災大戦─────────人類の未来を想い、人類の巣立ちに立ち塞がった天覇のジークヴルムとの一大決戦にて、龍王の片目を斬り潰し、角の一つを破壊したという一隻の空飛ぶクルーザーサイズの船。
クラン:スペリオルアビスによれば、未だにペッパーやクターニッドのユニークシナリオに関わった者しか知らない、プレイヤーからすると未知に溢れた『深海エリア』、其処に居る『深海の王』をモチーフにしたという其れは、船大工職からして『今の自分達にも造れる物なのか?』という疑問を抱かせ。
設計に携わったNPCの造船技師ノーマンに、交渉に継ぐ交渉の果てに漸く見せて貰えた設計図を元に、現在存在する『五大造船クラン』を……………『スネークウィンク・カンパニー』・『矢島重工』・『ウルティマムボート』・『深界海運』・『キャンディー・キュート・シップ(CCS)』を中心に、旧大陸と新大陸の間を隔てる『隔絶の大海』を迅速に越える手段として。
そして未だ人が届かぬ『天空の領域』まで届く事を夢見て、設計図面に筆を走らせ、金槌を振るって木と鉄を繋ぎ合わせ、人や物を乗せて海を渡る船を作る力にしていたのだ。
「胡椒さんが警告した始源存在、神話の大森林で緑一色の連中を間引いてくれてるプレイヤーの為にも、早い所造り上げなきゃな…………」
「五大造船クランに先越されようが、此方は安全第一がモットーよ!」
「其の通り。船は長く海を走れる様にしてこそ、だからな」
理念や理想は有れど、彼等彼女等の船作りは『安全第一』が根幹に在る。どんなに時間が掛かれども、製作の段階から穴が在っては安全とは程遠い。
だからこそ一つずつ、一歩一歩着実に、地道に積み上げ固める遠回りな道を歩く事こそが、信用と信頼を勝ち取る一番の近道なのだと信じているのだから。
新大陸、海上ギルド。
嘗てはノワルリンド討伐派で大工系最上位職業:大棟梁就職者『笑みリア』を主軸にし、新大陸到達プレイヤーや亜人種NPCの協力と共に在る、生産職クラン:新大陸建設と海洋調査クラン:スペリオルアビスを中心として作った海上建築の『一つ』であり。
竜災大戦に於いてレーザーカジキが友好を結んだ五色の一角・青竜エルドランザの居住場所の『海上社』や、海中には
海中で狩猟した魚介類の肉をエルドランザに渡せば、其の味に応じた鱗や牙と言った物を貰え、其れと海中のモンスターの素材と共に扱う事により、海圧耐性の高い外殻を構築し。そして今日、此の時此の瞬間を以って、其の海中闘技場は漸く完成に至ったのである。
「漸く完成したな」
「エルドランザからの報酬に、魚人族と一緒に海中狩猟と採掘で手にした素材で、漸く出来た訳だからな…………」
「見た目は『ザ・コロシアム』って感じだ。此れは此れで趣が有って、とても良い」
「空中機動しても問題無い広さ、大火力ぶつけてもビクともしない頑丈さ、此れなら文句無しだ」
「此処で思いっ切り対人出来るの、今から楽しみだね〜」
仇討人のサバイバアル、魚人族の英雄のル・アラバ達が検証に協力し、外側と内側に両側からの同時攻撃にも確り持ち堪えた此の場所は、定期的なメンテナンスで海中コロシアムとして充分に機能するだろう。
「あっそういや、スペリオルアビスが『海中移動の船作った』って聞いたが?」
「聞いた聞いた。魚人族の故郷にペッパーさんが向かうから、其の為の潜水艇をエルドランザの素材と海中モンスターの素材で、スペリオルアビスが作ったって話」
「ペッパーかぁ…………」
「ペッパーねぇ…………」
ペッパーが持っている武器の一つに『アスカロン・リペア』という物が有り、ル・アラバによれば魚人族の間では知らぬ者は居ない『ゲネテレ』が振るい、命を預けた唯一の得物であるそうで、武器として振るえる力を取り戻した其れを、魚人族の王に見せに行く様で、海底都市アルトランティアへの潜航進出を図るという。
此の潜航に武器狂いのSOHO-ZONEを始めとしたクラン:ウェポニアや、海中にロマンを求めるヒュクノティムを主とするスペリオルアビス、更にはエルドランザとレーザーカジキも参加、魚人族も一度里帰りの為に移動するとの事で、スペリオルアビスは海中移動兼拠点となる潜水艇を急ピッチで作っていたそうだ。
「此処が海中コロシアムか…………随分広いな」
と、生産職や仇討人しか知らない筈の此の場所に、『新たな人影』が一つ現れる。
「ん?誰………ってお前!」
「オルスロット!阿修羅会のリーダー…………!」
「
嘗て存在したPKerクラン:阿修羅会のリーダー、内輪揉めによって壊滅した後に紆余曲折を経て、盗賊から忍者になったプレイヤーはこう言ったのだ。
「此処では『対人戦』を行うって話は『サバイバアル達』から聞いた。役立つかは解らねぇが…………、幾つか『盛り上げる為の策』が有る。コイツに纏めといたから、一回検討してみてくれ。何なら俺が『実験体』になっても良い」
嘗て自分が
手渡した一冊の本…………其処にはオルスロットが自らの手で執筆した『対人戦界隈を発展するロードマップや、対人戦でのルール設定が盛り込まれた』、在りと汎ゆるアイディアが記されし分厚くも、一人のプレイヤーとして行き着いた『答え』が、其の中に有ったのだから。
準備は進む