VR初心者ゲーマーが往くシャングリラ   作:ガリアムス

996 / 1074


生命が紡ぐ




(おう)(おう)(おう)の饗宴 〜其の九〜

ペッパーが深海の猛者達を前に文字通り生き餌(デコイ)として囮となり、アスカロン・リペアの魚系海洋系モンスターのヘイト引き付けパッシブ効果で引き連れ、一部のプレイヤーも其の後を追って向かって行った後。

 

マウアナ海窟近辺では、アトランティクス・レプノルカ"覇頭衝角(プロモスピア)"の出産がSF-Zooの魚人族(マーマーン)改宗(コンバージョン)プレイヤーとエルドランザ主導により、佳境を迎えつつ有った。

 

「尾鰭が大分出てきた!」

「しー!ストレス与えない様に静かに!エルドランザさん、海水温が下がってる!」

『全く、注文が多いの…………!』

「デリケートですから頑張りましょう、エルドランザさん!後で美味しいお魚さんを探しに行きましょう!」

 

海窟近辺に居座っていた二属性戦艦頭角鯱、或いは深海の帝王と恐れ称される、アトランティクス・レプノルカ"覇頭衝角(プロモスピア)"の雌個体の出産という一大イベント。

 

発端はペッパーが持つ百を越える技能(スキル)の中に有る『モンスターやプレイヤーの体内を透視、生物を3Dモデリングの如く立体化の視点で見れる』なる物で、深海の女帝が子を宿している事を知り。

 

ジークヴルムの角と黄金のマグマを使って神匠鍛冶師が打った、自己進化と自己変革を続ける意志を宿した生きた武器の覇刀(はとう):龍神楽(ドラグマ)が、アトランティクス・レプノルカ"覇頭衝角"のコミュニケーションに適応した事で事情を理解し。

 

こうして現在の状況で他のモンスターが寄り付かない様に出産の護衛、マウアナ海窟で水熱源石(ブレイズストーン)を採掘して排出される熱を海水に溶かして青竜エルドランザが操り、産まれたばかりの子供が深海の水温で凍え死ぬのを防がんと奮闘する。

 

そして─────────

 

 

「頑張れッ、頑張れ………!!!」

「あとちょっと………!」

「あ………!」

「う、ううう………!」

『『『『『『産まれたぁあああああ!!!』』』』』』

「エルドランザさん、温水!」

『既にやっとる!』

 

 

破水からおよそ三時間、ペッパーが深海の猛者達を引き付け引き剥がしてから二時間に迫る頃、深海の女帝が腹に宿した我が子を海中に放った。

 

エルドランザが操りて、凍えぬ水温を持った海水が親子を包み、小さな冥王鯱の腹部に冥帝鯱が水晶鰭をそっと起き、僅かな通電を行えば子の口からは空気が溢れ、海水を吸い込み吐き出す光景を開拓者と青竜は目撃した。

 

「今のって、子供に海中呼吸を教える為のやつ?」

「キリンが産んだ子供をライオンやらに食べられん為に、軽く踏んで地面にさっさと立たせるみたいな…………」

「あ、おかーさんのミルク飲んでる!」

「かわいい〜〜〜!」

「きゃわわ〜〜〜!」

「アレが何時か大きくなって生き残ると、深海の王って呼ばれる事になるのがなぁ…………」

「貴重な瞬間の目撃者になれたぜ………」

「録画アイテムで撮影したから、後で他のSF-Zooメンバーにも見せよう!」

『やれやれ、漸く終わったか…………』

「こうやって命は紡がれていくんですね………。ちょっと感動で泣きそうです…………」

 

新たな生命へ祝福を。

 

人も獣も今は其の垣根を越え、生誕した小さな冥王鯱の生きる道に、どうか幸多く在れと願いを込めて。

 

そして別の場所では、其れ以上の戦いが続いていた………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ、リィアアア!!!」

 

八本の蛸足を背に乗せし勇者が握る、黄金の龍刃の一閃が海中を走り、続けて赫と蒼の閃が空隙を塗り潰して、覇槍を掲げし帝王を如何なる理由で従える、六つの機械じみた鰭持つ王者を斬りて、海を跳ね泳ぐ。

 

虹色の輝き靡く龍魚が四方より迫り、内の二体が帝王が放つ雷と、何処からか乱入してきた冬将軍の冷気を受けて屍を晒し、殺意を潜り抜けた二体の片割れは横入りした角に貫かれ、力任せに振るわれた事で胴体と胴体が泣き別れ。

 

襲い来る一体に勇者は、実体の感触と同等の残像を残して即座に離れ、残像を噛み砕いた龍魚の長い胴体を真下からスレッジハンマー状の鋭利な鋒を叩き込み、続け様に水晶に血脈を宿した短剣を逆手持ちにした一閃でエラを裂き、クリティカルの一撃を加えた。

 

「一つでもミスったら即ゲームオーバーの、レトロゲームを攻略する時の緊張感を味わってる気分だ!!」

 

赫き熱と蒼き冷気の相反する属性を両立する、魚人族の英雄ル・ゲネテレの英傑武器(グレイトフル)アスカロン・リペアに引っ張られた深海の強者達が襲い掛かり、我こそが先だと多種の生物と争う様たるや、深海領域で激突したスレーギウン・キャリアングラーの眷族魚雷乱射。

 

或いはシグモニア前線渓谷(フロントライン)のガルガンチュラ種とトレイノル種の大戦争に、帝晶双蠍(アレクサンド·スコーピオン)も加わった天上ビーム追加バージョン、或いは水晶巣崖(すいしょうそうがい)水晶群蠍(クリスタル·スコーピオン)の扇型波状進撃と、移動先やルートにスキルの選択を誤った瞬間に死に直結する、そんな戦闘の数々。

 

だからこそ…………そんな時にこそ、レトロゲーマーのペッパーは『ある言葉』を胸に宿し、己を奮い立たせて生存を掛けた局面に挑む。

 

 

 

『身体と魂は熱く燃え、同時に頭と精神は冷静に落ち着き。そして注意深く有れど、然して大胆に往く』

 

 

 

プロゲーマー時代にZ-Aと名乗り、今は十児の父親にならんとしている五条 全逸(己の父親)が、世界大会での勝利者インタビュー時に語った言葉であり、ゲームをする時に彼が心持ちとする金言は、此の混沌とした戦場に置いて心強い事此の上無い。

 

『ペッパーよ、まだまだ来るぞ』

「あぁ。HOT&COOL、Meticulous&Fearlessだ…………!」

『何だ其れは?』

「戦う者の心構えって所!『雷撃よ霧散せよ』!」

 

海中を迸り来る雷閃、言霊が紡がれ発動する状況改変(神代技術の御業)が雷撃の悉くを霧散させ、憑依一体(エピタフ)への肉薄と共にウォーハンマーの大海鐘(だいかいしょう)より赤き鞭の紅蓮海の撃鞭(レガレクス・ウィスパー)に切り替え。

 

豪武神の超技(マルス・スペリオール):蛇昂咆這撃(サルナール・エリナヴィス)を至近距離で目の在る位置を狙って振るうも、憑依一体は自分達を引き寄せる牙を持つ、小さな生物が蛸足に握った鞭より現出した龍蛇のオーラを見、精霊の領域に足を突っ込みながらも生物であるが故に『受けるのはマズい』と直感したか、覇頭衝角(プロモスピア)を横入りさせての覇槍の象徴たる頭角を以って受けさせ。

 

飛び出した龍蛇の攻撃エネルギーが覇槍の頭角にぶつかり、ほんの僅かながら先端が『欠けた』事を見てか、今の今まで『片手間潰せる目立ちたがりの小さな生き物』という認識だった其れを、此の時より『此処で確実に潰せねばならない敵』としての認識に改め直した。

 

 

 

王達の戦は、此処から更に激しさを増す。

 

 

 

 






宴は続く


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。