ゲネテレの子孫
「………………改めて自己紹介はしておく。アタシは『ジニシィ』、魚人族の偉大なる英傑ゲネテレの子孫であり、此の海底都市アルトランティアで防人と鍛冶師を兼任して居る者だ」
「じゃあ此方も。自分はペッパー、ペッパー・
「サンラクだ」
「よろしく」
『良きに計らえ』
「よろしく御願いします!」
『ウム』
其の様子を部屋の窓や小窓から魚人族の子供や大人が興味津々で見つめ、そうして視線はアスカロン・リペアへと向き変わり、入れ替わる様にまた新たに数人の魚人族がやって来る。
「骨で作ったマグカップに…………何これゼリー?」
「魚人族の間では『饗しの品』として重宝されている、プロンプティーエルクという魚から搾り出した美味なるエキスでな。海中のマナや空気を溜め込み、半固形状態にして纏わせ熟成させる習性を持つ、摩訶不思議な小魚だ」
魚人族は基本的に水中や海中で呼吸し、食や暖を取り、寝床に着く生物であり、深海という環境で暮らす彼等彼女等の生活スタイルもまた、地上に生きる者達と一線を画す。
彼女から渡された魚介系モンスターの骨で作られたコップに、アールグレイ色のゼリー状の物が入っており、軽く揺らせばプルルンと弾力を以て証明するかの様に揺れた。
「海中で茶を飲む………今迄に無い体験だな。ドラグマ、どうだ?」
『コレは中々な味だな』
「味は………海水のせいで分からねぇ……………」
「しょっぱい」
「ですね…………」
『…………成程、悪くは無い』
水中呼吸を得た者、水中に適応した物、三者三様の感想を経て、ジニシィの視線がペッパーとアスカロン・リペアに向いたので、彼は集中モードとなって魚人族の英傑武器の柄を握る。
魚人族の王に見せる前に返却という、強奪イベントに成り得る可能性が引っ付いた、一触即発の状況下でジニシィが口を開く。
「アスカロン……………其れは我が祖先にして、魚人族の間に今も尚語り継がれし英傑ゲネテレが、生涯で唯一握りて死する其の時まで手放さなかった、大いなる魚神の
「成程………」
元を辿れば反転都市ルルイアスでサンラクがアトランティクス・レプノルカ"
途中ペッパーが覇頭衝角の雄々しき角を脚撃で圧し折り、サンラクが拳撃乱打でブン殴りまくってトドメを刺し、ドロップアイテムの山分でペッパーの元に流れ着いたのが、アスカロン獲得の発端でも有った。
とするならば、だ。
「───────反転都市ルルイアス…………神ならざれど神なる
アスカロンを手に持ち、吟遊詩人の如くペッパーは語り出す。己の記憶の図書館に納めた冒険譚、見聞きした情報と刻んだ記憶を結び付け、語り部の様に言葉を綴る。
「着きしは夜のルルイアス、在りし日に深き海に在った魚達の楽園。蒼に染まりし街を駆ける勇者、盟主の手により散り散りに引き裂かれた仲間を探せば、頭上の海を突き破り、冥府の海底より王は来たるは、覇の頭角を掲げし不世出なる深海の帝王!かの日にゲネテレが魚人族の勇士達と共に、命を賭け!其の身を擲ち、退けた!アトランティクス・レプノルカ"覇頭衝角"!」
声を上げ、登場を演出。此の場を劇場とし、ジニシィ達魚人族を観客に、己が放つ言葉で登場人物達を成し、朽ち果てたアスカロン入手の道程を構築する。
ル・アラバからルルイアスにて聞いた伝承で、ゲネテレが冥帝鯱を退けた際にアスカロンが失われた事は知っている上、其れが魚人族の間でも知られている事も有ってか、未だに疑念を向けているジニシィも少しずつだが此方の話に耳を傾け、外から覗き見る魚人族達もまた興味津々に話を聞く。
「盟主の地に有れど、我は一向に反さぬとばかりに暴れ!荒れ狂うは深海の帝王!蒼き雷撃が地に降り注ぎ、都市を薙ぎ払い、貫き砕く覇角の鋒が天地を裂く!されど勇士達は恐れない!退かない!そして帝王を斃すべく、英雄アラバがサンラクとペッパーと共に、此の戦場に討って出る!」
立ち上がり、拳を掲げ、突き上げて、まるで死闘を演じる様に叫べば、魚人族の子供達が『おおおおおおおおお!』と声を上げ始め、同時にペッパーのテンションが高まり昂り、其のままアラバを加えて突っ走れとばかりに、心のままに話を続けた。
「勇士は深海の空を駆け!蒼き雷光を其の手で砕き!漆黒を貫く覇の光を跳ね返し!遂にッ、帝王を都市の地へと撃ち落としたッ!!!『好機!逃せば二度と勝機は来ず!』英雄アラバの一声が走り、握りし得物が持ち得る力と共に帝王へ叩き付けられる!!!」
まるで話を〆る様に、クライマックスからエピローグへ続く様に、ペッパーは「そして…………」を口頭に最後を彩り、演じていく。
「遂に帝王は討ち果たされ、命の灯を燃やし、最後に放った業火をも退けられた帝王は、遂に力尽きた。そうして残骸から、私はアスカロンを拾い上げた。英雄アラバは私にこう言った…………『此れを取ったのは君であり、其れには必ず意味が有る。だから此の剣を直し、何時の日か魚人族の長たる者に見せて欲しい』………そう約束し、私にアスカロンを託したのです」
「そうして今、アスカロンは武器として振るえるだけの力を吹き返し、海の冬将軍たるコーラルホエールを斃すだけの力を取り戻しているのだから………」との言葉を最後に残し、アスカロンの入手秘話(アラバの脚色付き)を語り終えた所─────────
『『『『『─────────!!!』』』』』
歓声、歓声、歓声…………まさにスタンディングオベーションと言わんばかりの歓声が、拍手喝采と共に響き渡る。魚人族の老若男女問わず、此方に向けられてる視線が『リュカオーンの愛呪の権能』と、深淵のクターニッドの特殊エンディング到達で変化した称号『盟主の威光を授かる者』のダブル補正が効いている気配がする。
「…………成程」
問題なのはジニシィだ。脚色を加えながら、事実を踏まえた吟遊詩人的な語りで紡いだが、果たしてどうなるか。
「…………言い分は解った。其の話に『何かしら付け加えてる気はする』が、大方『嘘を付いてる気配は感じは無い』。…………つまりアラバが語った事は、少なからず事実だった訳か」
「…………ジニシィさん」
「アタシはまだアンタを『信頼した訳じゃない』。少なくとも『信用するに値する者』だと言う評価を下しただけに過ぎん、もしアンタが何か粗相を起こせば…………アタシの手でアンタを裁く。肝に銘じて置くんだね」
今回の語らいで、取り敢えずの信用は勝ち取れた観点から見れば勝利と言える。既に夜は深く、海中も寒さが一入に深まる中で、自分が『アラバとの約束を果たす為にやって来た』と示せた、其れだけでも充分な成果だった。
信用は得られた