意識が戻る。
今までのふわふわした感覚が消え、現実に戻った事を実感する。
あの風景を忘れぬよう、もう一度だけ頭の中に思い浮かべ、ゆっくりと目を開けた。
―――目の前に、夏油さんの横顔があった。
私は夏油さんに、所謂お姫様抱っこされた形で目覚めたのだ。
「――は?」
思わず声を出す。
「ん?」
夏油さんもこちらを向く。
目と目があった。
「…………な、何やってんですかー!!!」
「ブハッ――!!」
「夏油ッ!」
咄嗟に顔面にビンタをお見舞い。全力の一撃に、夏油さんが吹き飛び、咄嗟に黒人が受け止める。
「ぐっ―!! ど、どういうことだ!? 確かに死んでいたはず――」
「残念。企業秘密です」
さっきお姫様抱っこされていたので若干カッコつかない気がするが、とりあえず無事復活できた。
それに――
「これが、私の呪力……?」
呪力操作・呪力感知の精度が大きく上がっている。
呪力感知は夏油さんの呪力の動き、周りの呪霊の動き、あの黒人の呪力の動き、それに遠くの乙骨君の呪力まで、手に取るように分かるし、呪力操作に関してはまるで黒閃後のゾーン状態のようだ。
恐らく一度死んだ事でで呪力の核心に触れたのだろう。死とは呪術において重要な意味を持つ。一般人が死の間際に呪いを視認したり、死にかけの術師が黒閃を放ったり、五条さんも死の淵にたった事で最強に至った。ましてや私は一度完全に死んだのだ。これ程の変化が起きても不思議ではない。
もしかすると、私が高い呪力量と出力を生まれ持ったのも、一度死んだ魂だったからなのかもしれない。
「さて――形勢逆転ですね」
「チッ! 夏油、ドウスル?」
「……やることは変わらない。向こうも手こずっているようだし、早めに終わらせるぞ。」
「分カッタ」
「作戦会議は終わったみたいですね。では――【光線】」
「ッ゙…!――タメなしか!!」
「夏油!!」
呪力操作の精度向上により、ほぼ一瞬で放った一撃。その光速の一撃は、天逆鉾を持っていた夏油さんの片腕を焼き、切り落とした。
「クッ! 大丈夫カ――」
「遅い」
「ナッ!?」
動揺を見せた黒人に一瞬で近づき、
「【黒閃】」
「――グハッ!!」
黒閃を叩き込む。白目を向いて倒れ込んだのを確認し、夏油さんに向き直った。
「ミゲル……」
「その腕は――使えたんですね【
「コツは聞いていたからね。歳下に何時までも追いつけないのは、カッコつかないだろう? それに、随分綺麗に焼き切ってくれたから、治すのは簡単だったよ」
腕を完治させた夏油さんは、そう言って天逆鉾を構える。
「次はこちらから行かせてもらうよ!!」
「分かってましたよ!!」
両者同時に距離を詰める。
「はっ!」
夏油さんが、服装からは考えられない俊敏でキレのある身体捌きで天逆鉾を振るってくる――が、
「甘い!!」
スピードに物を言わせて夏油さんの手首を掴み、太刀取りの要領で天逆鉾を奪った。
「このまま――っ!?」
「君ならそう動くと思ったよ」
夏油さんの手には極小の物体。だが、内包した呪力は凄まじい。
「しまっ――」
「【呪霊操術 極ノ番 うずまき】」
回避は間に合わない。向上した呪力操作で咄嗟に呪力を腹に集中させる。
「がアアアァーー!!」
凄まじい衝撃が襲い、受け身もとれず地面に転がる。
だが、なんとか耐えきった。死にかける前であれば確実に御陀仏だった一撃は、深い傷ではあるものの反転術式で治療可能な程度におさまった。
「……やはり、君は強すぎるな」
「はぁ、はぁ、……そうですね、私は天才ですから。もう終わりにしませんか? 私の勝ちは決まったようなものでしょう」
反転術式で回復し、息を整えながら軽口を叩く。そこまで余裕もないが、今でも夏油さんよりは呪力量は上。夏油さんの手持ちの呪霊は余程の切り札でもない限り今の私なら簡単に処理できるし、単純なパワーやスピードなら私の方が上。いくら近距離戦闘技術が負けていても、戦い続ければ自力の差で私が勝つ。
それは、夏油さんも分かっている筈だ。
「――このまま戦っても私に勝ち目はない、か。――なら、火力勝負といこう」
「いいんですか? それこそ、夏油さんに勝ち目なんてありませんけど」
「火力に関して君を舐めている訳じゃあないさ。だが、負けるつもりはない。私は大義のため、ここで負ける訳にはいかないんだ」
真っ直ぐこちらを見てそう言う夏油さん。
「……分かりました。受けて立ちましょう」
呪力を練り上げる。
――そして、夏油さんに意識を集中させるうちに一つの事実に気づいた。
「夏油さん、もしかして本体ですか?」
「……驚いた。気づいたのかい?」
「さっき気づきました。あの呪霊の残穢がない」
あの呪霊によって複製されたならありえないことだ。つまり乙骨君の方に行ったのが複製体で、こっちが本体ということ。
「随分とリスクのあることをしますね。乙骨君がターゲットなら、今回は複製体に時間稼ぎをさせて、里香を手に入れてから私を殺しに来るのがベストでしょう?」
「悟がいないのは今回だけだからね。今のうちに君を倒さないと我々の勝ち筋はかなり狭まってしまう。そして君を殺すのを複製に任せる、なんて私にはできなかった」
「……夏油さん」
「無駄話はここまでにしよう。行くよ」
「――はい!」
夏油さんの覚悟は受け取った。ならば最早手加減など考えない。
今の環境・条件の中、今の私ができる最強の技を
「【
「私の持つ全ての呪霊をこの一撃に込める【極ノ番――】」
私の頭上には2m程度の鳥の形をした光が、夏油さんの頭上には何千もの呪霊が、それぞれ形成される。
そして――
「【――
「【――うずまき】!!」
互いの最強が、激突した。