「……真希ちゃん、……パンダ、……狗巻君」
私が戻ってくると、そこには血を流して倒れ伏す真希ちゃんと狗巻君、そして地面にヒビが入る程叩きつけられたパンダがいた。全員生きてはいるようだ。
「どうして?呪霊の強さは確かに3,4級だけだった筈なのに……」
この3人ならやれた筈だ。明らかにおかしい。更に、戦闘があった形跡がない。つまり、反応すらできずに3人共やられてしまったようだ。
「誰がこんな事を?」
怒りが沸き上がる。真希ちゃんと狗巻君に反転術式を施しながら、すぐに探知を始める。
すると、すぐ近くに気配があった。
「見つけた」
私は影で私の隙を探っていたそいつの背後に一瞬で回り込み、全力のパンチを放った。
『バチッ』
黒い火花が散る。【黒閃】だ。
「――ガハッ!」
「…硬い」
私の全力のパンチに黒閃が乗った一撃を耐えた。間違いなく特級レベルだ。
「チッ! クソがッ! 何で気づかれた! しかもたった一発でこのダメージ!」
人狼のような呪霊は呪力によって身体を治しながら、愚痴を溢す。
「呪霊なのに喋れるんだ」
私がそう言うと、
「この牙天様をそんじょそこらの呪霊と一緒にされちゃ困るぜ呪術師!」
自慢げに笑う牙天とかいう呪霊。
「ふーん」
興味は無い。私にあるのは、友を傷つけられた怒りのみ。
「俺様の力に絶望して死んでいけ! ガアァー!!」
呪霊が吠える。すると、大量の獣が現れた。狼や熊、猪、狐、猿など、多くの種類がいる。
100体は居るであろう獣の群れが、一斉に襲いかかってくる。
それに対し私は、
「【熱光線】」
光速ではない程度の光線を放つ。熱に指向性を持たせ、放つ事で光線とは違い、枝分かれしたり、ホーミングしたりできる。
あっという間に獣の群れは全滅した。
「何…だと…!?」
呪霊が唖然としている。
私は隙だらけな呪霊の背後に回り込む。
「まずは、狗巻君の分…!」
そう言いながら、殴り飛ばす。
「グハッ!!」
「これが、真希ちゃんの分!」
更に地面に叩きつける。
「ガァッ!!」
「そしてこれが、パンダの分ッ!」
地面に叩きつけられた呪霊の顔面を殴る。地面が揺れ、ひび割れた。
「……。」
呪霊が動く気配はない。私は、跡形も残さないよう、5m以上はある熱球を作り出す。
「じゃあね。」
そして、私は熱球を放った。
◇◆◇◆◇
しかし、
「【止まれ】」
熱球が一瞬止まる。そして、獣が呪霊を熱球の射線上から逃がす。
私は声のした方へ振り向き、その人物と目を合わせる。
「何で…狗巻君…?」
そこにいたのは、他でもない狗巻棘本人だった。
「【死ね】」
狗巻君の呪言が私に効くのはせいぜい【潰れろ】までだ。それ以上は狗巻君が逆にやられてしまう。まして【死ね】なんて効く訳がない。
「ガハッ」
案の定、狗巻君は血を吐いて倒れ、動かなくなる。
「ハハハハハ。驚いたか?」
笑いながら死角から攻撃してきた呪霊を、攻撃を躱しつつ睨みつける。
「おーおー、怖い怖い。安心しろよ。アレは俺様の術式で生み出された偽物だからよ。俺様の術式は、倒した相手の分身を式神として使役できる。術式の対象は俺様が意識を奪った者。トドメを俺様が刺すと術式の対象じゃなくなっちまうし、強い奴程呪力を喰うが、中々良い術式だろ?」
術式を開示してきた。
「呪霊の癖に面倒臭い事を…」
「ハハハ! テメェのお仲間は使い勝手がいいなぁ!!」
更にパンダ3体、狗巻君を2人、そして大量の獣を差し向けてくる呪霊。
ゴリラモードのパンダ3体をさばきつつ、狗巻君の呪言に当たらぬよう、耳に呪力を固める。
「ガァァーーー!!」
呪霊本体も突っ込んでくる。
パンダの連打を最小限の動きで躱し、呪霊の攻撃を待つ。
そして飛び込んできた呪霊の爪をガードしカウンターを一発。その隙に攻撃してきたパンダを左手で熱光線を放ち撃ち抜く。だが、
「ウォオーー!!」
「――耐久性まで本体並なの!?」
思わず声を上げてしまう。つまり、コレを消すには核を攻撃しないといけない。
パンダの核の位置に攻撃を当てる事自体は難しく無いが、それをするのはちょっと嫌だ。偽物と分かっていても姿形は本物だから。だからできれば本物じゃ死なない程度の攻撃でさっさと消したかったのに。
「まだまだ行くぜぇ!!」
呪霊の攻撃が激しさを増す。全て躱せるが、面倒臭い事この上ない。
「ハァ。しょうがないか。【熱纏】」
私が熱を纏う。攻撃を仕掛けようとしていたパンダ3体と呪霊の腕が蒸発する。
「グッ…! よくも俺様の腕を―――しまった!!」
「【光球】」
前衛全員が怯んだ隙に光球を6つ作る。そして、パンダ3体と狗巻君2人、呪霊を撃ち抜く。
「グハッ! クッ、クソッ!!」
逃げようとする呪霊の足を、
「【光線】」
撃ち抜く。逃しはしない。
「【光球】」
呪霊の体程度の大きさの光球を生み出す。
「消し飛ばしてあげる。」
「ヒッ!! ま、待て!!」
呪霊の命乞いも聞かず、ソレを放った。
―――しかし、
「――困るなぁ。コレにはまだ利用価値がある。」
突然空から聞き覚えのある声がして、光球の射線上にデカい呪霊が割って入った。光球は呪霊とぶつかり対消滅する。
「その声は――」
「久しぶりだね。愛里沙」
そこにはかつての親友にして先輩、憧れであった、呪詛師夏油傑が、笑顔を浮かべて立っていた。
◇◆◇◆◇
私は咄嗟に構える。
「あーあー待って待って! 私は戦いに来た訳じゃないんだよ」
「待てる訳ないじゃないですか! 私と貴方は高専生徒と呪詛師、敵同士ですよ!」
「あぁ! そういえば愛里沙も今年から高校生かぁ。大きくなったね。前はあんなに小さかったのに」
「そこじゃないでしょ!?」
戦意が削がれてしまう。眼の前の男が、夏油傑であることを、今のやり取りで強く意識してしまった。
「相変わらず甘いね、愛里沙。そんな顔で私を殺せるのかい?」
「っ! ええ! 殺れますよ! 私だって、覚悟はしているんです!!」
「その覚悟が、今揺らいでいるんじゃないかい? ほら、構えている手が震えているよ?」
私は、言い返す事ができずに押し黙る。
「そんな顔しないでくれよ。私が悲しくなる」
何となく、それが心からの言葉であることを感じてしまい、私は完全に戦意を削がれてしまい、構えを解いてしまった。
「本当に君は変わらないね愛里沙。甘過ぎる。――さて、少し喋り過ぎたな。やる事やって撤退するよ」
夏油さんはそう言うと、いつの間にか持っていた黒い球を呑み込み、大きな鳥の呪霊に乗り込んで、「じゃあね」と言い残し飛び去っていった。
私は、後を追うことも、背後を撃ち抜くことも、出来なかった。
牙天のステータス
硬さ…リカちゃん並。
近接戦闘力…漏瑚並。
呪力量…漏瑚より少し少ない。
呪力出力…漏瑚並。
領域展開…使用可能。押し合い的にはまぁまぁ強い。真人や五条みたいな一撃必殺の能力ではない。
結構強いッス。直線対決なら漏瑚の方が上だけど、下準備有りなら牙天有利。ちなみに、最初に出した獣達は呪力が付与されていて、1から2級呪霊位の力があります。
相手が悪いだけよ。