呪術廻戦にTS転生した僕は死にたくない   作:なゆさん

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誘拐、夏油襲来、そして縛り

―――呪術高専上層部

 

「特級過呪怨霊祈本里香422秒の完全顕現。このような事態を防ぐ為に乙骨を君達に預けたのだ。申し開きの余地はないぞ。五条悟、禪院愛里沙」

 

暗い部屋の中、老人が私達を糾弾する。

 

「まあ元々、言い訳なんてするつもりないですし。な? 愛里沙」

「私は止めました」

「嘘つくなよぉ!?」

「帰っていいですか?」

「会話しろ!!」

 

正直、こんなしみったれた場所、早く出たいのだ。年寄りの私欲丸出しのお話に付き合うのもめんどくさいし。ふざけて話題を煙に巻いて帰りたい。

 

「―――いい加減にしろ!!!」

 

あちゃー、だめか。出ていけじゃなくていい加減にしろだった。出ていけって言われたら速攻で帰ったんだけど。

 

「何をふざけている!! 祈本里香があのまま暴走していれば、街一つ消えていたかもしれんのだぞ!!」

「そうなりゃ僕と愛里沙が命懸けで止めましたよ。あのね、僕らがあの呪いについて言えることは一つだけ。『出自不明(わからない)』。呪術師の家系でもない女児の呪いが、どうしてあそこまで莫大なものになったのか。理解できないものを支配することはできません。ま、トライ・アンド・エラーってね。暫く放っておいてくださいよ」

「……乙骨の秘匿死刑は()()だということを忘れるな」

「そうなれば、愛里沙の呪具で貴方達が全滅するということも忘れずに。な?」

「まぁ、私の我慢の限界まで使わないって縛りですからね。乙骨君に手を出したらそりゃ使いますよ」

「っ!! ……」

「行こうか、愛里沙」

「はい。五条さん」

 

 

 

「ったく、野暮な年寄り共め。ああはなりたくないね。そう思わない? 愛里沙」

 

ようやく開放された私達は、高専に帰ってきていた。

 

「それは同意しますよ。なんであんなのに従わなきゃいけないのか……ハァ」

 

なんか、精神的にめっちゃ疲れた。早く戻って美々子ちゃんと菜々子ちゃんに癒やされたい。

 

「まったく。若人から青春を取り上げるなんて許されていないんだよ。何人たりともね」

 

「……五条さん」

 

その表情と声色には少し、陰があった気がした。

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 それから、私達は高専に戻り、五条さんは優太君と狗巻君を任務に連れていくために私と別れた。

 

「さてと。こっちも色々調べ物進めておこうかな。」

 

優太君が高専に来てもう4ヶ月。祈本里香の解呪の手がかりは一向に掴めない。やはり、優太君の方に原因があると考えるべきなのだろうか。

 

「―――おい、愛里沙いるか?」

 

真希ちゃんの声。

 

「はぁい。どうしたの?」

 

部屋のドアを開ける。

ドアの前には、真希ちゃんが立っている。だが、様子がおかしい。目が虚ろだし、口も半開きになっている。

 

「真希ちゃん?だいじょ―――」

 

私が、心配になって額に触れようとした瞬間、

 

『ザン』

 

「っ!!」

 

いつの間にか持っていた薙刀で、真希ちゃんが私に斬り掛かってきた。

 

「なんで!?」

 

咄嗟に避ける。尚も追撃してくる真希ちゃんの攻撃を捌きながら、思考する。

明らかにおかしい態度、問いかけにも答えない、戦闘能力は本物と同じ、特段本物との違いは見当たらない。洗脳?

それとも―――

私の脳裏に牙天というあの呪いが浮かぶ。倒した相手の分身を創る術式。分身の性能は本体と同じだった。強さによって呪力消費が変わるらしいが、真希ちゃん程度なら難なく創り出せるだろう。何より、あの呪霊は一度真希ちゃんを倒している。

最も可能性があるのはアイツだ。そして、アイツが犯人だった場合………アイツを呪霊操術で取り込んだ夏油さんが犯人という事だ。

 

「おっと」

 

ちょっと思考に頭が行き過ぎて真希ちゃんの薙刀を避けるのが結構ギリギリになってしまった。

思考に意識を割き過ぎた。集中しないと。

 

「ふっ!!」

 

とりあえず、気絶させるくらいの威力で真希ちゃんの胸に掌底を放つ。

命中した瞬間、真希ちゃんの姿がかき消えた。

 

「耐久性は本物並でも、意識が無くなれば消えるのか……。」

 

いやそれよりも、

 

「夏油さん……」

 

何のつもりでこんな事を? 何かの罠を仕掛けている訳でもなく、よりによって真希ちゃんを送ってきた意図は? これでは、ここに直接攻撃出来るという情報をこちらに渡しただけだ。

いくら考えても、夏油さんの狙いは分からなかった。

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

狗巻君達が帰ってきた。

 

「大丈夫だった?」

「しゃけ」

「うん」

「二人共仲良くなれたみたいだね。よかった」

 

ここ最近二人の間にあった壁のようなものが無くなっている。どうやら、任務で無事仲良くなることができたようだ。

 

「愛里沙!!!」

 

そのまま二人と談笑していると、パンダが走ってきた。

 

「どうしたの?」

「真希が居ない!!」

「え!?」

 

いったい何故……っ!!

思い浮かぶのは先程の真希ちゃんの分身。五条さんには報告したけど…まさか―――

瞬間、覚えのある呪力を、上空に感知した。

 

「っ! 皆、気をつけて!!」

 

空から、ペリカンのような呪霊と、それに乗る夏油さんがおりてくる。

 

「相変わらずだね、ここは」

 

そんな場違いなセリフを吐きながら地面に降り立つ夏油さん。

 

「やあ愛里沙。元気かい?」

「……夏油さん」

 

ああ。やっぱりダメだ。あの日々を思い出してしまう。まだ手は震えるし、すぐにでも説得を試みたくなる。だが今日は、今日こそは、

 

「……ようやく覚悟を決めたのか、愛里沙」

 

そんな内面を見透かしたかのように、夏油さんは言う。実際、私の変化など見透かしているのだろう。

 

「さて、用があるのは愛里沙だけじゃない。――君が乙骨君かい?」

 

夏油さんの視線が優太君に向かう。

 

「あ、はい。貴方は―――」

「私は夏油傑。そこの愛里沙の昔なじみだ」

「そ、そうなんですか」

 

瞬間、夏油さんが一瞬で優太君の前まで移動した。

―――速い!!学生時代より格段に速くなってる!!

 

「君はとても素晴らしい力を持っているね。私はね、大いなる力は大いなる目的のために使うべきだと考えている。君は今の世界に疑問はないかい?一般社会の秩序を守るため呪術師が暗躍する世界さ」

 

何処か胡散臭い仕草で優太君の肩を掴んで、夏油さんは続ける。

 

「つまりね、強者が弱者に適応する矛盾が成立してしまっているんだ。なんって嘆かわしい!!」

「はぁ……。」

 

優太君は困惑しているのか、曖昧な返事を返す。

 

「万物の霊長が自ら進化の歩みを止めてるわけさ。ナンセンス!!人類もそろそろ生存戦略を見直すべきだよ。だからね、君にも手伝って欲しいわけ」

「? 何をですか?」

「非術師を皆殺しにして、呪術師だけの世界を作るんだ」

 

……そうか。やっぱり夏油さんは、一度決めた事に裏切らない。どんなに馬鹿げていようと、その生真面目さで向かい合ってしまうのだ。そんなの滑稽な空想だと自分が一番良く分かっているのに。

 

「僕の生徒にイカれた思想を吹き込まないでもらおうか。」

 

五条さんがやって来た。包帯のせいで表情は見えない。ただ、声には、確かに何か大きな感情が、激情が籠もっていた。

 

「悟ー!! 久しいねー!!」

 

「まずその子達から離れろ、傑」

 

あくまで冷徹に、五条さんは告げる。

 

「今年の一年は粒揃いと聞いたが、成程君の受け持ちか。愛里沙は言うまでもないがそれ以外にも特級被呪者、突然変異呪骸、呪言師の末裔――」

「夏油さん」

 

私は声をかけた。

 

「真希ちゃんを、何処にやったんですか?」

 

すると夏油さんの目はみるみる冷たくなり、

 

「あぁ、あの猿かい? アレはこちらで回収した。まぁ誘拐と言ってもいい。――ああ、安心してくれ。生きてるよ。だが、この後の交渉によってはすぐにでも殺す」

 

『バジッ』

 

その瞬間、優太君が夏油さんの腕を払った。そして、刀に手をかける。

 

「真希さんを、返せ!!」

 

今にも斬り掛かってきそうな優太君を前にして、夏油さんは凄く申し訳なさそうに、

 

「すまない。君を不快にさせるつもりはなかった」

「ふざけ―――」

「乙骨、抑えろ」

 

激高する乙骨君を五条さんが止める。そして、夏油さんの前に立ち、

 

「どういうつもりで、ここに来た?」

 

明確に殺意を放ちながら尋ねる。

 

「宣戦布告さ」

 

それに、夏油さんは笑みを深めて答えた。そして、

 

「お集まりの皆々様!! 耳の穴かっぽじってよーく聞いて頂こう!!! 来たる12月24日!! 日没と同時に!! 我々は百鬼夜行を行う!!! 場所は呪いの坩堝、東京 新宿!! 呪術の聖地、京都!! 各地に二千の呪いを放つ。下す命令は勿論“鏖殺”だ。地獄絵図を描きたくなければ、死力を尽くして止めにこい。思う存分、呪い合おうじゃないか」

 

そう、高々と宣言した。その後、くるりと五条さんの方を向き、

 

「それに際して、悟。君には私と縛りを結んでもらう。条件は勿論、禪院真希の生存だ」

「……聞こうか」

「これより12月25日の百鬼夜行終了までの間、私並びに私の呪霊、私の仲間に対する、一切の戦闘行為またそれに準ずる行為を禁ずる。それが果たされた後、禪院真希は開放するとしよう。」

 

その内容は、受け入れがたいものだった。ここで、最大戦力である五条悟が決戦に参加出来ない場合、こちらの勝率はどうしても落ちてしまう。

私も居るが、五条悟に比べ対策の余地がある上、私の情報を持つ夏油傑がなんの対策もしないなどということはあり得ないのだ。更に、私には情から夏油傑を逃してしまった前科がある。

上層部であれば、禪院家の落ちこぼれの命なぞ蹴飛ばしていただろう。

――だがここにいたのは、生徒に甘い一人の教師だった。

 

「……分かった。乗るよ」

「! ―――変わったな、悟」

「うるせえよ」

 

そんなやり取りの後、二人は縛りを結び、夏油は飛び去っていった。

夜蛾先生はその一部始終を、終始苦虫を噛み潰したように見ていた。

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