夏油傑と遭遇後。
私は治療が完了したパンダ、狗巻君、真希ちゃんと高専へ帰還した。私が凄く落ち込んでいたので、他の3人は色々と気を遣ってくれて、寿司屋に打ち上げに行く事になった。因みに私の奢りだそうだ。何故?
時間が経って気持ちの整理がついてきた頃、夜蛾学長に呼び出された。すぐに学長室へ行く。
「来たか愛里沙。座れ」
「やっほー愛里沙。ちょっと落ち込んでる? 大丈夫?」
ソファーには、夜蛾学長と五条さんが座っていた。机の向かい側のソファーに座る。
「それで、何があった?」
夜蛾学長が尋ねてくる。私は現地に着いてからの出来事を、事細に説明した。
「何!? 夏油だと!?」
「……そうか。傑が」
「すみません、夜蛾学長、五条さん。覚悟が、出来ていませんでした。夏油さんを止められなかった」
「……いや、いい。それよりもこれからの事だ。ついに夏油が尻尾を見せた。奴の仕業と見られる事象はいくつかあったが、本人の姿を発見できたのは今回が初めてだ。奴はナニカに備え、戦力を集めている可能性が高い。悟、お前はどう考える?」
「アイツががむしゃらに呪霊を集めているとは思わない。戦力を集めているってのは多分合ってる筈だ。そして、それは多分非術師を皆殺しにするためだ。アイツが呪詛師になってからずっと戦力を集めていたとしたら、近々仕掛けてくるかもな」
「こちらも準備を整える必要があるな」
夏油さんへの対応をどんどん決定していく2人。私は何も出来ない自分の不甲斐なさに拳を強く握りしめた。
「ちょっといい?」
夜蛾学長との話し合いが終わったのか、五条さんが話しかけてくる。
「何ですか?」
「いや、言い忘れてた事があってね」
なんだろう? 励ましてくれるのだろうか。正直、今は素直に励ましを受け止められないかもしれないのだが――
「サンキュー、僕の生徒を護ってくれて。まあ愛里沙も僕の生徒なんだけど、助かったよ」
それを聞いて、私は胸がいっぱいになった。
「……い、え。どういたしまして」
泣きそうになるのを必死に堪え、笑顔で答える。そうだ。過去を嘆いても仕方がない。今はただ、失った物が無い事を喜ぶべきだ。
開き直りもはなはだしいかもしれないが、私なんてただ強いだけの一人じゃ出来ることも少ない高校生だ。これ以上望んだら、バチが当たってしまう。皆、生きているのだから。
◇◆◇◆◇
それからしばらく経ち
「聞いたか?今日くる転校生、同級生4人をロッカーに
「知ってるよ。乙骨優太君って言って、特級呪霊に呪われてる子だよ。ロッカーに同級生詰めたのも、その呪霊」
「詳しいな」
「だって私と五条さんで高専に編入させたからね。悪い子じゃないよ」
そう、今日転校してくる乙骨優太君の秘匿死刑を止める為に、私は五条さんに頼まれて一緒に上に直談判しに行ったのだ。本人ともしっかりと話した。だいぶネガティブな感じだったが、少なくとも悪い子じゃない事は分かった。
「うーむ。いまいち信用は出来んな」
「そーだな」
「しゃけ」
「何で!?」
何故こんなに信用が無いの!? 私何もしてない筈だけど。
「愛里沙は時々ポンコツだし、戦いとかお偉いさんとの駆け引きとかは上手いくせに日常ではよく騙されるし、悟は適当だし、アイツ自体結構クズだしなぁ。その2人からの保証なんて、あってないようなもんよ」
「そんな事ないよ!!」
「うるせぇ! お前、この前体調悪いフリしたババアに騙されて金巻きとられそうになったの忘れたのか? あの時、誰が止めたっけ?」
「ヴッ……。真希ちゃんです……。」
「そういうトコだよ。ま、愛里沙騙してたらシメるまでよ」
「おかか」
「やめてよ!?」
少々物騒な会話をしながら、私達は教室に向かった。
◇◆◇◆◇
「転校生を紹介しやす!!! テンション上げてみんな!!!」
「イエーイ!!」
五条さんのノリに私だけが応える。
「上げてよ。他の三人も」
「どんな奴かも分かんねえし、経歴だけなら随分尖ってるらしいじゃん。わざわざ私達が空気作る必要ないね」
「しゃけ」
「フー。ま、いっか。入っといでー!!」
五条さんの呼びかけで教室のドアが開かれる。
その途端、強い呪い独特の気配が教室内に充満する。
3人が咄嗟に戦闘態勢に入ろうとする。だが、
「皆!! ストップ!! 攻撃したら呪霊が出てくる!!」
私は皆が乙骨君に攻撃する前に止めた。
「え!? 何!? どういうこと!?」
乙骨君が混乱している。
「日本国内での怪死者·行方不明者は年平均1万人を超える。そのほとんどが肉体から抜け出した負の感情、“呪い”の被害だ。中には呪詛師による悪質な事案もある。呪いに対抗できるのは同じ呪いだけ。ここは呪いを祓うために呪いを学ぶ都立呪術高等専門学校だ」
五条さんが説明する。
(事前に言ってよ!!)
(((今教えたの!?)))
(しっかりしてください五条さん!!)
(メンゴ!!)
「さて、この乙骨君に関してはもう愛里沙から伝わってそうだから説明省くけど、乙骨優太君でーす皆よろしくー!!」
「また面倒くさがりましたね!?」
「いいじゃん愛里沙。教えたんでしょ?」
「まぁ、そうですけど。」
「つーことで、コイツら愛里沙以外反抗期だから僕がちゃちゃっと紹介するね。」
五条さんが乙骨君に向き直る。
「呪具使い禪院真希。呪いを祓える特別な武具を扱うよ」
「……」
「呪言師狗巻棘。おにぎりの具しか語彙がないから会話頑張って」
「こんぶ」
「パンダ」
「パンダだ。よろしく頼む」
「そしてこの一年生のアイドルにしてムードメーカー禪院愛里沙。困った時は何でもこの子を頼るといい。あ、全然似てないから分かると思うけど、禪院って苗字が一緒でも、愛里沙と真希は血繋がってないから」
「よろしく! 乙骨君、仲良くしようね?」
「は、ハイ!」
「とまぁ、こんな感じ。さぁこれで、1年が5人になったね。午後の呪術実習は2-2プラス僕と愛里沙ペアでやるよ。僕と愛里沙は引率ね。棘·パンダペア、真希·優太ペアで行くよ」
「げっ」
真希ちゃんが露骨に嫌そうな顔した!!
「よ……よろしくお願いします」
「……オマエ、イジメられてたろ」
「真希ちゃん! いきなりそんなこと言わないの! ――ごめんね、乙骨君。」
「い、いえ。」
「おい愛里沙! こういう奴には一発言っとかねえと成長出来ないん――」
「真希、それぐらいにしろ!」
「おかか!」
「――分ーったよ、うるせぇな」
「ごめんね、乙骨君。真希ちゃんも悪い子じゃないんだよ。ちょっと言い過ぎるだけで。これからペア行動だけど、きっと仲良くなれるから。気分悪くしてたらごめんね」
「い、いえ、大丈夫です」
なんかとても不安だ。
この後はそのまま解散し、各自午後の実習に備えた。